八百一話
三河へと進んでいる探索者は二手に分かれたらしい。
豊川にて中間となる拠点を作りながら現地の人と交流を試みるチーム。そしてもう一つが、更に先へと進むチームだそうだ。
豊川側に残る人達の人選は、スキルとして交渉と建築が得意な人が必要と言う事で、山の中を建築していた人達とそんな彼等を護衛していた数名の探索者に加えて、村から交渉要員として協会員を派遣した。
そして先に進む側と言えば、山越えにてメインとも言える水野さん達。彼等はそのまま引き続き探索を行うと言う形と言う訳だな。
さて、残る人達側では特に目立った動きは無いそう。やはり狐の目が気になる処ではあるそうだが、慣れてしまえばそれほどでも無いのだとか。何せ、こちらから手を出さなければ基本的には無害だから。
むしろ、現地人との交渉の方が難航しているらしい。
と言うのも、彼等は狐の視線に耐え切れなかったらしく、ガクブルとシェルター内に引きこもっている身だ。何とか数名が外へとでて狩りなり採取なりしているそうだけど、それでも少しずつ心が蝕まれて行くらしい。
此処で仮説。
恐らくだけど、この狐の視線には何等かの魔法が発動しているのでは? と予想される。
不安になったり魅入られたりするような漫画とかでよくある奴。ただ、協会から派遣した水野さん達はゲーム的な言い方をすればレベルが高い。だから、そういった魅了系なりの攻撃に対して抵抗出来ているのでは? と思われる。
まぁ狐達が意図してやっているかどうかは謎だけど……あるような気がするんだよなぁ。魔眼的なものが。ほら、〝ロード〟の目も恐怖や不安などに苛まれる効果があった訳だし。
「協会員もだけど、さりげなく訓練はしているからな。こっちから言った人達については何の不安も無いけど」
「一線級じゃなくても、そうとう扱かれてるもんねぇ……」
協会員もまた……と言うか、それこそ協会の受付さんですらイオ達の鬼ごっこに参戦したり、一流の人から殺気を浴びせられると言う特訓をしている。
事務方が何でそんな事をと思うかもしれないが、これは理不尽な探索者に少しでも抵抗出来るようになるため。
戦えと言う訳では無く、なんとかして逃げろ! と言う意味合いでなんだけどね。逃げてさえくれれば、その間に救援が間に合うから。
「まぁ、今はもうそういった行動をする人も殆どいないけどな」
「崩壊前とかだと偶にうわさになったりしてたよね。「換金額が低い!!」とか言いながら騒ぐ人」
嘘みたいな本当の話。
自分の実力が評価されていない!! と騒ぎ立てる人が居たんだよね。大抵の場合は、なあなあで済ませたりするんだけど、余りにもひどい場合は逮捕される結果にはなっていたんだけど。まぁ、強くなったと錯覚してしまったんだろうねぇ。
とまぁ、そんな過去があるから、それを教訓として受付や事務など関係なしに皆一定量の訓練を受けているらしい。
……でも、筋肉ムキムキとかじゃないんだよなぁ。こう、可愛らしい挨拶をしてくれるお姉さんとかもしっかりいる。協会の看板だしね。
そんな訳で同じ事を言うけども、こちらの拠点建築及び交渉組に関しては何の不安も感じていない。
では、水野さん達の方はどうだろうか?
