八百二十一話
ワイバーン戦の進展だけど、前線基地を作った水野さん達はじわりじわりとワイバーンを討伐しているらしい。
何故一気にやらないのかと言うと、激しい戦闘をして島側にいるだろう〝何か〟を刺激しない為なのだとか。
「島に何か居るってのは確定したんだっけ」
「おかしな気配が有るってのは聞いたけど、島だから調べるのは無理じゃなかったっけ?」
以前確認したように、海を渡るのはリスクが高い。飛んで行こうが船で渡ろうが、どちらも何者かに迎撃されてしまう。
そしてまた、空はワイバーンが飛び回っている。なので、海中からの攻撃に気を付けながらワイバーンと戦わねばならないとか、どう考えても無理ゲー過ぎる。
そんな訳で、まずはワイバーンの頭数を減らそうと言う方針らしい。
「毎日水野さん達が討伐結果をアップしてるけど……」
意味が有るのかな? と、ふとした時に思う時が有る。そしてそれは恐らくだけど水野さん達も一緒。
フィールドに居るワイバーンを一匹ずつ釣り、自分達のフィールドで確実に倒していく。確かに安全だし消耗も少ないだろうから連戦も可能だろう。
でももしワイバーンの巣がダンジョン化していたら?
ワイバーンは島から逃れる様に移動をし今の場所に巣を作ったと言うのが、仮説の中でも主流の考え。協会もまたその仮説を基に動いている。実際に、島からはただならぬ気配がある訳だしね。
しかし、そのワイバーンが逃げ込んだ先がダンジョンだった場合。もしくは、逃げてから作った巣の有る場所がダンジョンに飲み込まれてしまった場合。どちらのパターンでも、ワイバーンは無限に生産される。
今の世界、その可能性が否定できないと言うのがまた怖い話で、だからこそこうしてちまちまと狩るのは正解なのか? と不安を覚えてしまうもの。
「焦って無いと良いけどね」
「一応拠点を作るまでは順調といえば順調だったからね」
恐竜との戦いとか、魔眼持ちと思われるキツネとの遭遇とかが有ったけど、それでも日程通りに進む事が出来た。と、水野さん達は言っていたんだよな。
「一気に巣へと攻め入りたいだろうけど……」
「爆発音とか魔力の動きがあるからね」
なのでどうしても静かに戦おうと思ったら暗殺スタイルになってしまう。そしてそのスタイルだと当然だけど、一度に討伐出来る数は限られてきてしまう。
本当にもどかしいと言った気分になっているんだろうなぁ。水野さん達は。
因みにこれらは、風のカメラを使って常に俺達も状況をチェックしている。
本当にゲートを生成する魔法を使えなかったら、色々と分からない事だらけになってたな。
しかし、何か一気にワイバーンの巣を潰す方法でも無いだろうか。
先ほど言った理由の為に、現代技術と魔法を合わせた兵器を使用する事は不可能。主に音が激しいからな。
となると、古典的なファンタジー方法を取るのか、はたまた全く違う新しい方法を考えるべきか……それとも昨今のラノベからヒントを得るのか。
「えっと、それってどう違うの?」
「古典的になると、やっぱりこう前へ前へと進んで一体ずつ討伐して行く感じ? 今とやっている事が変わらないかも。ただ、正面から突撃するから暗殺では無くなるかなぁ……」
由緒正しき勇者様スタイルと言うやつだな。
今直ぐパーティーメンバーで巣のボスを討伐しに行く。……ぶっちゃけ、そのパーティーは死にたいのか? とか、壊滅する気か? と思ってしまうけど。
「だったらダメじゃない! 壊滅前提での戦いとか……」
「水野さん達ならレベル的にも大丈夫だとは思うけど、巣に何が居るか分からんからねぇ……まぁ、方法の一つってだけでこれをやるって事はまずないと思うよ」
命大事に。これは協会の方針における核の部分だから。
ただ、選択肢を狭めない為にもそう言った考えも有るって事だね。
「はぁ……ちょっと吃驚したよ。そんなやり方を選ぶのって思っちゃったし」
「最悪それしかないとなれば選ぶしかないけどね。ただ、選択肢にも上げていなかったら、その考えに思い至らない事も有るからね」
