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八百二十六話

 X-1・シシオウの事だが、実はまだ裏でちょっとした問題が残っていたりする。


 実験機である彼は、彼の中に残っていた命令を遂行する為に動いたわけだが、その際に人の気配や建物が無い場所を選んでいた。しかし、どれだけそのような場所を進もうとも、何処かで誰かの目に映る事は避けられない話。


 そう……シシオウ君は、今、都会伝説の様な状況に置かれつつある。


 これはある意味、〝ショゴス・ロード〟の再来と言っても良いだろう。……まぁ、X-1・シシオウの場合は目にしてもSAN値が削れる事は無いからその点は安全だが。


「ただまぁ……既に施設に移動した後だし、こちらにも来ることは無いから噂話もその内沈静化すると思うけど」

「ロードさんも、鎧を着用するようになってからは直ぐに噂話も消えたしね」

「だな。ただ気になっている事はあるんだよな」


 気になっている事。

 それは、鎧を纏った〝ショゴス・ロード〟の時とは違い、運が良いのか悪いのか、シシオウ君は映像に収められてしまっている。

 そしてその映像がSNSなどを通じて拡散されてしまっているという事だな。

 だからこそ、研究員達の罰則も結構重めになったらしいのだが、真実は闇の中。……ぶっちゃけ、お披露目を成大にやりたかった人達はおかんむりらしい。楽しみにしていたんだろうなぁ。


 おっと、研究員達の事は横に置いておくとして。


 そんな感じでネットを通じて広がってしまったシシオウ君の姿。

 これがまた、結構鮮明に撮られていたようで、ネット上ではかなりの盛り上がりを見せているのだとか。


「色々と考察されているみたいだしな」

「えっと、フェイク映像なのでは? とか、中に人が入っているとかもあるね」


 当然真実に近い回答を言っている人も居る。

 研究所の秘密兵器ではないか? なんてのは正にそれだな。とは言え、研究員達が何も言わない為に、秘密兵器案で会話が延びる事が少ないようだ。

 今の所は、ただの鎧説が一番盛り上がっていると言った感じかな。


「見た目が鎧にしてはメカメカしいのと、今までの鎧よりもスマートだからなぁ」

「鎧だとしたらどう見ても全身鎧だもんね。確かにそうみるとスマートだよね」


 ただ、シシオウ君は実験機の為になるべく軽くなる様に作られている。ある意味、あれは骨組みと言っても良いもので、後付けでパーツをあれこれと着用できるんだよな。肩パットみたいなモノとか、胸当てみたいなものとか。

 そりゃスマートにもなるわなって話なんだけど、ネット上の人達はその事を知る術なんてないからな。アレが完成形に見えてしまっている訳で。


「結果、超スマートな全身メカっぽい鎧と皆考えているって感じか」

「次に有力視されているのはフェイク映像だね」


 こんな鎧なんてある訳が無い! と言う否定派が言っているみたいで、特に根拠は無いようなんだけど、こんな鎧を着用してまともに動ける訳が無い! だからこれは作られた映像だ! と言っているらしい。

 

 確かにこれが鎧ならば、着用者はピッチピチ……いや、ギッチギチの状況で動く事になるだろうからな。動きにくそうという風に見えるのは仕方が無いとは思う。

 でもそれって、中の人が鎧と同じサイズだったらって話だよな。


「一回りや二回り小さい人が、スライムとかと一緒に鎧を纏うって手もあるんだよなぁ」

「あー……ロードさん方式だ」


 そうそう。スライムと一緒に鎧を纏う事によって、自分よりも大きいサイズの鎧で動き回る事が出来る。まぁ、それをやるには、かなりスライムとの連携レベルが必要なんだけどね。

 ただ上手く連携が出来れば、かなり面白い動きが可能なのは確かだ。


「ワイヤーパンチやワイヤーキック。高速回転する腕や指とか、明らかに人では出来ない動きがスライムのお陰で沢山出来るんだよな」

「義手や義足じゃないとできなかった事が可能なんだっけ」

「そうそう。スライムさまさまってやつだね」


 実際の話。スライムと一緒に特訓している探索者がいたりする。そして、その人とスライムだけど〝演習〟では一定以上の成果を上げているらしい。

 ただ、本番となると相手も動き回ったりするので、中々上手く指示が出来ずにいるらしく。訓練や演習時に比べ連携が上手く行っていないのだとか。


 因みに、このスライムと一緒に作戦もまた、一般にはまだ広がっていなかったりする。

 やっている人は「まだ秘密にしてくれ!」と、この事を知っている人にお願いしているからな。そしてお願いされている皆さんは、食べ物で買収されていたりする。


「っと、そんなスライムとの事も知られてない訳だからなぁ……ただ知っている身からすると、この否定派の意見は的外れ過ぎるんだけど」

「そもそも、人が纏っているって次点で的外れだよね」


 そうそう。事実はガーディアン計画の一環だからな。

 それも、今までのガーディアンと違い稼働時間を増やす為に省エネ化を目指した上で、人と同じ事が出来る様にと目指したロマンあふれる機体。

 なので、ネット上で挙げられている話の殆どは的を掠ってすらいないモノだらけ。……正直、突っ込みを入れたり、真実を教えたくはなるが、守秘義務があるからな。ここはしっかりとお口にチャックだ。


