表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
826/889

八百十四話

――協会――


「どうしたら良いですかね?」


 協会の会議室では、品川に相談している男の姿。正確には、男が映し出されているモニターなのだが。

 その男は僧衣を身に纏っており、少し前まで敵対していた僧である。


 ではなぜこのような場所に居て相談をしているのか。それは彼が戦う力の無いモノを引き連れて、此方へと保護を求めて来たからだ。

 そして保護された後は協会によって、武装解除を受けた後は厳重な監視を受けながらも、日々お経を挙げているのだが……。どうやら悩みがあるらしい。


 普段悩みを聞く側だけあって、何か悩んだ時に相談する相手が居ないと言う事なのだろうか。彼は協会の上層部にお願いをし、話を聞いて貰えるようにしたようだ。

 なので品川が見るモニターの向こう側には、男以外にも兵部などの姿がある。



 そして、そんな僧である彼の悩みなのだが……。


「今は難しいわね」

「難しいのは重々承知しておりますが……」


 品川は彼の悩みに対して難しいと答える。

 それも当然で、彼の悩みと言うのは、彼の下へ共に逃げて来た人が行っている相談の内容が頭痛の種で、その内容と言うのが「地元にある遺品を回収したい」や「土地を奪い返したい」といった内容だったからだ。


 当然この相談を受けた彼は、大いに悩んだ。それもそうだ。自分達は武装解除をし、二度と武力を持たないという条件を受け保護を受けた。なので彼が昔より知る家族とも言える人達から悩みを受けたからといって、そう簡単に立ち上がるなどと言う事は出来ない。

 とは言え、長く過ごした土地を捨てたいとは思わないのも理解できるし、戻れないなら逃げる時に置いてきてしまった物を回収したいという気持ちも人なら当然だろう。

 悩みに悩んだ彼はこのまま悩んでいても仕方が無いと考え、伊勢に派遣していた兵部やその地を纏める宮司へと話を持ち込んだと言う訳だ。

 そして、その話は彼等だけでもどうしようもないとなり、協会の本部長でもある品川にも聞いて貰おうと言う事になった。


 そして、その品川が〝今〟は難しいと判断したと言う訳だ。


 勿論、品川の言った言葉を正しく男は理解した。そう〝今〟がダメなら〝今後〟は別なのだと。


「理由を伺ってもよろしいでしょうか?」

「ええ、勿論よ。ただダメと言われても納得がいかないでしょうしね」


 品川はどうして今が無理なのかを説明していく。


 先ず最初に出されるのは、やはり人手が足らないと言う事だ。

 現状でも協会にそれぞれの拠点運営を、探索者達もまた調査及びダンジョン踏破をぎりぎりの人数で行っている。

 そしてまた、伊勢などは同盟であるだけで此方の勢力下でない為に、そこを挟んで飛び地になると上手く管理が出来ないと言う事などなど。


 以前に結弥や美咲が話していた内容に近しい内容を、品川は僧である男へと伝えていった。


「今の状態で彼の地を此方が確保しても、まともに防衛が出来ないのよ。そしてそれは、伊勢が彼の地を納めてたとしても同じだわ」

「我々も現状で精いっぱいですからね。むしろ、こうして兵部殿を派遣して貰い漸くと言った感じでしょうか」


 兵部達が来る前だと、それこそゲリラの如く様々な敵が現れては領地を踏み荒らしていく。そんな日々だったのだが、今では漸く内政がまともに行えるようになってきた。

 それは防衛のラインが上がった事で、敵が内部まで侵入する事が無くなったからだ。

 とは言え、漸く内政がまともにスタートしたと言う事でまだまだやるべき事が多い。なので、他所へと意識を向けるなど到底出来ない話である。なので下手をしたら品川達よりも、神職者達は人の手が足らず忙しい日々を過ごしているだろう。


「それに、現状だと彼の地は〝迷宮教〟が確保しているわ……そうなると、今まで以上にアナタ達の地元は戦乱に巻き込まれるでしょうね」

「あぁ……やはりそうでしたか」


 一応だが、迷宮教が土地を確保したと言う情報は公開されてはいない。とは言え秘匿もしていない為に、一般人でも割と簡単に聞くことが出来る情報である。

 なので男もその情報を手にしていたのだろう。想像していた通りだ……と思わず肩を落としてしまったようだ。


 何故彼が肩を落としたのかだが、それは迷宮教がここら一体では共通の敵という認識だったから。そして、そんな迷宮教が自分達の地元を占拠したとなれば、当然だが土地は荒れに荒れるだろう。何せ、多方面から集中砲火を食らうのだから。

