七十一話
薄らと目を開ける。どうやら、気絶してたようだ。
「……ここは?」
視界が回復して、すぐ目に入ってきたのは見慣れた天井。うん、協会の救護室だな。
しかし、どうやって此処まで? たしか、あの後……木にもたれ掛るようにしながら寝てしまったはずだ。
「ん? あ、起きたんだ! おはよう」
「えっと……おはよう」
「大丈夫? 痛いところとか無い?」
「あー、大丈夫かな? まぁ左手折れてるけど」
「あー……とりあえず固定はしておいたから。そうだ! 人呼んで来るね!」
美咲さんが付き添ってくれていたのか。人を呼んでくるって事は、医者か? それとも、事後調査かな。
まぁ、此処に美咲さんが居るって事は、イオ達も無事に村へと帰還できたって事か。うん、よかった。
どたどたと走ってくる音が近づいてくる。そんなに急がなくても良いのに。
「白河君起きたって! 大丈夫かい!?」
入谷のお兄さんが思いっきりドアを開けながら、早口で話しかけてくる。うーむ、心配かけたのはあれだが、ここ一応病室だぞ。
「落ち着いてください、此処は静かにする場所ですよ」
「おっと、そうだった。ごめんごめん、で、大丈夫なのかい?」
「まぁ何とか、利き腕とメイン武器以外は問題ないですね」
「そうか……まぁ、白河君のお陰で皆は無事だったんだけどね。因みに何があったか聞いても?」
「それは良いですけど、俺ってどうやって此処まで帰ったか解らないんですけど」
「あぁ……それはね、イオ君が行き成り駆け出してね。追いかけたら君が倒れてるじゃないか。近くにはオーガの死骸もあるし……一体なにがなんなのやら。まぁ、君を発見したから皆で運んだんだよ」
「そうでしたか、ありがとうございます」
なるほど……さすがイオだな。マジで良い子だ。
それにしても、オーガの死骸も回収出来たのか……それなら、研究して弱点とかを調べてもらえそうだな。まぁ、出来るなら合いたくないけど、ダンジョンを目指す以上無理な話だろうな。
それにしても、豆柴については、その姿を見て無かったって事か。
「……確か村から離れるように動いてた筈なんですけど」
「そうだね、戦ってた位置から村側ではなかったけど、逃げてて方向感覚が狂ったのかな? 距離的には変わらない位置だったよ」
ふむ……知らない間に村を中心として、円形に動くような感じになってたのかな? 森の中を駆け抜ける時の問題点かな。とはいえ、今回は良い方向に作用したって事だな。
「それで、あの場所で何があったんだい? オーガの首が一撃で落とされてるのも謎だよ」
「そうですね……あの後の事と言えば……」
ゆっくりと思い出しながら話を進めていく。
脛への一撃が通用せず吹っ飛ばされた事。その際、武器が破壊され利き腕が折れた事。どの魔法も何処を狙っても通用しなかった事。其処から何とか逃げ出して、鬼ごっこに突入。だが、スペックの違いからか、逃げ切れる気配が無い状況だった。そんな時に、あの豆柴が颯爽と現れて、オーガの首を風魔法の一撃で切り落とし、魔石を食った後そのまま帰って行った事。
一通り話をしていく。話が進むにつれ、お兄さんの顔がころころと変化する。中々にみてて面白いな。豆柴の下りが出た時は……ガーン! という擬音を当てたくなる表情だった。
「……ふむ、豆柴が其処まで移動したと、そして一撃でオーガの首を飛ばしたって事で間違いないよね?」
「そうですね。俺の攻撃が一切通用しなかったオーガを一撃でした」
「はぁ……それで、白河君には見向きもしなかったんだよね?」
「はい、魔石を飲み込んだと思ったら……すぐ帰りましたね」
「一体何がしたいんだろうね。とりあえず、現状では豆柴の危険度は低いと見ても良いのかな」
「良いとは思いますが……警戒だけはした方が良いかと」
とは言っても、イオと豆柴が遭遇した時が少し心配だな。豆柴は魔石を食ってるからな……イオにも魔石はある。敵対しなければ良いんだけど。
「とりあえずオーガに関しては、死骸から研究を進めてるけど……魔石が無いのが少しネックって状態かな。まぁ、あの研究班なら色々と調べ上げてくれると思うけどね」
