八百十二話
自滅した人達の土地だけど、協会は今の所だと全く手を出していない。
と言うのも、その土地はまるでオセロか? と、問いただしたくなるぐらい陣営がコロコロと変化しているからだ。ただまぁ、それもそうなるよな。何せ、人が入って来たと言ってもその人数は知れている。
人数が居ないのであれば、夜襲などでも行えば簡単に陥落してしまう。条件次第では力押しでも行けるしね。
ただ、そんな土地の取り合いも終焉が。
何処から集まったのか、あちらこちらへと散らばっていた大量のゲリラと思われる人達が集まり、その土地へと一気に雪崩れ込んだそうだ。
で、そのゲリラと言うのが……俺達も敵としてよく知っている〝迷宮教〟だ。
占拠した後の彼等は、さもその土地がもともと自分達のモノである! と言わんばかりに主張しているらしい。いやいや、正統な土地の持ち主は協会で保護していますけどね。
「なんというか、マッドが居なくても迷宮教は迷宮教って感じだね……」
「だな。ただ、あいつ等はついにミスをした。ま、その事は現地にいる守口さんや兵部さんも良く分かっているだろうから、後は上手い事調理してくれるんじゃないかな」
「え? ミスなんてしたっけ?」
それはもう、とても大きなミスだ。
今まで迷宮教が強く、厄介で、これまで生き残って来た理由。それは、彼等の〝本拠地〟が誰にも分からなかったからだ。と言うか、恐らく本拠地なんて持っていなかったんだと思う……今までは。
だからこそ強かった。
特定の場所へと留まらない訳だからそりゃ強いよ。守る必要なんてなく常に攻めていればいい訳だし。その攻め方も上手く奇襲を仕掛けた後に直ぐ撤退し、常に隠れながら移動をし続ける。
捉える事の出来ない敵。
それがこれまでの彼等だった。だけど今は違う。何せ本拠地と言える場所を手に入れてしまったから。まぁ、それが彼等の祈願であったのかもしれないけど……このタイミングで自分達の武器を一つ捨てるかなぁって思ってしまう。
「守りを知らない人達が、これから守りも行わなければいけない……さて、一体どうするんだろうね」
「攻め方は知っていても、防衛ののうはうは無いって事かぁ」
彼等に出来るのは、これまで攻めてきた相手の真似と、自分達がどう攻めるという情報から逆算して導き出すモノを参考にするぐらい。
恐らく経験など皆無だろうから、穴だらけの防衛戦を行うと思われる。……ただ其れでも、数だけは多いみたいだから、人数である程度はフォローが出来るだろうけど。
「おそらくこれから、色々な陣営が襲撃を行うだろうね。で、それに対して数で防衛するだろうけど、あまり上手くいかないだろうからイライラを募らせていくと思うよ」
「慣れない戦い方だもんね。でも、そうなると拠点を放棄したりするんじゃない?」
「折角手に入れた念願の土地だからね。欲で中々手放せないんじゃないかなぁ。普通に考えたら土地を捨ててしまうのが正解なんだろうけどね。だから、手放すよりも攻められるぐらいなら攻めろ! って、襲ってきている人達の拠点を襲う方向に走るかもね」
ただそうなると、彼等の守りもまた一気に薄くなる訳だけど。
もしかして本拠地の奪い合いとか、まるで戦略ゲームみたいな状況を作り出したりしないよな? なんかありえそうで怖いんだけど。
「この場合って、協会の取る手はやっぱり漁夫の利が一番なのかな」
「かな。迷宮教がしびれを切らした後、一気に雪崩れ込むのがベストだとは思う」
こっちにはその土地を所有する権利があるんだぞ! と、声を高らかに上げる理由もあるしな。……まぁ、以前にも話をしたように、その土地を取ったところで飛び地になって管理も大変だから要らないけど。
ただそこは上手い事やる方法も無い訳では無い。
「神職も忍者も此方へと吸収してしまえば飛び地にはならないってのが一つ。もう一つは上手い事神職達と交渉して、伊勢側でその土地を管理させる方法」
「折角手に入れた土地をプレゼントしちゃうって事?」
「勿論その対価は貰うけどね。ただで土地を上げる訳が無い」
