八百二十八話
俺達がAIの事で動いている間、ゲート開発の方で進展があった。
試験運用が終わったという事で実用段階まで来たという話を少し前にしたのだが、なんと! 各拠点を繋ぐ形で運用が今日開始されるという話だ。
「てか、何時の間に専用の港を作ったのやら……」
「場所の選定とかはソラ君達も知らない間に終わっていたんだって」
「あー……既に用意はしてあったから、後は其処にゲートを設置するだけだったのか」
ソラ達はゲートの開発に集中をして貰うという事で、それ以外に必要な事は協会がすでに手を回していたらしい。
その結果。ソラ達がゲートを実用段階にまでもっていったと同時に、港へゲートの設置が出来る状況になっていたと。だからこそ、こうしてあっと言う間にゲートの運用が出来る様になった訳か。
「ソラとゲートがとか港がって少し前に話をしたばっかりだったんだけどなぁ……」
「あの後すぐに港へ設置開始してたみたいだね」
港と言っているが、実際にそのゲートが置かれた施設の名称は〝ゲートポート〟と呼ばれている。
そしてそのゲートポートには、あちらこちらへと飛べるゲートが用意されているらしい。らしいのだが、実は村へと直行出来るゲートは拠点の数を考えるとそこまで多くないとの事だ。
これは、この村が協会や拠点発展の為の心臓部だからという理由がある。
此方の拠点が落とされるなんて事は恐らくないと思うが、万が一落とされた場合を考えるとゲートで一瞬にして跳べると言うのは問題になるからだ。いや、落とされなかったとしても、もしスパイなんて存在が居たら? という話もある。
念のためにと、幾つも保険を用意しておくのは必要と言う事だな。
「村から外へ外へと行く時は楽だけど、外から内へ内へと行く場合は審査が大変になっているんだとか」
「それは私達みたいな探索者も対象なのかなぁ?」
「他の人達よりも甘いとは思うけど、それでもチェックはされるんじゃないかな」
ただまぁ、俺の場合は自前のゲートを作れるから全てスルーする事が出来るんだけどね。
と、それは良いとして。
なのでこのゲートの繋がり方なんだけど、色々な場所に飛べるといっても防犯などの理由もあり、中継用のポートを通る必要もある。
これ、ゲートがある地点を点にして、その繋がりを線で引いたら、地図にしてみたらまるで蜘蛛の巣が張ってあるように見えるんだよね。
「中継地点を通る手間があるとはいえ、これで物の輸送は楽になるよな」
「目的地まで一回で行けないから消費エネルギーが増えるけどね」
「ただ、車両で行くよりはマシだろうなぁ。多少消費エネルギーが増えたとしても、その分の安全と時間も確保出来る訳だから」
そんな訳で、実は計画されていた尾張と三河の間にある山に道やトンネルを整備するという話。あれが全て白紙になっていたりもする。
現状だと狩りを行う探索者しか使わないだろうという事で、多少整備された道で十分だろうという話になったんだよね。
そして、その多少の整備と言うのは、既にワイバーン討伐の為にと移動をする際中にやっている。だから現状の状況で十分だろうという判断がなされたわけだ。
「しかし、村からゲートで行ける場所だけど、普通に歩きで行ける場所なんだよなぁ」
「地下から外を奪還する後は大変だった道のりだったけどね」
村からゲートで跳べる場所。
一般人用にも開放されているのが、村とズーフのダンジョン前にある拠点とその間にある拠点。更にその先にある植物ダンジョン近くの拠点など。探索者であれば走ればサクッと言って帰って来れる距離。ペガサスを使えば、物の数分だろうな。もしかしたら秒かも?
