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六十八話

「ふと思ったんだけど、シェルターであんなモンスターが出るなら……ダンジョンがあった場所って、どんな風になってるのかしら?」


 協会にて、シェルター攻略についての最後の詰めをしている最中に、品川のお姉さんがそんな事を言い出した。


「あー……ダンジョン奥地からどんどんと湧き出たのだとすれば、ゴリラ型よりも恐ろしいのが居てもおかしくないな」

「そうじゃのう……ゴリラ型に関しては弱点が見つかったのじゃから良かったがの」


 入谷のお兄さんや爺様もお姉さんに続くように、ダンジョンがあった場所に対しての問題点を口に出している。

 まぁ、確かにその通りだよね。ダンジョンに通ってた時に、豆柴や猿型に雀蜂なんて見たことが無かった。あぁ、熊や猪もかな。

 別のダンジョンから来たというパターンもあるだろうけど……一番近いダンジョンが俺達が通ってた場所で、それ以外はかなり遠い。まぁ、二年の月日が経ってるからな、遠くまで来れない訳じゃないけど。

 ただ、あのダンジョンの特性から見て、豆柴と猿型はダンジョン奥から出てきてたとしてもおかしくない。

 そうなるとだ……ゴブリンやオークは如何したんだろうか? という話も出てくるけど、恐らくは違う方向に向かって行ったのかもしれないな。


「街を取り戻しても……ダンジョン側からモンスターが押し寄せてくる可能性があるか」

「違うモンスターの縄張りから気配が消えればじゃが、ありえる話じゃのう」


 課題が増えたようだ。まぁ、街を開放する理由はシェルターの中に居る人の安否だから……最悪は街の放棄になりそうだな。


「まぁ、先ずはシェルターの確認だね。研究班からは水の散布機の準備が出来てるそうだから!」


 入谷のお兄さんが、暗い空気を吹き飛ばすように道具が出来たと話題を変える。

 しかし、その水は何処から持ってくるのだろうか? 川で水を大量に用意でもすれば良いのだろうか。


「とりあえず、使い方は聞いてるから大丈夫だよ!」

「どんな感じで使うんですか?」

「川に設置した後に、ホースを伸ばして撃ち込む感じかな? あれだ、消火栓をイメージしてくれれば良いよ」


 川にポンプを仕込むって事か……まぁ、川から街まではそう遠くないから使えるか。


「で、幾つあるんです?」

「時間の問題で二機かな。まぁ試してみたけどかなりの放水量だったよ」


 二機のポンプから水を一気に飛ばすか……初級の水魔法を数人で連射するよりは随分と良さそうだな。まぁ魔法使えるの俺のみって話だけど。


「後は、メンバーについてだけど、前回の雀蜂の巣を討伐したメンバーと数名増やす感じかしらね。」

「妥当と言ったところか。熊であれば一パーティーでも十分狩れる様になったしな。まぁ散布機は俺のパーティーメンバーに任せておけ」

「キャンプ用の道具とかも準備してあるから、何時でも行けるよ」


 さて……俺の役割は毎度の事ながらイオと遊撃だな。


「で、遊撃って言っても大まかな指示だけでも欲しいんだけど」

「現地に行かないと解らない事があるからね。まぁ裏側に回って貰うか、森の中に潜んでいるのが居ないかの調査かな? まぁ、それに出る前に地面を、色々弄って貰ったりはするけど」


