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五十五話

 道を進む。まぁ二年も放置された道だ、横から木やら草やらが伸びてきて車は通れなくなってるな。いや、想定以上に酷くなってるかもしれない。


「モンスターが棲む様になったからか? それが理由で植物の成長も異常なスピードになってる可能性もあるのかも」


 村の周囲であれば、戦闘班が狩りに出たり調査に出たりしていたので、此処まで目立った変化が無かったのだろう。

 村から少し離れた場所でも余り変化がなかった。となると……植物の成長に関係しているモンスターでも何処かに居るのかもしれないな。


「まぁ今回は道とその周辺の調査だから、奥までは行かない予定だけどな」


 魔石の確保にはダンジョンまで行く必要がある。だが、そのためには道が機能するかを調べないと。いくら戦闘班の足が強化されてると言っても、整備された道と破壊され歩きにくい道では、たどり着くまでの時間が違うからな。

 剣鉈で草や枝を刈りながら進んでは周囲のチェック。この草や枝も異常成長してるみたいだし、サンプルとして確保しておく。


「しかし、モンスターを見ないな。此処まで見ないと悪い予感しかしない……まぁ、面倒なのが居る可能性が高いよなぁ」


 ウルフや猪であれば、既にその姿をみせている筈。熊が居たとしても、ウルフや猪が居ないなんて事はない。そうなると……植物を成長させるモンスターが居てそれが厄介? もしくは、土壌を魔改造するモンスターでも居るのか? ……ミミズ的な感じのモンスターだったら、それは地中に居る事になるから面倒だな。


「これは調査が大変そうだな。できれば植物系のモンスターだったらまだ楽なんだけど」


 神話やらゲームやらに出てきて、ダンジョンでも確認されてたのは、トレントやマンドレイクにアルラウネとかだったかな。他にもあった気がするけど、情報板等で良く出てきたワードはここら辺だったはずだ。

 奴等は基本的に動かない。だから此方が近くに寄らなければ余り問題が無いが、テリトリー内に入ってしまえば、蔦やら謎の粉やらで此方を捕まえに来る。


「まぁ奴等のテリトリーに入れば空気や土が変わるらしいから、十分に注意すれば問題はないはずだけど」


 それも、ダンジョン内での話だ。外に出た場合はどうなるのか……そもそもあいつ等って外出れるのか? 出たとすれば何かに運ばれたという事だろうけど。


「植物の相棒と言えば虫か……ワームじゃなくてビー的なモノとかも考えないといけないって事か」


 花粉だか、受粉された種だかを奴等が外に運べば……動かないと言ってもダンジョン外に出る事はできる。はぁ、実にめんどくさい話だな。


 枝を落とし草を刈っていると、ふと周囲の空気が変わる。

 テリトリー的なものだろうか? 一歩下がると空気が戻るが前に進めば明確に変化する。


「これは面倒だな。これ道もテリトリー内って事になるぞ」


 まぁテリトリーってのは予想だ。実際ダンジョン内でそれに遭遇した事がないからな。とはいえ、何かが居るのは間違いなく、ソイツがこの周囲一帯を支配している存在であるはず。

 それならその正体を見てから行動したいし、調査開始だな。

 石を拾って、道の奥に投げ飛ばしてみる。カツーンと地面にぶつかった後は、何度か跳ねて勢いをなくして転がっていく。特に反応は無いか。

 他の方法と言えばダンジョン内でやったモンスターの死骸やら血などを囮にするのは、今回一度も出会ってないので使えない。

 消耗品を使うわけにも行かないから石で駄目となれば、先ずはこの空気が変わるのは何処から何処までなのか……周囲を調べてみるか。


 片足を空気が変わるラインに入れたり出したりを繰り返しながら周囲を歩いてみる。

 予想以上に広いなこれは、森の中を突き進む感じになってるけど……ほぼ真っ直ぐ進んでいるけど、正面から何らかの気配。


「あっちゃー……これ罠だったか?」


 誘導するタイプのモンスターだったのか、それとも二種類いるのか。どちらにしても面倒なモンスターには変わりが無い。


 ポールウェポンを構えながら少しずつ後ろに下がりながら、為るべく空気が変わる場所からも離れる。

 此方が下がっても少しずつだが前方からその気配が接近してくる。ふむ、移動できるタイプのようだな。

 一気に走っても良いけど、その場合どう動くか……俺が背中を見せた瞬間にガバッ! と来る可能性もあるからな。このまま両方から離れるようにバックで移動するしかないか。

 しかし相手も距離を測っているのか、俺の動きに合わせている。これは……また誘導されてる? さて如何するかな、逃げるか戦うかこのままゆっくり下がっていくか。


「あぁ、別に背中見せて一直線に道に出なくても良いじゃん」


 なんで気がつかなかったのだろう、先ずは身体強化とスタミナ回復の魔法。後は九十度向きを変えてからダッシュ! 空気が変わる方向とは逆向きだ。じわじわと近寄ってくるモンスターは、側面になるから背後から襲われるよりも対処が楽になる。

