八百話
こんこんこんこん♪ と、家の庭では狐達もよく遊びに来る。
イオ達猫型モンスターや風達鳥型モンスター以外にも色々と居るのだけど、そこになんら垣根など無く、皆が皆仲良く遊びまわっている。
うん、うちの庭は何時も平和だ。
そう実感したのだけど、それは別に他の場所で問題が起きたからと言う訳ではない。いや、問題にまでは発生していないと言うのが正しい言い方なのだろうけど。
と言うのも、水野さん達がたどり着いた豊川なんだけど、どうやら狐型のモンスターがあちらこちらに蔓延っているらしい。
その狐達だけど、幾つもグループがあるのか縄張り争いが激しいらしい。ふむ、どうやら動物型モンスターの世界も戦乱の時代に突入しているようだ。
「てか、狐の数多すぎるだろ」
「お稲荷さんが関係してるのかなぁ?」
水野さんが配信している動画を見ているわけだけど、その映像には多種多様の狐達。
色が白かったり黒かったり尻尾が複数あったりと、中には悟りでも開いたのか? と聞きたくなるような表情のやつまで。あれだ、チベスナみたいなやつだ。
そんな狐達が、色やら見た目で完全に分かれているんだよなぁ。
ただ、そんな狐達だけども、人の姿をみても直ぐには攻撃を仕掛けてこないらしい。
なんでだ? と思っていると、映像から予測される情報……と言うか、水野さんの解説があるんだけど、彼は「狐達は一定範囲内に近寄らなければ攻撃をしてこないっす!」と言っている。
確かに、人が彼等の領域にさえ入らなければ、今のところはじっと人を監視しているだけでスルーしている。なので、ある程度自由に動ける範囲は一応存在する。
ただ、ここで問題の様で問題未満の話。
その自由に行動できる範囲があるようで無かったりする。人は常に狐達から監視されて過ごしていると言う訳だ。
「もふもふ天国ではあるんだけど、あの視線を四六時中受けるとなるとなぁ……」
「シェルターから出たくないよね」
シェルターから出て開発しようにも、常に彼等が見つめて来る。
狩りをしていても、採取をしにいっても、水を汲みに行っても……至る所から視線が刺さる。右を見れば狐、左を見れば狐の目、上を見れば木の上に黒い影……目・目・目・目と、ある意味〝ロード〟の観察に近い何かを感じてしまうモノ。
これでは外で作業をしているだけで発狂してしまうのでは? と思うレベルだ。
ただ、彼等は自分達の縄張りに入ってくれるなよ? と牽制しているだけのつもりなんだろうけどね。
とは言え、見られる側になればそんな見ている方の理由なんて関係ない。うん、不気味過ぎていて、気味が悪すぎる。吐きそうになった人も居るのだとか。
「うちの狐ちゃん達と全く違うなぁ」
「あの子達だったら「ごはんちょーだい?」って感じで、目を潤ませながら見上げて来るって感じだよね。あとは「あそんでちょーだい?」かな」
両前足をチョコンとそろえて、待てのポーズをとりながらウルウルと見上げて来る。うん、間違いなく構いたくなる仕草でのおねだり。人はそんな子達に抗えるはずもなく……ついつい、動物やモンスター用のお菓子やら、散歩に連れて行ってしまうんだよな。
「それを考えると、本当にこの映像から見える彼等の姿は落差が激しすぎる」
「勝つとか負けるとかじゃなくて、一矢報いても縄張りは守る! って意志が伝わって来るよね」
子育て中の母親かな? と思うレベルで、彼等は何人たりとも接近を許さん! と言わんばかりの目をしている。
今の水野さん達であれば、彼等に負けるなんてことなど無いのだけど……窮鼠猫を噛むでは無いが、何かの拍子に逆襲されてもという考えはある訳で、兎に角安全策をとって行こうと彼等には近づかない方針らしい。
「そういえばさ。ここって、ワイバーンの巣に近いんじゃなかったっけ? よくこの子達は無事だよね」
「んー……ワイバーンが海を越えて来ているって事を考えると、ワイバーンは内側には全く来て無いって事じゃない? だから被害が無いとか」
「謎だよね、餌と言う意味で言うなら豊富だと思うんだけど」
ちらりと映像に移る狐達を見た美咲さん。
うん理解はできるけど、狐達を餌だなんて口にしたら……うちの子達がものすごい悲しそうな目で見上げて来るぞ?
