七百九十七話
大量の恐竜肉がゲートを潜って来る。そして協会の倉庫へ急いで収納していく……まぁ、収納しているのは職員の方々なのだけど。何せ俺のやる事はゲートを開く事だから、次々と放り込まれてくる恐竜達を移動させる事なんてできない。
それなら最初からゲートを倉庫の中に繋げたらいいのでは? と疑問に思うだろうがそれはちょっと違う。いきなり倉庫に出すと整理整頓が大変なので、倉庫前に出して一体一体を運び入れる方が良いと言う訳だ。
因みに、倉庫前から倉庫内へと移動させているのは、アラクネアーマーを展開した美咲さんだったりする。うん、アラクネパワーはマジで凄いよな。何せ数人で運ぶ必要があるだろう、巨大な氷漬けの恐竜でも一人で何とか出来てしまうし。
後、氷漬けの恐竜達なんだけど。実はその氷の一ヶ所に指サイズの穴が空いている。実はこの穴、恐竜達が解凍された時に復活しないようにと、彼等の心臓を穿った痕だったりする。ま、氷ごと貫いたって訳だな。なので、SF映画とかみたいに、氷漬けの存在が復活して暴れるなんて事は無い。
実はこの作業中の事なんだけど、ゲートの向こうから「ほいさ! よいさ!」と掛け声が聞こえて来ていた。
ゲートを挟んで巨大な物を移動させると言う事で、こちら側の人に対する安全確保の為に行っている掛け声なんだけど、何ともリズミカルでいて、美咲さんなんて途中からそのリズムに合わせてくるくると回る様に動いていたんだよね。
ただそれが、なんというか二人でやる餅つきの様な感じで、息がぴったり合うと恐ろしいまでの効率というかテンポで恐竜の輸送が一気に終わってしまった。
恐らくなんだけど、一番焦ったのは職員さん達だろうなぁ。何せスピードアップしたものだから、手が足らない!! となってしまい、途中から増員していたし。……なんか、ゲートを維持しているだけの仕事だから、凄く申し訳ない気分になってしまったよ。
そんな訳で、恐竜達の輸送と言うのは思った以上に早く終了する事ができ、今は皆で打ち上げと言う名の飲み会をしている。
「とは言っても、まだハグレとか別部隊の奴等もいただろうから、数人は森の中を捜索しているんだっけか」
「飛行タイプのモンスター達が協力してくれているからすぐ終わるんじゃないかな」
「森の中って事で、フクロウタイプが出撃しているんだっけ……本当にテイムされた鳥型モンスターも種類が増えたよなぁ」
鷹型・鷲型・梟型と戦闘が得意と言えるタイプはよく見かけるのだが、実はそれ以外にも増えていて、歌を奏でるとても綺麗な鳴き声を発する、ヒバリ・メジロ・ウグイスなどもいつの間にかに村で見かけるようになった。
テイマーの中には、そんな鳴き声を利用してモンスターの統率を執る人も居るのだとか。
なんでそんな面倒な事を? と思わなくも無いが、それは言葉で指示をしたら相手にも聞こえるだろうし、モンスター同士の会話だと敵対するモンスターにも通じてしまうからだそうだ。なので、この鳴き声と言うのは一種の暗号みたいなものらしい。
「とは言え、どちらかと言えば観賞用という扱いだよなぁ」
「鳥の音楽会とかもやっているみたいだよ」
「あー……うちの庭なら、勝手にやるから。てか、あの鳴いてた鳥達ってモンスターだったんだなぁ」
もうね。うちの庭とか動物とモンスターが入り乱れていて、どっちがどっちなのかほとんど分からない状況だったりする。
見た目で分かりやすい奴とかなら良いんだよ? 例えば尻尾が二本以上あるとか角が生えているとか、後は飛ばない動物なのに空を飛んでいるとか。でも、鳥となると皆飛ぶし、其処まで見た目が違うと言う訳でも無いのが多い。多少サイズが違うかな? ってレベル。
「しかもなぁ……あいつ等、動物とモンスターで夫婦になったりしてるし、ハーフとかも居るみたいだし、本当にどんな状況よ? 動物からモンスターになるのも当たり前になって来ているしなぁ」
「安全だってわかってるから、皆のほほーんとした感じだしね」
うちの庭は壁の囲いの中以外にも〝化身の社〟まで続く道もその範囲にしていされている。だから、広さ的には十分なスペースがある。
しかし、モンスターや動物同士の繋がりや、どうやら俺がやった事を更にゆいが拡張しているらしく、次から次に動物やモンスターを庭に連れてきているらしい。これ、その内パンクしてしまうのでは? と少し気になって来ていたりする。
