八百十六話
――美咲――
バイザーに映し出されてるのは風ちゃんが持っているカメラの映像。その映像を片目で確認しながら、私は研究室の隅っこで結弥君がやっている実験のモニターを見ていた。
『よう考えたら、これらのデータを基に作られるガーディアンとは妾の弟妹になるのかの?』
「え? あー……言われてみればそうかも」
ラーナの言葉を聞いた事で、私も確かにそうかもと感じてしまった。
ガーディアンは質の良い魔石をコアにして作る。それもコアにある程度意志が残っているモノを。魔石自体は兄弟姉妹と言う訳ではないけれど、その後に人の手が入り新しく再誕すると言う事を考えたら、ラーナにとっては義理の弟妹と言える存在になると思う。
「ん? と言う事は、今稼働しているガーディアンやAI搭載の強化鎧も全部そうなるんじゃ?」
『おー! 確かに。妾の弟妹達は既に存在しておることになるか』
「おーい姉さん。俺達の事も忘れて貰ったら困るんだゼ」
「……マスターと共に戦うと約束しあった」
『うむ。忘れてはおらぬぞ。ただ、こうして新しい何かが作られるのを見るとな』
うーん。この三体は桃の木の下で杯でも交し合ったのかな?
元々、私達がこの三体と出会った時は、ラーナが魔剣を二本とも振るっていたしね。それに前のマスターさんはとても大切に彼等を扱っていたみたいだし。……まぁ、その時のラーナはまだただのアラクネだった訳だけどね。
「でもどうして急にそんな事を思ったの?」
『いやなに、このガーディアン計画は妾達AIネットワークでも既に知れ渡っておってな。他のモノ達は〝あれ? これが完成したら自分達はお役目終了?〟と思っているモノも居る』
「ん? んん!? えっと、何が何だか……色々と突っ込みを入れたくなるような内容を初めて聞いた気がするんだけど、AIネットワークって何?」
『それはの……』
AIネットワーク。
それはAI達が連絡を取り合えるようにと、通信システムの一部をジャックして作り上げたシステムらしい。ただジャックと言っても、元からAI達用の戦場連絡網として作られたシステムなので、普段でも無断で自由に使う事が出来るスペースを作ったと言った感じ? うん、AIさん自由過ぎじゃないかな。
ただこのAIネットワーク。かなり予想外の副作用があったんだって。と言うのも、意識が希薄だったAIがはっきりと自分を持つようになったんだとか。
着用者の魔力をたっぷりと受け取る事も理由の一つだそうだけど、他のAIと常にやり取りする事によって、化学反応というか触発されたと言うのか……AIとして使うにはボーダーラインがギリギリだった魔石達も、今やバリバリと会話を行っているのだとか。
「そういえば何時か結弥君が言ってたなぁ。AIの言葉が流暢になったって」
『確かそれはネットワークが完成する前だったはずだぞ』
「って事は、そのAIは魔力吸収だけで覚醒したって事?」
「だと思うゼ。魔剣もそうだが、送られてくる魔力が濃厚であればあるほど力が増すからナ!」
「……魔力は原動力」
質の良い魔力はそれだけで彼等のスペックを向上させるみたい。その場で使う魔法や技の威力を上げるだけじゃなかったんだね。
「ん? って事は、このガーディアン計画の子達は強化されないって事? 人が着用して魔力を送り込む訳じゃ無いし」
『ふむ……確かにそうなるの。AIネットワークには接続できるゆえに、そっちの方面でアクセスはできるが……元となる魔石の質が変わらないのであれば、可能性は皆無と言えよう』
「……勿体ない」
「俺達は使用者によって、その能力を左右される存在だからナ。使用者が居ないとなると、安定はするだろうガ……」
成長する望みが無いって事かぁ。
確かに、微妙な人に使われて退行する可能性もある訳だから、どちらも一長一短なんだろうけど。それでも、退行するより成長する方が大きいと三体は言っていて、無人なのは勿体なさすぎると口を揃えている。
「んー……この事は研究者の人達に伝えた方が良さそうだね」
「お、姫たのんだんだゼ!」
「姫はやめようねー」
「嫌なんだゼ」
「全く……とりあえず私は今の事を伝えるけど、もう少し待った方が良さそうだね」
そんな訳で、私は休憩するタイミングを狙ってラーナ達から聞いた話を研究者へと伝える事にした。
