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六十七話

 整備に出した装備が返ってきたので、豆柴の調査のために深夜の外出。

 誰かを連れて行く事はせず、久しぶりと言えるソロでの行動だ。……まぁ、一人の方が逃げる時とかも楽だからな。

 イオだったら連れてきても良かった気もするけど、そう何度も村から離れていたら、縄張り主張の効果が薄くなっては困るので、今回はお留守番。


「さて……夜だからな、昼よりも注意しないとモンスターに直ぐ気づかれるだろうな」


 モンスターとは言え、ベースが狼なら基本は夜行性と見るべきだ。猪の場合は……人とサイクルをずらす為に夜に行動するとかって話らしいから、基本強者たるモンスターであれば昼行動してるだろう。熊は……どっちでも行動するからなぁ。

 とりあえず、視界も悪いし昼以上に注意するべきだろうな。


 そんな訳で、森の中を静かに突き進んで豆柴の元へ向かう中、遠くからウルフの遠吠えが聞こえたり、虫の音が聞こえたり……何と言うか昼とは全く違う様子から、まるで別世界に紛れ込んだみたいだ。

 たまにあるウルフの気配も、ちらっと様子を見ては去って行くので戦闘をする気配すらない。

 熊にいたっては、気配すらないようだ。

 雀蜂の巣を攻略してから、結構モンスターも戻ってきてるはずなのに……やはり豆柴がいるからか?


「そろそろ目的地のはずだな……何かあったりするかな」


 観測ポイントに着いてから、双眼鏡と武器を準備。

 周囲にモンスターなどの気配が無いかを探ってから、双眼鏡を覗き込んでみる。


「……豆柴ねてるじゃん。夜も動かないのか?」


 気持ち良さそうにすぴすぴと寝ている豆柴を、双眼鏡越しで観察する。

 本当に……あいつの行動時間は何時なんだろうか? まぁ避難所攻略作戦までは時間があるし、食料やらは持ってきてるから、少し此処で様子見しますか。


 念の為に持ってきた望遠ビデオで、豆柴にピントを合わせてから録画を開始しておく。

 同時に周囲を警戒しながら、偶に豆柴の様子を見る。……が、一切動く気配がない。


「本当にアイツは……食べなくて良いのか? そんなモンスターが居る? なら、どうやって存在してるんだ」


 可能性があるとすれば、食い溜めが出来るパターンか、後は何がある? 霞でも食ってるのか? 仙人でもあるまいし……って、モンスターだったら魔力的な何かを取り込んでいるとか? そんな事ありえるのだろうか……調べるにしても、豆柴に手を出さないといけないとなると、難しい話だな。


