六十九話
朝日が昇る前の時間、俺達は静かに行動を開始しだした。
穴を掘ってはホースを埋めて土を戻す。面倒な作業になるはずだったけど、何故か此処にいる全員がモンスター素材製のスコップを所持していた。お陰で、作業が凄い速さで終わっていくよ。
「いやぁ、白河君がダンジョンに来た当初に、スコップを使っていたのは知ってたが、これほど使いやすいとはなぁ」
「あの頃よりも、随分とスコップの性能上がってますけどね」
「この性能なら、潜ってた階層ぐらいなら十分武器になるし、こうして穴を掘ったりと罠を作るにも良さそうだ」
「そうですね、確かに穴掘って戦ったりもしてましたよ」
皆がやっぱりか、という顔をしながら作業を続けていく。
巡回するモンスターは現状だが、出会ってない。どういうタイミングで周ってたんだろうか? まぁ、気にした所で作業が終われば奇襲開始だ。巡回している奴等が気がついても、もう遅いだろうな。
「さて、街は見えるがモンスターはどんな感じだ?」
「ぐっすりと眠ってますね、ただウルフだけは起きてるようで……街の中をグルグルと動いてます」
双眼鏡を持った人が、入谷のお兄さんに報告している。ふむ、ゴリラや猿のモンスターも昼行性か、それで安全の確保に建物を使って、警戒にウルフを使役するって事かな? 人間っぽいなぁ。
「ゴリラ共は知恵が回るか……日が昇る前に行動して正解だったな」
「そうですね、では先ず罠を作る作業しましょうか」
街を目の前に、自分達の位置を中心に円形状の形で罠を作っていく。
前回と同じように街に近い外側の部分は、地面をデコボコにしてから、へこんでいる部分を沼状にし、大量のマキビシトラップを仕掛ける。まぁ、これは前回飛び越えられちゃったけどな。
更に内側の部分はかなり深い穴で泥沼状にしておく。ゴリラでも腰ぐらいまで嵌るんじゃないかな?
「さて、後ろ側は逃げる時の為にトラップは無しだけど、大丈夫かな?」
「逃げるなんて選択を選ばなきゃ行けない時は、俺とイオで殿つとめるんで」
「ミャン!」
イオの返事がやる気に満ち溢れていて逞しいな。問題は回り込まれる可能性だろうけど、其処は後方警戒する人を置いておくしかない。
まぁ、準備は完了かな? 後は攻撃開始のタイミングだろうな。
「さて、攻撃開始したいところだけど、相手が建物の中だからなぁ……先ずは釣り出さないと行けないかな?」
「イオとこっそり奇襲しようにも、ウルフが邪魔ですね。鳴かれてモンスター達が起きるかと」
「ウルフか……それなら、遠距離攻撃で仕留めていけば良いんじゃないか? どうせ気がつかれるなら、数を減らした方が良いだろ」
「……それなら、裏側に俺とイオが回って其処からウルフに攻撃しましょうか? 敵が反対側に居ると思ってる所に放水って手順で」
「確かに、外に出た上でこちら側に気がつかないかもしれないが、君達が危ないのと……建物が邪魔なのが気になるかな」
「少しでも、ウルフが鳴くポイントをずらす位が丁度良いか……なら街の中心部分に移動した後が狙い目だな」
そういえば、街なんて言ってるけど、街が嘗てあった場所が正解なんだろうな。
周囲には、もっと人工物やら整備された道やらと色々あったけど、森に飲み込まれているんだよね。〝国敗れて山河あり〟なんて言葉があったけど……この光景は正にその通りだよな、街の部分も残っている所なんて、かなり狭くなってる上に、モンスターに占拠されてるからな。
まぁ、そんな訳で五百メートルぐらい狙撃できるのであれば、街の中心は十分に狙える位置となっている。ならば、ここは俺と美咲さんの出番だろうな。
「あ! そうだ、どうせ起こして中心に集めるなら、爆裂矢使いませんか!」
美咲さんが、面白い提案をしたな……確かに、それなら一気にウルフを巻き込んで排除できる。ゴリラ型や猿型も飛び起きて中心部に集まるだろうね。さて、入谷のお兄さんはどう決断するかな。
「……私達の資材は現状厳しいが、一度使うだけで事が有利に進むのであれば……うん、ありだね。其れで行こうか!」
許可が出たか、ならば早速と魔石爆弾を利用した鉄串を準備。美咲さんの方も、弓と矢の準備は完了していて、後はウルフが中央にくるタイミング待ちだ。
「二人共、爆破武器だから少し外れても気にしないでね、寧ろ狙うのはウルフじゃなくて地面を狙ってくれるかい?」
「あー……下手にウルフを外して中央から外れるより、地面に突き刺した方が良さそうですね」
「そういう事だね、じゃあ初手は任せたよ」
まぁ、この距離を狙うのなんて僕等はいつもの事だ。普段通りの動作で武器を構えて、ウルフが中央に来るのを待つ。
壁の影からウルフがひょこっと顔を出して、中心部分へと移動していく。よし、タイミングは……そろそろかな。
「よし、二人共撃って!」
入谷さんの号令と共に、爆撃開始。二本の鉄串と一本の矢が綺麗に三角形を描くように、街の中央に突き刺さってから、大爆発を起こした。
爆破に巻き込まれたウルフ達は、即死レベルでバラバラになっていたり、少し離れていた奴等は、爆破の衝撃で壁に叩きつけられ、キャン! だの ガゥ! だのと鳴き声を上げた後、一切動かなくなった。
