八百十三話
流石宗教だ。そう思うぐらい、清々しいまでに一つの筋を通している者達も居た。
一体何をと言うと、彼等は劣勢になったとしても他の宗教と同盟を組むことはするが、傘下に入るとか改宗をするなんて事が無かった。……歴史的に考えると改宗は結構あるはずなんだけどね。例を挙げるなら、高山右近などを筆頭としたキリシタン大名とか。
なのでそう言った部分では群雄割拠な戦国では無く、その後の歴史を挟んでいるなぁと思う所だな。
「ただ、それで全滅して居たら意味が無いと思うけどな」
「命あっての……なんだっけ?」
「物種だな」
「うん、それそれ。死んじゃったら意味が無いよね」
死して残す物が有るのなら、まだその死にも意味があるだろう。だけど、何もなくなってしまうのではただの犬死じゃないか。本当に、さっさとプライドなんて捨ててしまえば良かっただろうに……と思うのは外からの視点だからだろうな。
宗教にどっぷりとなると、そう言った考えなど何処へ行ってしまうのか、愚直に一直線と言う言葉通りの行動を起こす様で。そう言った事を考えると、こちらへ救助を直接求めてきた人たちは、最初から宗教というものにどっぷりと漬かっていなかったのだろうか? まぁ、良く分からん。
ただ、そんな感じで劣勢になっても不退転を貫いた人達は、その本拠地ごと違う人達に襲撃されあっけなく幕を閉じたらしい。
てか! 其処を攻めた者に言いたい事が有る。
どうして人材を残さなかったんだ!! と。確かに、他宗教の人間が使いにくいのは分かる。思想の違いから衝突し引き下がる事が出来ない状況にまでなったのだから。
だからと言って、攻め滅ぼすのは違うだろう。これは別に人道的な意味では無く、それこそ労働力として使えるじゃないかと言う話だ。
「奴隷に落とせと言う訳では無いんだけど、しっかりと衣食住を保証した上で強制労働させたら良いのにって思うんだよなぁ」
「んー……でも何をやらせるの? てか、それって難しくない?」
「一応、相手が一つにまとまらない様に住む場所をバラバラにしたうえで、ダンジョンを潜らせるのは不味いから……石工とか木工でもやらせたら良いんじゃないかな」
なるべく力を持たせない何かをやらせる。かといって、食料を作らせるのは流石に不安が残ってしまう。……何を混ぜられるか分かったものじゃないからな。
となると、やらせるとしたら布を作らせたり、木を板に加工させたり、石を切らせたり。なるべくソレだけをやらせると言った感じのモノが良いと思う。
「こっちだと、確か犯罪した人は……」
「ゴブ肉尽くしからの軍曹による特訓だからな。強制労働と言う方法が必要なかったりするんだよな」
教育と言う名の訓練と言えば良いのか、人格破壊からの形成とでも言えば良いのか……それを受けた人達は、とんでもないレベルで品行方正になるからな。
なので強制労働施設と言うモノなど必要なかったりする。ただ、果たしてそう言った人達にとっては、一体どっちが幸せなのだろうな。
「あ、でも一ヶ所だけそう言った施設があるか……」
「あー……でもそれは仕方が無いんじゃない?」
マッドのイーグルに改造された人たちがいる場所。
あそこはある意味で強制労働施設と言っても良いかもしれない。何せ、人なのに人の見た目をして居ないからな……外に出すのは問題と言う事もあるし、何より本人達が人の居る場所に行きたがらない。何せその見た目が……ね。
と言う事で、協会は彼等専用の施設を作り、その施設で農業など自分達の食べる分を作りながら慎ましい生活を送っている。研究所が彼等を人に戻す方法を見つける事を祈りつつ。
俺達も彼等が人の姿を取り戻し、普通に交流できるようになることを願っているけど……それは今は良いとして。
活動範囲を広げて言っている俺達だからこそわかるから言いたい。「なんで自らの戦力を増加出来る状況を捨てる事が出来るんだ!」と。
まぁ、将来的に敵対する可能性のある相手に対して、「戦力を増やせよ!」と言うのもどうかと思うが。
