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六十三話

 今日は遠征の日だから朝から忙しく動く予定なんだけど、昨日もしかしたら帰宅するのに数日掛かる可能性があるって言ったからか、妹達の視線が何とも言えない……朝食を食べてる最中もチラチラとアピールがあって、実に食べにくいんだけどなぁ。


「とにかく二人共、イオに会っておいで」

「……はっ! イオちゃん!」

「そうだった、行ってきます!」


 これでよし! 後は整備を頼んだ装備と協会で支給品を受け取るだけだな。


「ま、母さん行ってくるね」

「気をつけるのよ? いってらっしゃい」


 母さんと話をした後は、婆様の所で装備を回収しに行く。


「婆様おはよう! 装備は出来てる?」

「おはよう、メンテは確りとしてあるぞぃ」


 装備を受け取っていると、昨日一緒に整備を頼んだ美咲さんも装備を受け取りに来た。


「おはようございます!」

「おぉ、嬢ちゃんも来たのう。整備は終わっておるのじゃよ。」

「ありがとうございます」


 更衣室で防具を装備してから、軽く挙動チェックをしておく。

 そうしてると婆様が話しかけてきた。


「完璧じゃろう?」

「何時もながら完璧ですね」

「弟子達も張り切っておったからのう……まぁ遠征じゃから新しい素材でも期待してるのじゃろうがな」

「ははは……新しい素材ですか。あると良いとは思いますが、忙しくありません?」

「なぁに、奴等は研究が好き過ぎて飲み食い睡眠を忘れるからのう……研究を止めるほうが大変なのじゃよ」


 弟子はセルフブラックだったようだ。

 まぁ好き過ぎての行動だから仕方ないのだろうか? ただ、この先の為にも体を壊さない程度にはして欲しいものだ。


「よし! 私の方も完璧だったよ」

「そうかそうか、それはよかった。気をつけて行って来るのじゃぞ」

「はい!」


 さて……後は協会で物資を受け取らないといけないから、美咲さんと一緒に協会へと歩いて行く。


「そうそう、結弥君おはよう!」

「あぁ、そういえばおはようだったね」


 うん、お互い挨拶を忘れてたようだ。まぁ防具のチェックを優先してたからな。


「それでね、確認しておきたいけど……豆柴のチェックはどうするの?」

「あぁ、余計な事はしない様にするからスルーかな? まぁ此方に接近してたら別だけど」


 あの豆柴は定位置でいつも寝てるから問題ないとは思うけど、巣を排除して少し経ってるから変化があるかもしれないしね。細心の注意が必要なポイントだろうな。


「とりあえず、ルートは道があった場所を通って行くよ。豆柴は何もなければスルーで、他のモンスターは現状だとウルフ・猪・熊が確認出来てるから、その時によって対処は変えるかな? スルーできるならスルーで突っ走る。橋を渡ったら……猿かボスウルフとPウルフの群れが出るだろうから、それもその時次第になりそうだね。他に新しく出合ったモンスターがいた場合は観察からになるかな? まぁ出来れば避難所へ行くのを優先したいけどね」


 ルートやモンスターの事はこんな物だろうか? 後は有るとしても、見たことの無い植物やらの採取とかだけど……これは帰りに気が付いたらやっていく感じかな。


 こうして本日の予定を話しながら協会へと入っていく。

 受付には、いつもニコニコと品川のお姉さんが居るけど……戦闘班のリーダーもやっているはずなのに、何時休んでるんだろう?


「二人共おはよう」

「おはようございます、支給品受け取りに来ました」

「準備は出来てるわよ、とりあえず依頼票を出してくれる?」


 受付の隣には既に準備ができた支給品があるけど、まずは依頼票の提出だ。色々と物が足らないからこそ、こういったお役所仕事は重要になるからね。


「中身は確認しておいてね? こっちが目録だから。余ったら確り返却してね……と言うより、今回はスムーズに行ったら余る前提だからね」

「解ってますよ、最悪のパターンを想定した支給ですしね」

「そうそう……まぁ使われない方が良いけど、念の為だからね」


 とりあえず支給品のチェックをしていく。

 まずはアイテムバックパックが二個。次に寝袋やテント等キャンプセット。次に食料と水が一ヶ月分だけど、これは俺と美咲さんとイオのでの計算だな。最悪のパターンで人数が増えた時が本来の用途だろうけど……何と言うか、アイテムが大量に入るバックパックが二つ無かったら持ち運べないな。

 後は消耗品かな、魔石製のデバフボムに爆破魔石の二種類が……五個ずつか。


「結構な量出してません?」

「そうかもね、でもソレぐらい今回の件は重要度が高いって事よ」


 他の生存者が居るか居ないかを調べるって事だからな。その分の消費アイテム関連も充実度が上がるか。


「さて! チェックも終わったようだし、気をつけて行ってくるのよ」

「はい、行ってきます」


 協会でやり取りが終われば、イオの所へと向かう。道中は村の人と軽く挨拶……まぁ殆どが気をつけて! と言ってくれるから少しこそばゆい。


「さて……イオに二人ほどべったりと引っ付き虫をしてるんだけど」

「まぁ寂しいよねぇ」


 目の前では、妹達がイオをもふっている。一応村の外なので、戦闘班が側に居るけど、彼も困った顔をしているな。


「えっと……妹達がすみません」

「いやいや、いいよ。壁の外を警戒するのが仕事だからね」


 割とイオに会いに来る人が多いからイオ用の小屋は跳ね橋の側にあり、門番はイオの小屋周囲の警戒もやっている。まぁツーマンセルだから出来るけど、偶にその門番も交替しながら警戒といいつつ、イオをもふって癒されてるみたいだ。