 そうなると、当然だが回収したいと思うモノも回収できなくなる可能性が高い。土地も、取り返した後に復興させようにも長い年月が必要となる。落胆するなと言う方が無理な話だ。



 なので、男はすがるような目を品川達へと向けた。少しでも可能性があるのなら……と。


「申し訳ないわね……此方も下手に派遣をし人を失う訳にはいかないのよ」


 ただ、当然だが返ってくる言葉は拒絶である。

 男もそれは理解していた為に納得はしているようだ。ただ、彼はどうやって自分へ相談をして来た人達に説明するべきかを悩んでいる。


「そうね……ただ何も出来ませんと言われたところで、頭では理解出来ても心で納得できないモノね」

「い、いえ。私は!」

「あぁ、アナタの事では無いわよ? アナタに相談して来た人達の事よ。彼等はアナタよりも手に入れる事が出来る情報が少ないわ。そうなると、どうしても判断する際に感情が優先されてしまうから」

「確かにそう言った部分もあるとは思いますが……情報を手に入れる事が出来る者でも感情的になる人は居るかと」

「割合の話よ。どちらの方が多いのかと言う話ね」


 これだけ力があり発展しているのなら! と思う人も多いだろう。その裏で、どれだけブラックな環境で働いていたり、人の手が全く不足しているかなど理解も出来ずに。

 表に見える部分が素晴らしいだけに、裏の事を知らずに判断する。これは何処でも普通にある話。かといって、知っている側がその事を声高らかに宣言する物でも無い。人手が足らないなんて話を公言してしまったら、それだけ住民の不安を煽ったり、弱点として狙われる可能性があるから。……だから余計に、裏へ裏へと情報が隠れて行ってしまうのだが。


「アナタが主催で慰霊祭でもやりましょうか。勿論そこまで大きなものは出来ないのだけど」

「目を逸らすと言う事でしょうか」

「言ってしまえばそう言う事ね。目を逸らして時間を稼ぐのが現状は最良でしょう。予算はそうね……」


 時間稼ぎの為の慰霊祭。

 コレもまた公には出来ない情報だ。誰も考えないだろう、まさか死者を弔う為のモノがまさか目を逸らさせる為の時間稼ぎなどとは。

 とは言え、こういった判断は昔からよくある話。不満から目を逸らさせるために祭りを行う。

 普通に考えれば、やっている事は実に素晴らしい事なので褒めたたえらえる内容ではある。そしてまた、裏が有ったとしてもお互いに損はしていない。所謂、政治的判断と言う奴だ。


「って事で、宮司さんもよろしいかしら?」

「そうですね。私の方でもお手伝いをさせて貰いますよ」

「よろしくお願いしますね……そしたら、今度はどのタイミングで彼の地を攻めるかですが」


 会議はまだまだ続く。

 時間稼ぎをすると言う事は、何時かは攻め落とす予定が有ると言う事なのだから。


 とは言え、人の手が足らないのはどうやって解消するのだろうか? 研究所が行っているガーディアン計画以外にも当てがあるのだろうか? まだまだ、隠されている情報や戦力などがあるのだが、それを踏まえても……。


「戦力が足らないわねぇ……」


 品川の口からは、愚痴が零れてしまうのであった。

ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!(o*。_。)oペコッ



厚かましいと言うなかれ、坊さんはあくまで相談を受けたことを報告しているだけなので。まぁ、多少はその相談者側に立って会話をしておりますが。


そして相談者さん達もまた、保護された後に心の余裕が少し出来てきたのであれば、当然そう言った事に目が向くのも致し方が無いかなと。

人って頭で理解出来る事だけで生きている訳ではありませんからね……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

宜しければ下記のリンクもお目を通して頂ければ幸いです

新しい話をアップしていきますよヾ(*´∀`*)ノ:孤島で錬金術師~修学旅行中に孤島に飛ばされたから、錬金術師になって生活環境を整えていく~
― 新着の感想 ―
[一言] 中間管理職?或いは難民指導者の悲哀ですねえ。まあ下手に情報公開すると協会側(協会という組織でなく勢力名として)からも「戦国時代な場所に我々も参戦して平定、覇権を打ち立てよう!」というお調子者…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