七百九十八話
探索者達が道を整備していく。
ただ、この道自体は探索者がその足で駆け抜けるか、輸送車と言う名のキャタピラと多脚によって動く戦車が使う道だ。なので、崩壊前の様な素晴らしい道にする必要も無い。ある程度の凹凸が無い状態で、真っ直ぐ進む為に、木や岩を排除しておけばいいだけなのだから。
とは言え、俺は例によって例のごとく輸送任務に就いている。
一日数回しか使えないゲートだとしても、拠点から直接物資を移動させる事が出来るのだから。
とまぁ、こんな感じでワイバーン攻略に向けての準備は着実に進んでいると言っても良い。
ただ、やはり俺達にとって気になるのは、恐竜たちの巣やその近くに在るだろうダンジョンの事。
こちらもまた、周囲の調査と言う事で探索者達が山の中を駆け回っていて、現在山の中に幾つかのダンジョンを発見しているらしい。
道の整備を行う際の安全を確保する為に調査は必要だからという名目のもとだけど。
で、やっぱりというか、恐竜の巣がある場所にはダンジョンの入り口があったわけで、そのダンジョンの監視の為にも中継地点を作る場所として選ばれたのは、恐竜の巣があった場所だった。
巣があった場所を選んだ理由は、ダンジョンが近いと言うこと以外にも、木々などが他の場所より少ないと言う事が有る。そしてその場所は彼等が卵を産んで皆で育てる為なのか、簡易な砦を作るには丁度良い広さ。そりゃ、有効活用しない訳がないでしょう。
因みにダンジョンの入り口はと言うと、残念な事にその入り口はしっかりとフルオープンの状態だったそうだ。
流氷やらなにやらで埋まっているなんて事はなかったらしい。なので、現在は数名の探索者がその入り口を見張っているのだとか。「……埋まってさえいれば、見張りなどいらなかったのに」と、協会の人や現場で指揮をしている探索者の人が嘆いていたりする。
さて、そんな大規模な工事を行っている訳だけども、この工事はかなり早く終わる予定らしい。
その理由なんだけど。魔法と魔道具と探索者のスペックでごり押しする事によって、崩壊前の土木建築よりも数倍以上も早く作業が進むからだ。
もしコンクリートを打つとしても、従来はコンクリートが完全に硬化するまで時間が掛かる。だけど……魔道具製のコンクリートと魔法を併用さえすれば、ものの数時間で硬化が終わってしまい、直ぐに道として使えると言う……うん、どう考えてもチート的産物です。本当にお疲れさまでした。
という技術は崩壊後の話だけど、結構前からあった技術だったりする……だけど当然そんな技術が進歩しない訳も無く。
今では、当時よりも良いモンスター素材やダンジョン産の石材があるので、魔道具としての性能も格段に上がっている。
現在の素材で作られたコンクリートを例に話すと、数秒から数分で硬化しちゃうんじゃないかなぁ。
何というか崩壊前の作業に思いっきり喧嘩を売っている様な内容だよなぁ。なんて思わなくもない。
「そもそも、土魔法である程度壁を作ったり道を整備したりできるからね」
「整地の速度が段違いなんだよなぁ」
木を伐採して、切り株や石に岩を排除して、凹凸を平らにしていく。その作業が土魔法で一括ポンだ。
地面が波打ったかと思うと、木は根ごと倒れながら移動し、石や岩も自らが横へと移動している様に見える。そして波打った地面は、いつの間にか平になっている。なので、そんな土魔法が偉大過ぎると工事現場では半ば神聖視されているのだとか。
そんな大規模な土魔法を使えるのは、高レベルの探索者ぐらいなんだけどな。
ただ、これまでも各拠点を繋ぐ道を作ってきたためか、土魔法のスペシャリストが増えて来ていると言う話もあり、当然今回も結構な人数が動員されている。
だからかな? 彼等の練度がものすごく高く、本当に「あっ」と言う間に道が出来上がって行っているんだよな。
「道づくりだけなら間違いなく俺達より早いよなぁ……戦闘時の落とし穴作りや壁作りは負けるつもりなんて無いけど」
