八百九話
協会の受付にて。
普通に考えたら間違いなく二度見をしてしまう存在がそこには居た。いやいや、なんでアナタが居るんですか? と問いただしたくなる存在。
そう、〝ショゴス・ロード〟だ。
確かに鎧を着ているし、スライムも沢山引き連れているので探索者と言われればそう見えるだろう。しかし、俺はその中身を知っている。〝ロード〟は探索者などでは無い。だと言うのに……。
「なんで普通の探索者みたいな会話を受け付けとしているんだ……」
思わずそう口にしてしまうほど、〝ロード〟は協会へ馴染んでいた。
そしてまた、何やら協会と物のやり取りをしている様で……この場所からはよく見えないけど、あれは間違いなく何かを納品しているよなぁ。
そんな事を思いながら受付を見ていると、どうやら俺の視線に気が付いたスライム達がわらわらと俺の周囲に集まって来た。
「プリュン?」「プルル!」「ポヨポヨ」
体を震わせながら音を発し、何かを訴えて来るスライム達。
この感じは恐らくだけど、「プルは居ないの?」「プルどこ!」「あそぼう」と言っている感じだろうか。
「プルは今頃探索者達と遊んでいるんじゃないかなぁ……」
「ぷりゅーん!?」
あ、これは分かりやすい。と言うか、分かりやすく伝わる様にスライムの体を変化させている。まさに〝ガーン!〟と言った感じでショックを受けたと表現しているな。
何せ、自分の触手を利用して〝Σ〟を体の横に作ってるし。……ショックを受けている割には余裕があるなぁ。
とまぁ、そんな風にスライムと戯れていたら、どうやら〝ロード〟は受付との話が終わった様で、面白そうなものを見たと言わんばかりの雰囲気を醸し出しながら此方へとやってきた。
『スライム達の言っている事を理解出来るのだな』
「何となくですが。っと、お久しぶりです」
『うむ。幾日か前の散歩以来か? 元気そうで何よりだ』
何とも無いただの挨拶。……まぁ、相手を考えなければなんだけど。
この場に居る特定の人達を除いて誰も思うまい。今、俺の目の前にいる存在が癇癪を起せば、拠点の一つや二つ簡単に消せてしまうなんて。……そう考えると、自分自身がどうしてこうも平然と会話出来ているのか不思議にもなって来る。
ま、まさか。いつの間にかに俺はSAN値がゼロの状態で生活できるようになったのだろうか。……んな訳ないか。
「協会へは何をしに?」
『ん? あぁ、少し探索者の真似事をな。ほれ、こやつらに美味い物を食わせる為にも金は必要だろう?』
「あー……もしかして交流用にと渡されていた金額では足りませんでした?」
『いやいや、何もしておらんのにただで貰うのも気が引ける。ゆえに、こうして物を納めておるわけよ』
……一体何を納めているのだろう。相手は〝ロード〟だからなぁ。とんでもない代物を納品しているのでは? なんて思ってしまう。
『安心せい。下手に相場を破壊するような真似はしておらぬ。あのダンジョンは封鎖されておると聞いてな、ならばダンジョン入り口で獲れる、あのニョロニョロした奴でも納めれば良い金額になるだろうとな。実際に、結構いい金額になったぞ』
あぁ! あの〝ウツボモドキ〟なモンスターか。
確かに湖のダンジョンは封鎖されている為に潜る事は禁止されている。とはいえ〝ロード〟にとってあのダンジョンはホームみたいなモノだ。なので誰も「禁止されているから帰るな」などとは言えない。……いやまぁ、相手の存在が神話生物ってだけで反対は難しいのだけど。
自分の家にある物を持ってくるだけだからな。何にも問題は無いと言う事だ。そもそも、協会には〝ロード〟の事を知っている人がそこそこ居る。
『最初は鉱石を納めようとしたのだが、それはちょっと待ってくれとストップがかかった』
ブッ! 鉱石って……それはアレですよね。えぇ、どう考えても採掘が大変なファンタジー鉱石系ですよね。