 モンスターも予想外だったのか、焦って追いかけてくる形に。

 森の中を突き抜けながら全力で前進……とみせつつ、側面から追いかけてくるモンスターが追いつけるようで追いつけない速さでだ。

 じわじわと道側に移動しつつ前進していけば……当然、村の周辺の開けた場所にでる。


「さて広い場所で、その姿を見れるわけだ!」


 森から飛び出した後、少し前に進んでからターンをして相手が森から飛び出してくるのを待つ。


「念の為に村へ合図出しておきますか」


 注意せよ、の合図を村に送る。この位置なら櫓から見えるはず。

 そうしていると、ガサッと森から飛び出してくるモンスターが一体。


「へぇ……初見のモンスターだな」


 その姿は猫だ。とはいっても一メートルクラスの猫。イリオモテヤマネコを大きくした感じが一番近いか。

 しかしヤマネコ相手に良く逃げれたな……通常時なら逃げ切れなかっただろうし、ブーストは素晴しい魔法だったという事だな。


「さて、ここは開けた場所だ。木々は無いから飛び移っての奇襲とかは出来ない訳だが、ヤマネコくんはどうやって戦う心算かな?」

「ミャァ!」


 ……ニャーと鳴いてるんだけど、こいつ戦う気が有るのか? 強烈な気配は発してるんだけど、こうして相対してみると敵意が無いって如何いう事だ?


 ジーと見つめてくるヤマネコと見返す俺。後ろからは村からざわざわと人が集まってくる。


「ちょっとまって! 攻撃はしない方向で!」


 下手に攻撃をして敵対するよりも、現状の確認の方が先だ。何せこのヤマネコが一切敵対行動を見せない。現状はただ俺を追っかけてきただけだ。


「ニャー」


 尻尾をふりふりしながら周囲を見るヤマネコ。うん如何したら良いかなこれは。

 そんな考えをしてる最中にも、村側のざわめきが収まる事もなく、村人達まで何ぞや? と様子を見に来る状態に。

 そしてそんな中……事態が動く事が起きる。


「あー、大きな猫さんだ! お姉ちゃん、大きい猫さんだよ!」

「そ、そうだね。危ないから近づいたら駄目だよ」


 やばい、ゆりとゆいも来ちゃったか。まぁそんな騒動にあわてる事もなく、ヤマネコは目の前でニャーニャーと鳴きながらじっとしている。


「あの子は何か食べるかな? そうだ!」

「あ、まって!」


 そういって走っていったゆいは、すぐさま戻ってくるとその手に猪の肉切れを数枚持ってきた。


「猫さんあげるね!」


 そう声を掛けると、遠くからぽーんと飛んでくる生肉。それはヤマネコの目の前に落ちて……うん、はぐはぐと美味しそうに食べだしたよ。


「ミャンニャン!」


 しかし不思議な話だ。ダンジョン内でウルフ系に肉をやった時はこんな反応は見せなかった。一体どういう事だ? 何か違いは……猫科だから? ダンジョンの外だから? それぐらいしか思いつかない。


「まぁとりあえず……この猫は今の所だけど問題なさそうだな」


 肉を楽しんだ後、ゴロゴロと転がりながら可愛さアピールを村の人たちにしている。態とでは無いだろうが、実にあざとい! 可愛いけど!


「さてリーダーのお姉さま、これどうします?」

「お姉さま言うな! とりあえず様子見ね……モンスターが今までと違う行動というのは貴重な状況と言えるからね」

「でも、危険では?」

「一応監視はつけるつもりよ。とりあえずカメラもテストしてみたいしね。まぁ村の中に入れなければ、とりあえずは良いでしょ」


 そんな訳で、急遽ヤマネコ用の居住区が村の壁の外に作られ、そこに監視カメラが設置された。

 ただ、このヤマネコは結構自由に行動するみたいで、森に入ってはウルフやら猪を狩って来て、「みてみて、こんなの狩って来たよ!」と言わんばかりに、門番に渡しに来る事が頻繁に起こるようになった。


「……なんとも、餌付けとでも言えば良いのか? 上手く処理した肉を焼いた肉、楽しそうに食べてるんだよな」


 とりあえず、森に入って狩りをしたりして来るようなので、見分けがつくように首輪を着けたりもしたが、嫌がる気配もなく楽しそうに受け入れている。

 なんとも……家猫みたいな行動をするモンスターだな。

 あと、研究班は目を輝かせながらヤマネコを見ない様に、少し怯えられてるぞ?


 しかし、あの場所では何があったのか……詳しい調査が必要になるか。後でお姉さんやお兄さんと相談しておこう。

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