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八百七話

 意気消沈。


 俺の目の前にいる子達の状況を説明するなら、これほど適切な言葉は無いと思う。

 そして、数名の人達が彼等に声を掛けてからとある場所へと連れて行っている。まぁ、そこにはカウンセラーが漸く到着しているみたいなんだけどな。


「流石にやり過ぎたような気もする」

「だが良い訓練になったと思うぞ? 勿論俺達もな!」


 ガハハと笑うおっさんは、その姿がかなりボロボロになっている。と言うのも、イオ達との鬼ごっこの後にももう一つ訓練と言う名の遊びを行った。

 内容は単純で、攻撃陣と防衛陣に分かれての攻城戦もどき。防衛側に設置されているフラッグを取るか取れないかで勝ち負けが決まると言う簡単なもの。


「ただ、その訓練って俺や美咲さんの負担が相当だったんですけど? てか、俺は他の仕事をしているって言ったじゃないですか。なんで参戦させられているんですかねぇ」

「協会様から直々のオーダーが入ったから当然だろう? まぁ、万が一があったら俺らにも連絡が入ったからその場でゲームストップは出来たしな」


 このおっさん、もはや訓練ではなくゲームと言い切ってしまったな。

 ただ、確かに俺達からしてみれば遊びでしかなかった。何故かと言うと、魔力や魔法に武器の使用を全て禁じていたからだ。

 そしてその状態で、俺と美咲さんは二戦していたりする。なんで二戦かといったら、訓練者君達と一戦し、その後おっさんたちを相手に一戦。勝敗は白星一に黒星一と言った感じ。うん、おっさんたちによる数の暴力には何も無しだと勝てなかったんだよな。


「ま、フラッグ争奪が勝ち条件だったから勝てた話だけどな。もしこれが、お前たち二人を倒せだったら勝てなかった……協会もよく考えているよな。俺達が勝てるルールを提示してくるんだから」

「彼等に個の強さを体感させつつ、集団による作戦勝ちの方法も見せるって事ですからねぇ」


 本当、良い様に動かされたと思う。

 そして今頃、そんな協会の策略に嵌った彼等は協会による手厚いカウンセリングによって、せんの……げふんげふん、心身をしっかりと癒しているはずだ。


「しっかし、お前たちの強さも前の時に比べるとなぁ……どうしたらそこまで天井知らずなんだ?」

「これでも弱くなったんですよ? 以前の最高火力は、ウォルとの精霊憑依による出力だったんですけど、それを繰り返すと人として不味いみたいな領域に入りかけていたそうで」

「はぁ……強さってのも考える必要があるって事か」

「ですね。なので、個の強さを求めるよりは集団での戦闘とか、強い装備を使いこなせるかなどを突き詰めた方が良いですよ」

「ま、元々そっちの方が得意っちゃー得意だからなぁ」


 民族性と言う奴だろうか。

 一人の勇者よりも、百人の勇士。例え化物が相手でも皆で殴れば怖くない。そんな人達の多い事。

 ゲームとかで一人が無双したり勇者を特別視しているのに、現実の人達は全く違うと言う中々に面白い話。実際に自分がやるとなると、より現実を見るようになるって事なのかもな。

 一人でやれることなんて限界があるものだからな。生き残りを重視するなら群れる方が良いと言うのは、どんな生物でもやっている事だから当たり前なんだよな。

 よくイキっているキャラが「雑魚が群れやがって」みたいな事を言っているけど、群れイコール弱いと言う訳では無く効率的だと言う事なんだよな。強くても群れる動物は一杯いるし。


「それにしても、なんでイオちゃん達を参戦させなかったんだ?」

「それは鬼ごっこでイオ達の力は嫌って程目にしたでしょうからね。イオ達を参戦させると、必ず「強いモンスターが居たからだ」って口にするでしょうから」

「あぁ、逃げ道が出来るって事か。それはそうと、そろそろもう一勝負やらないか?」

「お断りします。と言うか、俺には任務があるんで……あーイオなら相手をしてくれるかもしれませんよ」

「確かに! ちょっと行ってくる」


 ……なんだろうなぁ。この大きい子供としか言いようがないおっさんは。あ、いやどうやらお姉さん方も同じ人種の様だ。

 おっさんが突っ込んでいったと思うと、私も私もと男女問わずイオ達の元へと向かって行っている。


 ……元気だよなぁ。本当に。

 子供と言うよりもバトルマニアとでも言った方が良いのだろうか。もしくは戦闘狂。向上心があると言えば聞こえはいいけど、その際限が無さすぎなんだよ。

 てか、そうじゃなければイオとの訓練に全て参加するなんて事はしないか。普通に考えて、あの肉球パンチでプニっとされるとか、探索者としてのプライドがズタボロになる行為だろうし。