「そっか、でもその条件ってどうするの?」
それは上の人達が考える事だからなぁ。
とは言え、これらも結局は現実味が薄い話。だって人手が足らないしな。そんな最前線となる場所を手にする訳だから、その分防衛の為に人を送らないといけない。しかし、今その戦力は有るのかと言われたら微妙。
伊勢側も自分達の場所を守りつつ、ダンジョン攻略て精いっぱいだからな。土地を貰ったところで其方に人を割く事など出来ない。
結局、どの方法を選んだとしても、協会から人を出さないといけない訳だけど……現状でもぎりぎりな状況なのにどうしろってんだと言う話。
なので戦術的に考えたら、その土地は確保する事無く、どちらかと言えば緩衝地帯にしてしまうのが一番良いかなと思わなくもない。……まぁ、現状だと緩衝地帯と言うより、俺達側だけが参戦していない紛争地帯だけど。
「囮かぁ……」
「まぁそうかもな。目隠しとして扱うには現状ベストだからねぇ……その間に、此方の戦力を増やすのが最適解だろうね」
産めや増やせや……では無いけども、人を増やす必要がある。
そしてまた、人を増やす以外にも戦力を用意する方法もあるにはある。それは、防衛用にと村などに用意されているガーディアンシリーズなんだけど……このシリーズの設計図を現在改造しているらしい。
これまでは防衛用と言う事で、高火力や弾幕などをメインに考えて設計されていたガーディアンシリーズ。なので、ガーディアンの名に相応しい仕様であるのは間違いないんだけど、そのデメリットとして馬鹿みたいにエネルギーを食う。
大量の魔石に大量の電力を使うガーディアンは、一度起動したら拠点で使う電力が全部無くなってしまうレベルだった。なので、ガーディアン起動後は数時間ほど停電するのがデフォ。
とまぁ、こう見たらとてもでは無いけど簡単に使える代物でない。
「って事で、協会は研究所へ設計図から書き直してほしいと要望をだしたんだよな」
「省エネ化って事? でもそうすると、ガーディアンとしては使い物にならないんじゃない?」
「別にガーディアンとして使う訳じゃない。足りていない戦力を補う程度で良いと考えているって事」
人とガーディアンが一人ずつペアにでもなってくれれば、それだけで現状の人手は倍になる計算。……まぁ、ガーディアンを連れて戦う事が出来る探索者は限られてくるだろうから、全員がペアになんてのは無理だろうけど。
それでも、一人につき二体や三体を連れてなんて事が出来る人も出て来るはずだ。
「でもそれならモンスター達でも良くない?」
「そこは適材適所と言うのが有るからな。モンスターにはモンスターの得意な事が有るし、人には人にしか出来ないモノがある。で、ガーディアンはその形を自由に作る事が出来る」
なので、今一番足りていない〝人〟の部分である、〝命令を聞いて的確に行動する〟タイプを用意するにはベストと言う事なんだよね。てか、その点でいうなら人よりも優秀なんじゃないかな。
ただまぁ、よくあるロボットの反乱みたいな事が起きないようにも、しっかりとシステムを作り上げて人と常に行動するようにしなくてはいけないけどな。後、その〝人〟もしっかりと為人を見極める必要があるかな。
「ぶっちゃけ、美咲さんのラーナと似たような感じかなぁ。ただ、ラーナの場合は防具だから厳密には少し違うけど」
「あー……でもそうなると、相当な魔石が必要になるんじゃない?」
「だね。だから色々と大変って事だね」
質がそこそこ良い魔石でなんだけど、補助をしてくれるAIは既に出来ているからな。多分、ソフト面も意外と早く出来上がるんじゃないかなとは思う。
しかし、協会や研究所は何処へ向かっているのだろうか。ファンタジー? それともSF? どんな道になるとしても、俺が思うのは一つ。さっきも話題にだしたロボットの反逆だけは起こさせないようにしてくれって事だな。
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人手不足をロボットで解消しようとする。実に日本的ですよね(´ー`)




