六十二話
雀蜂の巣を制圧してから村は平常運転となった。周辺の調査に防衛施設の改良や増設、他にも色々とあるけど大抵はこの二種類を軸に動いている。
資源の問題も、魔石については雀蜂の巣を攻略したからか一時的だけど充実した。石川の婆様は研究が捗ると楽しそうに弟子達を走り回らせている。
そんな状況の中、俺は協会で次にやる事の話し合いをしている。
「とりあえず現状で一番危険なのはコードネーム・豆柴ね」
「猿の方は良いんですか?」
「羽でもない限り、川越えは厳しいと思うから危険度は低いと思うわよ? まぁ警戒はするけどね」
雀蜂型の巣があった場所に何か面倒なモンスターが来ないか警戒しつつ、豆柴を遠目で調査しているが、現状は特に問題がない状態だ。
しいて言うなら、雀蜂のテリトリーが空いたからか狼に猪やら熊が少しずつ確認出来るようになった程度だろうか。
確認できるモンスターが村の周囲と変わらない為か、品川のお姉さんは豆柴が一番の警戒対象としているみたいだ。
「それにしても、あの豆柴はまったく動く気配がないからなぁ」
「不思議よね? どうやって食料を得たりしてるのかしら」
「カメラでも仕掛けれたら良いと思うんだけどな」
カメラを仕掛けるには、距離が遠いのと台数が揃わないのが難点だな……今あるカメラは、村の周囲に警戒網として仕込んだから数が全く足らない。
新しく作るにしても、資源が全く無い……今あるカメラは以前からあった物を改良した物ばかりだからな。
「豆柴については、足を運んでそのつど確認しかないでしょうね」
「……はぁ、漸く一パーティーでも熊が狩れるようになって来たって言うのに。問題が減ったと思ったら増えて、頭が痛いわよ」
「ワシ等がやっとる行為は、先人様が未開の地を開拓したのと同じ様な物じゃからのう」
爺様それは問題が次から次へと出てくるのは仕方ないって事かな? まぁ相手はモンスターだから問題の難易度が高いとは思うけど。
「そうねぇ……相手がモンスターじゃなければ知識が有る分、マシな点は多いわよね……モンスターが出なければ」
「そのモンスターも対策さえとれば資源じゃしの、エネルギー問題の解決もモンスター頼みじゃから問題を機転とするしかなかろう」
「うん、二人の話は解るけど……話題ずれてない? 今は次にやる問題解決はどれにするかじゃなかったっけ」
二人共、あっ! という顔をしないでよ。とりあえず話を戻しておいて、自分達の行動についての指針をきめておかないと。
「そうね……豆柴については一先ず横にしておきましょう。雀蜂の巣を攻略したのだから、ダンジョンがある場所までの避難所に寄ってきてもらえるかしら?」
「たしか……マイクロバスを貰った一箇所しか無かったかと思いますが」
「あー……そうだったわね。それなら其処の状況を確認してきてもらえるかしら」
シェルター周辺の状況次第では……まだ地下から出てないかもしれない。まぁそれなら良いんだけど、下手に外にでて全滅してました何て事が無いとは言えないからな。
「どういった風に動きましょうか?」
「そうね……シェルター内部に未だ居るようだったらソレはソレで良いわ。シェルターから外にでて色々と行動しているなら、接触して挨拶だけで戻ってきて頂戴。もし……壊滅しているようだったら、生存者の確認をしてから、動けるようなら村へと連れてきて」
「了解です。あー……因みに接触した際に相手から、救助やら助力の要望等が来たら如何します?」
「そうね、一度持ち帰りますで押し通して、あくまでも白河君は村に所属する人員だからね。村を運営する私達の指示で動いているって事にして明言を避けて頂戴」
「まぁこんな状況じゃからな、無茶な要望などされたら溜まらんわい。そういった交渉事はワシ等の仕事じゃて」
村でも資源や人手が足りてないからな、冷たい奴だと言われようが一線を引かないとやってられないか。
まぁそれなら接触しなきゃ良いのでは? という話になるかもしれないけど、情報の交換だけはやった方が良いから、接触するのは必要事項という事になる。
