八百三話
自分達の事を客観視する為にも、俺達は身近な人間に色々と話を聞く事にした。家族に聞くのは勿論の事だがお隣の黒木さんや研究所の人達と、話が出来そうな人達には一通り聞いて回ったつもりだ。
ただし、他の探索者に聞いたところで俺と同じ状況になっている可能性が高い。なので、こちらは協会に意識調査を任せると言う事で、個人的にはスルー。
そして、ある意味だと一番微妙と言えるのが、異世界帰りのソラ達だろうか。
ソラ達の場合は異世界の人達を見てきているし、俺達よりも様々な条件下で戦闘をして来た経験がある。なので、俺達よりも〝脳筋思考〟になっている可能性は否めない。
とは言え、どちらの世界の事も知っていると言う強みが有るからな。きっと聞いてみて損はないはずだ。
「で、ソラへ話を聞きに来てみたは良いけど……最近何か忙しそうだよな」
「そうだね。僕の方は仕事でもプライベートでも何だか慌ただしい事になっちゃっているから。で、聞きたい事って?」
「プライベートってサキとの事だよね? 周りの人は落ち着いていないって事かな。聞きたい事って言うのは、私達って脳筋になって来てない? って事なんだけど」
「美咲の言う通りかな『もうみんな暴走しすぎなのよ! 私達の事を考えてくれているのは分かるけど、どうしたら成大なお祭りに出来るか! なんて、毎日帰還者会議だ! とか言って騒いでいるのよ』」
「脳筋か……少し考えてみるよ」
なるほど。これはプライベートで休まる暇も無いって事か。
とは言え、恐らくクラスメイトだった人達が騒がなくても、結婚式と言うだけで皆騒ぎだすだろうからなぁ……何せソラとサキさんは、俺達と一緒に魔王と戦った者として協会上層部では有名だ。
そうである以上、俺の妹で崩壊後初の結婚式だからと大いに賑わったゆい達の時と同等、もしくはそれ以上のお祭りを企む悪い大人が出てきてもおかしくはない。
「ある程度は諦めるしかないだろうなぁ」
「何を他人事みたいな……ユウだってあり得る未来なんだけど?」
「そう言う話になる前に、やるべき事が多いからなぁ……せめてワイバーンとその付近に有る島についてと、宗教戦争の話がもう少し落ち着かないと」
「へぇ……そう言うって事は、予定はあるんだ?」
「んー残念ながら、今のところは考えてすらいないかなぁ」
なんて事を俺と美咲さんはソラ達に話ながらも、こういう話が出来て居る時点でかなり状況が改善されているというか、進んでいるんだろうな。
「と、その事は良いとして、仕事の方はどんな感じなんだ? 確か研究所で色々とやってたよな」
「符術についての講義と、その符術を使った空間魔法の研究かな。講義については皆優秀だからサクサク進むんだけど研究の方がね……」
中々進まないよ。と続けるソラだが、そこに悲観した雰囲気は無い。むしろ、どうやって研究を進めようか? なんて思考していて、表情も実に楽しそうである。……研究馬鹿が此処にも居たか。
「てか、一体何をやろうとしているんだ?」
「それは……っと、まぁ君達になら伝えても大丈夫か。僕が今やっているのはポータルの開発だよ。拠点間を自由に行き来できるようにする目的で作っているんだけど……中々難しくてね」
「ん? でもそれってそんなに難しいのか? 俺は少し前に普通にゲートを作って物資の移動を手伝ったりしたんだけど」
「人がやるのと符術で固定させるのはちょっと違うから。なんて言えばいいんだろう? こう、人の感覚なのかな? 空間魔法が使える人って、魔力の流れが微妙に違ったりするのを察知してリアルタイムで修正しているんだろうね。だけど、符術による固定方法だと、大気中の魔力変動・ダンジョンが拠点の間にある場合・モンスターの大量発生とかで、とっても不安定になるんだ」
ふむふむ……分からん。とりあえず、設置タイプがとても大変だと言う事は分かるんだけど。
はっきり言って、魔力の流れを見る事は訓練さえすれば誰にでもできる事だし、そもそも距離が離れた場所の魔力変動なんて一々調べていない。だから、ソラに言われた事があんまり自分の中で納得出来ていない。
「んー、そうだね。ゲートを作った時に、そのゲートも自分の一部みたいになっている感じかな? ゲートを通して周囲の魔力の流れを無意識に受け取っているって感じかなぁ」
