八百十九話
探索者達が空を飛んだり、跳ねたり、駆けたりしているのを見ていると、じわりじわりと気分が高揚してきてしまう。
そしていつの間にかに「ちょっと俺もやってくる!」と言いながら、俺は地面を思いっきり蹴っていた。
「仕方ないなぁ……」
「男であればそうなってしまいますよ。私も身体能力と魔法があれば飛び出したでしょう」
なんて声が背後から聞こえたけど気にしない。
ホップ・ステップ・ジャンプと助走をつけてから飛び上がり、自分の背後へマナシールドを展開してから風魔法を使って空気を爆発。
「よっとおおおおおおお!」
爆発で思いっきり上へ上へと押し上げられ、他の人が飛び回っている高度へ一気に到達。そこから自由落下に身を任せる訳も無く、マナシールドを展開して次は飛行体勢へ。
「やっべ、意外と姿勢制御が難しい」
久々と言う事もあり、つい口からそんな言葉が飛び出てしまった。
片腕を使ってバランスをとる。と言うのも、これは戦闘を前提とした飛行訓練だから両手を同時に姿勢制御に使っていいわけがない。そしてまた、よく見るあの両手を広げて飛行機みたいな体勢で飛ぶというのもアウト。あれだとスピードは出るかもしれないけど戦闘はできない。なので、一応やっているのはロボットが背中のブーストで跳んでいるイメージ。
そんな感じで、マナシールドに空気の爆発を当て一気に前進しつつ、指で作った鉄砲で「BAN!」と他の探索者に向けて撃ってみる。実際に軽く触れる程度の威力がある魔法だ。
そんな攻撃? を食らった他の探索者はと言うと……。
「お? なんか触れたな」
とか。
「押したな! って、あれ? 誰も居ねぇ」
なんて反応を見せてくれている。
ただ、次第に何をやっているのかバレた様で……空中では次第に戦闘訓練も兼ねて、皆が俺が撃った魔法と同じモノを使い始めた。
「それ撃墜!」
「ここでマナシールドを前方へ!」
と言った感じで、実にノリノリな探索者達。
これぐらい普通に出来るレベルであるのは飛んでいる最中に分かってたからな。だからこそ、ちょこっと魔法を使って悪戯してみた訳だけど……いやはや、完全に空中における摸擬戦になり始めてしまったな。
「おっと!」
「ちぃ……避けられたか」
飛行しながら観察をしていたら、背後から奇襲してきた探索者が居た。
どうやら俺が最初に魔法で触れた相手の様で、お返しに来たみたいなんだけど……。
「飛行は加速する時に空気を爆発させるから、誰がどちらに居て何処へ向かっているのか大抵予想がつく」
「まじかぁ……」
「後は魔力を探れば更に発見しやすくなるな。だから攻撃をする時は……」
と前振りをして、俺は一気に上空へと飛び上がった。
そしてそこから、マナシールドを使いイオ・ステップを数回やった後、魔力や気配を遮断しながら自由落下に身を任せる。
「そしてこのタイミングで……BAN! と」
落下中に〝誰か〟の後ろを通るタイミングで魔法を使用。
ポンと魔法に触れた相手が何事!? と辺りをキョロキョロと見渡すが、その瞬間にはもう俺はその場に居ない。だって落下してどんどん高度を下げている訳だし。
その後は飛行しながら高度を上げて行き、元の高さへと戻って行く。
「なんて厄介な」
「他にもいろいろあるぞ? 例えば……」
爆発を利用して直進しながら、足を思いっきり曲げる。そしてそこから足の裏部分にマナシールドを展開し、そのシールドに対して足を伸ばしながら蹴りを入れる。
前進していた状態が、マナシールドに蹴りを入れた事で横への移動も加わる。なので微妙に斜め前へと進む感じだろうか。それを左右と連続で繰り返していく。
「なんだか慣性の法則をそのうち無視出来そうな……」
「んー……色々組み合わせたら出来るかもな。ただ、その場合は体にかかる負担がやばいと思うぞ」
身体強化などで能力をブーストしているとはいえ、現状でも結構負担はかかっているはず。
あたりまえだけど、相当なGが体を襲っている訳だしね。まぁ、それでも何とかなっているってのが探索者の身体能力と言ったところだろうか。
