六十話
婆様から道具が出来たと報告を受けた、ソレの性能調査もお墨付きのようだ。いったい何時何処で調査したのか謎だが横においておこう。
そんな訳で夜になる前に、雀蜂型モンスターのテリトリー前まで移動する。
「それにしても結構な人数が行くんだな」
「寝てる蜂を奇襲で一気に終わらせようって事だろうな」
そんな会話を耳にしながら周囲を見渡す、来ているのは俺とイオと入谷のお兄さんの他に六名ほどで、今はテリトリー前をキャンプ地とし食事をしたりしている。
「さて夜中になれば行動開始だけど、武器防具や道具の確認は大丈夫かな?」
入谷のお兄さんが周囲の皆に確認をとるように声をかける。
ちなみに品川のお姉さんや美咲さんは村の防衛要員として今はこの場に来ていない。
「準備はいいけど、この人数で来て刺激しないのかな?」
「ミャー」
イオの反応的からして、今の所大丈夫だと言っているようだ。
ふむ、やはり温度が下がっていけば蜂の行動は巣に戻って待機になるのかな。そうであってくれれば、今回の奇襲は成功率が上がるけどな。
「イオ、まずはご飯でも食べるか」
「ミャン!」
イオが楽しそうに返事をする。配給された焼いた肉をメインとした食事をしながら、時間までまったりと休む。
ゆっくりしていると時間が進み、作戦の時間になる。
「さて、時間になるけど……皆は研究班からの道具の準備はいいかな?」
最終チェックを確認してから、巣がある部分まで音を立てずに足を進めていく。
夜の森を進んでいくと、目的地まで何事もなくたどり着く。そして目の前には、大木一本分というぐらいの大きさの巣。
「いやぁ……でかいね」
「とりあえず持ってきた道具を使わないとな」
巣の周囲を囲むように道具を仕込んでいく。
ばれない様に仕掛けるが、どんどん巣の中では不穏な気配が広がっていく。
「ミャー……」
「とりあえず仕掛けは終わったから合流だな」
心配するイオと一緒にゆっくりと合流地点へと移動する。そして、合流する頃には羽音が少しずつ聞こえ出す。
「急げ急げ! あいつ等が動き出しそうだぞ」
「よし、道具を起動するぞ!!」
婆様から受け取った道具を起動させる。
それと同時に、道具からは大量の煙が巣へと向かって噴出される。煙は巣の全体を包み込み羽音が小さくなっていく。
「……これで終わったか?」
「まてまて、ソレはフラグになるから止めろ」
全員がこれで終わった気になりつつあるけど、確かにフラグと言うのもあるから巣への警戒は解かない。
「イオ……どうおもう?」
「ミャァ!」
ふむ……イオの警戒は解けていない……となれば、まだ巣の全体に煙が行き渡ってないのだろうか? 奥で女王とかでも生き延びているかも知れない。
「さて、入谷さんどうしましょうか……遠くから巣を攻撃してみます? 恐らく下のほうであれば大丈夫だとは思いますが」
「そうだね……まだ煙も出続けてるし、穴をあければ更に煙の充満が早くなるかもしれないね」
方針が決まると、鉄串を数本用意してから巣の下のほうへと投擲。
鉄串が貫通して穴を開けると、其処から煙が更に入っていく。
ブブブブブブブブブブブブブブブブブブ
そして、その数秒後に恐ろしい大きい羽音が鳴り響き出した。
「……女王の断末魔だと良いんだけど」
「まぁそんなに甘くないだろうね」
「さて念の為だ、全員戦闘準備!」
入谷さんの号令で全員が意識を戦闘モードへと以降し、それぞれの武器を構えて巣へと向きなおす。
「鉄串投擲して、巣を破壊しますか?」
「いや……そうだな鉄串に魔石をつけたものがあったかな?」
「一応ありますが……魔石使っちゃいますか?」
「大群がこられても困るだろう? 一気に数を減らすという意味でも、この煙以外にも追加でやっておこう」
入谷さんの指示通りに、魔石爆弾をくっ付けた鉄串を余り勢いをつけずに投擲する。もちろん、魔石は臨界状態だ。
ある程度、巣の奥まで鉄串が刺さり……数秒後に大爆発を起こす。
「さて……どうかな?」
