六十六話
「何ですって! それは本当なの!?」
村の協会に急いで戻った後に、すぐ報告をした。そうしたら、品川お姉さんの第一声がコレだ。
まぁ、叫びたくなる気持ちも解らないでもない……街がモンスターに占拠されてるなんて聞いたのだから。
「……それで、シェルターや避難した人は無事なの?」
「それは解りませんでした。流石に街の中の探索までは出来ませんでしたから」
「そ、そうよね……はぁ、それにしてもモンスターが街を占拠ね」
お姉さんが少し落ち着いたみたいだから、モンスターについて話を進めていく。
ゴリラっぽいモンスターが、川向こうの森で見かける猿を率いている事。さらにその猿が狼に騎乗して戦闘をする事。
ウルフライダー達が縄張りをぐるぐると警戒しながら周っている件と、それの数が恐らく大量に居るであろう事。
ゴリラ型のスペックが高く、攻撃力と防御力が桁外れだが、弱点が水で濡れると武器が通用する事。
「うーん……話を聞くだけでも面倒なモンスターのようね」
「知恵も回るようですからね。何せ俺達が警戒してる奴等を倒してから、戻らない部隊に対しての調査を早い段階で出たようですし」
「群れるだけでも面倒なのに……まぁ、弱点が解っただけでも良かったのかしら」
「そうですね……ただ問題はどうやって水を当てるかでしょうか」
「水魔法じゃ厳しいかしら?」
「敵が多いとなると……かなり厳しいかと」
ゴリラの数はあの時に見たのは五匹。討伐したのが一匹だから、最低でも四匹居る事になる。
そのゴリラ達が自由に動ける状態で、防御力が低下するまで水をかける? あのスペックのゴリラ達を? それは無理だろう。罠に嵌めてやっと一匹に対して出来た内容だ……最低四匹を同時に罠に嵌めてから、動きを鈍らせて水をかける作業なんて難易度が高すぎる。
「そう……最低でも残ってるのが四匹ね」
「確認出来た数ですからね……調査に一匹出てこれると考えれば、倍以上居ても驚きませんよ」
「そう……とりあえず水に関しては色々考えておきましょうか。白河君は……そうね、水魔法について色々試しておいてくれる? 広範囲に散布する方法とか、どれだけ連射が出来るかとか……そうね、雨の様な感じで降らせるかとかも」
「あー……そっちは確かにやったこと無かったですね。今までは攻撃力か罠に使えるかしか調べてませんでしたから」
「後は技術班と話をしながら突き詰めるしかないわね……はぁ、シェルター内部が無事だといいんだけど」
まぁ心配するよね……あのシェルターには、お姉さんの同僚とかも居るはずだから。
しかし、何故あのゴリラは水に弱いのだろうか? 水を嫌がるとかそういった類は猫系とかだよなぁ。あいつ等って暑さ対策で水に浸かったり、ごくごくと飲んだりしてるのに。
「しかしモンスターだからなのかしらね? 水が弱点だなんて」
「謎ですよね。もしかしてですけど、魔法やポイズンウルフなんて属性的なモノもありますし……そっち関連なんですかね」
「属性ねぇ……まるでゲームね」
「魔法がある時点で、サブカルチャー的な要素は否定出来ませんから」
お姉さんも引っかかってるみたいだね。ゴリラに対して水が弱点というのが。
ふとした思い付きで属性って言葉を出したけど、もしかしたら間違ってないかもしれないな。
「あぁそうだ、ゴリラの魔石がありますし、研究班に属性について調べてもらいませんか?」
「……あの研究班なら直ぐ調べちゃうそうよね。Pウルフに関しても早い段階で調査を進めてたみたいだし」
他にも、ワニの魔石の特性や、この間大量にゲットできた雀蜂型の魔石についても、調査が進んでいるからな。
通常の雀蜂型はPウルフよりもその毒性が強く、その特性は麻痺に特化しており、女王に関しては麻痺に加えて溶解の効果もあるようだ。
実に恐ろしい能力だが、そんな蜂達の部位も徹底的に研究され、武器や道具の開発が進んでいる。
「……雀蜂型の武器とか使えないですかね?」
「それは、まだまだ途中段階みたいよ? ゴリラ型の素材も調査して貰うとなると……時間的に厳しいかもしれないわね」
徹底的な準備とシェルターの確認の天秤か。今は無事だったとしても、何時あのモンスター達に進入されるかの問題もあるからな。
既に地上部分が制圧されている以上、シェルター内が安全地帯とは言えないなら、なるべく早く討伐しておきたい。
「まぁ、なるべく準備は万全になるように研究班には頑張ってもらいましょう。はぁ……ブラックだわ」
「ははは……それじゃ俺は水魔法について調査してみますね」
どんよりとした顔のお姉さんに挨拶をしてから協会を出る。
まぁ、水魔法について調べるにしても、今日は帰宅したばかりだし明日でいいだろうな。
とりあえず、美咲さんには道具の返還と整備依頼をして貰ったから、もうやることは無いはずだし、帰宅しよう。
帰宅すると、ブラシをもった妹二人が飛び出してきた。
「「お帰りなさい! 早かったね! イオちゃんは!」」
「お……おぅ、ただいま。イオなら何時もの寝床でゴロゴロしてると思うよ?」
妹二人のパワーに押されたよ。ゴリラのアッパー以上の威力じゃないかこれ?
「そっか! お兄ちゃんイオちゃんの所へ行こう!」
「兄さん、護衛お願いね!」
村の外に出るから護衛は必要だ……だけどさ、お兄ちゃんは今帰ってきたばっかり何だけど……そこは考慮してくれないのかな?
「「ほら! はやくー!」」
……うん、まぁ外に出てもモンスターの危険はトラップゾーンのお陰でほぼ無いしな。武器は……スコップを一応もっていけば良いか。
「はいはい、それじゃイオの所に行きますか」
そう言って妹二人の後を追いかけようとすると、後ろから爺様と母さんから何とも言えない視線が来る。
「はは……ただいまを言う前に行ってきますだよ」
「……ゆりとゆいの事お願いね」
「気をつけて行って来るんじゃぞ」
まぁ、こんなモノだよね。
うん、日常に帰ってきたって感じだよ……村から出かけて一日も経ってないけどさ、ゴリラ型とか内容が濃すぎなんだよね。
とりあえずは、結果待ちかな? 協会や研究班に任せる事は任せたし、結果が出るまでにやる事は水魔法のチェックと豆柴の調査かな。
とりあえず装備の点検が終わったら夜中に見に行って来るか。
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