七百九十五話
気が付いた事をレポートにしてから提出する。
こういった作業ももう慣れたもので、俺はダンジョン探索などの時と同じような形で〝子供達の将来について〟というレポートをいつもの様に上の人間に投げておいた。
言っては何だが、上層部の運営は守りに走りやすい面々が多い。品川さんしかり、村の運営しかり。まぁこれは、そう言った面が有るからこそ上層部に選ばれたとも言えるのだけど……村社会なんて基本的には、身内の集まりを延長したみたいなものだったしな。今は随分と変わってしまったけど。
なんで防衛よりな面々が選ばれたのかっていうと。そんなもんは、先ほどいった村社会だったという事もあるけど、生き残りを考えた時に色々と守りに徹した考えの方がやりやすいからだ。……と言うより、探索者の殆どが外へ出てとかダンジョンに行ってという、どんどん先に進む思考をする者ばかりだからバランスをとる為という側面もあるんだけどな。
ただ……そんな守りの思考をしているメンバーであれば、子供達の事も直ぐに思い当たりそうなのだけど、それ以上にモンスターの脅威というのが大きかった。
如何に命を守るのか。どうやって人間の生息圏を維持するのか。そういった話し合いが殆どなものだから、それに繋がるだろう技術力やら公共事業の壁や道を作る事ばかりに目が行ってしまう。
結果、残念な事に〝今〟を見過ぎていて〝未来〟を考える余裕が出来ていない。だから〝子供〟の現状すら報告が上がらない……というか、上がっても目に入っていない人が多いのだろう。
「確かにこんなのは余裕が出来る状態だからこそ考える事が出来る話だけど……組織ってより国作りみたいな処も有るからな。その場合は、それこそ百年や千年先も考え、人の事を見ながら色々と計画しないと」
「有名な武将の言葉に〝人は城、人は石垣〟ってのがあったよね。ただ、その人が言う人ってのは〝甲斐の人〟の事だったって話だけど……」
「ま、他国の人間は敵だからな。そう言った意味でいうなら、今の状況もある意味一緒なんだけどね」
現状、俺達の場合はこの探索者協会を設置した土地が領土と言っても良い。となると、同盟国に伊勢や忍者の里がある。
そしてそれ以外は? 見知らぬ国か敵国と言う判断をせざる得ない。……何せ、接触した相手は襲撃を仕掛けて来ている奴等が多いからだ。
人同士の戦いとなるとだ。相手を人間だと思うと、戦う人達のストレスは半端なく重いモノになってしまう。
だからこそ、宗教などだと「奴らは異教徒だ!」などと叫ぶし、日本の歴史においても「錦の御旗」と言う大義名分を掲げた訳だ。そうする事で、相手を〝人では無い〟と設定し叩き潰せるから。
「とは言え、生物学的には〝人〟なんだけどな。……まぁここ数年は自分が、と言うか探索者と言う存在が〝人〟なのか怪しくなってきてるけど」
「それこそ子供の話じゃないけど、「自分達が新人類だ!」とか言い出す人が居てもおかしくないよね」
それだけの〝力〟を手にしてしまったからな。たとえそれが、自分達の身を守る為に手にしたモノだとしても。
「その兆候を見せた探索者もいたしなぁ。まぁ、彼はゴブ肉とかの拷問を受けて調教されたそうだけど」
「外の人達も大概だよね。とくに宗教関連の人って「神に選ばれた!」とか言っているみたいだし」
あれ? こう考えると、子供達の事を報告するのって実はかなり遅すぎたのでは? と思わなくもない。
ただそれでも、まだまだ修正が効くタイミングではあるのだから、全く意味が無いという訳では無いと思う。
「今一度、何の為に力を手にしたのか考えて欲しいよなぁ……宗教の人達も侍の真似をしている人達も、元々は自分や身内にその周囲を守る為の行動だっただろうに」
「大崩壊時に精神が病んじゃったのかな?」
「あの狂戦士っぷりを見ると、その可能性も否定は出来ないけど」
モンスターの大量氾濫。そして其処から薄暗い地下での集団生活。ぶっちゃけ、これだけでも精神が病んでしまうのは致し方が無い。
俺達の中にも病んだ人は沢山居たからな。ただ、カウンセリングで何とか持たせ、地上を奪還してからは日の下でゆっくりと養生した為か、今では元気一杯に走り回っていたり、農業やら商売やらと普通の生活に戻る事が出来ているらしい。
だけど他の場所では?
