八百二十五話
実験機の暴走事件。
正直な話をすると、暴走事件と言ってはいるが実際に状況を見ていた身からしてみれば、別に暴走と言う訳では無かったと言うのが真実。
とは言え、これを〝暴走〟と言う形にしておかないと、色々と研究所内で波紋が広がってしまうと言う訳で、ちょっと組織の黒い部分を感じるのだけど納得せざる得ない。
でだ。
実験機には暴走したという汚名が付いてしまったのだが、その代わりと言っては何だが、あの時に研究者が言っていた〝対策〟は殆ど取られる事が無かった。ほぼほぼ自由のままと言う事だな。
逆に、研究者達で実験機のプログラムを担当していた者やその責任者は、かなり重い罰を与えられる事となった。とは言え、別に研究員を止めさせられるとか研究所から別の場所へと移動させられると言う訳では無い。
罰則その1・減俸。
当然だけど、給料ががっつりと下がった。こんなミスをしておいて、以前と同じような待遇で扱ってもらえると思うな! って事だな。ただ、これだけだと軽いんじゃないか? と思う人も居るだろう。大丈夫だ。そんな生ぬるい罰則で終わる訳が無い。……まぁ、減った給料はかなりのモノだったらしく、家族の人達からお灸を据えられたそうだけど。
罰則その2・食事制限。
所謂、何時ものやつだ。お仕置きにはこれが最適! と、身の毛もよだつメシマズと言うワードでは収まらない食事のオンパレード。
それを、昼食時に毎回必ず完食しなくてはならないと言うモノ。当然だけど監視されているので、捨てるだの誰かに食べて貰うなどと言った行為は出来ない。
そしてそれをしっかりと食べなければ、大好きな研究に没頭する事が出来ない。皿が綺麗になるまで席を立つ事は許されないからな。それこそトイレに行く事だって禁止されている。
罰則その3・避難訓練。
ただの避難訓練だと思うなかれ。これはシミュレーターを使った訓練で、拠点崩壊時を想定したデータ取りである。
何十……いや、何百といったパターンを想定して、拠点が崩壊した際にどういった行動をとるのがベストか。それを調べつつ、実際に行動させると言った内容。当然だけどシミュレーション中に死を経験するのは予定調和。
彼等は一体、何度の死を経験しただろうか? まぁ、シミュレーションと言う事で恐怖心など色々なモノが軽減しているとはいえ……気持ちの良い物では無いだろう。
こんな感じで、鬼の様な三つの罰則を受ける事となった研究者達。
ある意味、研究所らしい罰則だなと思うモノも有る。もしこれを戦う事が出来る探索者にやらせても意味が無いからな。罰と実益の両方が同時に出来る素晴らしい案と言えるだろう。
因みに、そんな話をしてくれたのは俺と実験機を追った研究者。
彼は色々と尻ぬぐい等をする為に、実験機を見守った後も右へ左へと走り回っており、その行動が認められたのか多少の減給だけで済んだそうだ。
「全く……もう少し管理をしっかりとして欲しいモノだよ。性能を向上させる為に必要な物が見つかったら、飛びつきたいという気持ちは分からなくも無いけどね」
俺に色々と近況を教えてくれた後に、彼はそんな愚痴を零していた。
うん、彼には少し悪い事をしてしまった気分になるな。そもそも、その〝性能を向上させる〟といったモノについて、ヒントを与えたのは俺達だからね。なので彼はある意味、火の粉を浴びてしまったというか、流れ弾を受けてしまったような立ち位置なんだよな。
「室長を怒鳴りつけたから、少しはスカッとしたけどね。でもこれ、私が減給される理由ある? と思っちゃうんだよ」
直接では無く間接的に関係していただけ。ただ其れでも、少しは関わる事が有ったのだからケジメの為にという方針。と、ある意味見せしめ的要因らしい。実に理不尽ではあると思う。
ただ、今後の事を考えると理解出来なくもないと、彼は無理やり納得していた。
「ま、皆には「すまないが……」と何度も言われたけどね。それに師匠からは格別と言える配慮はして貰ったから」
話を全てを飲み込んだ。と言う事か。
