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六十四話

 狼にのった猿が、道を挟んで左側の森から右側の森へと走っていく。

 丁度良い具合に道の左右に森が出来ているのは……この二年の影響かな。


「なんとも奇妙な……共存でもしてるのか?」

「これが動物園とかだったら可愛いって黄色い声が上がる気がするけど……モンスターだよね」

「ミャー!」


 此方に気がついてないからか、悠々と渡って行くモンスター達……便宜上ウルフライダーとでも言っておこうか。風のお陰で嗅覚を刺激してないのか? まぁ橋の上という状況だけど、バレていないなら静かにしておくべきか?


「さて……モンスターの数多いけど如何する? 気がついてないから奇襲は成功すると思う」

「そうだね、でも数がどれだけ居るかも問題じゃない?」

「確か……右側に渡った数が六組ぐらいか? それぞれの数だと十二匹か。今渡ってるのが、三組で、左側にまだ居るかどうかだな」

「ミャン!」


 イオが左側を見て首を縦に数回振っている……まだ居るのか、という事は首を振った数が残ってる数か?


「イオ……五回首を振ったけどそれは五組居るってことで良いのか?」

「ミャ!」


 縦に一回……五組か、なら合計数が十四組になるのか。二人と一匹で戦うには少し面倒だな。


「どうする?」

「そうだな、とりあえずは五組が移動するまで待とうか」


 さてと、奇襲するなら先ずはウルフを倒すべきだ。猿に関しては木の上でなければ脅威が少なかったが、ウルフに乗る事で移動速度等を補っているとして、攻撃手段なんだろうか? まぁ地面の上に落としてしまえば雑魚だ。

 ウルフの方はというと、ボスもポイズンも居ないただのノーマル編成……となれば、倒すのは楽と言える。


「やっぱ乗ってる事が問題だろうな、後は森の中に誘導された時か」

「森の中?」

「猿なんだけど、あいつ等が木の上から攻撃して来るのと連携が上手いからな。さらに狼と連携までされたら、地上と木の上からの攻撃で面倒になるだろうね」

「戦うとしたら……道が良いのね」

「そういう事、さて奇襲を仕掛けるなら最後尾の狼からだな」


 どうせ帰りも此処を通るし、その際に人を連れていたら護衛でまともに戦闘ができない。

 結局は討伐しか選択肢が無かったな。


「美咲さんは最後尾の狼を狙って、俺は……其の前にいるだろうニ匹を狙うから。上手くいけば三匹の狼が討てるけど、まぁ動けなくするぐらいでも十分かな」

「了解、イオは?」

「待機というか、此処で突撃してきた奴を抑えてほしい」

「ミャン!」


 さて、イオのやる気も十分だし、先ずは先制攻撃で五匹中三匹の脚を減らしますかね。

 ありがたい事に、右側に渡った奴等はライダーモードから木の上と地上に別れてる。それなら、態勢を整えるのに時間が少しあるはずだ。




 三匹が渡り終わった後に、左の森から五匹編成がぞろぞろと出てくる。しかし何故六・三・五の編成で渡ったんだ? もしかして三匹は弱いとかそういう事か? ふむ、地上にでたモンスターは同種族でも差が出るのかもしれない……要チェックだな。


「さて……そろそろ良い狙い目の位置を通るな、美咲さんいける?」

「何時でも!」

「よし、ならカウント後行くよ」


 両手に貫通タイプの鉄串を持つ……三。

 深呼吸をしてから相手を見据える……ニ。

 風の魔法を鉄串に纏わせる……一。


「攻撃開始!」


 美咲さんが放った矢が最後尾の狼の首筋を射抜いた。こっちの鉄串ニ本は、後ろから三番目の狼の下半身を撃ち抜き、更に其の後ろにいる狼の頭を砕いた。よし、先ずは最高の結果だ。


「美咲さんは、右の森に速射で!」

「OK!」


 すぐさま美咲さんが矢を乱射する。お陰で右側の森入り口では、猿が狼に乗るのに手間取り十分に時間が稼げているな。


「鉄串ワンモア!」


 向きを変えて突撃しようとしてくるライダーの片方を鉄串で撃ち抜いてから、もう一本は落ちた猿を狙う。一匹はスルーしてイオに任せる。

 今回はイオの機動力の為に、水魔法で地面を泥沼にはしていない。なのでイオが猛ダッシュで残った一匹のライダーに向かって飛びかかっていった。

 ふむ……ライダーの猿の攻撃は、どうも棍棒を振り回してるな。


「あ……猿がライダーモードからジャンプしてイオに襲い掛かってる? まぁイオなら十分に避けれるけどさ、落下地点にウルフがすぐさま移動って事か。あれか? 地上と空中から同時攻撃みたいな感じだな」


 サーカスな戦い方だな。とは言え曲芸みたいなものだし、一度見てしまえば十分に対策は取れるな。猿のジャンプで上を見れば下からウルフが、ウルフに注目すれば猿が上からってだけだし。


