八百十話
スライム達といえば、最近〝ロード〟に触発されたのか、探索者達の中にスライムをテイムして連れまわしている人が増えている。
そしてどういう訳か、そんな彼等はスライムバトルなるものを行っているらしい。ただし、バトルとは言っても直接戦わせるわけでは無い。
「スライムの色やツヤ、どれだけ伸びるか、一分間の間に震える数を競っているんだとか」
「……なにそれ?」
「意味が分かんないよな。でも、本人達は大真面目にやっているらしい」
後はどんな形に変形出来るのか? とか、どれだけ飛び跳ねる事が出来るのかとか、そんな事を計測して勝敗を決めているらしい。
平和的な戦いなのは良いけど……本当にどうしてそんな事をやろうって思考になったのかが分からない。
「一応だけど、アスレで楽しんでいるスライムと子供達を見て、そこから発想したって言っているみたいなんだけどね」
「それ、アスレ勝負でよくない?」
だよな。俺もそう思う。
アスレをヒントにしたのならアスレ勝負にしたら良い物を、どうしてそんな明後日の方向へと思考が飛んだのか。とは言え、スライムをテイムしている人達にはソレが受けたらしく、個人ではあるものの何やら楽しく争っている。
「プルで参戦したら?」
「いや、それは無いわ。プルが一番輝いている時は、双葉の頭上に居る時か子供達と遊んでいる時だから」
「それは分かるなぁ。プルちゃんはその時が一番楽しそうだもんね」
しかし人って、本当に良く分からんと言うか無駄な事に全力を入れるよな。ただ、それが心の余裕に繋がるんだけど。
とりあえず言える事は、周りを無理やり巻き込まないなら自由にやってくれ。
しかしこの話は、スライムだけにとどまらなかった。
美咲さんとスライムの話をした次の日。なにやら美咲さんが新しいネタを仕入れて来たらしい。
「ねえ結弥君。なんか、あのバトルが他のモンスターにも派生していたみたいだよ」
「え? どういう感じに派生したんだ」
「えっと、それがね。鳥型モンスターの鳴き声コンテストとか」
「……メジロかな? 確か〝鳴き合わせ〟ってのが平安ぐらいから行われていたって話だし」
「後、いつの間にかにドックランの広場が出来てて、そこでレースしてるとか」
「競馬ならぬ競犬かな? 賭け事とかやってそうだなぁ」
何やら他にも、もふもふコンテストとか、筋肉コンテストだとか、アクロバット飛行コンテストなんてモノもあるらしい。マジで色々増えてるじゃないか。
そして、このコンテスト。何が恐ろしいかって、公式のものなど無く全てが個人で行われていると言う事だそうで。
因みに、もふもふコンテストには養蜂家さんも参加しているらしい。ミツバチの胸に有るモフモフで勝負をしているのだとか。確かにあのモフっとしたの、マフラーっぽく見えなくもないけど。
とは言え、何故そんなにモンスターを競わせる事が流行っているんだ。
物理や魔法による殴り合いでないのは良いと言うのはスライムの時にも思った事だけど、それにしても一気に増えすぎだろうと思う。
俺と美咲さんは、爆発的に増えたコンテストについて頭を悩ませた。
だが、その答えはとても身近な場所に転がっていた。
俺達は悩みながら家へと帰宅して裏庭にモンスター達の様子を見に行くと、そこではゆいがコボルト達に〝美しいポーズ〟を叩き込んでいた。
「コボレンジャーのポーズは角度が命! そこ、手の角度が3度違う」
……三度って。それはもう、誤差のレベルじゃないか。それすらも許されないのか。製図とかじゃないんだから、それぐらい許してやれよ。そう思いながら、俺はゆいとコボルト達の特訓を眺めていた。
すると、ゆい達は俺達が帰宅した事に気が付いたのか、みんないい笑顔で「二人ともおかえり!」と声を掛けて来た。……ただし、ポージングをしたまま。
「お、おぅ。ただいま。して、ゆいちゃんや。これは一体何をしているんだ?」
「ただいま。なんでそんなに熱心なのかな?」
挨拶を交わしたので、俺と美咲さんは折角だからとこの状況について詳しく聞いてみる事にした。
「もうすぐコンテストがあるの。一番美しいポーズをとるのはどのモンスターか! っていうのなんだけどね」
「……またコンテストかぁ。なんかここ最近、沢山のモンスターコンテストやバトルが増えているなぁ」
「あー……それはね」
ゆいが、ここ数日の間モンスター達に起きている事について語り始めた。そして、この爆発的に派生した現状が人為的であると言う事と、その犯人についても俺達は知ってしまった。
