七十二話
骨折に関してはやはりと言うべきか、回復魔法を併用しながらの治療のお陰で、通常よりも治癒速度が早い。
なので、妹達に振り回されつつ家の庭で、体が鈍らないように運動をしたりしてるんだけど……爺様達に特訓を受けてるからか、妹達の動きがどんどんおかしいレベルになっている。
「……確かに村の人たちってダンジョンが出来る前でも、十分にチートクラスの身体能力だったけどさ。これは少し異常じゃないか?」
「ゆいちゃんに至っては、一度もダンジョンって潜ってなかったよね?」
「潜ってないな。まぁゆりも潜ったのは……あの一度だけだし、このスピードやバランスで動けるのはなぁ。爺様二人って村に襲撃したモンスターの討伐とか出てないよね?」
「出ておらんぞ。避難訓練も兼ねてシェルターの中に行ってるはずじゃ」
となると、この目の前の光景はどうなんだろう。跳躍も身長と同じぐらい跳んでるし……一歩目からトップスピードのダッシュしてないか?
ダンジョンブーストがあるから、人は身体能力の限界を突破できると思ってたけど違うだろうな。
理由は? 昔と違うと言えばなんだろう……食か? 確かにモンスター素材の食べ物を食べてる。それ以外にも、普通にモンスターが蔓延ってる世界になったのもあるか。
「よし、爺様ちょっと石川の婆様のところ行ってくる」
「ふむ、何か思いついたのかの? 二人の事はしっかり見ておくから気にせず行ってくるのじゃよ」
うん、今は二人共集中してるからな、抜け出しても解らんだろう。気になったし婆様に色々と頼んでおこう。
研究班が居る所に入ってすぐに婆様を発見。色々と研究の陣頭指揮を執ってるみたいだ。
直ぐに婆様を捕まえてから、会話と言うお願いをする。
「そういう事で婆様にお願いがあるんだけど」
「……研究する物が多くて大変なんじゃがのう。しかしじゃ、その件は確かに気になるのぅ」
「モンスターの肉と身体能力向上の関連性と、空気中の成分を調べればいけるかと思うんだけど」
「ふむ……まぁ先ずは其処から手を出すのが良さそうじゃな。それに、最近じゃが研究班のスタミナも増えておるからの」
「あのモノクルがあれば捗ると思いますし」
現状だと、あの魔力の流れが見えたり魔本が解読できるモノクルは、研究のために貸し出している。
一応だけど、魔本が手に入ったら返却してもらう前提だけど……まぁ、今は使わないからね。
「確かにのう……少しモンスターの肉を優先的に調べてみるかの」
「まぁ、前回の調査は食べれるの重視で調べましたからね」
「悪影響が無いかどうかだけじゃったからな。まさか、身体能力が上がるかもしれぬ等は想定外じゃよ」
まぁ、これで研究班が色々と調べてくれるだろう。研究結果次第だけど、モンスターの肉が身体能力向上の作用があるとなれば、戦力の向上や非戦闘員の安全確保までの、自衛能力の強化に繋がる。
良い結果が出る事を祈っておこう。
さて、実はもう一つ調べたい事があったんだよね。そういう事で、今イオの前に来てる。
「イオ調子はどうだ?」
「ミャン!」
ふむ、調子はばっちりのようだな。では、少しばかりイオに付き合ってもらって……どう反応するかを見てみよう。
イオの前に幾つかの魔石を並べて行き、イオに話を振ってみる。
「イオ、魔石だけどコレの中で食べたいとか、そういったモノはあるか?」
「……ミャー」
首を横に振るか……ふむ、という事はだ、モンスターだからと言って、魔石を喰らう訳じゃないのだろうか? それとも、この中の魔石ではお気に召さない? 聞いてみるか。
「じゃぁイオ、これ以外の魔石だったら食べたいモノとかあるか?」
「ミャー!」
ないよ! って思いっきり否定してきたなぁ。となれば、あの豆柴とイオは違うって事だな。
しかしだ……どっちが通常なんだ? それとも、豆柴はモンスターとは違うのだろうか。
「うーん……イオは魔石を食べないか。イオ、魔石を食べるモンスターは普通なのか?」
「ウミャー?」
イオにも解らないか……しかし、その首を傾ける仕草はかわいいな! っと、意識がずれた。
何かヒント……あぁ、話ができるモンスターも居たか。彼なら何か知ってるだろうか? しかし、会いに行くのは大変だな。ダンジョンに行って五層を進む……まぁ、五層進むのは何とかなると思うけど、ダンジョンまでの道のりと、たしか五層ってクリアした後はボスとして出て来なかったような……。
まぁ、イオが魔石を食べないという事だけでも収穫はあったな、お礼と一緒に撫でておこう。お肉のおやつも皿に入れておきますかね。
やる事が終わったので家に帰宅すると、玄関前で妹二人が仁王立ちしていらっしゃる。
「あー! 帰ってきた! 何処行ってたの!」
「兄さん、腕折ってるんだから気をつけないと」
「あー、出かける時に爺様に声はかけたぞ?」
まぁ、そう言った所で行き成り居なくなった様なものだからな。お怒りモードは解けないだろう。
「で、何かあったの?」
「少し石川の婆様の所とかにお願い事があっただけだよ」
「ふーん……でも、怪我してるんだからね! 言ってくれれば付き添ったのに」
いやいや、その怪我人と遊びと称して訓練してたのは誰ですかねぇ……まぁ、目の前に居るからそれは別って事なのかな?