「あの速度は無理だよね。というより、私は余り土魔法を使わないからなぁ」
「あー……鎧がアラクネモードならどんな悪路でも問題ないもんな」
「ラーナの協力あってこそなんだけど、糸で道を作ってその上を走るってのも出来るしね」
基本的に移動と言えば、俺達は颯や天に乗れば良い。
地上を移動する際も、美咲さんはアラクネアーマーが、双葉達はイオの背に、風は最初から飛行出来る。もし道を整備する必要があるとすれば俺だけなんだけど……。
「俺の場合は、最悪ウォルと精霊憑依をしてしまえば良いからなぁ」
「そもそも忍者……じゃなくてNINJA的な動きも出来るよね? 殆ど道と関係ないんじゃないかなぁ」
以前は歩きやすい様にと思ってやっていた時もあるけども、ダンジョンをクリアして食べるモノも変わって、身体能力が向上してからは、道を整備している方が時間が掛かるようになってしまった。そしてそれは、どれだけ亀裂が入っていたり、凹凸が激しい道だったとしてもだ。
だから、土魔法をそう言った意味で多用する事が無くなった。寧ろ、地面を悪くする方向ばかりに魔法を使用している。落とし穴以外にも泥沼だとか障害物の作成だとか。
そう考えたら、こうして道づくりを日々やっている人に比べたら、その能力も劣るのは当然だよなぁ。
「やっぱりスペシャリスト相手には、その分野で勝てる訳がないよなぁ」
「万能とか卒なくこなすって言葉自体は良いけど、特化してないから結局負けちゃうよね」
それが必要だったというか、そうしなければならかなったから、万能と言うか器用貧乏になった訳なんだけどな。
ただこうして、凄いスピードで道を作って行くのを見ると……やっぱり「おぉ!」と心が躍る物があったりする。自分だとそこまで出来ないからな。
「道の平らな具合も段違いなんだよなぁ。彼等の作った道は実になめらかに見える。俺がやるとどうしても、敵の妨害が脳内のどこかに有って、そのせいで生まれるトラップやら凹凸やらのイメージで、どうしても道を綺麗に作れないんだよなぁ」
「と言うか、絶対落とし穴トラップとかが仕込まれているよね?」
「あー……うん。あり得る」
魔法はイメージに左右されるからなぁ。
そんなつもりが無かったとしても、自分の知らない場所にトラップが誕生していてもおかしくはない。
これが拠点内とかでやるなら別だけど、こうしてモンスターが蔓延る拠点外だとどうしてもイメージに引っ張られてしまうだろうな。
「世の中手伝わない方が良い仕事ってのがあるって事だな」
「大人しくここでゲートを開きましょうって事だね。えっと、次の物資を送るのが……一時間後かな」
「作業の進歩が早いから、もう少し時間が縮まるかもな。ほら、現場から送られてくる映像には、もう少しで作業員達が目的地にたどり着きそうになってる」
「ありゃ本当だ。なら、送る物資の最終チェックをしておこうかな」
「早めにやった方が良いだろうね。恐らく三十分ほど時間が短縮されそうだし」
てか、作業しながらどんどん効率が上がって来ているよなぁ。数時間の作業でレベルアップしていると言われても納得が出来てしまう。
とは言え、それは決して悪い事ではない。寧ろさっさと作業が終わると言う事なのだから、諸手を上げて歓迎するべき話なのだけど……。ちょっとばかしスピードアップしすぎやしませんか? と思わなくもない。
とはいえ、このペースでスピードアップをしていったら、予定よりも早くワイバーン狩りを行える気がする。
さてさて、ワイバーンの巣は一体どんな感じの場所でどれだけの数が居るんだろうな。
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ただいま進行中~♪
と言う事で、着々と目的地まで忍び寄っております。と言うよりも、移動した先にあるだろう人里などはどうなっているのでしょうね? 当然、山を越えた先にもシェルターに逃げ込んだ人たちは居るでしょうから。