坊さんが頑張ったり、力ある者が色々と制圧してきた可能性が高いんだよなぁ。
だからこそ、宗教色が強い勢力があったり、侍達があれだけタケノコのように生えながら襲ってくるのかもしれない。
ただ、同じような状況で生き残った人達なんだけど、それでも話し合いが出来たのが神職者と忍者達だったというだけなんだろう。
きっとその違いは、どれだけ上の人間達が変化したかによると思う。SAN値が削られていたり、利権などに目が眩みまくった場合は……話なんて出来ないだろうな。
「って事で、今いる子供達をそんな大人にしない為にも、もっと子供達とも交流しましょう」
「忙しいのにって思いはあるだろうけどね……少しずつで良いから協力を募らないと。今は探索者よりも、ゆいちゃん達が頑張ってるしね」
「ゆいは探索者じゃないからなぁ。ダンジョンの事や外の事なんてしらないしな」
テイマー資格を取った人達が、そう言った方向で頑張っている。ただこれは、モンスターと人の共存をもっと確実なものにしようという意味でやっている事なんだけど……それが、ある意味子供達の教育に一役買っていたりする。
情操教育ももちろんの事、本来モンスターがどれだけ恐ろしいかという内容、村のモンスター達と共に避難訓練、体を作る為の運動などなど、その効果は多岐に渡っている。
塞ぎ込んでしまった子のメンタルケアも可能だしな。……村内のモンスター万能過ぎないか?
とまぁ、そんな訳だからか、実は子供達に今一番人気の職業は? と聞いたら、探索者よりもテイマーと言う答えが多くなる状況だったりするらしい。
将来の探索者人口が……。まぁ、テイマー試験ってめっちゃ難しいから、その関門を突破できる人は少ないんだけどね。探索者でモンスターと行動する方が、よっぽど楽だったりする。ただし、色々とそれも面倒な手続きなどがあるけど。
「少し探索者ってか協会にプレッシャーを与える必要もあるよなぁ……今だとどれだけ落ちても、なんどもテイマー試験に挑戦をしかねない世代が誕生しますよーって」
「稼業を継ぎながらテイマー資格を取るとかもできるしね」
「「俺はテイマーの頂点に立つ!」ってこの間子供が叫んでたんだよなぁ……ゆいが良い笑顔で「かかって来なさい」って挑発してたけど」
「……それ、絶対にテイマーの人口を増やそうとしてるよね」
テイマーも現状は職員不足だからな。村ではその人数を確保出来てはいるが、これが他の拠点だとそうも言っていられない。
だから、現状だとモンスターの飼育施設。子育てゾーンとでも言えば良いのかな? それがあるのは村だけだ。とてもじゃないが、他の拠点に子モンスターを育てる事が出来る場所を作れる余裕などない。赤ちゃんの面倒を見るなどもっての外だ。
赤ちゃんウルフとか、めっちゃ可愛いんだけどね。
とは言え、可愛いだけで如何にか出来る存在でないのがモンスター。
育て方を間違えれば、その牙は人に向いてしまうだろう。ただただ可愛がって育ててしまった場合、主人以外の人は敵! と、モンスターが判断してもなんらおかしくはない。……だからこそ、テイマーとなるには壁の高い試験があると言う訳なんだよね。
可愛くても、心を鬼にしなくてはならない時があるのだから。
「青田買いとでも言うんかねぇ? ゆい達テイマーの行動早すぎるだろ」
「子供の内からテイマーになるようにと仕向けてるって事だもんね」
本当、こればっかりは外に目が向きやすい探索者には気が付きにくい話だ。
俺や美咲さんに気がつく事が出来たのは、双葉やイオを孤児院に送っていたからって裏があるんだけど、子供達の事について考えてから少し詳しく調べてみたんだよね。
ただ、探索者や協会ってこの手の事は結構呑気に考えている節があるからな。呑気と言うより自信があるとでも言うべきだろうか。子供達は将来的に「探索者になりたい」と言い出すなんて考えているんだよなぁ。
と言う事で、現状のレポートという追記も記載しておくとしよう。
子供達は〝テイマー〟へ憧れを持っていますよ。こう俺や美咲さんがこう書いておけば、もう少しは現実が見えて来るんじゃないかな。
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一つの事に気が付いたら、次から次にと報告する事が増えて行く現状。まぁ、それだけ色々な問題が山積みというか、後回しにされているんですよね。致し方のない事なのですが。
そしてさり気なく抜け目のないゆいちゃんとその仲間達。
彼女達は常に子供と触れ合っていたという事も有るからこそ、色々と見えていたモノがあるのでしょう。