「書き込みだから口をチャックしても意味が無いよ」

「……指を拘束か?」

「そうなるのかな?」


 因みにX-1・シシオウ君だけど、彼は魔石AIのネットワークに繋がっていなかったりする。

 と言うのもまだ実験段階の機体だからね。下手に接続して周囲にその存在が知られる訳にはいかないという配慮なんだそうだけど……ぶっちゃけ、映像で回っているんだよなぁ。ってのは一旦おいておくとして。


 ただ一人ぽつんと施設で色々な実験メニューをこなす。と言うのは流石に可哀そうだ! と、今はこの事実を知っている者達で彼の実験をチェックしていたりする。

 俺や美咲さんも、暇がある訳では無いが、何かあった時の為にとちょくちょく顔を出していたりする。……と言うか、ネットワークにつなぐ事が出来ないシシオウ君の為に、美咲さんのラーナや俺のAIと会話させていると言った感じか。


「その会話は此方には聞こえないんだけどな……」

「一体どんな事を話し合っているんだろうね」


 多分ログを見ればわかる。分かるんだろうけど、なんかそれはやってはいけない気がする。何せAI達って恐ろしいまでに人格が育ってきているからな。

 俺の鎧に搭載されているやつも、最初はカタコトだったのに……と以前が凄く懐かしく感じるレベルで。


「ログを見たら絶対にダメな気がしてならない。例えば「私のマスターは戦闘中にミスが多い」とか愚痴られてそう」

「いや……流石にそれはないんじゃないかなぁ? だって、ラーナ達だよ。きっとAI達の世界についてを話していると思うけど」


 いいや分らんよ。こう、普段は言えない鬱憤が溜まっているかもしれない。だって、恐ろしいまでの知識量と人格の成長を手にしたAI達だぞ? ただのサポートAIではもう無いんだ。

 あぁ、でもラーナに関して言えば最初からあんな感じだったか。……そりゃ、美咲さんはラーナと共に居たから余り実感が薄いのだろうか? AIの高速成長という事実に関しての驚きを。


「ジョークも言うし、なんなら毒も吐くようになったからな……」

「ん? それって普通の事じゃ無いの?」


 あぁ、やっぱりそうだ。最初から触れているAIがラーナだから、ある日突然AIがジョークを言うなんて体験をして居ないんだな。そりゃ、認識に違いがあって当然だ。


「いい子達であるのは当然なんだけど、突然ジョークを言われたりしたら吃驚するぞ?」

「そんなものなの?」

「あれだ。子育て中の親みたいな感じか? ちょっと違うかもしれんが、子供が立ち上がった! とか、反抗期に入った! って言う衝撃に近いんじゃないかなぁ」


 子供がいないから良く分からんけど。ただ、親から子育ての話を聞いた感じだと、それに近いんじゃないかな? って思う。

 だからこそ、ログを見るのがちょっと怖いんだよなぁ。本当に何を言っているんだろうって気にはなるけどさ。


 ただ、愚痴っているかどうかとは別に、そこまで人格が育ってしまっているなら勝手に見ると言うのは良くないかなって思う。……まぁ、研究者は見なければならないんだろうけど。そこはしっかりと、AI達に許可を取って貰ってと言った感じかなぁ。

ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!!




成長したAIの扱いをどうするか。これって中々難しいですよね。

一人として扱うのか、一個や一機として扱うのか。


思考する能力や感情があるなら人じゃん! と言う人もいるでしょう。

人をサポートする為に作られた機械なのだから、管理するのは当然だ! という意見もあるでしょう。正直どちらも正しいと思う内容なので……実際にそう言う世界になったら、人はどんな決断をするのやら。


ロボットやAIにも人権を! と言う運動が起きても不思議では無いですね。

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[一言] 某ゲームである組織が造ったアンドロイドが自我を持って、他の組織の人間は彼らに人権を。造った側は自販機が自我を持ったからって、人になるのか?と言う問答ありましたねー 日本だと人権を派 米だと…
[一言] 人間側がAIを物と見ずに良き隣人と見れるかは村ならモンスターの前例がある分全体のハードルは低そうな気もしなくもないかな 問題のAI側は魔物からAIに転じたラーナや魔剣達がリーダーシップ発揮し…
[一言] >成長したAIの扱いをどうするか。 この理論って、崩壊前のダンジョン誕生前で、 人間が沢山繁栄していたころの、精神的に余裕がある時に考える議論であり。 崩壊後のイオたちなど人間以外の知的…
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