「現状だと遭遇したくないですからね。武器が通用しな……って、メイン武器壊れてるんだった」
まぁ、利き腕が折れたから当分は養生だろうけど……メイン武器どうしようか。
「あぁ武器か。それも君が回復した後だね。白河君は頑張ってくれてたし、当分はお休みだよ」
「まぁ……こんな腕じゃ足手まといですしね」
「そんな事は無いよ。まぁそれでも、戦闘に出るならベストの状態が良いのは確かだからね」
少し気を使わせる良い方してしまったかな? とりあえずは少し長めの休息か。まぁ、回復魔法を掛けておけば通常より早く治るだろう。
「さて、とりあえず聞いた事を纏めないと。ゆっくり休むんだよ」
「はい、ありがとうございます」
さて、お兄さんも仕事にいったか。今回の件は、少し反省点もあるんだよな。
注意はしてたつもりだったけど、少し慢心してたんだろう。その結果で腕を折ったって事だろうな。
理解はしてたはずだ、ダンジョンと違って突然の強敵が現れる可能性があるって事を……前例だけでも、豆柴や雀蜂やゴリラが居た。
だけど、豆柴に関しては敵対していないし、他は問題なく討伐できた。
結果が、あのオーガに関しても逃げるだけなら、何とかなると思ってしまったんだよな。
「はぁ……他に手が無かったとはいえ、戦闘方法とかだともっと色々選択肢有ったはずだよな」
「ん? いきなり如何したの?」
そういえば、美咲さんはお兄さんが居る時はずっと黙ってたか。呼んで来て一緒に戻って来ない訳が無いからなぁ。空気になりすぎてて忘れてたよ。
「あぁ、少し慢心してたなって。オーガの初撃に関しても、ガードせずにもっと早くから移動してれば、避けれていた筈だからね」
「まぁ、あの時は皆が居たから」
「それでもだよ。もっと冷静に思考をしてたらなぁ」
「恐慌状態で行動しちゃった人も居たからね……あのオーガは厳しすぎだったよ」
「確かにそうだけどね……とは言っても、次からの事も考えないと。あのオーガは何処から来たんだろうね? とりあえず、下手したらダンジョン前は魔境になってそうだよね」
「うわぁ……確かにありそうだよ」
「そういえば……あの街に関しては如何するんだろう」
「会議をするみたいだよ? またオーガクラスのモンスターが来ないとも限らないし」
直ぐに行動は無理か。正直、オーガーが来たという状況だ。シェルター内に無事な人が居てもだ……外に出すのは止めた方が良いだろうしな。
それにしても、謎は大量に増えた気もするけどな。本当、如何したものか……。
「あぁーそうだ! 結弥君。大変な仕事が残ってるよ!」
「え……何か有った?」
「妹ちゃん達の鎮圧」
あ……其れはヤバイ、今はまだ目が覚めた事を知らないだろうから大丈夫だけど……そのうち耳にするはずだ、そうしたら他事おいて突撃してくるだろうな。
さてどうしようか……左腕折れたのは知ってるだろうし、ってそういえば聴いてない事があった!
「美咲さん、あれからどれ位時間って経ってるの?」
「あー……三日かな? 妹ちゃん達、毎日来てたよ? そろそろ今日も来る頃じゃないかな」
やばいな……なんの対策も考えてないぞ。戦闘やモンスターとかの事ばっかり頭が回ってた。しかも、そろそろ来る時間って……起きたこと耳にしなくても突撃フラグじゃん。てか、間違いなく目が覚めたって外で聞くよね!
「あぁぁぁどうしよう! 美咲さん助けて!」
「え!? 無理だよ! 甘んじて受け止めてあげなよ!」
「左腕折れてるよ! 二人も抱えれない!」
「そ……そこは気合だよ気合!」
美咲さんとあれやこれやと話してると、廊下のほうからバタバタと足音が……あぁ、来てしまったか。うん、これは覚悟せねばなるまい……。美咲さんを盾にする覚悟を!
「うん、そんな事させないからね?」
「あれ? 口に出てた?」
「ばっちりと聞こえた」
はぁ……まぁ、横になって襲撃を待つか。二人と話もしたいしね。
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