てか、協会もよく〝ロード〟を止めたなぁ。はっきり言ってファンタジー鉱石は喉から手が出るほど欲しいだろうに……これはアレか? 払う金額的な理由でアウトだったのか、それともこの神話生物相手にその取引は不味いと思ったのだろうか。
まぁ、〝ロード〟から受け取ってしまうと、さらなる欲に飲み込まれていく可能性もあるだろうからなぁ。だって神話生物ってファンタジー鉱石を自分の家に作っちゃうし。〝化身〟も社の中に作っていたからな。
『うむ。色々な理由からダメだと言われたな。それならばとニョロニョロを持って来たと言う訳だ』
「なるほど。確かに鉱石関連はちょっと厳しいですね。それにしてもウツボモドキをチョイスしたのはナイスでしたね。あれって以前俺達が納品したんですけど、結構美味しいと評判になりまして……次の入荷は何時だー! って騒いでいた人も居るんですよ」
『ほう! なるほど、だから高値になったのか』
あー……うん。高値になった理由は相手が〝ロード〟だからと言う事で、一種の賄賂? 防衛費? 忖度? そんな考えが渦巻いていてもおかしくはない。
実際、ロードが居るってだけでモンスターの襲撃は減っていると言うのは以前言ったと思う。それに、〝ロード〟に村を楽しんでもらう事で〝ロード〟が防衛力ともなりえる訳だから。ぶっちゃけ、色を付けるぐらいなら安い物なんだよな。
『よし! では、今日はそのニョロニョロを頂いてみるとしよう』
「ぷる!」
『うむ。お主らの分も頼むから落ち着くが良い』
「ぷりゅ」
〝ロード〟に落ち着けといわれ、スライム達はロードの前で整列した後ピタリと静止した。……これはまた、よく訓練されているなぁ。
『して、何がお勧めだ?』
「そうですね。刺身も良いのですけど、タタキや唐揚げとかも良いですね。あ、あと蒲焼なんかもウナギとは違った触感や味わいがあって……」
『お、おぅ……色々とお勧めがあるのだな』
そりゃ勿論。これが一番! なんてお勧めは有りません。どれもこれも美味しい物なので。
『ふむ、一番が無い……か』
「えぇ、そんなのを決めるのは実におこがましい話ですね。どれも、素晴らしい食材に料理人さん達が手間暇をかけて作っていますから。食事が出来ると言うだけで感謝です」
『ふむふむ。人間とは不思議な考えをする。我等などただ其処に有るから取り込む。それだけだったからな』
「ぷるぷる」「ぷりゅーん」「ぷぷ?」
何やらスライム達が〝ロード〟の言葉を肯定するように震えている。
若干一体ほど、そうなの? と聞いている様だけど、あの子は他スライム達と感性が違うのかな。
『あやつはここに来てから生まれた個体だからな。どうやら少し他の子達と感覚が違うらしい』
「人間社会に適応しやすい個体? うーん、生まれる場所で質が変わるってのはちょっと面白いですね」
『だな。あやつは他のスライムよりも人に懐く』
……あの、以前子供達と遊びまわったスライム達が居る訳で、それ以上に懐くと言う事なのでしょうか。
『あれは相手が子供ゆえだ。無垢な存在相手だからこそ、何の隔たりも無く共に遊んでいたと言う訳だな。基本は、私が認めた相手以外には全く近づこうともせぬよ』
保護者同伴でないとダメな子供かな? 人見知りが激しいと、直ぐに保護者の背後に隠れてしまうし。……鎧の背後に隠れるスライム。なんだか想像しただけでほっこりとするなぁ。
「と言う事は、あの子は他のスライムとは違って〝ロード〟の認めが有る無し関係なく、人と普通に接する個体って事で良いんですかね」
『そうなるな。この間など、自分で物を購入しに行っていたぞ』
それはそれは。実に社交性のあるスライムだ。
何はともあれ、〝ロード〟達が村へと馴染んでいるようで何よりだよ。
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