うんまぁ……犯人は目の前にいるんだけどな。
「あはは、もっとこうモンスターについて色々知って貰って触れ合って貰おうと思って。スライムをテイムしている人達が面白そうな事をしてたから、これは頂き! って思っちゃったんだよね」
と、犯人は申しており。
どうやらこのバトルとコンテストは、テイマー達による布教活動の一種だったと言う事らしい。
ゆい達テイマーは、がんばってテイマー人口を増やそうとしているのだけど、現状テイマーに興味を持ってくれているのは子供達ぐらい。将来的にはテイマーが増える可能性が高いけど、現状の人手不足が解消する訳では無い。まぁ、子供達がテイマーになるとしても、それは十年以上先の事だしな。
そんな訳で、人手不足に悩んでいるテイマー達は色々と考えていたそうだ。そして、そんな折にスライム達を競わせる探索者を見てしまった。そして発想を得た。
後はもう愚直に一直線。少しでも認知度を広める為の第一弾として、バトルやコンテストをテイマー達が個々で主催するようになったらしい。
「でも、テイマーが不足している問題は別にあるだろう? 何せテイマーって現状だと最高難易度の試験を突破しないといけないし」
「そうなんだよね……興味を持ってもらう事は出来ると思うけど、このままだと試験で脱落しちゃうんだよね」
「ゆいちゃん。テストってもっと簡単に出来ないの?」
「それは厳しいかなぁ。テイマーの試験って、モンスターの命もだけど人の命にもかかわって来るから厳しくないとダメなの」
モンスターの育て方をミスれば、拠点内でモンスターテロを起こしてしまう可能性がある。故意かどうかなんて関係なしに。
だからこそ、テイマーの試験は現在ある資格試験の中で最高難易度なんだけど、はっきり言ってこれを突破出来るのは変人レベルの人達ぐらいだ。……別に妹の事を変人だと言うつもりは無いが。
まぁモンスターが好きすぎてどうしようもないって人達でもない限り、この試験を突破出来る者は居ないって事だな。
「村以外にも施設を作ろうって話が出てるのに、今のままだと施設の職員が足らなくて……子供達には英才教育を施しているんだけど」
「教育と言う名の洗脳である」
「お兄ちゃん!?」
「まぁまぁ、ゆいちゃん。そうだほら、探索者達みたいにモンスター別のとかは無理なの?」
「んー……その考えが無い訳でも無いかな。現実的に考えたらそれが手っ取り早いし」
とは言え、それに問題が無い訳では無い。
全モンスターの特性を脳内に叩き込むのがテイマー。そして、その知識を調べモンスターを扱う許可を与えるのが資格試験だ。
これが、種族別のモンスター取り扱い試験になった場合、それはモンスター用の施設にてそのモンスターしか扱えないと言う事になる。
例え人を増やしたとしても、扱えるモンスターの種類は限られてくるし、一人しか資格を持っていないモンスターは残念ながら施設で扱えない。何せ、その資格を持った人が病気になったりでもしたら、誰もモンスター達の面倒を見る事が出来ないから。
とはいえ、手っ取り早くテイマーの数を増やそうと思えば、モンスター全種を叩き込むのではなく個別で覚える方法が必要なのも正しい。
「昔あった危険物取扱みたいに、甲種とか丙種と分けるのが良いかもなぁ。甲種であれば全種類のモンスターを、乙種であれば数十種類のモンスターを。丙種だと一や二に分けて、一に分類するモンスターの特性を覚えたらオッケー見たいな感じで」
「危険物取扱かぁ……確かに、モンスターも危険であるのは間違いないからありかも?」
あ……てか、テイマーの人口が足らないってのは分かるけど、そもそも探索者の人口も足らないのに何で俺はテイマー側の協力をしているんだ。
くそ、妹可愛さマジックに嵌ってしまった……。人員というパイ取り合戦を協会とテイマーで行っているというのに。
しかし、テイマー側は此処まで考えているのか。それに比べて協会って人を勧誘するのに何か詳しくやっているのだろうか? いや、やってないよなぁ。
これはテイマー達を見習って色々考えるべきかもしれないな。
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続・人員確保合戦。
今度は子供達では無く、今動ける人達に焦点が当てられたようです。そしてまた、テイマー達に先手を取られてしまった協会側。慢心ですよねぇ(´ー`)