ほら、何かを察したのか、狐や猫達が一斉に俺達の方へと顔を向けて来たじゃないか。
「……ほれほれ」
何でもないよと言う事とを伝える為に、俺は猫じゃらしに似せた大きいおもちゃを使い、狐や猫達の中央あたりでフリフリと振り回す。うん、ぴょんぴょんと飛んで実に可愛い。
あ、空中で狐と猫が猫じゃらしのキャッチをみすってハグ状態に。
「か、かわ……」
「美咲さん、ティッシュいる? 鼻から赤い水が垂れたりしない?」
「だ、だいじょうふ……」
うん。やっぱりうちの子達は可愛くて平和的だな。
しかしこの状況。一体水野さん達はどうするのだろうか?
拠点を作ろうにも彼等の目が邪魔だし、現地の人に接触しようにもその彼等が外へ警戒をしているらしく、水野さん達が接触しようとした時に「狐が化けたか!!」と言われてしまったらしい。
どれだけ狐に恐怖を覚えているのやら。てか、信者化はしていないって事で良いのかな。
ただ、信者化していないとは言え、厄介な状態であるのは間違いない。彼等の状態は〝狂〟信者ではなく、発〝狂〟仕掛けている状態なのだから。うん、どっちも〝狂う〟って事なんだよなぁ。
なのであの地の人は、説得が恐ろしく大変そうだと言う事だけは確かだな。
「そう言えばお稲荷さんがある場所ってどうなっているんだろうね」
「一号線からは少し進んだ先に行かないといけないんだっけ……ええと、現在水野さん達が居る位置が……」
古い地図と今の地図を合わせて見て見る。
すると、昔の地名というか駅名で国府と八幡の中間ぐらいに居ると言う事が分かった。となると、お稲荷さんまでは直線距離で三キロから四キロぐらいか? 近いような遠いような、微妙な距離だな。
もっとも、そっちに行く予定は現状ないからスルーする事になると思うけど。
しっかし、本当に、なんで此処まで狐型のモンスターが繁殖しているんだろうな? もしかして、近くに狐のダンジョンでもあるのだろうか。
「んー、寧ろ〝模倣体〟さんが居て、狐さん達を集めてたんじゃない? でも〝模倣体〟さんは狭間の空間で壁の柱になったから……」
「狐達の統率を執るモノが居なくなったって事か?」
うわぁ、なんかあり得そう。
トップが消えた為に、次は自分達がトップだ! と権力争い。これは人間社会でもよくある話だよな。消えていなくても、力が弱ったために制御できずに戦乱の世になんてのもよくある話だし。
それが狐の世界でも起きていると……うん、だからこそ余計な敵を増やさないために、人間に対して直接的に攻撃を仕掛けてこないのかもしれないな。
あぁ、なんて賢いと言うべきか。まぁ、人を利用しようとして来ないだけマシかもしれないが。
「案外、庭に居る子達をお稲荷さんへ殴り込みに行かせると解決したりして」
「それはやめてくれ。確かに強さは野良のモンスターに比べて相当強くなっていると思うけど、それをやったらうちの子達が祀り上げられるか、神の使い的扱いを受ける事になるぞ……」
結局のところ力がモノを言う世界だからな。より強い力で全てを制圧してしまえば、あの地の狐達も大人しくはなるだろう。
とは言え、大人しくさせえる必要性が現状ある訳では無いからな。常に見て来る目が気持ち悪いと言うのはあるけど、戦いになってといった害を受けて居る訳ではない。
それに、それだけ賢いのであれば、彼等の縄張り争いが終息さえしてしまえば、会話やら交渉も可能かもしれない。だと言うのに、目が不気味だからと、こちらから攻撃を仕掛けてしまえばそれらが不可能になってしまう。
制圧したとしても、何処かで歪みが出て来る可能性もあるしな。
「今は様子見と水野さん達も判断しているみたいだし、俺達は狐達同士が和解してくれることを祈るとしよう」
「そうだね。うちの子達みたいに可愛くなってくれたらいいのにねー」
「「「「「クゥン?」」」」」
うんうん、こんな風に小首を傾げるうちの子達みたいになってくれる事を祈るとしようか。
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狐と対話せよ(≧▽≦)
チベスナ狐はどうしてあんなにも無の表情なんでしょうか。なんかあれはあれで、可愛くは無いのですが味がある顔と言うか。
因みに、ケープキツネやフェネックも姿を隠しているとかなんだとか。