「なんか良く分からないなぁ。魔力の流れを見ると言ってもそれは意識してやる事だし。確かに何度も繰り返して使っているから、ある程度は素でやっている部分もあるけど……それでも、限度と言うモノが有るからなぁ」
「こればっかりは無意識の感覚だからね。空間魔法使い特有のスキル程度に考えて貰うのが楽かもしれない」
専用スキルかぁ。そう言われると何だか納得してしまうな。
「それで、符術だと符にその感覚の部分が無いから難しいと?」
「そう言う事かな。本当……こうも魔力がコロコロ変動されると手の打ちようがないよ」
うーん……空間魔法は二点間を魔力で無理やりつなげる方法。だから、繋げる場所と場所の間に歪みがあったら不安定になるって事で良いんだよな。
例えるなら、二か所で固定しピンと張っておかないといけない糸がある。だけど、その糸を通す道には水があったり、常に強風が吹いていると言った感じだろうか。確かにそう考えると、糸を張っておくのが厳しいよなぁ。
これを解決するにはどうしたら良いかって事だよな。
簡単な解決方法は張りつめた糸の距離を短くする。こう、水や風が吹き荒れる場所の前でゲートを作成し、そう言った難所を渡った後にまたゲートを作る。
実に簡単な方法ではあるんだけど、これだとゲートの作成数が恐ろしい程増えて行くと言うデメリットがあるし、そもそも何処に設置するんだよ? と言う話。モンスターが蔓延っていたりするしな。
それに、魔力の流れやモンスターの増殖に対してはどうしようもない。何時どこで変化があるか予想なんて出来ないから。
「あ、となればあるゲーム的な解決とかはどうだろう?」
「ん? いい方法でも有るのかな」
「ほら、亜空間ゲート。もしくは、地獄通りとでも言えば良いのかな? 別の空間を挟んじゃえば良い」
「あぁ……確かにそう言った方法もあるかぁ。んー、でもその別空間をどうするかが問題かなぁ」
「ダンジョンを利用するとか、ソラが作った絵画世界があるじゃん。アレに似た何かを作るとか。最悪絵画世界を利用させてもらう方法も……」
「異空間というか、異世界の作成は神器があったから出来た事だからね。今の僕じゃ無理だよ」
「となると、やっぱりダンジョンの利用? 誰か手伝ってくれる良いダンジョンマスターとかが居ればなぁ」
問題は座標とかそう言ったモノもありそうだけど、割と異空間が相手だから何とかなるような気もする。
ただこれ、裏道というか裏口を作ろうっていう話なので、色々と問題も起きそうな気もしなくは無いが……利便性を考えたら、多少のデメリットは目を瞑ると言うか粉砕するべきだよな。
「あー……うん。そう言えば、最初にユウ達が僕達に聞きたいって言っていた内容なんだけど、間違いなく良い感じに染まって来たように見えるよ?」
「だね。『脳筋というよりも、決断する力がついてきたって言った方が良いかも』」
なるほど。決断力が以前と違うというとらえ方も出来るのか。確かにそういう言い方をすると、悪いイメージなんて全く無いな。
しかし、こんな意見は初めてだったな。
他の人達だと大抵の返答が「そう言えば少し攻撃的になった? あ、でもそれって私達もだよね」みたいな感じで、自分達もそうなってないか? と逆に疑問を与える結果になっていたんだよな。
因みに、爺さんと黒木さんに至っては「ん? それの何が悪いんだ」みたいな感じの対応だった。まぁそうだよね。崩壊前って言うかダンジョンが出来る前から、熊に対して素手や農具で挑んだりしていた人達だし。こればかりは聞いた相手を間違えたと思ったよ。
個人的にはソラ達の意見を採用したい。と言うのも、以前だったら手段を考えて考えて考えた上で実行するかどうするかを悩んでいたしな。悩み過ぎだろうって話だよなぁって今なら思う。
あぁ、確かにこうして以前の自分は考え過ぎだったと思って居る時点で、決断力と言う面では随分と変化が生じているな。まぁ、こんな世界だとそれは悪い事では無いと思うから、しっかりと変化を認識した上で受け入れて行けば問題は無いかな。
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