――研究者――
「何? その話は本当なのかい?」
「えぇ、ラーナ達が言っていたので事実かと」
「そう言えば、俺のアーマーに搭載されているAIも随分とおしゃべりが上手というか、好きになってたなぁ」
「ふむ、白河君のもか……となると、ガーディアン達にも人の魔力が送り込まれるようにするべきだろうか……」
休憩のタイミングを狙ったのか、藤野君が私達に重要な話があると接触してきた。
今回彼女は、テスターとしてではなく連絡要員として此処に居るだけなのだが、まさかまさかこの用な重要案件を伝えて来るとは。テスターとしてもしっかりと働いてくれているなと感心する。
「しかし、これは藤野君だからこそ知る事が出来た事実かもしれないな。君ほどAI達と深く関わっている人も居ないからね」
「そうなんですか? 私は普通にラーナ達とお話をしているだけなんですけど……」
「ハハハ! 普通か、そうかそうか。藤野君、普通と言ったらAIと楽しくお喋りなどはせんよ? 事務的に色々と会話をする事はあるだろうが、友達みたいな会話をするような人はまず居ないだろう」
彼女はAIや魔剣達と良く会話をしている。それは我々も確認しているから良く分かっていた。……いや、分かっているつもりでいた。
しっかりと考えれば分かる事だった。彼女は普段からAI達と交流を持つ事で、AIや魔剣達の能力を引き出していると。そして、そんな彼女だからこそ使える力がある。
「もしかしたら、そう言った部分に答えがあるのかもしれんな」
「何がですか?」
「あぁ、現状だと藤野君のみが使えている〝AIや魔剣との共鳴〟だよ。実は現状、他に使える人が居なくてね……我々もどういう訳だ? と頭を悩ませていたのだよ」
データを取って、魔力の波長を近いモノに出来るよう訓練をして……とやっているのだが、どれだけやっても彼女の使う〝共鳴反応〟を再現する事が出来ず、一度も近しい状況すら不可能と断言せざる得なかった。
ただ、こういった事が我々科学者の悪い癖なのだろうな。我々は、全てをデータと言う数字を通して物を見ている。しかし、この事は数値では無い場所での話。いやはや、考えもせんよ。AIや魔剣との信頼関係が大切などとはな。
「精霊を相手にするのと変わらないと思うのですけど」
「そうか……そうだな。確かにそうだ。ただ、我々は魔石を使い、自分達の手で魔道鎧やガーディアンを作っている。だからだろうな。どうしても彼等を創作物として見てしまうのだよ」
「それは……」
藤野君は次の言葉が出せなくなってしまったようだ。白河君は、あぁ彼はどうやらどちらの気持ちも分かると言った具合かな。「しょうがないよな」と言った目をしながら話を聞いているようだ。
「え? うん。でもそれって……」
藤野君が何やらブツブツとつぶやき始めた。いや、これは恐らく彼女のAIであるラーナと会話をしているのだろう。
「藤野君。君のAIは何と言っているのかな?」
「えっと『創造者がそう言った目線で妾達を見るのは仕方が無い』と」
「ふむ、どうやら彼女は我々に理解があるようだね」
「ふん! 俺様は理解しても認めたくは無いがナ!」
「申し訳ない。しかし、魔剣君は結構感情が豊かなようだね」
「俺様の属性が火だからだろうナ! つい気分で燃え上がっちまうゼ」
「それはそれは……実に恐ろしいから言動には注意せねばならないかな」
「言っているゾ? 俺様は〝理解〟しているとナ」
完全に怒らせていると言う訳では無い様だ。
しかし、確かにこれはAIや魔剣との絆が必須なのが理解出来る。ただ、まさかそんな数値に出来ない部分が原因で魔道AIの研究が停滞していたとは。
とは言え、原因と言えるモノを発見できたのだから、今後は研究も進むだろう……差し当たって、彼女達の言うガーディアンと人の魔力。これに対して何か方法が無いか考えるとしようか。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!!
精霊憑依および纏いが使える者が増えているのに対して、AIとの共鳴が使える人は現状居ませんでした。報告やら敵のサーチなどなど、便利な道具として扱う人が多いと言うのが理由だった訳ですが。
これで少し変化がみられるかもしれませんね(*'ω'*)