 俺等からの情報を精査して、ゴリラ型でも濡らして足止めをすれば、十分戦える算段という事だ。

 戦闘経験がある美咲さんも、後方から弓で戦う要員として入ってるから、多少問題が起きても対処できるだろうな。


「まぁそれでも……ゴリラ型が四匹から五匹だった場合だけどな」

「あー……もっと居る可能性があるんだよね、まぁ、其処は戦闘前に調べるつもりだし、現状の案は現地に行く前までの一応の予定だから」

「そうですね。あぁ後は森に入らないでくださいね」

「おう、其れに関しては遠征パーティーに口うるさく言っておくさ」


 森の中なんて、モンスターの土俵だからな。そんな場所で、狼・猿・ゴリラの相手なんて無謀に近い。


 打ち合わせも終わり、物資や装備のチェックをしてから遠征に。

 イオの前では妹達以外にも数名が集まっている。うん、今回は数日戻らないことが確定してるから、皆がイオを構い倒してるな。


「あ……お兄ちゃん、もう行くの?」

「そうだね、ほらイオから離れて」

「むぅ……兄さんのケチ」

「ケチじゃない、お仕事だからね」


 まぁ、そんな事を他の人達も言っているが、遠征する理由も知っているので言葉とは逆に、イオを一撫でしながら下がっていく。


「えっと……皆、気をつけて」

「お兄ちゃん、イオちゃん、えっと……皆、がんばってね!」

「あいよ、行って来ます」


 応援を受けて出発する。うん、千切れんばかりに手を振ってる村の人達に、皆が偶に振り返って手を振り返してるな。この人達もしっかりと村の住人になったなぁとしみじみ思ってしまう。




 これだけの人数で遠征しているからか、道中はモンスターが現れることが無く進めた。

 とりあえず、豆柴が居るゾーンは昼のうちに抜けておきたいので、通常とは逆で最初にスピードを出して進んでいく。

 ただ、人数が居る事と荷物の関係で進む速さは遅い。まぁ、身軽に二人と一匹で行った時と比べるのもおかしいけどね。


「ただまぁ……このペースで行けば。夜までには橋まで行けるかな」

「モンスターとの遭遇も無いですしね」


 そんな思いが通じたのか、何事も無く夜までに橋に到着し、全員でキャンプの準備を終わらせて、食事をしながら明日の予定について話をした。


「明日はだ、まず橋を渡ってからポンプの設置をする。その後は速やかに街の前まで進むぞ」

「あー……ホースに関してだけど、巡回してるモンスターが居ると思うんですけど」

「其れがあったな……まぁ、その点はイオ君と白河君で調べれるかな?」


 ふむ、最初の任務だな。とはいえ、前回倒しちゃってるからな。もしかしたら巡回も強化されているかもしれない。巡回してる奴にホース見られたら、壊されるだろうからな。……あぁそうだ、ホース地面に埋めれないかな?


「ふむ……ホースを埋めるか。出来るのかな?」

「たぶんですけど、ある程度の範囲埋めておけば見つからないかと」

「可能性の問題か……まぁやらないよりは良いか」


 とは言え、これで土魔法の使用が増えたな……さて、明日から色々と動きが大きくなるな。




――シェルター内部――


 周囲が揺れる。揺れるたびに、其処にいる人達がヒィと声を上げる。


「一体どうなってるんだ! 地震とは違う揺れだぞ! 外で何かが起きてるはずだ!」


 自衛官だった男が原因究明の為に部下に指示を飛ばす。

 シェルターでは、外に出なくても外の様子が見れるようにしてあり、数名の部下が必死に其れをのぞいて、状況の確認をしていた。


「外で戦闘が起きてます! ただ、モンスター達が何と戦っているかは解りません!」


 部下の一人が、外でモンスター達が戦闘中だと報告。そして其れを受けた隊長格の男が悩み出す。


「戦闘だと……仲間内で何かが起きて仲間割れでもしたのか? それとも、違うモンスターが進入して縄張り争いでも起きたか? どちらにしても、我等の戦力では外にでるのは問題だ。様子見が一番だが、シェルターの扉が破壊される可能性は……よし! 兎に角だ、扉前で防衛ラインを引け! 後、外の監視は続けろ!」


 指示を受けた者達は、元々自衛隊や警察だったメンバーだ。命令を受けたと同時に即座に動き出し、数分で防衛ラインを作り上げた。


「さて……これでシェルターの扉が破られても、好き勝手はさせんぞ」

「リーダー、もし破られたら如何しますか? 此処で防衛ラインを張っていても……その」

「あぁ……それは解ってる。何時かは全滅するだろうな。ただ、今はやるしかないだろう? 後の事は守りきってからだ」


 唯一残った彼等の使命が守る事。その為に、今は外の変化に対して直ぐ対応できるようにと、彼等はシェルターの扉の前にて、武器を持ち息を潜めていた。

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