八百四話
自分達の事を再認識したとはいえ、現状やる事に変化はない。もし決断が迫られる時が有ったとしても、それはもう少し先の話になるからだ。
なので今は、何時もの様に後方支援としての仕事を淡々とこなす。
まずは現地の人から送られてくる映像を使ってゲートを開く。そして、支援物資を送りながら風にもゲートを潜らせ出撃してもらう。
風から送られてくる映像をチェックしながら、水野さん達の行動を支援。そもそも、簡単な相手なら風と彼の契約精霊である雪ウサギが居ればどうとでもなる。なので今は、偶に美咲さんが風に指示をする程度。ただ、ちょっと面倒な相手……例えば、空の海から堅殻イカとかが現れた場合はゲートを開いて火力支援を行うと言った感じ。
ただまぁ、実際にはそんな事など滅多には無いので、風から送られてくる航空映像をまったりしながら見ているのが現実だったりする。
「現地で神経をすり減らしながら警戒しつつ先へと進んでいる水野さん達には悪いけどなぁ」
「だね。こっちはゲートを開いている間以外は座っているだけで良いしね」
少しだけ申し訳なく思いつつも、これは仕方が無い話なのでその申し訳なさは心の棚の上に置いておくことにする。
申し訳なく思うなら、飛行部隊だけで行かせれば良いじゃないか。なんていう人も居るかもしれないが、それはちょっと違う。
飛行部隊で良いのなら、最初から水野さん達もペガサスに騎乗し空からの探索を行っている。でも、水野さん達は地上を行っている。
これは何故か。
そんなのは、地上からしか確認出来ないモノが有るからだ。勿論、道を作る為という理由もあるがそれは二の次。木々の隙間やら地面の詳しい状況などなど、直接地上を行かねば分からない事は沢山ある。
とまぁ、以前にもこんな話を誰かとした気もしなくも無いが、偶に居るんだよなぁ……「座っているだけの仕事ですか? 現場の人は自分の足で頑張っているというのに」と聞いてくるお馬鹿なやつが。
地上を行くのも、上空から見るのもどちらも必要な事なんだよ! って話なんだよなぁ。
ただ、こんな事を言ってくる奴等と言うのは、彼等が功を焦っているのか成長が望んだ様にいっていないから。その気分からついつい嫌味を口にしてしまっているのは……まぁ、彼等の表情や状況を見れば良く分かる話だったりする。
いやいや、そんなんで俺達にそんな事を言われてもって話なんだけどね。
そんな彼等は、俺達だけでなく不特定多数。そう、誰に対しても噛みついている訳で、他の人達からは「チワワが吠えてる」だとか「小型犬だよなぁ」なんて言われているんだけど。
「全く気が付いてないよな」
「一周回って可愛いなんて言っている人も居るよね」
探索者達の中には、何時彼等が懐くのか? という賭けを行っている人達も居るらしい。
本当に、彼等は自分達が娯楽の対象になっていると気が付いたらどういう行動にでるのやら。更に噛みつく? それとも恥ずかしさから卒倒してしまう? どんな反応になるにしても、自分達の行動で出来た状況だから甘んじて受け入れて欲しいモノだ。
「でもなんで行き詰っているんだろうね? 昔よりは装備も魔法も充実しているから、試練のダンジョンの攻略は楽になったと思うんだけど」
「うーん……もしかしたら、その楽になった分だけPSが育ってないとか。前は銃なんて無かったし、魔法も特定の人にしか本が回ってこなかったからな。そもそも、魔本は自分で掘れって言うのが基本だった訳だし」
「あー……恵まれたぶんだけ育たないのかぁ」
「もしかしたら、最初のうちは銃も魔法も無しで挑ませた方が良いのかもなぁ」
俺達は、実際に状況を見ていないのだけど、何となく彼等の戦い方が予想出来てしまう。
恐らくだけど、彼等は魔法も銃も接敵前からぶっ放しているのだと思われる。確かにそれなら、瞬間火力だけ考えればかなり高い。なので、それなりの相手でも一気に殲滅出来てしまうだろう。
だけど、ダンジョンを潜って行けば話は別で、例えば鱗が特殊な奴とか数で攻めて来る場所とか、そんな場所では使い物にならない。
恐らくだけど、魔力が切れたり銃のリロード中に反撃を食らってしまい、撤退しているんだろう。そんなイメージが簡単に出来てしまうな。
「接近戦の訓練もやっては居るだろうけど、実践での感覚は実践でしか養えないしな」
「ガンブレードとかガンカタとか?」
「それ、かなり特殊な戦い方じゃね? 普通に、槍とか斧とかをまずは使うべきだろ……」
後は蹴り技もか。銃を使うならある程度必須な技術だしな。蹴りを入れて相手との距離とり、そこへ銃弾を撃ち込むとか。リロードしつつ蹴りも中々使えるモノがある。まぁ、俺の場合は銃をチェンジしているけどな。リロードはホルスターが勝手にやってくれるし。
「その自動装填ホルスターはずるいよね」