そして、その音に気がついて起きてきた、猿やゴリラが中心部へと集まって来る。
「よし、此処までは予定通りだね。放水の準備は出来てる?」
「何時でも! まぁこの距離なら届かないと思いますが……」
「そこは、攻撃して引き寄せるからね。それじゃ、白河君は予定通り遊撃で」
指示を受けた後は、陣地を後ろ側から出て、森の中へこそこそと入っていく。
「さてイオ、俺達のやる事は奇襲だ。隠れたり回り込もうとした奴等の討伐だよ」
「ミャン!」
状況を目視しながらじわじわと街側の方へと森の中を進んでいく。
「おー……弓で猿と狼を狙って挑発かな」
中央に集まったゴリラの数は……全部で八匹か。やはりあの時みた数が全てじゃなかったのか。猿とウルフに関しては……ライダー化する前に矢でその数を減らしてるな。まぁ、さっきの爆破で一気にウルフ自体の数が減ってたしな。
「グルァァァァァァァ!!」
一匹のゴリラが雄叫びを上げた後、全モンスターが突撃を開始しだした。ふむ、前の時もだけどゴリラは雄叫びからの突進が、お決まりパターンなのだろうか? 一気に直進するから、ねらい目だよなぁ。
「放水! 放て!!」
入谷さんの号令と共に放水された水の線が二本、ゴリラへと向かって進んでいく。軽く左右に振っているのか、蛇のように水が動いて……ゴリラ達を一匹残らず濡らしていくな。
「よし、放水そのまま! 弓部隊放て!」
濡れるのを嫌うゴリラ達の行動は様々で、立ち止まって腕を振り回したり、一目散に逃げ出して壁の後ろに隠れたり、知ったことか! といわんばかりに突撃してくる奴がいたりと、統率が完全に取れなくなっている。
そんなタイミングで、入谷さんは矢の射撃号令。ねらい目は、立ち止まってる奴らだ。
「やっぱりお兄さんは上手いね。壁に隠れる奴はどうしようもないとして、突進してくる奴は罠で嵌めれる。数を減らすなら立ち止まってる奴って事か」
「みゃー!」
イオも絶賛しているようだな。さて、こっちはこっちで動かないと……先ずは壁の裏に逃げた奴らだな。
そうしてこそこそと、建物の影を移動しながら目標を見つける。
「イオ……先ずは水魔法で思いっきり濡らすから、其の後突撃だ」
「ミャン」
イオに小声で行動を説明してから、目標に向かって水魔法でゴリラの頭上からゴリラ相手に水の玉を撃ち込む! よし、全身ずぶ濡れだな。
「イオ、突撃!」
全身を濡らされたゴリラは、水が降って来た頭上を見上げるが其処に何もなく、その隙をイオが爪で襲撃。
「グゥゥゥ!」
イオの爪撃で肩から腰にかけて切裂かれ、その激痛で前のめりになるゴリラ。チャンスだよね。
「止め!!」
イオが攻撃した勢いのまま移動した隙間に入り込んで、ゴリラの頭目掛けてハンマー部分を振り下ろす!
頭を下げていたゴリラは、其れを避ける事もできず首無しゴリラに。
「よし、先ずは一匹だ」
「ニャー!」
まぁ、弱点が解ったモンスターなら、幾らスペックが高くても奇襲さえ出来ればこの程度だろうな。
このまま俺達は、裏でこそこそと奇襲をしながら、隠れている奴らを潰していこう。
「とはいえ、あっちは大丈夫かな?」
ちらっと皆が居る方を確認すると、弓使いが強いからなのか、猿に狼はもちろんの事だがゴリラも脚を止めた奴らはハリネズミの様になって絶命しているな。
突進したゴリラは……罠にかかって抜け出せないようだ。うん、あっちは大丈夫だろう。
「とはいえ、ゴリラの数は確か……八匹だったな。俺とイオが倒したのが一匹、ハリネズミになってるのがニ匹、突撃したのが四匹だから……あと一匹隠れてるのか。イオ位置はわかるか?」
「ミャン!」
よし、イオには位置が解ってる様だな。それじゃさくっと襲撃しますかね。
「よし! トラップに嵌ったゴリラも討伐完了! 皆お疲れ様!」
拠点に戻ると、入谷のお兄さんが皆を労わっている。怪我も無く無事に終わったみたいだ。
「お、白河君も戻ったね! 大丈夫だった?」
「はい、こっちは隠れた二匹だけだったので、皆さんの方も大丈夫だったみたいで何よりです」
「ありがとうね。まぁ、一匹のゴリラが罠を抜け出してきたんだけど、何とかなったよ」
どうやら、ゴリラ達は全員が罠に掛かると如何しようも無いと悟ったのか、全員で一匹だけを掴んで沼から投げ飛ばした。そのゴリラはトラップゾーンの内側に飛ばされた様だけど、着地と同時に美咲さんのヘッドショットを喰らって後ろに倒れた後、泥沼に頭から突っ込んでいったらしい。
「あの時は私達だけじゃなくて、投げ飛ばしたゴリラ達も目が点になってたよ」
「あはは……まさか、あんなに綺麗に矢が刺さると思わなかったですよ」
「いやいや、嬢ちゃんナイスショットだったぞ」
うん、出来るならそのシーンは見たかった! 残念だよ。
まぁ……皆が無事な……。
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
何だ!? 何処から叫び声が!?
「全員、警戒! 何処からか解るか!?」
「ミャァァァァ!」
イオが最大級の警戒をしてる? まぁお陰で方向はわかったけど……かなりヤバイかも。
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