「それで、ダンジョンまでは行った方が良いですか?」
「行かない方向で、まずは避難所までの道の調査に、その場にいる生存者や施設の確認と報告を優先して頂戴」
「了解です。それで其処まで行く人員は?」
「足の速さの問題があるから……そうね、イオちゃんと美咲ちゃんでいいかしら? 当然、人がいた場合イオちゃんは隠れて待機だけど」
「それなら一人でも良いのでは?」
「調査を重点にしたいし、壊滅してたら……ね。その場合、イオちゃんがいた方が良いでしょう? 美咲ちゃんにはイオちゃんと一緒に隠れてもらって、イオちゃんが飛び出ないようにしてもらうストッパーかしら」
まぁイオが本気で飛び出たら誰にも止められ無いだろうけど、誰も居ないよりは相手をしてくれる人が居た方が良い。その中で足がついていけるのは彼女という事か。
ん? って事はダッシュ前提での指示だろうな。その日の内に情報が欲しい、もしくは壊滅後に生存者がいた場合の為か。
「とりあえず、シェルターまでは駆け足で行けば良いんですね」
「そうね、そうしてくれると助かるわ」
やっぱりお姉さんはその心算だな。さらに避難所までの道のりが問題無いと予想しているって事か。
巣を攻略した事でモンスターが少ない環境になっている状況の内にと思っているのかもしれない。何せあれだけ雀蜂のテリトリーは広かったからな、相当の範囲でモンスターの空白地帯ができているはずだ。
「それじゃ俺達は準備をして、明日にでも出発しますね。下手したら当日戻れないと思いますが」
「そうね、最悪のケースだと生存者を連れて行動になるでしょうから」
武器防具を軽く整備をして貰いに行くとして……食料や消耗品は明日に協会で受け取りかな、とりあえず申請をしておかないとな。美咲さんも話を聞いていたから、同じように行動しておいて貰おう。
自宅に帰ってからは……妹達の説得だけど、気分が重いな。
「お兄ちゃんおかえり!」「兄さんおかえり!」
「二人共ただいま。ちょっと時間いいか?」
「何?」
さぁ楽しい事でもあるのか! と言わんばかりの目で見ないで欲しいな。それは精神的にダメージが入るぞ。
「あー……、明日なんだけど、俺と美咲さんとイオは少し遠出する事になった」
「えっ、また蜂でも出たの?」
「ああ、違う違うモンスターが出たからの確認じゃないから。ただ状況次第では数日戻れないかもしれない」
「えぇ! 凄く大変なお仕事なの!?」
雀蜂の巣を討伐したし、その時に現地で寝泊りもしたから心配しているのだろうな。とりあえず二人の頭をなでながら話を進めよう。
「この前のような危険はないよ。ちょっと遠くまで調査をするだけだからね」
「う……うー、こんなナデナデでゆいは騙されないもん!」
「兄さん……無事に帰って来れるんだよね?」
ゆいは騙されん! と言いながらも、顔が緩んでるんだけど……まぁ、無事か如何かを確認する作業だからな。
「そうだね、未知の場所に行くから細心の注意を払うし。雀蜂の巣を攻略した今ならモンスターの危険は少ないからね」
「うーん……それなら良いのかなぁ?」
「とりあえずだ、明日は帰って来るとしても遅い時間になるだろうし、今はイオの所にでもいってブラッシングでもしてやって来な」
「はっ! イオちゃん! うん、行って来るよ! お姉ちゃんも行こう!」
「そうだねって、ゆいブラシを忘れてる!」
バタバタと走っていくなぁ……まぁ説得は少しあやふやにした感じがするけど、こんなもんだろうな。
「まぁ……そう言う訳だよ母さん。大丈夫だからね」
「え……えぇそうね、うん気をつけて行ってくるのよ?」
「行く場所は避難所だからね、余り問題は無いと思うよ」
父さんの話を出すべきか悩んだけど、止めておこう。生存していたとしても、場所的にあの避難所にいる可能性は低いからな。まぁ、調べはする心算だけどね。
さて……豆柴に避難所か、面倒なモンスターが居なければ良いんだけどな。とりあえず、明日に向けて今日は早めに寝ておこうか。
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