「とは言え、現状はお高いからな。銃は二丁必要になるしな。だから、試練のダンジョンに潜っている人達だと手が出せない」
「それ、そんなに高いんだ……」
「試作品から漸く正規品になった状況だしなぁ。現状だと守口さん達が先に手にしているしな」
「実弾系の銃は元自衛官の人が大好きだもんね」
魔法銃もあるけど、そっちはそっちで馬鹿みたいに高い。それこそ、実弾銃二丁とホルスターを用意する値段と同じか少し上ぐらい。
だから、魔法銃なんて試練のダンジョンを攻略中の人には、それはもう宝具みたいなモノだ。
「てか、そう言った差があるってわかっているのに、どうしてあんなにも噛みつくんだろうな? 装備の差をみたら絶対に敵わない相手だってわかるだろうに……」
「周りが見えていないんじゃないかなぁ」
どれだけ切羽詰まっているんだよ。とは言え、これは協会側の探索者育成計画に問題があるのではないだろうか。
「崩壊前に探索者をした事が無い世代が探索者になっている状況だからなぁ」
「小学校な年齢の子達だったら、モンスターとの関わり方を色々教えていたんだけどね……当時が中高生だった子は、そう言った意味では放置状態だったし」
そうなんだよなぁ。ただ、高校生だった子は崩壊前にあった、あの悲惨な事件を知っている。なんなら、直接それに関わっている人もいたりする。なので、当時の高校生世代はそこまで問題なんて無い。
「中学生だった子達だよなぁ……」
「あの事件も他人事だった人が多いしね。テレビで見た程度なんだと思う」
「小学校高学年の子だった人も同じじゃないかな? 崩壊後の後は地下暮らしをしていた訳だし」
恐らく、しっかりとモンスターに対して教育を受けたのは、崩壊前に低学年や幼稚園児だった子達。
なのでかなり認識の差が出来ていたりする訳で……協会も頑張って初心者訓練を行ってはいるみたいだけど、まさか手厚い環境がマイナスに響いている可能性があるなんてなぁ。
「とりあえず、銃火器は禁止した方が絶対良いと思う。基礎的な動きと感覚を手に入れる事に重点を置くべきだろうなぁ」
「案外、次の世代の方が簡単に試練のダンジョンを攻略しちゃったりして」
あー……あり得る。次の世代と言えば、ゆりやゆいに面倒を見て貰った、もしくは一緒に頑張った世代が顔を出す。俺や美咲さんも、時間があったら彼等の様子を見に行ったし、イオ達と鬼ごっことかをして遊んでいた子達なんだよなぁ。
「……時間の流れを感じるなぁ」
「そりゃ、ゆいちゃんがテイマーになって、モンスターと共存するお仕事を頑張っているんだよ。私がゆいちゃんに出会った時って、たしか十歳だったよね」
うわぁ……そう考えると本当に時間が経っている。……うん、そりゃ、周りも結婚だのなんだのと騒ぐ訳か。当時はまだ十六だったんだけどなぁ。
「人口も減ってるしな……まぁ、全体的に見ればシェルター暮らしの頃よりは増えているんだろうけど」
子供と言えば、黒木さんのお子さんも学校でリーダー格になっているのだとか。……まぁ、俺はあまり関わっていなかったと言うか関わる時間が無かったけど、ゆりやゆい達と色々やっていたそうだからな。そりゃ、ある意味かなりの成長をしているんだろうなぁ。
そもそも、黒木さんのお子さんだしな。とんでもない教育を受けている可能性もあるか。こう「素手で熊を倒せてこそ村の一員だ!」なんて。
「とりあえず、協会の酒場で馬鹿をやっている訳だから、協会側も現状は把握していると思うけど」
「一体どうするんだろうね?」
「案外待機組に、「彼等をコテンパンにしてください」って依頼が入ったりして」
まぁ、その場合はイオやら双葉を投入し、徹底的に鬼ごっことかくれんぼをやらせたら良さそうだけど。てか今はやって無いのかな? 以前はよくやっていたと思うんだけどな。
もしかして、イオや双葉が子供の相手を良くしているから、協会側が配慮というか遠慮しているのかもな。子供の笑顔を曇らせる事って出来ないしな。
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続・世代間の問題。
今回は身近な世代ではありますが……割とありますよね。一年上とか二年下とか、全く異世界の人間じゃね? って思うぐらい感覚がずれているなんて事。本当不思議なんですけど実際にあるお話。
あれは一体何なんでしょうね? 異世界人・宇宙人と話していると本当に思えてしまう。よくネタで「最近の若いもんは!!」なんて老人が言うって話がありますが、それって老人とか関係ないんですよねぇ。
とは言え、話が合う人も居る訳ですからやっぱり同じ人間なのですけどね。そしてまた、自分もきっと同じように見られていたりするのでしょう。お互い様という奴ですね。