「まぁ目の前のはイオに任せるとして、こっちは森側のを狙いますか!」


 鉄串と風魔法でウルフを狙いつつライダー化の邪魔をするが、すぐさまウルフも猿も木の後ろへと隠れていった。


「あら、隠れちゃったか」

「そうだね……でも、森側のウルフは三匹倒してるよ」

「そうなると残るウルフは五匹か、猿には被害が無いみたいだけど……隠れてライダー化か?」


 まぁライダー化されてもネタが割れてるからな。其の前にたどり着かせないようにすれば一番いいけどな。


 森がガサガサと動いた後、五組のライダーがバラバラに飛び出してきた。ジグザグに走ってるし、此方の射撃を避ける気でいるみたいだな。


「さてと、美咲さん出てきたけど出来る?」


 聞くのとほぼ同時に美咲さんから矢が放たれたが、一発目は狼がサイドステップで回避。すぐさま逃げた方向へと矢が飛んでいき、上の猿の肩を射抜いた。


「あら……猿に当たったよ」


 狙い撃ちじゃなく連射だからか、狙いが甘かったらしいな。


「まぁ当たるなら十分でしょ!」


 こちらも鉄串を狼に向かって撃ち込む! 風魔法で撃ち出された鉄串だよ? 避けれないようにしてあるに決まってるじゃないか。

 ウルフがジャンプで回避しようとした所に軌道を変えて突き刺す。それもニ匹同時にだ。


「って、ウルフを射抜かれた猿がジャンプで移動して、猿を落としたウルフに飛び乗ってる!?」


 なんという曲芸だろう。こいつらサーカスなら大人気になれるんじゃないか? まぁモンスターだから倒すけどさ。

 まぁこれでライダーは三組だ。ただ距離的には遠距離攻撃はお終いだろう。

 何時ものポールウェポンを取り出してから、魔法の準備。


「さて、美咲さんは接近戦いける?」

「もちろん!」


 美咲さんの接近戦の武器はランスか。でもそのランスって……馬上用だよね? 騎乗もしないのに突撃するのか?


「ん? あぁこの槍? 突きと打撃に丁度よかったから」

「……打撃って、ソレでぶん殴るの?」


 うわぁ、凄い笑顔で肯定してる。まぁ叩き潰すとかできそうだけどさ。


「うん、まぁ今は目の前に迫ってる敵だな」


 彼女の武器選択については……見なかった事にしよう、視界には入ってるけど。

 さて、ライダーが三匹であれば、俺と美咲さんに戦闘を追えて後ろから迫ってるイオで一対一だ。


「それなら、断然こっちが有利だよな!」


 土魔法で石玉を三つ作ってから、其々のライダーに向かって撃ち込む。

 左と右と後ろへジャンプするライダー達。よし綺麗に分断できたな。


「さて、俺は左に飛んだ奴を貰うかな!」


 宣言どおり、左にステップしたライダーに向かって突きを打ち込む。猿が当然ジャンプで回避するけど……狙ってやったからな?


「ってことで、潰れてろ!」


 突きの後、ハンマー部分でウルフを狙って打ち下ろし! ノーマルウルフであれば、この武器なら突きからの振り下ろしでも十分に潰せる。


「さて、お猿さん? 着地する為のウルフはもう居ないよ?」


 空中にいる猿が焦っている。まぁ何時もの様に着地する心算だったみたいだからな。空中にいるのであれば、回避は羽でも持ってない限り不可能だ……って事で、猿に向かって突きを放つ。


「よっし! こっちは終了っと。他はどうかな?」


 うん、どうやらイオが一番最初に終わったみたいだな。まぁ後ろにステップした所にイオが待ち構えてたから、一撃で終わったんだろう。そんなイオは、残党狩りだと言わんばかりに森の猿を襲っている。


「やぁ!」


 掛け声と共にランスを振り下ろして、猿を狼ごと叩き潰す美咲さんが見える……ランスってそう言う使い方だったか?


「……ふぅ、終わったよ! っとやっぱり私がラストかぁ」

「いやいや、お疲れ様。某モンスターを狩るゲームみたいだったよ……それ騎兵槍だよね」

「うん、……馬いないけどね」


 まぁゲームがモチーフになってるだろう武器だからな。使い方は正しいのだろう。

 とりあえず、生きてる奴が居るかどうかチェックしながら素材を取っていくか……。


「ミャーーー!」


 イオが勝利の雄たけびを上げているな。あっちも終わったのか……さすがイオだよなぁ。


「イオちゃんが凄く嬉しそうだよ、尻尾が凄い振られてる」

「まぁイオが現状一番強いからなぁ……任せてばっかりにならないようにしないとな」


 素材を集めてからバックパックにしまった後に少し休憩を取った後、移動を再開。

 だけど、まぁ此処からだと割りと近いんだよね。




 歩き出して数分した頃に避難所が見え出してきた。


「はぁ……やっと着いたね」

「ミャン!」


 あれ? イオが警戒している……これは何かあるな。


「美咲さん少し静かに……イオが警戒してる」

「うん、わかった」


 双眼鏡を取り出して、イオが警戒している方向……避難所に指定された町の方に視線を向ける。


「……まじかこれ」

「どうしたの?」


 美咲さんに双眼鏡を渡して自分で見てもらう。


「うわぁ……これシェルターやその中の人は大丈夫かな?」


 美咲さんが気にするのも当然だろう。

 俺達が見たものは……人の住処だった場所を制圧している、大型の猿型モンスター達の群れだ。

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