「ほら二人共、イオから離れて」

「あ……もう時間?」

「えーもう少しもふもふしたい!」

「帰ってきたら一番に教えるから、ブラシでも持って待ってなさいな」


 プープーと頬を膨らましながらもイオから離れるゆいと、少し寂しげに離れるゆり。年齢の差かな? その割にはゆいが少し幼い気もするけどな。

 とりあえず、ゆいの頬は何時もみたいに挟んでプーと空気を抜く。ゆいは昔からこれが好きなんだよなぁ。


「えへへ、お兄ちゃん美咲さん気をつけて行って来てね! イオちゃんもだよ!」

「まぁ兄さんなら大丈夫だと思うけどね。イオちゃんも美咲お姉さんも怪我しないでね」


 涙目なゆいは撫でておくとして。

 少し俺に厳しいゆりは……信頼の証しだと思いたい。一種のツンデレか?


「何とも釈然としない所があるけど、ゆりもゆいも怪我とかするなよ?」

「それじゃ、ゆりちゃんゆいちゃん行って来るね!」

「ミャン!」


 妹達が手を振る姿を背に移動開始だ。……まぁ偶に振り返って手を振ったのはお約束。




 最初のチェックポイントの巣跡地までは何事も無く到着した。

 確認されていたモンスター達も姿を現すことが無く進んだのは、イオが居たからだろうか? 熊なら出てくると思うけど近くには居なかったって事か。


「さてと……イオ、豆柴は動いてる様子はあるか?」

「ミャン」


 首を横に振るイオ。ふむ……という事はまた寝てるって事か? アイツいつ行動をしているんだろう。


「……ねぇ結弥君。豆柴なんだけど、夜行動してるって事はないかな?」

「夜行性って事か? ふむ……」


 たしかに、調査をしている時は常に昼だ。此処に夜いたのも巣を攻撃した時の二晩のみ……可能性はあるが……。


「調べてみたい気もするけど、今は優先事項が違うからな。メモにでも書いておいてお姉さん達へ報告だな」

「うん、そうだね。今は先に進まないとね!」


 まぁ、美咲さんには良いヒントを貰った事になるかな? お礼は言っておかないとね。


「ま、それでも進展があるかもしれないからね。美咲さんありがとう」

「どういたしまして!」

「ニャン!」


 何故かイオも鳴いたが、これは彼女を褒めているつもりだろうか? 肉球で美咲さんの背中をぽんぽんしている。美咲さんも嬉しそうだしな。


 巣の跡地を二箇所を変化が無いか少し見て回ってから移動開始。

 特別な変化は何も無かったので、一安心と言った所だろうか。モンスターも何かが縄張りを主張したなどという事も無いので、現状はこのままキープできればいいだろう。……もしかしたら、豆柴の存在がモンスターを寄せてない可能性もあるけど。




 巣の跡地を背にして、本格的に未知の領域へと入っていく。

 次のポイントは橋が有る場所で、恐らくだけど此処までは何事もなく進めるはずだ。何せ雀蜂テリトリーに入るか入らないかというぎりぎりの場所だから。


「それにしても本当モンスター出てこないね」

「まぁ此処ら一帯は雀蜂型のテリトリーだったからね。まだモンスターが入って来てないんだろうね」

「縄張りかぁ……そういえば面倒なモンスターが縄張りとして入ってきたらどうするの?」

「あぁ……それはまた討伐隊を組むか、道を安全にする為に何かを開発するしかないだろうな」


 其のうち、道を整備して戦闘が出来る車か何かが必要になるかもしれないな。整備する道にも一工夫いるだろうし……大変な話になりそうだ。


「ミャンミャン」


 イオが尻尾を振りながら鳴く。どうやら橋の側まで来たようで、しかも側にモンスターは居ないという事だ。


「イオありがとう。モンスターの気配は無しか」

「疲労無しで来れたのはよかったよね」

「そうだな、後は橋が壊れてないと良いけど」


 そんな話をしながら進んで行くと周辺の森が開けた場所に出て、川が目視出来るようになる。

 それと同時に目に見えて来た橋は少しボロボロにはなっているが、十分に使える感じだ。


「あぁ……モンスターに破壊とかされて無くて良かったな」

「向こう岸に渡れそうだね……モンスター何が出るかな」

「上流と同じなら……猿と狼なんだけどな。まぁ違う物が出る前提で進むか」

「ミャン!」


 イオが元気よく前を進む。すぐフォローが出来るように美咲さんが続いて、俺は最後に移動。


 そうして橋を渡った先には……何だコレ? 狼に猿が乗ってる? ウルフライダー? ちょっと浪漫を感じるんだけど!

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