八百五話
以前に勇者君(笑)が出張った時があったけど、それと似た様で全く違う問題。
勇者君は曲りなりとも、多少以上の実力はあったんだ。ただ、その実力が増長してしまったと、よくある俺TUEEEEEタイプ。
今回の子達は、若いが故に知らない情報も多く、そう言った武器があるなら俺にでも出来るんじゃね? と勘違いしてしまったタイプ。
確かにどちらも勘違いを犯しているのだが、問題は彼等の根本となるモノ。
ともあれ、数日前に探索者の新人教育やばくない? と気が付いてから数日。以前現れた勇者君との違いを、俺は美咲さんと話している。
「勇者君は徹底的に叩きのめせば良かったし、実際に徹底的に上位の人がどつきまわって、ゴブリン肉による食事制限で随分と変化したけど……今回の子達だと「自分達はまだ訓練段階だし」って言える逃げ道があるからなぁ」
「保険がある環境って事だよね。あれかな? 少年法が有るからって強気に出ちゃう子みたいな感じ」
試練のダンジョンをクリアするまでは、探索者としては見習い段階という風潮がある。実際に協会によって公言されている訳じゃないけど、協会のシステム的に考えて皆そう感じているからだ。
試練のダンジョンを攻略した後でないと、上位のダンジョンやリッチのダンジョンには行けない。銃などが買えるとは言え、金額の問題もあってその上の武器である〝ショットガン〟やら〝ライフル〟は買えない。当然だけど、それらが買えないと言う事は〝アンチモンスターライフル〟も〝マルチロックランチャー〟も購入不可能。そしてまた、AI搭載型の鎧もだ。
とまぁ、ここら辺は彼等と遭遇した後に美咲さんと話した〝装備の違いで分かるだろう〟に繋がるんだけど。
「勘違いしてるよなぁ。これらの武器って威力が高いから扱えないんだけど、自分達が使えばもっとうまくできる! って」
「一回使わせてみたら?」
「〝アンチモンスターライフル〟なんて使わせたら、良くて後方へと飛ばされる。最悪の場合は腕が肩から無くなるだろうな」
「だよね……って事で、協会から依頼。「彼等の調教にイオちゃん達を貸して欲しい」だって」
「あぁ、とりあえずイオ達との鬼ごっこやかくれんぼを再開して様子を見るって事か」
一応ダンジョンの歩き方講習とかもやっているから、こっそりと隠れて行動するなどの内容は叩き込まれているはずなんだけど、どうやら彼等って正面から馬鹿みたいに攻めるをやっている。
なので、一気に意識を変える為にとイオ達を招集するみたい。さて、何やら面白い事になりそうだけど……一体どういう結果になるんだろうな。
――双葉ちゃん――
ひゃっはー! 今、双葉はイオちゃんの背に乗り探索者を追いかけまわしているの!!
「イオちゃんゴーゴー! 逃げる奴はよく訓練された探索者なの! 逃げない奴はただの馬鹿なの!! 徹底的に叩き潰すの!」
「ミャォォォォン!!」
久しぶりに探索者達相手の追いかけっこだから、イオちゃんも気合が入っているの! それはもう、前にやった時よりも少しハイペースで脱落者を出すぐらいに。
ここ最近はずーっと子供が相手だったの。そっちはそっちでとっても可愛くて、不満も無く楽しかったの。……でもやっぱり、イオちゃんは狩るモノなの。強い相手が全力で逃げまわる。それを追いかけるのが、イオちゃんにとっては一番の娯楽。
「そして双葉は、そんなイオちゃんの背に乗って逃げる子達に鞭を打つの!」
ぺシーン! と鞭で逃げ回る子をタッチしていく。
子供達とやる時は、ソフトに撫でてあげる感じなのだけど、相手が探索者だから遠慮はいらないの。それはもう、ベッチンベッチンと叩いて、ぐるりと蔦を巻き付けてはつるし上げて行くの。
「へいへいへい! 双葉ちゃんもイオちゃんも、そんな雑魚ばかり追いかけていても面白くないだろう? ほら、こっちへ来いよ!!」
「む! 中々良い挑発なの。受けて立つの!!」
「ミャゥ!!」
以前に協会主催の鬼ごっことかで、よく見た顔が双葉達を挑発して来たの。
うん、あの人は中々強い人なの。だって、一度とは言え双葉達の攻勢から時間一杯逃げ回った探索者さん。
その時は確かに周囲にもっと人がいて、彼はそんな人達を盾にしたりと逃げに徹していたはず。だからと言って、それが卑怯とは言わない。だって訓練なの。だから、盾にされる方が悪いの。
「でも、今回はあの時とは違うの!」
「へっへっへ……それは俺も同じだぜ! あの時のままだと思うなよ!! それ〝ストーンウォール〟」
石の壁を作る魔法で道を制限してきたの! でもイオちゃんには関係なんて無い。さぁ、イオちゃん上を行くの!!