「モンスターと戦ったりする訳じゃないから、大丈夫だよ」
「……そうだね、兄さんは慎重だから」
うっ……オーガ戦は遭遇戦闘とは言え、慎重に行動したと言えないからなぁ。微妙にゆりの発言が刺さる。
「兎に角! お兄ちゃんは怪我人さんなんだから、家からほいほい出て行っちゃだめです」
「わかったわかった。とりあえずブラシ持って来い、イオの所に行くぞ」
「「イオちゃん! 解った取ってくる!」」
さっきブラシ持って行くの忘れたからな。
「爺様も付き合ってね。一応〝怪我人〟だから護衛一人は厳しいよ」
「そうじゃのう、では、用意してくるかの」
ここら辺のモンスターなら片手でも行けるけどね。雀蜂の巣に街のゴリラの集団を倒したからな……モンスターの分布図が変わって来てもおかしくない。
出来るなら……人の領域にしたいけど、シェルターから出て来て無いだろうし、出て来たとしてもオーガが来たら全滅だ。
如何いう風になるとしても、余り強い奴には来て欲しくないな。
兎に角、現状だと変化に対して様子を見ながらになるから、安全確保は万全にしないと。
……そういえば、村周辺のトラップも更に悪質になっていく予定らしいな。村から出る時は注意しないと。
――シェルター内部――
「……地響きが収まったな」
リーダーと呼ばれている男がぽつりと呟いた。
確かに、男の言うとおり戦闘によって起きていた振動が、ピタリと止っていた。
「リーダー……如何しましょうか?」
「とりあえず、外の様子がどうなったか報告は無いのか?」
「それが……戦闘が行なわれていた事だけしか解らず、振動が止ってからは一切の動きが無い様で、こちらに向かって来るものも居ません」
一体何が起きているのだろうか? その場にいる全員がそのような考えに囚われていく。
そして、どれ位の時間が経っただろうか、たった数分しか経っていない筈だが、その場の全ての人には数時間も、じっと立っているだけに感じていた。
その様な空気を断ち切るために、リーダーは少しずつ話を始める。
「と……とりあえずだ、皆に聞きたい。外に出るべきかどうかだ」
「それは……危険すぎませんか?」
「確かに危険だが……監視システムでは詳しく見ることが出来ない、それなら調べに出るのもありでは?」
「しかし、人員が現状でも足りませんよ? 外に出たとして、万が一出て行った人がやられてしまえば……」
現状であれば、外にはモンスターなど居ない。全て討伐されているからだ。
しかし、彼等に其れを知る術が無い。であれば、このような会話になるのも仕方ないだろう。
「今はまだ……防備を固めるべきかと」
「しかし、何時まで固めるのだ?」
「調べるにしても……外に居るモンスターは猿共です。であれば……夜中に少しだけと言うのは?」
此処に根城を張っていたモンスターは、昼に行動して夜に寝ている。
其れぐらいであれば、監視システムを使って確認をしていたようで、外に出るなら夜だと一人の男が発言をした。
「たしかにな……奴等を討伐するなら夜だろうと、前々から対策会議で上がっていたし、その様に動くよう作戦も立てていた」
「では!」
「あぁ……今夜、準備が整い次第だ。外にでて調査をする」
彼等にとって何時ぶりの外だろうか? 思わず全員が沸き立つ。
其れも仕方ない、シェルターの外に出るというのは、それだけ特別な事だ。
彼等が地面に潜って以来、直ぐに出れると思っていた筈が、モンスターが地上を占拠し出れなくなった。
突然の出来事とはいえ、チャンスが廻って来たのだ。これで興奮しない者など居ない。
「とはいえだ、下手をすれば猿共より強い奴等かもしれん……警戒は怠るなよ」
「了解しました!」
元自衛官だったメンバーも居る。そうであればモンスターの強さの情報について詳しいと言える。
そんな彼等が、人員足らずでやり過ごしてたゴリラ達を、一掃するような〝何か〟が居るかもしれない、という前提も込めてリーダーは周囲に注意を促した。
「さて……無事に調査が出来ると良いのだが」
彼等は知らない、外に何も居ない事を。そして、〝オーガ〟が出たという事実もまた……知ることが出来ない。
調査の結果がどうなるかは、彼等の判断次第だろう。
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