さらに言うなら、俺の場合はウォルを他の人達はスライムの協力を得る事で、空中にて敵をキャッチし、アンカーをぶち込むみたいな感じで使う事だって可能。勿論だけどそのまま敵を投げ飛ばすのも可。
実際に以前俺がウォルと一緒にやったしな。その時は敵を掴んで自分を移動させるという方法だったけど。
ただそれも、急静止したり一気に移動方向を変更する事に繋がるから、やっぱり体に掛かる負担は大きい。とは言え、戦術的には相手の虚をつくことも可能だから便利なんだけどね。
さて、そしたらそろそろ地上へと戻ろうか。結構色々やって満足出来たし。
「うん、どうせ戻るならフィニッシュと行こう」
折角やるのだから、ド派手というか攻撃しながらの着地を狙う。
先ずはマナシールドを蹴って逆さの状態になる。そしてそこから再度マナシールドを展開し、それを踏み抜く勢いで蹴りながら体を反転させる。
「よっと、某ロボット的なキック!」
稲妻的な何か。
マナシールドを蹴りぬいた勢いと反転した反動を利用して、みたいな感じで威力をアップ(した気分になる)。
折角なので足に雷魔法を付与して雷撃を纏わりつかせてみる。うん、バリバリと音を鳴らしながらの落下で、正に稲妻落としとでも言った感じだろうか。
と、このままでは地面へ大激突してしまう。なので、着地の少し前からマナシールドを蹴りの前へ展開。微妙だけど速度は少しだけ落ちる……はず。
更に地面と振れる結構前に、風魔法を使って空気を爆発させつつ空気のクッションを生成。
ドォォォン! と、地面へ大きく衝突したような音が響いた。……ただこれ、衝突音じゃなくて爆発音だったりするんだけど。
「ふぅ……着地成功」
「どこが成功なの!?」
土煙が上がる中、着地成功と口にしたら何処からか美咲さんの突っ込みが。
え? 無傷で地面へと降り立つことが出来たから成功だよな? なんて思っていたけど、実はとんでもない事になっていたようで。
土煙が晴れだした時に美咲さんの姿を確認。あれ? ちょっと高い位置にいる? なんて思ったんだけど、実際は違っていて。
「土煙を上げるだけならいいけど、大きなクレーターを作ってどうするのよ……」
「あら……思いのほか空気の爆発が強かったのかな」
「爆発に蹴りを入れたって事ですか? その蹴りで爆発の勢いが全て地面に行ったと? 一体どんな蹴りですか……」
美咲さんと研究者の人が呆れている。うん、実際には俺も何が何やらといった状態。
「おかしいな? エアクッションになる程度だったハズなんだけど」
「クッションでクレーターが出来る訳がないでしょ」
「となると、落下による勢いとマナシールドを使った蹴りを爆発に当てたのが理由か?」
それならそれでも良いのだけど。てか、これだけのクレーターが出来るって事は、威力的には相当なモノが有りそうだよな。
「新技完成?」
「一体誰に使う気なのよ……」
「ほら、巨大なモンスターとか居るじゃん。堅殻イカの十メートル越えとか。あいつ等の殻に蹴りをぶち込んだら面白い事になりそうじゃん」
ただ、もし貫通するようなら考え物だな。何せ貫通するって事は俺が奴等の体内を通過するって事だろう? そうなると、俺は奴等の内臓やら汚物まみれになる可能性だって出て来るからな。
「衝撃のみを相手に伝える方法を考えないと」
「……この蹴りを極めるつもりなの?」
「いや、ちょっと面白そうだし?」
技も魔法も武器も、極めるのはロマンだから。
理由なんて〝面白そう〟とか〝かっこいい〟とか〝強そう〟だけで良いんだよ。うんうん。
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空を飛ぶと言う事で、気分が高揚しすぎてなんだか少年の心に戻ってしまった結弥でした。
これ、後から思いっきり後悔するんだろうなぁ……。とはいえ、そう言うのは結構男性あるあるな話だと思う。