てか、師匠って婆様の事だよな? 婆様は一体彼にどんな配慮をしたのやら……もしかして、面白い素材を扱わせる許可を出したとかかな。これはあれか? 損して得を取れってやつなのかもな。何せ、心なしかすっごくニマニマとした表情をしている様にも見えるし。
さて、では例の実験機はどうなったか。
こちらに関しては、あまり処置をされなかったとは言え、それでも多少の制限を受ける事にはなった。
とは言っても、ちょこっと行動プログラムを付け加えられた程度だったりする。そしてその内容は〝実験施設を出るな〟と言う事だ。
「実験機にとって、実験施設が鳥籠みたいなモノなのかな?」
「そうなるだろうな。ただ、実験施設内では自由に行動可能だから、思う存分に色々と動き回る事は出来るけどな」
そう。実験機は施設内ではプログラムされた内容を心行くまで進める事が出来るんだ。
そしてそんな姿を、今、俺は美咲さんと眺めていたりする。
「全ての基礎となる様に作られているから、武装も割と単純なのが多いな」
「えっと、カタログを見た感じだと……マナブレード二本・魔法銃二丁・実弾用ライフル二丁・シシオウ剣一本だって……って、このシシオウ剣って?」
「あの背中にある斬馬刀みたいな剣だな」
何時ぞやに見たドラゴンを殺せそうな剣を背にしている。
正直、アレを見た当初は一体誰が装備するんだ……と思っていたけど、どうやらこの実験機の為に剣も改良したようだ。
「てか、なんでシシオウなの? 獅子の王様?」
「えっと、それはたしか……」
これまた、例の研究員に聞いた話だけど、このシシオウは獅子王でもあるけど別の意味も込められているらしい。だからカタカナで表記されているのだとか。
そしてその意味と言うのが、人型ガーディアンの〝始まりの機体〟であり、拠点内の人を守る〝士〟であって欲しいという思いから、始まりの士でシシ。王は王系モンスターの魔石を使っているから、そこからとったのだとか。オークキングとかオーガキング辺りの魔石でも使っているのだろうね。
「それらを合わせてシシオウらしい。人型戦闘実験機・コードネーム〝シシオウ〟なんだとか。で、そんな王が持つ巨大な剣だからシシオウ剣」
それに、獅子と言えば鷹やドラゴンと並んで国旗などにも使われる存在。言ってしまえば強さの象徴とも言える。
きっと色々な意味が込められてのネーミングなのだろう。……ちょっと厨ニ臭さを感じてしまうが、ロマンは有る話だ。
因みに、そんな実験機の肩には獅子の絵が描かれていたりする。うん、実に分かりやすい。
「でも、そんな機体を倉庫の中で眠らせようとしていたんだよね……」
「魔石の面白そうな特性を見つけてしまったからね。この実験機の為にも先に其方の研究を進めようって事だったらしいんだけど」
残念な事に、魔石型AIは其処まで融通が利かなかったという事だね。
もしこれが、探索者の着用している専用の鎧であればこのような事は無かったのだろうけど……自律型を目指している機体だからなぁ。予想外の事が起きても当然ではあるとしか言いようがない。
「因みに、そんなX-1・シシオウだけど、実は換装型でも有るらしい……まぁ、現状は実験が止まって換装用の装備が出来てない無いらしいけど」
「一体どんなのが用意されているのかな?」
「んー……其処は教えて貰えなかったなぁ。とは言えやっぱりよくあるのは、遠距離砲台仕様とか近距離戦闘仕様とかじゃない? もしかしたら飛行モードとかもあるかも」
後の特化機を作る為の実験機でもあるからな。きっと、色々なモードを換装出来るようになるんじゃないかな。
研究員さんお願いします。出来れば水中戦仕様を用意してください。そうしたら、あの湖のダンジョンで鉱石採掘もやりやすくなりますし、海や島への進出も可能性が見えて来るので。
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と言う事で、研究者と実験機のその後です。
今日も、実験機であるシシオウ君は元気です(*´▽`*)
施設のお庭で、マナブレードをぶんぶんと振り回していました! まる。
と言った感じ。