なので、どう考えてもあり得ないとか、絶対にやらないだろうと言う考えも口にする。とは言え、優先順位は低いから、大抵の場合は最初に語られその後スルーされて行くんだけど。
「なら全く新しい方法ってのは?」
「そっちは全く分からん」
「……分かんないって、分かんないのに言ったの?」
「そりゃ、今頃は協会に所属している戦術家の人達が考えているだろうからなぁ」
地図にモンスターや探索者のデータを見て、テーブルを囲んでにらめっこしているはずだ。なんなら現地で水野さん達と対談だってして居るだろう。
協会の戦術家さん達って机上の空論にならないようにって、現場にもしょっちゅう足を運んでいるらしいからね。……しかも、軽く戦闘にも参加しているのだとか。
「だから全く俺には予想がつかないんだよ。どんな発想が飛び出るのかとか」
「そう言った戦術を考えたりする人って、椅子に座ってふんぞり返っているイメージが有ったんだけど……」
「あー……物語とかによく居るよな。しかも後半とかで、部下に殺されちゃう奴」
現場の視察もしていない癖に! とか、数字ばっかりで状況を全く把握してない癖に口を出すな! とか、つもりに積もった不満から、部下の人が後ろからグサリ……と。うんまぁ、協会の戦術家さん達にはそう言った事は無さそうで安心はできるかな。
「なら最後のは?」
「昨今と言うか、崩壊前にあったラノベからヒントをってやつだよね」
「そうそう……でも、それこそ机上の空論じゃない?」
「まぁそうなんだけど、案外ヒントに出来そうなのはあるよ。自由な発想から生まれた内容でありえなさそうな物だけど、実はこの世界の魔法やモンスターがソレに対応できる可能性があるからね」
例えに出すならスライムとか。
ラノベほどフリーダムと言うか何でも出来ると言う訳じゃないけど、割とこの世界のスライムも自由度が高いからね。だから多少は近しい行動が出来るのでは? と思ったりしている。
後は魔法もかな。
結構自由に魔法は創造する事が出来るからね。色々と制限はあるから、こちらもラノベほど自由と言う訳では無いのだけど、それでもと思う部分はある。
「それに……少し前に探索者がフリーダムに実験しすぎて、おかしな技を量産してたしなぁ」
「あ、あぁ……」
いろいろな意味でおかしな技。
威力がおかしいレベルで高かったり、派手さがとんでもなかったり、消費魔力も……と、例えを上げたら限が無い。実用性と言う意味で考えたら、はっきり言って微妙な物も多い。
ただまぁ、本人達が凄く楽しそうだったし、そう言ったのって戦闘のモチベーションにもつながるから悪いモノでは無いんだけど。
「全身発光しながら突撃とか、胸から火の魔法とか、しかも一々技名を叫ぶとか……」
無駄が多すぎるんよ。気持ちは痛いほど分かるけど。
「あはは……アレはある意味壮観だったよね」
「だな。っと、話が少しそれた。まぁ、そんな事が出来るから度自由度はそこそこ高いんだ」
「なるほどねぇ。だからこそ何かあるんじゃないかって事?」
「そうなるな」
例えばスライムの大群を巣に押し込むとか。そして、そんなスライム達に酸を吐き出させまくるなんて方法も有りと言えば有りだと思う。
後、前に使っていた酸欠にする魔法とか。ダンジョンが在ったら使えないと思うけど、ワイバーンの巣だけならワンチャン行ける。……まぁ、ワイバーンが倒れるまでどれだけ時間が掛かるのか? という問題もあるけどね。
「とまぁ、ヒントになりそうなのは割とあるかなぁ……ただ個人的にはあれだなー。由緒正しい魔法が欲しいかも。ドラゴンを狩るやつとか」
「詠唱とかで時間が掛かりそうだよ……」
それもまたロマンだけどね。
ともあれ、ワイバーン狩りが開始されたから今後の展開には要注意と言った感じかな。
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