 あの豆柴は存在感がおかしい、それはあの街が在った場所に居た、ゴリラと戦ってから更に感じるようになった。

 それこそ、ゴリラ型モンスターの存在を三倍位にした何かがある。

 だからだろうな、体や心やら様々な器官が、絶対にこれ以上近寄るなと警戒している。


 そんな事を考えてたからだろうか? 豆柴がピクッと微妙な動きを見せた。


「……やばいか? 最悪ビデオは破壊されるのを覚悟して、このまま録画しておくとして、少し下がるべきか」


 嫌な汗がでるな……とりあえず、音を出さずに少しずつ下がりながら、様子をみるしかない。


 少しさがって、双眼鏡を覗く、また少し下がって、双眼鏡を覗く。何度か同じ動作を繰り返した時、ふと豆柴の片目が開いた。

 思わず唾を飲み込む。……やけにゴクリと言う音が大きく感じるな。


 ふと起き上がった豆柴が、プルプルと震えてから、あたりを見渡し出した。……こっちに気が付くなよ? と願いつつ、武器を握る手に力が入る。


 ふいに俺が居る方向とは反対側に豆柴振り返り一鳴きした。


「ワン!」


 吠えたと同時に周囲に風が渦巻いたかと思うと、その風が吠えた方向を切裂いていく。


「嘘だろ……あの豆柴は風魔法使うのかよ」


 それも、俺が使う初級とは段違いだ。初級では一気に切裂いて進む風なんて作り出せない。であれば、アレは中級以上の魔法になるだろうか。

 モンスターが中級以上の魔法を使った……実に嫌な話だ。っと、今はどうなってるかを調べる方が先だな。


 豆柴の魔法は、その先に居た熊型モンスターの首を容易に切り落としていた様で……その死骸がゴロリと前のめりに倒れていく。

 そんな熊の死骸など、どうでも良いといわんばかり切裂いたかと思うと、豆柴は熊型モンスターが持つ魔石を……丸呑みした。


「……魔石を飲み込んだ? 他の肉とか無視して?」


 俺は何を見たんだ。魔石を喰うモンスター? もしかして肉を食うよりも燃費が良いのだろうか。其れにしては、イオは魔石を求めた事が無い。何が違う? イオと豆柴の違いは何だ?


 俺が悩んでいるうちに、豆柴にとって他はどうでも良いのか、何時もの場所に戻った後に、またクルリと丸まり眠りだした。


「あ……あぁそうだ録画は出来たかな?」


 ふと録画の事を思い出して、映像が撮れていたか確認する。


「……よかった、撮れてる」


 それにしても、あの距離で熊型に気が付いたのであれば、俺の存在も……察知していたはずだ。

 何故スルーしたんだ? 豆柴との距離? それとも魔石の有無? 敵意があったかどうかと言うのも、可能性があるか。

 駄目だな、解らない事が逆に増えすぎた……解ったのは、豆柴が魔法を使う事と魔石を食べる事ぐらいか。

 とりあえず、録画も撮れたし撤退しよう。はっきり言ってあの豆柴には、人数を集めても戦力が足らないな。




 村に戻ってからは少し休んで、日が昇った後に協会へ。


「お姉さんコレ」


 協会に入ってすぐに、録画したビデオをお姉さんに提出する。


「え、えっと行き成りね。とりあえず見ればいいのかしら?」

「はい、貴重な映像を手に入れたので」


 直ぐ見ろ! と、お姉さんを急かして映像を確認させる。まぁ、確認してもらわないと話が進まないからな。


「……また、凄い映像ね」


 例のシーンを見たお姉さんが額に手を当てながら、他の人にも見るようにビデオを手渡ししている。


「まったく……頭が痛くなるわよ。こんなのが村の近くに居るの? 因みに聞くけど、白河君の風魔法でアレは出来るの?」

「無理ですね、俺のは初級なので……豆柴のは最低でも中級かと」


 映像を見た他の職員や戦闘班は……うん、顔が真っ青になってるな。まぁ、熊の首を一撃で切り落としてるからな。


「戦う事になったら勝てるかしら?」

「現状では……俺には無理ですね」

「戦闘班に聞くけど、総動員したらどう?」

「白河やイオが居ても……勝率は二割から三割ぐらいか? 映像を見る限り、魔法だけじゃなく、速度も異常だぞ……イオよりも速いんじゃないか?」


 寝てばかりいた豆柴の、その異常性が映像越しではあるが、今回はっきりした事を全員が認識した。


「とはいえ、現状であれば……あの豆柴は俺に向かって来ませんでしたし、寝床からも移動しないみたいですから」

「そうね……今は問題なさそうよね。まぁ、動き出したら大変でしょうけど」

「それまでに、戦闘班の強化に装備の充実。後は、街の開放を急ぐしか無いかと」

「そうね……まぁ後は効果があるか判らないけど、豆柴がいる方向のトラップゾーンの強化もしましょうか」


 急ぐ理由が増えたようだ。

 とりあえずは、街の開放が優先だったけど……その為にやっていた準備を急ぐ事になりそうだ。


「そういえば白河君、水魔法に関してはどうなった?」

「雨状にするのは厳しいですね。それをやるぐらいなら、水玉乱射の方がまだマシです」

「そう、やっぱり手数が足らないわね……最悪、水鉄砲かしら?」

「バケツじゃ駄目なのか?」


 ……嫌どっちも無理でしょ。とはいえ、濡らす方法が無ければゴリラ型を倒すのが難しいからな。

 協会内部にて当分は、水を如何するかの話で時間が進んでいきそうだな。……せめて中級か水魔法を使える人が、もう一人居ればなぁ。

 とりあえず、婆様にでも水に関しての道具を頼んでおくか。

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