彼等はまず豊橋を目指すらしい。一号線沿いのまま道を作って行くとなれば妥当な目的地だろうね。
で、豊橋にたどり着いたら、今度は259号線があった場所を辿る様にして行くつもりなのだとか。で、愛知県のあの後ろ足に見える部分の先まで行く予定となっている。
恐らくそこらへんがワイバーンの巣がある場所だろうと予測されているからな。
実はある程度だけど、ワイバーンの動きは観測出来ている。と言うのも、南知多側へと影山さん達が進出しており、愛知県の前足ぽく見える〝く〟の字になっている先端。羽豆岬と呼ばれていた場所に観測拠点を作っているからだ。
ただ残念な事に、その場所からは海を渡る事が出来ないらしい。
観測拠点から海を見た際、何やら大きく黒い影が海の中を泳いでいるのを影山さん達が発見している。
その影から予測するに、クラーケンかシーサーペント辺りだろうと予想しているのだとか。ワンチャン、モンスター版メガロドンの可能性もある影もあったのだとか。
うん、影って一つじゃなくて複数らしいんだ。だから、海を越えるのは危険すぎるのだとか。以前にドローンを飛ばしてみた時に、ドローンが水のレーザーで撃墜されていると言う事実も有るからな。何が起こるか分からなさすぎる。
なのでもし本格的に海を調査するのであれば、今までよりも高性能の無人偵察機が必要になるかな。……まぁ、わざわざ海に出る必要も無いと思うけど。
「てなわけで、知多半島と渥美半島両方から攻めている状態になるのか」
「良かったのは、ワイバーンのその中間とかに有る島じゃ無かったって事かなぁ? 島だったら海を渡らないと行けなくなるもんね」
「そうなったら、ワイバーンの巣を攻める計画がストップになってただろうなぁ。本当にどうやって海を攻略するんだって話だし」
一応だけど、水中バイクなり魚雷なりの装備は着々と数を増やして行っている。勿論、改良も常に行われている。
だけども、それでは数が足らないと言うか……正直、探索者の能力的に水中戦というのがネックなんだよな。
「ペンギンや人魚達に援軍を頼めたらって思っちゃうレベルだわ……水中だとバイク頼りになるから機動力がなぁ」
「地上みたいに自由に動き回れないもんね」
「直進は強いんだけどな」
とは言え、その直進ですらペンギンや人魚達の動きを見た事が有る俺達からしてみれば……なんて思う所がある訳で。
「それに、もしメガロなシャークモンスターが居るとしたら、バイクごと丸呑みだよなぁ……」
「内部からチクチクと一寸法師戦法が出来るかも?」
「強烈な胃酸とかだったら、チクチクも出来ないと思うけどな」
巨大な物を食べる巨大生物の唾液やら胃酸だからなぁ。相当溶かすと言う能力が高いのではないだろうか。
ほら、モンスターの鱗や骨とか、そんな物も一緒に飲み込む訳だろう? 普通の胃と言うか、内臓をしているなんてとても思えない。
「やっぱり、現状海を渡るのは危険すぎるな」
「倒せたとしても、海自体広いからね……沢山あるうちの一匹だったなんて普通にありそうだよぉ」
「だな。だからこそ、島が奴等の本拠地じゃなくて良かった。と思うんだけど、逆に気になるよなぁ……島には何があるんだろう? って」
「あぁ! 確かに言われて見ればそうかも。お宝が眠っているとか?」
「誰のお宝だよ……もしお宝が有ったとしても、それはダンジョンの奥とかになるんじゃないか? 崩壊前にはお宝が隠されているとかその手の話なんて無かったし」
でも、何があるかは本当に気になるよなぁ。
何せ巣をつくるとすれば島にした方が安全だろうと思うし。そう考えると、島にはワイバーンを近づけさせない何かが有ると言う事だろうか。
「やっぱりダンジョン? もしかしたら、ワイバーン以上の脅威が居るなんてパターンも……」
「ドラゴンが眠っているとか?」
「あぁ確かにドラゴンが居るってのは有りそうだなぁ」
まぁ、ぶっちゃけた話。ワイバーンは現状だと余り脅威ではない。無いのだけど、こうして皆が騒いでいるのは、ワイバーンが遠征して来ていると言う事と、空からの攻撃だからと言う事。
一応、対空防備は揃えているけども、空からの攻撃はやっぱり脅威と言えるモノ。ただでさえ、空の上には謎空間が広がっていてそこからモンスターが降って来ると言うのに、更にワイバーンが追加されるのは対処が面倒。なので、先にワイバーンを何とかしてしまおうと言う事なんだけど。
「それが此処まで大事になるとはねぇ」
「海超えから山越え、山を越えたらキツネさん達の群れ。短い間で良くここまでって感じだよね」
「ま、ワイバーン数体程度なら水野さん達だけでも大丈夫だとは思うけど」
もし、数十体の群れだったりとか、島にはドラゴンが居たとしてそれが攻めて来たともなれば、俺やソラ達も出撃することになるだろうな。
一応、戦闘の為の準備だけはしておくか。それもドラゴン狩りがあってもいいようにと念入りに。
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えぇ、ワイバーンだけなら戦力的に何の問題も無いのですよね。
以前は4パーティーぐらいで協力して倒した相手だというのに……( ;∀;)
まぁ当時と違って、水野さん達もペガサスやら精霊と契約していますので相当強くなっています。ですので、巣を攻めるとは言っても数体ぐらいなら彼等だけでもなんとかなるかも。