「てか、ゆいの奴は何処から動物を連れて来ているのやら」
「村に迷い込んだ子とかじゃないかな? モンスターに追われて逃げている動物ってまだまだいるみたいだし」
このペースで増えて行くとなるとなぁ。里親に出す事とか、他の拠点にそう言った飼育スペースを作って貰う事も視野に入れる必要がある。
村の飼育スペースも、モンスターの数が結構増えてきたために、現状その許容量がぎりぎりになり始めて来ているらしい。……一応、拡張する予定はあると聞いたけど。
そんな悩み事を美咲さんと話していると、背後からお酒を手にした品川さんが俺達へと話しかけて来た。
「恐竜狩りの打ち上げなのに、なんでそんな話をしているのよ……」
「品川さんお疲れ様です。あー、何というか、確か鳥型モンスターを使って捜索をしているって話からどんどん飛んで行っちゃいまして」
「話をしていると、その内容が伝言ゲームみたいによく飛んじゃうんですよねぇ」
「理解できなくもないけど……一応、おめでたい席だからね? 悩んでいるよりも騒いだ方が良いと思うわよ。ほら、あそこにいる水野君とか」
品川さんが指さしをした先には水野さんが居て、彼はギターを片手に即興の歌を作って歌っていた。
しかもその歌の内容が、今回の狩りについて語った内容だったりする。
「あ~いつも最後は良い所をうばわれるるる~」
……何というか、ごめんなさい? ある意味俺達は、水野さん達の手柄を横取りしたような形で終わったからなぁ。
実験とは言え、あそこまで広範囲の兵器になるなんて誰も考えていなかったしな。ぶっちゃけ、予定としては山全体が結構冷えて、恐竜たちの動きが低下するというハズだったんだよね。
だけど実際に起きたのは、山ごと凍ったと言っても過言ではない魔法の威力。どう考えても、今まで頑張って探索をし、皆の前にでて武器を振るってきた水野さん達の活躍は一体? となってしまう出来事。
いや、実際にはそんな水野さん達の働きがあったからこそ! なのだけど……やっぱり、止めを刺すと言うのは最大の見せ場でもある訳で。
悲し気に歌う水野さんに、周りの探索者達ももらい泣きをして居り、そんな様子を乾いた笑いで見る事しか出来ない俺と美咲さんと品川さん。
まぁ、品川さんの場合は、俺達にその攻撃をする様にとゴーサインを出した人だからな。彼女もまた間接的とはいえ、水野さんの活躍を奪った形になる訳だ。だからこそ、笑いが乾いてしまう。
とは言え、半分以上はネタなんだよなぁ。
水野さんもその周囲に居る探索者達も、分かっていて悪乗りしているだけに過ぎない。なんなら、自分からネタになりに行っている。
なんでわかるのかって? そんなの、水野さんが品川さんに許可を貰い、この状況をライブ配信しているからだ。しかもそのタイトルが<【悲報】俺氏、最大の活躍ができなくなっちまった【でも試合には勝ったんだぜ☆】>と言うモノ。
明らかにウケ狙いに行っているのがバレバレである。
配信の冒頭でも、水野さんは「目出度いから悪乗りするぜー! イェーイ!」と叫んでいたしな。
「あ、次の曲歌い出した……って、またオリジナルソングだよ」
「今度はワイバーンをテーマにしてるなぁ。「まだ見ぬ巣が~」とか言ってるし」
何というか、本当にノリが良い人だなぁ。
こうなると、崩壊前に彼の配信を見ていなかったのが少し残念に思えて来た。ゲーム配信をベースでやっていたみたいなんだけど、一体どんなプレイスタイルだったんだろうな。などと言った疑問がふつふつと湧いてきてしまう。
しかし、これでワイバーンの喉元に刃を突きつける事が出来たって事になるのかな。
まぁその前に、山道の整備が必要だろうけどね。後、拠点を築く事もかな? 山の中に拠点を作らないと、道の保護が出来ないしね。
あぁ、これはまた、探索者が足らなーい! ってなる奴だ。一体協会はどうするつもりなんだろう。
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何時も話が脱線していく二人。
と言うよりも、そもそも目出度い席で後始末の事を話しだすなよ。と思いはしますが、この二人だから仕方がない。彼等は基本的に心配性なタイプですからね。