「ミャゥン!!」
ピョンと跳躍したイオちゃん。その跳躍は石の壁を軽く飛び越える事が出来るものなの。
「な!?」
「へっへっへ……甘い甘い! イオちゃんも双葉ちゃんもチョコレートより甘いぞ!!」
なんて事なの。石の壁に屋根が出来ているの!! これでは、あの探索者さんを上から捕捉する事が出来ないの。ぐぬぬ……よく考えているの。
「こうなったら、イオちゃん突っ込むの! 石の壁ごと粉砕して行くの! 鞭打ちの威力MAXなの!!」
「ミャォォォォン!!」
「わかったの! 前方のマナシールドも展開なの!!」
此処まで挑発されたのなら、絶対に捕まえなくてはいけないの! ますたーのモンスターズとして、意地をみせてやるの!!
――メイン――
「なんだこれ……」
「双葉ちゃんとイオちゃんが燃えてるね」
「だなぁ。あぁ、今回はプルを参戦させなくて良かった。三体揃っていたら、探索者達は絶望しかなかったからなぁ」
「……今でも十分絶望するだけの状況だと思うけど。ねープルちゃん」
「ぷるぅ……」
美咲さんとプルがやれやれと言った態度をみせる。うんまぁ、確かに絶望しかないよなぁ。どう見たって惨劇としか言いようがない状況だし。
もしこれが実践ならば……と、どれだけの人が考えるだろう。今この場でそれに至る事が出来る人は、探索者として優秀な部類。成長もどんどんして行くだろうな。
でも、これはイオと双葉が強いからと誤魔化すような人であれば……正直、向いていない。
あくまでこれは、遊びと言う名の摸擬戦だ。幾らでも失敗して良い状況なんだ。寧ろ、どんどんと新しい事を試して失敗していくべき環境。
そして、そのお手本と言わんばかりに、イオ達の鬼ごっこにおいて皆勤賞の探索者があれやこれやと魅せプレイをしている。しているのだけど……。
「いや、だからと言って戦意喪失している探索者見習いの子を、イオ達に向かって投げるのはどうなんだろう」
「戦術と言えば戦術だけどね……あの投げ飛ばされたのが仲間じゃなくて、落ちている石とか木だったり、敵対するモンスターだったりするなら大正解だし」
「ぷるる!」
「あぁプルは投げないから大丈夫だよ。とまぁ、そこまで思考を働かせる事が出来るかな? 投げられた側からしてみれば、何で味方を! としか思わないだろうし」
とは言え、実力差は嫌って程身に染みているだろうな。
皆勤賞の彼は、今もまだ元気に走り回りながらイオから逃げているし。逆に今回初参加の人達は、イオ達から片手間なタッチで脱落して行っているし。
「これ、逆に再起出来るか心配になるなぁ……カウンセラーを要請した方が良いんじゃないか?」
「あ、確かにそうかも。ちょっと運営に要望出しておこうか」
因みに、イオ達はまだ全力を出してはいない。ただ、はっちゃけてはいるけども。……てか、あのおっさんも随分とノリノリだよな。
「ハーハッハッハッハ! どうだい! 強くなった俺様の姿は!」
「ぐぬぬ、枷さえなければ……でも、絶対に捕まえてみせるの!!」
「良いねぇ良いねぇ! 最高だねぇ!! いやぁ、この時間を俺は首を長くして待っていたんだよ!! 楽しいじゃねーか!!」
「確かに楽しいの!!」
「みゃぉん!!」
……あぁもう。今回のは色々とお試しって言うのも有ったんだけどな。なんかもう、この人達専用の会場というかパーティーになっているような気がする。
「って、見学をしていた他の探索者さん達がうずうずしてるよ?」
「あー……全員の顔が見た事のある人達だなぁ。皆イオ達との鬼ごっこを楽しみにしていたのか」
いい訓練になる! と言った感じで、ドハマりしてしまったんだろうな。
確かに、鬼ごっこがイオだけの時から、皆さん必死になりつつも楽しそうにしていたし。
おかしいよなぁ。今日の主役は全く別の人達なのに、なんだか次々と人が入れ替わっているよ。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!!
と言う事で、意識改革第一弾はイオちゃん達との鬼ごっこでした。まぁ、ある意味お決まりなのですが……何やら横やりが入った模様です。