あと、研究者や探索者専用のゲートもある。此方は実験施設に跳べるゲート。もちろん、X-1・シシオウ君が居る場所にも行ける。……まぁ、こっちも探索者であればサクッと行ける場所なんだけど。
ともあれ、ゲートの運行が開始されたという訳で、あちらこちらで人々が大盛り上がり。
やれ「故郷へ帰れる!」だの「あいつ等元気にしているかなぁ……」と言った声が聞こえてくるのを考えると、どれだけ時が経っても心の中にあった地元への思いやら棘などはしっかりと残っていたって事だな。
ただ、エネルギー関連の為にゲートの使用と言うのは無制限に行える訳では無い。
一日の魔石を確保出来る量を考えると、ゲートを開いていられる時間と言うのはそう長くない。
「平均して考えると、一ゲート辺りを開通しておける時間が15分程度か」
「短いのか長いのか良く分からないね」
「んー……物の輸送を考えると短いと思うぞ? 何せ移動させるだけでかなりの時間を食うからな……」
「そうだったね……うん、あれは大変だったよ」
実際に俺達は、最前線であるワイバーン討伐用拠点に物を移動させる為にゲートの魔法を使っていたからな。
その際に美咲さんも物品を移動させる手伝いをしていた。確かにゲートを開く前に移動させる物を纏めておいたとは言え量が量だ。時間が掛からない訳が無い。
そう考えると、現状使える時間はその殆どが輸送用へと使われてしまうだろうと予想される。
「一体どれだけの人がゲートを利用する事が出来るんだろうな。まぁ、最初はコスト度外視でサービスしそうな気もするけど」
「その内に制限は入るよね」
魔石を確保できる量が増えない限りは、移動出来る人は限られてくるだろうな。それこそ、間違いなく予約制とかになって来るはずだ。
後はゲートのバージョンアップを期待したい所だけど、必要になるのが〝神鋼〟だからなぁ……現状だとあまり期待は出来ない。
「しかし、このゲート開発の代表としてソラの名前がでかでかと出てるな」
「ソラ君は「止めてくれー!」って叫んでたけどね」
忙しいだろうに、ソラは昨日の時点で俺達に会いに来てくれた。
そして、今日の事を教えてくれた上で、色々と愚痴を零していたのだが……まぁ、それはご愛敬と言う事で。
ソラは「確かにゲート開発に協力はしたけど、それは協力と言う形で主導した訳じゃない! なのに、なんで開発の代表とか責任者になっているだ!」と嘆いていたんだよね。それも、大量のお酒を浴びて涙しながら。
どうやらソラは、協会と研究所から「ゲート開発を〝手伝ってくれないか〟」というオファーをされたらしい。そう、最初は〝手伝ってほしい〟だったんだ。
それなのに、開発中いつの間にかにソラがメインを張るようになり、あれよあれよという間にソラが知らない間に代表格に持ち上げられていたらしい。
ちょっとうがった見方をすると、問題が有った時の為に使うトカゲのしっぽか? と考えてしまうが、それはどうやら違っていた。というも、俺が婆様にしっかりと裏付けをとったからな。
婆様が言うには、空は想像以上に優秀過ぎたらしい。そして、そんな優秀な人物をお手伝い要員にはしておけないという事だったらしい。
ただ本人は、そんな重要なポジションにはなりたく無かったみたいなんだけどね。……これも政治と言うモノだと諦めて貰うしかない。
何せソラ達は帰還者だ。帰還者と言う事は、魔王が居た世界に行っていた人と言う訳で、それが公にバレてしまうと後ろ指をさされる可能性は現状でも否定できない。
なので少しでも帰還者のイメージアップを図っておこうという話でもある。だからソラには甘んじて神輿という帰還者の為の人柱になって貰おう。
「ソラ君も結婚が控えているのに大変だよね」
「本人達はまだしない! って言っているんだけど?」
「時間の問題じゃない? 周りが盛り上がっちゃってるしね。それに、今回の事でさらに加速するんじゃないかなぁ」
あー……ソラの奴は有名人になっちゃうもんな。一応だけど、協会のデータには魔王討伐者として名前は載っているけど、それは全く知られていなかったりする。何せ、ソラは魔王討伐後、時間がある程度経ってから現れた存在だから信憑性がね。
一応、俺や美咲さんの証言とかもあるから、一応だけど上層部とかには信じて貰っているけど。
それに、本人達の意向もあって、表には魔王討伐関連者として名前は出ていないんだよね。
ともあれ、ソラは今回このゲート開発で名が一気に上がった。
と言う事は、当然言い寄って来る女性なんかも出て来るだろう。……そりゃ、周囲もはよ身を固めてしまえ! って急かすようになるよな。
さてさて、ソラの運命はどうなるやら。ただ、それは先々の話だ。
とりあえず、今はこのゲート運用を祝う盛り上がりを楽しむとしますかね。色々な露店も出ているから、食べ歩きなんかも楽しいだろうしな。
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てなわけで、ゲート運用開始です。
これで地図が一気に縮まるんじゃぁ。人達の行き来が少しずつ増えて行くぉ°˖☆◝(⁰▿⁰)◜☆˖°