「数人それが良いって言っているみたいだよ?」

「美咲さんお帰り。っと、確かにあそこのお姉さま方は自ら肉球に飛び込んで行っているよな」

「訓練だから肉球で済んでいるんだけどねぇ。これ、ガチの戦闘だったら鋭い爪で切り裂かれちゃうのに」


 肉球でのパンチもそれなりの衝撃は有るんだけどな。

 違う意味で強者すぎるんだよ。こう、柔らかさからくる衝撃がたまらないのだとか。うん、ドMさんなのかな。


「で、風ちゃんから送られてくる映像はどんな感じ?」

「今のところは問題無いかな。ってか、問題があったらこんな風にまったりとはしていないよ。ただ、そろそろ水野さん達も次の目的地に到着しそう」

「次ってなると豊橋?」

「そう。だから到着したら、まずそこに新しい簡易拠点を作る事になるだろうね」


 そうなると、俺の仕事も少しだけ忙しくなる。物資を移動させるお仕事がはじまるからな。


「って事で、協会には既に物資を用意する準備をお願いしているから、美咲さんも協力よろ」

「オッケー……って、皆は放置で良いのかな?」

「良いんじゃね? なんかとっても楽しそうだし」


 再び始まったモンスターズと探索者達の特訓。

 どういう訳か、今回はプルも参戦していたりする。あれ? 何時の間に双葉の頭上に移動していたんだ。


「あれじゃない? 仲魔外れはいやだってやつ」

「あぁ、ただプルが居ると一気に手数が増えるからなぁ……それで禁止していたんだけど」


 それでプルがしょんぼりとしていたとしたら、プルに対して申し訳ない事をしたなと思う。


「いつもは皆で一緒になって子供達と遊んでいるから」

「それもあったか」


 今彼等の戦闘は、プルが参入したと言う事で想像していた通りの状況になっていたりする。


「うぉ! 触手と蔦でのラッシュがきつい!!」

「やぁん! こっちの攻撃が全く当たらないんですけどぉ!!」


 とまぁ、攻撃を双葉とプルで行う事で、イオは移動だけに集中できる。しかも、イオ達に命中しそうな攻撃もプルの触手や双葉の蔦が上手い事盾になっていて、生半可な攻撃では全く通じない。


「回避力9割以上な上に、鉄壁持ちの相手とかどうしたら良いんだって話だよなぁ」

「同数以上の手数で攻めるか、もしくは範囲攻撃しかないよね」


 それぐらいしか無いよなぁ。

 イオの進路を制限しようにも、イオは空中を駆ける事が出来る様になっているからな。だから、進路妨害は殆ど意味が無い。

 空中用の機雷が有ればって話も、蔦や触手で粉砕されるだろうしなぁ。なので、搦め手は普通にやっていたのでは全く効果が無い。


「それでも搦め手を通そうと思ったら、イオを何とか地面へ叩き落してから、泥沼に影魔法を使って泥の中へ引きずり込んで行く感じなんだけど」

「それが出来るのって、精霊魔法が使える人達ぐらいだよ……」


 ただ、イオだけなら良いけど、双葉やプルが居るとそれすらも無効化されかねないんだよなぁ。だって泥なんてプルが取り込むか、植物の養分にしてしまえば良いとか言い出す子達だし。

 本当に、全員が揃うと凶悪なまでに強くなるんだよなぁ。正直、ウォルとの精霊憑依が無ければ勝てるビジョンが思い浮かばない。

ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!!



と言う事で、ラストはドナドナされて言った訓練者さん達。

今頃、手厚い看護と食事に涙して居るでしょう。えぇ、どんな涙かは分かりませんが。

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新しい話をアップしていきますよヾ(*´∀`*)ノ:孤島で錬金術師~修学旅行中に孤島に飛ばされたから、錬金術師になって生活環境を整えていく~
― 新着の感想 ―
[一言] 本気で搦め手ありなら香辛料ボムによる三次元制圧射撃か、機関銃による制圧射撃、或いは双方を組み合わせてそれを囮にスナイパーライフルによる狙撃かなあ
[一言] 死角無しなトリオに通用しそうな搦め手かぁ 双葉とイオの視線誘導した上で不意打ちのフラッシュバンなら初見なら通用しそう あとはイオの高い聴覚を逆手にとっての強烈な炸裂音とか 他にも縦横無尽な機…
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