八百十五話
研究所にあるシミュレーターにて、俺は戦闘データを取っている。と言うのも、どうやらガーディアン用に組んだシステムのチェックが必要だという事らしい。
「ふむ……このプロトタイプだと森林など、物が密集している場所では能力の発揮が難しい様だ」
「ひとつ前のモノの方が安定はしていますが……」
「うむ、アレだと食事代が掛かり過ぎる」
とまぁ、色々とデータをとっては、研究者達がそれについて言及している。
因みに、食事代は燃料の事。なんでそんな言い回しをしているのだろうか? と思うが、ガーディアン達が彼等の子と考えるなら、その言い方も当然だろうな。
ともあれ、そのような実験を魔石や電力を馬鹿みたいに食うシミュレーターを使いやっているのだから、多少ぐらい良いのでは? と思わなくもない。まぁ、シミュレーターも初期の頃を考えればかなり省エネ化したんだけどね。
「しかし、人型はやっぱり戦いにくいですね。相手も武器を使ってくるってのが実に面倒臭くて」
「白河君でも武器を使う相手は苦手かね」
「苦手と言うよりも、お互いに魔法と銃撃戦がベースになりがちですからね。手の内も理解し合っているので奇襲も難しいですし」
スナイパーライフルで狙おうと思っても、相手はその事をすぐに察知して対応してくる。そりゃそうだ。何せスナイパーで狙うと言う事は、それだけ俺の動きが相手にとって無の状況になるのだから。だから、俺の狙いがスナイパーなのかトラップなのか……と、ある程度当たりを付けるくらい容易な訳で。
「千日手って言うんでしたっけ、アレになりがちなんですよねぇ……で、そうなると、精神疲労がある俺の方が不利になって行くんですよ」
「なるほど。ガーディアンは魔石を使ったAIだからな。燃料さえあれば疲労など関係が無い」
「人の場合。精神的な面で逆に思った以上のスペックを出すなんて事もありますけど、当然ですが燃料よりも消耗が激しいですからね……」
一応だが、人の強みはまた別にある。
その一つが精霊との契約。当然だけど、魔石をコアとするガーディアンでは精霊と契約なんて出来ない。……正直、美咲さん用のAIであるアラクネのラーナを見ていると出来そうな気もするのだけど、どういう訳か精霊ってAIとは契約しないんだよね。理由が本当に不明。
ただ、人が中間に入れば、精霊とAIは何故か仲良く出来る。うん、でも人が居なくなるとササっと精霊は離れて行ってしまう。実に不思議な現象。
なので、持久力が化物と言えるガーディアンに対して、人が対抗するには精霊の存在が必須と言う事になる。
同じ武器、同じ技術で戦う以上、勝負を決めるのは元々のスペック、その中でもスタミナがメインになるからな。何せ銃撃戦がベースな訳だし。
で、そうなると俺が研究者に言ったように、素での戦いは〝精神的なスタミナ〟の部分で人が不利になる。だからこそ、人には他のカードが必須になる。
「しかし、戦闘データを取っていて思ったが、白河君も十分精神お化けの様だけどね。普通に千日手と言える状況を熟しているじゃないか」
「現実の戦闘では無いからって前提もありますから。これが実戦の場だと想像以上に疲労が加速しますよ? そうですね……大体二倍から三倍は見積もっても良いかもしれません」
「実戦とはそこまでなのか。我々は研究室に引きこもっているからなぁ……」
これがシミュレーターの数少ない弱点の一つだよね。
あくまで仮想現実だから、人の体や精神にかかる負担は現実よりも軽い。後が無いという緊迫感も無いのだから当然だ。
なのでシミュレーターは、実戦に近く感じれる訓練でしかない。そして訓練である以上、自分の最高スペックが叩き出せるのも当然。
何があっても責任を取る必要が無いからね……そりゃ、気楽に出来るのだ。最高にリラックスした環境で戦闘が出来るのであれば、データよりも更に上のスペックを叩き出せてもおかしくはない。
「シミュレーターで個人が出せる数値って、理論値じゃなくて理想値なんですよね」