飛び交う巣の破片やら、虫の足や羽が飛び散る中。一匹の巨大な雀蜂が空へと飛び上がった。
「サイズでかいな六十センチぐらいと言う所か? 倍ほどあるな」
他の雀蜂が全滅させられた女王は激怒状態。その感情に任せて、お尻から毒液と毒針を飛ばしながら攻撃してくる。
「あぶな! 全員回避! 木の裏でも何でも良いから避けろ!」
毒液が掛かった地面や木は溶け出し、針は地中や木に深く刺さった。殺傷能力が凄く高いな。
「針には針だ!」
貫通型の鉄串を風魔法で撃ち、女王蜂の羽を狙う。だが空中機動は相手の方が上のようで、ぬるりと回避されていく。
「ミャン!」
隠密行動しながら、木の上段から空中にいる女王へと飛び掛るイオ。
奇襲が上手く成功し、女王の羽を一枚を切裂き落とした。
「よし! 雀蜂はコレで機動力が落ちるな」
モンスターだからだろうか? 羽が六枚ある。その一枚を奪ったからといって、飛べ無くなるなどという事はないだろうが、それでもこちら側の攻撃チャンスも増えるはずだ。
時を置かずに鉄串や土魔法でつくった石を空中にばら撒く。
「全員無事か!?」
入谷さんの声が響き渡り、それに対して全員の肯定する声がする。無事で何よりだ、あの攻撃を食らったら……ろくな事にならなかっただろうな。
「遠距離攻撃持ちは、イオ君に当てないように攻撃するように! 自信がないなら奴が落ちるのを待つんだ!」
全員の無事を確認すると、次の指示が出る。うん、現状はイオの攻撃がキーだからね。
イオの奇襲にあわせて遠距離攻撃をしていくと一枚また一枚と羽が落とされていき、女王は空での機動力の低下やら今までの攻撃等で苛立ちが増したのか、何を考えたのか入谷さんに向かって突撃を開始した。
「よし! 全員タイミングを合わせるんだ!」
まるで自分に向かって来る事が解っていたかのように、指示を出す入谷さん。
そうして突撃してきた女王を、背負っていたタワーシールドで受け止め、完全に勢いを殺した。
「ミャァァァァァ!」
自分が一番最初だと! とイオが先ず突撃をして、女王の残った羽を全部切裂く。
そうして羽がなくなった女王は空に戻る事が出来ない、ならばと戦闘班全員が各々の武器で攻撃を開始する。
「羽は無くなったが、針と毒液は健在だ! 全員気をつけろ!」
タワーシールドで女王の顔面が押さえられ思うように動けない所に、全員でふるぼっこタイム。
だがタイミングが悪いのか羽は無いが、六本の足を巧みに使い跳躍しながら尻尾を入谷さんへと向ける。
「やばっ!」
毒針か毒液の攻撃をタワーシールドで防ぐのは一度ぐらいだろう。なら、発射される前にあの腹を如何にかするしかない。
「切裂け!」
その下腹部に向かって背後からポールウェポンの斧部分を振り下ろす。
ざっくりと切裂かれた女王の下腹部は、入谷さんを攻撃する前に地面へと毒液を撒き散らした。
「よし!」
下腹部を切られた女王が再び地面へと落ちのたうちまわり出す。もはや何も出来ないだろうな、この女王が持つ武器はもう強靭な顎ぐらいだろう。
「止めを刺すぞ!」
そう言うと、戦闘班の一人が自前のハンマーで女王の頭を叩き潰した。
これで、ミッションクリアだ。巣の方でも新たに動く何かの音はしない。
「さて……一度キャンプ地にもどって日が昇るのをまとうか、どうせこの周囲にはモンスターは居ないしね」
「他の雀蜂の巣があったらどうします?」
「あってもこの周辺ではないだろう? 少し様子を見よう」
とりあえず、巣を一つ壊した。後は巣の中や周囲の調査を先ずするべきだろうが、その為には日が昇るのを待つしかない。という事で、戦闘の疲れを癒す為に短いが休息時間となる。
「ミャァ……」
少し寂しげなイオの声が巣のある方向へと向かっていたが、今は休もうかとイオに声をかける。
さて、俺もイオを撫でながら、無事に終わった事を今は喜びながら休憩だ。
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