八百二十三話
さて、以前捕虜にした侍達だけども、彼等の思考やら思想を変える事は不可能だった。なんと言うべきか、戦闘狂が行き過ぎてしまっていると言った感じで、今更平穏な心情には戻れない様子。
とは言え、彼等は強い奴を求めているだけ。それも、出来れば自分達よりも。そしてそれは、別に人が相手でなくても良い。
そう言った事が判明してからは、彼等への対処は思いのほかスムーズに進む事となった。……言ってしまえば、単純だから扱いやすいという事なのだけど。
「とは言え、バランスが難しいみたいだなぁ」
と言うのも、捨て駒にならない形にしながら一番激戦となる場所へ突入させる。そんな神懸かった采配が必要な訳で、彼等を運用する側にとっては少し頭の痛い話でもあるらしい。
敗北する・多少の犠牲が出る。それだけならまだしも、全滅・半壊と言った状況になりながら負けてしまうのは避けたい。
そんな結果を残せば、侍達を捕らえた後に彼等の本拠地にて交渉した内容が水の泡と化す可能性がある。そしいて、そんな事になれば……本拠地に居る侍達が牙を剥くなんて事もある。例え勝てないと分かっていても、刀を手に取らねばならない! と言った感じで。
単純な人が多いだけに、読みやすいとは言え短慮な行動を突き進む事だってしかねないからな。扱いやすいけど扱いにくい。そんな人達。
では、そんな侍達に何処で戦って貰っているのかと言うと、高難易度ダンジョンと迷宮教からの防衛という二ヶ所で戦って貰っている。
前者は言わずもがな。
強敵・トラップ何でもござれといった、攻略難易度が異常に高い場所。なので、彼等の心を満足させるには最適な場所と言える。
ただ、後者の場合はちょっとだけ違う。
こちらは対人が基本。しかも攻めるでは無く守るといった方針だ。なので、崩壊前の基準で言うサイコパス気味の人で、更に言うなら「待て!」の命令をしっかりと守る人達が割り当てられていたりする。
こちらも強い相手を求めてはいるが、それ以上に人と戦いたい! といったタイプが多いんだよな。……中には合法的に人が斬れると喜んでいる人もいるのだとか。本当にコントロール出来るのか? と少し不安ではある。
ただ、この人達についてなんだけど。
彼等に指示を出している人が言うには「彼等は単純ではあるが馬鹿では無い。此方の実力をしっかりと把握している為に暴走する気は無い様だ」との事。
更に「寧ろ、此方についた方がもっと沢山活躍できるとまで考えている」とまで言っていた。
下に恐ろしいのは〝自らが狂っていると自覚している人間〟と言う事なのだろうか。
そこまで考えているのなら此方の事を騙しもするだろう。彼等が言っている事が全て偽りだと言う可能性だってある訳で……爪を隠して雌伏している事だって考えられる。
と、思ったのだけどその人が言うには「モンスターの嗅覚やAIのチェックまでは騙せないよ。ただ警戒はするけどね」と言っていた。
どうやらモンスターやAIによるメンタルチェックなども行われていたようだ。……確かに感覚の鋭いモンスターとか、何か腹の中に隠している物が有ったら間違いなく嗅ぎ取ってくるからな。AIだって人の行動や思考パターンを沢山データとして積み込んでいるからな。
それに、自分の魔力は隠せても偽る事は出来ないからね。それを判断基準の一つにしているのだから、かなりの信頼性がある話ではあるんじゃないかな。
そんな訳で、上手く侍達の性質を見極め、配置する場所を分けているらしい。そして、そんな分けられた場所で彼等は活躍中。
彼等の故郷の人達も、しっかりと食料を手にする事が出来る様になり、現状はプラスの方向で進んでいると言っても良い様だ。……まぁ、爆弾であることに変わりはないけど。
ただそんな彼等について、俺は一つの疑問を覚えた事が有る。
と言うのも、特にダンジョンアタックをして居る侍達についてだけど、何故彼等をワイバーン戦に参戦させないのだろうか? と言う事だ。
彼等の使っている武器は弓・槍・刀がメイン。
大きな爆発音とかを立てずに戦いたいのであれば最適じゃないかと思う訳だけど、どうも彼等を参戦させるつもりは今のところないらしい。
なのでそれとなーく協会の人にその事を聞いてみた。そして、その返答と言うのが……。
「確かに彼等って武器が出す音は小さいのですけどね……ほら、存在がうるさいと言うか……」
頬を人差し指でポリポリと掻きながら、とっても遠くを見る目をする協会員さん。
それにしても存在がうるさいって……いや、言わんとしている事は分かる。ただ、流石に言い過ぎじゃないか? と思わなくも無いと言うだけ。
だけどなぁ、そう言いたくなる気持ちは本当に分かるんだ。何せ彼等って……。
「まず、鎧がガチャガチャと音を立てるでしょう? まぁ、これはフルプレートでも同じだから、重装備と言う事を考えると仕方ないんだけどね。でも彼等って、戦っている時とかもね」
「気合を入れる為なのか、思いっきり叫ぶんですよねぇ……それに、魔力も無駄に垂れ流していますし」
協会員同士で「ねー」と同意し合うかのように顔を合わせて語っている。
あー……うん。確かにダンジョンで彼等の狩りを見た事が有る。そしてその時に間違いなく彼等は「うぉぉぉぉぉ!」だの「せいやぁぁぁ!」だのと、武器を振るう度に叫んでいた。なんなら、良く分からない技名? っぽいのも。
「そういえば叫んでいた人の中に「魔剣! 燕返し!!」って言ってた人が居たよね。やってることって刀を振るいながら風魔法を使ってただけだったけど」
「そう言えば居たなぁ……あの時は確かに「刀を切り返していないじゃないか!」って思わず叫びそうになったっけ」
美咲さんに言われて思い出した。
何んというか、実に残念な技だよなぁ……と。いや、やっている事は結構高度な事だったと思うんだけどね。ただ、それでその技名にする? と言った感じがなぁ。残念と言うか勿体ないと言うか。
そんな事を俺と美咲さんが話していたら、目の前にいた協会員さんも「うんうん」とシンクロしている動きで頷いていた。
「分かります! 本当に、なんか一つ抜けているというか……残念な人達なんですよね」
「こういっては何ですが〝囮〟としては優秀なんですよね。叫ぶし、音は立てますし」
「協会の方針って基本は無音で制圧ですからね。なので他の探索者さんと上手く噛み合えば強いのですけど……」
「彼等って自分達だけで何とかしようとするから」
「「本当に残念です……」」と声を揃えたかと思うと、その後のため息もシンクロ。
どうやら侍さん達は協会にとっては頭の痛い種の様だ。だからこそ、侍達だけで固めてダンジョン攻略に行かせたりしているんだろうな。
ともあれ、そんな猪突猛進過ぎて〝猪武者〟と言っても過言では無い人達だけど、能力は高いので放置する事も出来ない。
むしろ仕事を割り振らなかったら「戦わせろ!」って、協会へ猪特攻してくるからな。そりゃ協会の人も頭痛でため息が出るよな。もう少し此方に合わせてくれ! って。
ただまぁ彼等を捕らえた後、協会の苦難があるとはいえ、彼等が上手く? 此方で生活出来ている様で良かったとは言えるかな。
まだまだ面倒な敵は居る訳だしね。下手に敵を増やすよりは、この状況はお互いにマシなんじゃないかなって思う。
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捕らえた捕虜たちとは協力? 関係になる事が出来ていました。一応、悩みどころだった一つは解消されたのかなぁ? 忍者達の里を襲撃する人達が減ったと言う訳ですしね。