「自分の最終的な理想形と言う事かな?」
「はい。まぁ、その理想も〝今の〟と言う言葉が付きますが」
「むむむ……そうなると、探索者の戦闘用シミュレーターとしては欠陥品では無いだろうか」
欠陥品か……確かに、そんなデータを現実の戦場で出せないのであれば欠陥品では有るかもしれないけど、自分の目標を体感出来ると言う点を考えれば寧ろ最高品だ。
目標を何処へ掲げるか。これって簡単の様で本当に難しい。特にある程度育ってしまった探索者であればあるほど、成長限界みたいなものを感じてしまう。
しかしそこへ、このシミュレーターを使う事で壁を突破する事が出来るとしたら? それは、長期的に見て探索者としての強化へと繋がる話だ。
「理想の自分を理解するってのは大切かと。なので、これはこれで良い物ですよ」
「とは言え、それだけでは駄目だろう? もう少し現実的な数値を出す事も考えねば……」
うぅむ……と頭を悩ませる研究者達。まぁ、そう言った部分は研究者としての拘りがあるのだろう。だから俺が何か口を挟むようなモノでも無い。思いっきり悩んでもらおうと思うが……それは今では無い。
「それは後で考えて貰うとして、ガーディアンの方はどうなんです?」
「ん? あぁ、そうだな。プロトタイプのデータと幾つか戦って貰ったが、やはりどれも納得がいくようなモノでは無いな」
「と言いますと?」
「うむ。スペックがそもそも足らない。我々のスペックを満たす数値にすると、今度は魔力や電力消費が問題になる。どのような状況でも戦えるようにと考えると、武装が必然的に多くなってしまう。実に悩ましい話だよ」
ガーディアンに魔法を使わせようと思うと、疑似的に魔法が使える魔法銃などを搭載する必要がある。しかし、その魔法銃を撃つ為には当然だが魔力という燃料が必要。そして、その魔力をどこから持ってくるのか? と言う話になると、ガーディアンの魔力バッテリーから引っ張って来るのか、専用のカードリッジを何度も交換するのかという問題。
魔力が勿体ないからと実弾兵器ベースにしたら、当然だがそれだけ荷物が増えて行く。魔法鞄があるとはいえ、実は鞄を使うにも少量の魔力が必要だからなぁ。
これ、人であれば魔力の自然回復分があるから問題が無いんだよな。探索者が着込んでいるアーマーとAIであれば、人から魔力を送れば良いからそれで解決する問題なんだけど、でもガーディアンだと自然回復は出来ない。
かなりシビアな燃料計算が必要になって来る。
「今までは燃料不足は無視してデータを取っていたが、次は燃料のデータも入れてやってみるか……白河君、もう一度お願い出来るかな?」
「良いですよ。休憩も十分確保出来ましたしね」
腕や肩に首を回し筋を解してからシミュレーターに入る。……ぶっちゃけ、ストレッチとかやる意味無いんだけどね。こう、何というか気分的にやってしまう。
ブゥゥゥゥンとシミュレーターが機動する音が聞こえたかと思うと、仮想現実世界へ俺の意識は降り立った。
『さて、聞こえているかな?』
「聞こえていますよ」
『オッケーだ。ではプロトタイプ……そうだな、4号を投入しよう。フィールドは見て解る様に草原での戦いだ』
「了解です。俺は何時でも行けますよ」
さてさて四号となると、確か実弾兵器を多用してくるタイプだったかな。と言う事は、恐らく一番プロトタイプの中では稼働時間が長くなると思われるヤツだ。
そしてまた、実に接近しにくいタイプ。実弾だもんな……ガトリング・スナイパー・ショットガンが目白押し。しかも、人と違って両手と言う形に拘る必要がないから、全て同時に射撃する事も可能と来た。
あぁ、実に面倒な相手だな。とは言え、しっかりと戦闘を行ってデータを大量に吐き出させないとな。
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因みに、風から送られてきている監視映像の確認は美咲さんが行っております。
何かが有ったら直ぐに実験をストップできるようにスタンバイ中。