「とは言え、色々とあっちの人達も強くなってるんだよなぁ……」
「まるで〝蟲毒〟だよねぇ」
「土地と言う壺に宗教と言うモノを沢山閉じ込めたって感じか。そりゃ、強くなって行くのも道理か」
蟲毒は呪詛が元なんだけど、やっている行為がソレな訳で、しかもその毒の元が宗教となると……何だか本当に呪いが完成しそうな気がしてならない。魔力も実在する世界になってしまったしな。
ただ、一体誰を呪うんだ? って話になるけどな。ま、こちらが狙われたとしても、神職者さんやらソラ達が居るのでカウンターが可能だと思うけどね。
「てか、毒虫でやるよりも人でやった方が恐ろしい呪いになりそうだよな。共食いで残った虫が神霊になるって話だけど、人の怨念と神霊どっちが脅威かって話になるとなぁ」
「人の呪いってなると、なんだか人特攻とかになりそうだよね。藁人形とか、あれって出来るのかなぁ?」
「藁人形だと一人分の呪いでしかないからな。出来たとしても効力は低いんじゃない? もし本当に出来るとしたら、恐ろしくなりそうなのはコが付く箱とかな」
まぁ、あの話は平成に入ってからネットに投稿された怪談だったと思うけど。……今の世界割と何でもありになってるからな。こればかりは馬鹿が阿呆な真似をしない事を祈るしかないか。
「と、なんだか話が呪いにシフトしてしまったな。内容を元に戻すとして……西側の戦力って大丈夫なんかねぇ」
「対人戦だからね。士気に関わるからって、そっちに行く人は厳選しているみたいだよね」
「一応、ワイバーン側の事も有るから俺達が行く事は無いけど。てか、行っても殆ど足手まといなんだけどな」
俺と美咲さんだけど、これまで人との戦闘って実はしていないと言っても良い。
いや、人と戦いはしたんだけど。それは人から改造され、人の形ではなくなった者。死者が弄繰り回された事で、動くようになった者。とまぁ、あの糞マッドが関わっている内容なんだけど。
それ以外だと……ちょっとしたヒャッハーを確保したとか、勘違いした探索者を取り締まったとかそんな感じな訳で、戦いらしい戦いはしていない。
「万が一を考えて訓練はしているけど、実際の殺し合いは無理があるって判断されているだろうなぁ」
「ワイバーン側を選んだ時もすんなりと許可が下りたしね」
こう、非殺傷設定が出来る魔法とか武器でも出来れば別なんだけどな。
やっぱり、今も何処か人の命を奪う事に対しては忌避感が残っている訳で。ただ、もし此方の拠点を襲うような輩がいれば、大切なものを守る為にもと言う気持ちはあるけども。
それでも、やっぱり足手まといになる可能性は拭えない訳で……まだまだ、この世界に適応していないのだろうか? と思う。いや、そう言った意味では余り適応したくはないけどな。
「モンスターとだけやり合えるなら楽なのになー……」
「確かにそうだよね」
なんでこんな世界で領土やら利権を求めるかねぇ。今は協力し合った方が良いだろうに。
「さて、そんな力を求めている人達だけど、さっきも言ったようにどんどんと旗色が分かりやすくなっているみたいだな」
「群雄割拠の中でも三国時代になるみたいな感じかな?」
随分と狭い三国時代だこと……と思わなくもないけどな。
さて、でもまだここからややこしい事になるんだろうなぁ。でも、こちら側は基本的には動かない姿勢を貫くんだろうな。
恐らく、争いの中心になるのが〝迷宮教〟が手にした土地。あそこを手にしたら、こっちまで手を伸ばせる訳だしね。……戦うにしても、交渉をするにしても、まずは迷宮教と他の人達による激しい戦いが始まる訳だ。
こっちは迷宮教に支援なんてするつもりなど一切ないけど、さて? 他の陣営はどう考えているだろうな。案外、迷宮教が此方へ接触しようとしていると考えているかもな。
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勿論吸収合併している宗教もございますよ。えぇ、どんどんと戦力を上げて言っている訳ですね……あぁ、恐ろしや。




