六話
ゆいと共に爺様の家に来てから一月ほど、まぁダンジョンは封鎖されてるし夏休みだから学校も無い。ゆいは通う学校が変わるので下見をしたり、危険な位置など無いか情報収集等した。
長閑な環境はきっと良い影響になるはずで、田舎特有の余所者に一線を置いたり、勝手に人様の家に入り込むといった行動も無く、付かず離れずの距離感は珍しいがありがたい話だ。
僕等に関しては、爺様が住んでいた事がブーストとなったのか、ゆいにいたってはお姫様扱いだ。ロリコンが居ないか確りチェックする必要がある!
ダンジョンが出来て以来、全ての環境が変わっているから仕方ない話でもある。ソレは何処でも同じだった様で、農作業から畜産業、炭鉱等様々な職業が見直される結果になったのでアタリマエだろう。農業万歳!
ダンジョンが身近にあると言う事で、色々な人が出入りするという事もあり、開かれた田舎というものが増えたそうだ。
今日も今日とて本とモノクルの研究。どうやらモノクルを使えば本が多少読める様になるらしい。……読めると言っても、色々と意味不明な部分があるのが壁になっている。単語としては読めるけどみたいな?
モノクルを通して見ていると、稀にちらほら何かが写る。最初はよく分からなかったけどピントが合ってないのかな? と思って集中してみるとふわふわとしてたり、ぴゅーと飛んでったりする何かがみえる。お化けか! と思ったけど違う様。人の体にも何かあるように流れているから目を凝らしてみると、ふわふわと同じようなものと発覚。ダンジョンに潜ってた僕には多く、爺様やゆいには少ないようだった。サブカル的に言うなら魔力的な何かだろう。まだまだ調査するべき事が多いな。
そんな研究の合間に爺様やゆいと戯れる。川で釣りをしたり、トマト等夏野菜を捥いだり。殺伐とした数ヶ月を過ごした僕としてはこの平和な時間は実に貴重だった。心の洗濯だ。
「お兄ちゃん、鮎さんがいっぱい取れてるよ!」
「おー、大きい鮎が結構いるな! ゆいが釣ったのか?」
「んーん、お爺ちゃんが素手でぱーん! って熊さんみたいにやってた!」
「何時も思うけど爺様って何者だろう……」
ふと川の上流を見ると、爺様と一緒にご近所の小父さんが素手ですぱーんと岩魚や鮎を岸に飛ばしている。ダンジョン潜って身体能力がブーストしてる僕にもできない事を……この村の住民は化け物か?
「大漁じゃわい。ご近所さんに配るかのう」
「そうですなぁ。家のかあちゃんの喜ぶ顔が目に……写らんなぁ……」
「まぁ割と大漁の日は多いからの。今度猪でも狙ってみるか? 牡丹鍋も久しく食うておらんじゃろ?」
「ソレは秋口に掛けてが良いですなぁ……日本酒と共に一杯やりたいですな」
「ふむ、村の者達と計画でも立てておこうかの」
猪狩りをするようだ。ワイルドだなぁ……肉の入手も随分減ったからしかたないだろう。海外との物流も無いわけだし。ダンジョンでの肉や植物を入手できるのは五階層より先のようで、民間人はまだ到達してなかったしな。封鎖されてるから、警察関連や自衛隊に頼るしかない。
そんな夏休みの一コマだが、ニュースを見れば各地のあちらこちらでデモが毎日行われているらしい。まぁアレだけ安全を押しまくってたから仕方ないだろう。マスコミや現与党は徹底的に槍玉に挙げられている。
TVで必死に消火活動してはいる様だが、ネットや口コミでの拡散はアタリマエで、ソレが無かったとしても敵が多すぎるだろう。世の中のカワイイオクサマは怖いよ?
今ではネット上で、何時選挙が行われるかのトトカルチョがあちらこちらで起きてるようだ。賭け事はイクナイ! まぁこの件での賭け事は特にだけど良い印象は無いだろう。学生達の不運が有るのだから。
妹はゆりの事を気にして居るが口にしない。アレだけ両親と僕が言い合ったから聞けないのだろうか? 聞いても良いのにね。時々じっとコッチを見て口を開きかけた後、ぐっと我慢するような仕草をするから間違いないだろう。
今はダンジョンに潜れないからドウシヨウモナイ。ダンジョンに入れるようになったとしても、二十一層から出る上級を狙うにしてもドレだけ時間が掛かるか……実に悩ましいが、今は何も言ってあげられないからな、余計な事は言わない方が良いだろう。
研究が進んでもしかしたら、上級ポーションや部位欠損を治す回復魔法なんてのも有るかもしれない。期待をしすぎずに研究をがんばろう。
今はとりあえず、ゆいと一緒に鮎と岩魚の処理だ。ほら天使のような笑顔で……壺抜きしてるよ!
――国内某所――
「どうするかね? 現状において国民が爆発しないのは、前政権の我々が一般公開に関して反対を言っていたからだぞ?」
「そんな事! 我等がこうなるなんて分かるはずが無いだろう!」
「いやいや、こうなる可能性を示唆した情報は確りと公にしていたはずだ。しかし君達やマスコミが安全論を押し通し、我等が公開したデータをTVにすら上げなかっただろう?」
「しかし、ダンジョンを国が独占して良いはずが無い!」
「だから言ったではないか。もっと安全策を確りとって規約と組織を作るべきだと、ソレすらも無視したのは誰かね? 既に国民は知っているんだぞ?」
「何が言いたい!」
「さっさと椅子から降りたまえ。君等では収束できないのだろう? 既に一般公開してしまったのだ。この後封鎖したままと言うのは無理と言う話だろう。君等が一年適当にやっている間に我等も動いてはいたのだよ。さっさと責任を取って解散したまえ」
「ぐぬぬ……」
現与党は追い込まれ、解散総選挙となる日は近いだろう。ソレに伴いダンジョン規約が一新され封鎖が解除される日も早くなるかもしれない。




