五十九話
村に戻ったら、まずは報告タイムだ。
「おかえり白河君。何か解ったかい?」
待っていたのは、入谷のお兄さん。戻ったタイミングが人が多かったようで、お姉さんは今は受付で色々な仕事をしている。
「とりあえず、素材から渡していきますね」
そういって、猿の素材を提出していく。
「おや……白河君、川向こうまで行ったのかい? 調査は蜂のテリトリーの方だったかと思ったけど」
「ええ、どっちも間違ってないですよ。その事についても報告があるので」
「そうか、では資源のほうは職員に研究室に持って行ってもらうとして、白河君の話を聞かせてもらおうかな」
奥からあの時、一緒に避難してきた探索者だった人の家族の一人が資源を移動させていく。
村に住んで居なかった人達の仕事は基本的に、モンスター関連等の雑用をやってもらっているみたいだ。
「協会の裏方とは顔を合わせた事が無かったからきがつかなかったけど、避難で着いて来て貰って仕事が無いなんて事が無くて良かったですね」
「協会関連の仕事は沢山あったからね、皆さん協力的で助かってるよ。さて、一体何があったのか聞かせてくれるかい?」
「そうですね……まず、スズメバチ型モンスターのテリトリーが広がってました」
入谷のお兄さんの顔が歪んだ。
まぁ前回調査した時からそんなに時間がたっていないのに、テリトリーが広がっていると聞けば頭も抱えるか。
「はぁ……二十から三十センチクラスのスズメバチだったよね、それのテリトリーが広がってると……さて、それはどれぐらい広がっていたんだい?」
「そうですね、一メートル前後ぐらい伸びてたでしょうか?」
「それはまた……さて、この調子で伸びたら村までどれぐらい掛かるか解るかい?」
村までやつらのテリトリーが広がる早さか……細かく調査をしてないから、正直わからないな。
あの場に張り付いて調査しないと全く解らないだろう。
ただ、広がる速度は下手をすれば爆発的に早くなる可能性がある以上、一メートルしか伸びてないから大丈夫だなんて言えない。その事をお兄さんに伝えておくか。
「あぁ、確かにそうだね。ここら辺だとスズメバチに対抗できるモンスターも居ないみたいだからね」
「居たら居たで、村としても問題が増えるだけですけどね」
そんなモンスターが居るとしたら鳥型とか植物型の可能性が高い上に、鳥型とかで空中からの襲撃となれば現状では迎撃システムが無い。本当近くに鳥型が住み着いて無くて良かった。
「川向こうまで行ったのは、テリトリー的な理由かい?」
「そうですね、テリトリー範囲調べてたら川までついてしまったので」
テリトリーが歪な円形をしている事、川を挟めば一気にテリトリーが狭くなっているが、蜂の行動範囲がある事、下流側に川を越えたらボスウルフやPウルフの群れがあった事、村を目指して上流側に進んだら猿モンスターと戦闘になった事をじっくりと話をした。
「はぁ……まったく、雀蜂型は本当に面倒だね。とりあえず、新しい道を作る案は却下かな」
「早いうちに討伐作戦を立てたほうが良さそうですしね」
「そうなると、村の防衛も考えないと……困ったものだよ」
熊や猪に対抗できるトラップ等は出来ていても防衛班は確保しておきたいから、戦える人の絶対数が足らないってことか。
本当に時間はモンスターの味方という事だな。
「因みに猿の強さはどうだった?」
「猿はスペックだけなら通常ウルフと同じぐらいですが、木の上から連携して奇襲してくると考えると、熊と戦うのと同じぐらい面倒かもしれないですね」
「熊とイコールぐらいって事か……森で戦うのは危険そうだね」
「木から叩き落すか、森以外で戦うのが良いでしょうね」
猿型モンスターの対策をある程度話してから、今までなかった植物などの話もしておく。
「食べれるかも知れない見たことの無い植物もあったと」
「婆様に調査してもらった後、食べれそうなら色々と良さそうですしね」
「何かあれば直ぐに食料は足らなくなるからね、それはありがたい話になる」
食料の生産はしているけど、やはり足らない物は足らない。以前のように物流があって売り買いなどは出来ず、生産力を増やそうにも壁をつくって、モンスター対策をしているから範囲が限られている。
壁を広げるにしても、戦える人数が増えない状況ではどうしようもない。現状の防壁は人数に対して今の広さが丁度良い状態だ。
「やはり、蜂のテリトリーを突破するしかないかな」
「反対側は山脈ですから、何があるか解りませんしね」
「まさか、唯一の道が潰されるなんてね。とりあえず、情報の共有をしてから蜂へのアタックを考えるかな」
お兄さんの思考は近いうちに蜂の討伐を行なう事が決定のようだ。まぁ俺もそれが早い方が良いと思うからな。
報告が終わったら多少雑談をしてから協会を出る。
さて、ブラシと餌をもってイオの所に行くかな。
「ミャン!」
「イオちゃん来たよ!」
ゆりとゆいを連れてイオの所へ。家にブラシを取りに行ったら妹達に捕まったんだよね。
「ほれ、先ずはこれでも食べな」
バケツに入れた焼いた熊肉や穀物やらをイオの顔の前に置く。
「ミャーーー!」
うんうん、美味しそうに食べ出すなぁ。
とりあえず、食べてる間に三人でイオをブラッシング。
「イオちゃんの毛はつやつやだね」
「もふもふだぁ」
ブラッシングしながら二人がもふっと抱きついている。うん、いい映像だな! こっそりカメラで写していく。
「今日はありがとうな。また近いうちに手伝ってもらうと思うけど、その時もよろしくな」
「ミャン!」
まかせて! と言う感じで元気よく鳴く。うん、いい子だな。
「お兄ちゃん、イオちゃんを怪我させたら駄目だからね!」
「そうだな、イオはいい子だからな」
「ゆい……兄さんもイオに甘いなぁ」
そんな事を言いつつ、ゆりも実に甘いというかイオにベタ惚れだ。もふもふしながらも撫でる手が優しさいっぱいだぞ。
「あれ? イオちゃんのブラッシング終わってたんだ」
一歩遅れたという顔をしながら、美咲さんイオにあいに来たみたいだ。
「やぁ美咲さん。今日イオはがんばったからね、ご褒美だよ」
「そっかぁ、イオちゃんがんばったんだ!」
そう言いながら、イオの頭を撫で出す美咲さん。三人に撫で回されるイオ……まぁイオも嬉しそうだから良いか。
「ニャー、ニャン」
今日起きた事を皆に伝えようとしているのか、手振り尻尾振りで表現しながらも楽しそうに鳴いている。
「うん、一日の終わりとしては良い空気だな」
「イオちゃん可愛いから」
そういえば婆様が色々と道具を用意したみたいだし……雀蜂討伐の作戦実行は近いうちの夜かな? やつらがスズメバチと同じなら夜は行動力が減ってる可能性が高いはずだ。
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