五十話
今回より時間軸が戻ります。
おっと……どうも少し過去にトリップしてたな。まぁ、あの後も大変だったんだよ。
モンスターを見たらボロボロにしたくなる衝動に駆られて、素材が駄目になるって周りに止められたりとか。
母さんや美咲さんを元気づける……のはまぁ穏やかに行ったっけ。
婆様達の研究で出来上がった物の検証とかも……ある探索者さんがアフロヘアーになったのは哀れだったな。
他にも、個人的な事なら十層の魔本が解読して色々テストもした。土魔法だったんだけど、例の如く範囲とか威力はお察しだ。ただ物理的なダメージが風や水よりも高いから、使いどころ次第では十分な火力になると思う。
おめでたい事も増えたよ、真白さんが元気な男の子の赤ちゃんを産んだ。それに触発されたのか、協会員のお二人がお付き合いしだした。中々に良いペアじゃないかな? 地上奪還作戦の戦闘指揮をする二人だしね。
っと、また少しトリップだ。今は地上奪還についての会議だ。
「……と言う訳じゃ。地上に出た後は先ず防壁を造るのが良いと思うのじゃよ」
「そうですね。モンスターに後から入られたら大変ですし。ですがどうやって造っていくのですか? 時間が掛かりすぎる気もしますが」
「最初は秀吉公の一夜城手法じゃな。とは言っても、資材を運び出すのは此処からな訳じゃが。既に必要となるであろう物は揃えてあるぞい」
なるほど……婆様達に外に出た時に機会があれば木やら大きめの石やらを、集めておいて欲しいって要望はそういう意味だったか。
「あぁ道理で資材置き場に色々と揃って……そういう訳でしたか」
「うむ、そなた等は戦闘班の統率で手一杯じゃったからの。此方でも色々と準備させてもらったのじゃよ」
「まぁ皆さん忙しかったですし、ここら辺の情報伝達が上手く行ってなかったのは今後の課題でしょうか」
「余裕がなかったからのう……とりあえず、今は壁の建設とそれの保護じゃな」
話が進む。とりあえず、簡易壁を一気に建設した後で本命の壁を築く流れで、此方は戦闘班だから資材や建築をする人たちの護衛だ。
「壁建設は村の人間に任せればよかろうて、護衛は頼むのじゃ」
「はいお任せください。ダンジョンに潜ってた方も結構な人数が居ますからね」
うん、あの時に優先して探索者連れて来てよかったよ。お陰で人手が少しでも補えるからね。
話し合いも後は地上を手にしてからだ。モグラ生活も悪くないけど、やっぱり太陽の下じゃないと人も植物も良くないからね。
「さて、モンスター達だが奴等の中で脅威的な物は村の付近には居ない。村の周囲で確認されてるのは基本的にウルフ系だ。ただ稀に猪や熊も出るからな」
戦闘班のサブリーダーに落ち着いた入谷のお兄さんがモンスターについての説明。ふむ……なら俺が此処で言うべき事は一つか。
「入谷さん、俺が猪と熊の対処をするから他の人に狼を任せても?」
「ふむ、そうだね。私達の中で一番の戦闘力を持ってるのは君だしね」
「それに俺だと他の方との連携も厳しいですから」
「あ、なら結弥君のパートナーは私がやるよ」
「たしかに……君達にはペアで狩りをして貰ってるからな。うん任せたよ」
むむ、一人でやろうと思ってたけど美咲さんもか。しかし熊を相手にしたのって、ソロでモンスターをボロボロにした時期だからね。猪なら二人でやったことあるけど熊は無いんだよなぁ……出てこない事を祈るか。
「それじゃ、基本壁を造る人たちの周囲に陣取るよ! 後は……その時次第で自由に動いて良いからね! 但し、指示があった時は確りと聞くように!」
元・受付のお姉さん事、現・戦闘班リーダーの品川さんの号令だ。
その掛け声と同時に、戦闘班が先ず外にでて周囲を確認。うん、今の所はモンスターが居ないようだね。
そして合図をして建設班のメンバーが外にでてくる。彼等が外にでるのは文明崩壊後初だ。
「……これが外か? 村が……滅茶苦茶じゃないか」
「あぁ、モンスター共が好き勝手やってくれたみたいだな」
村の人たちが現状を見て悲しんでる。俺もこの状況見たときはショックだったから良くわかるな。
「……さっさと壁を造って村を立て直すぞ」
「おぅ! 嘆くのは後だ後!」
それにしても切り替えが早い。まぁこうなってる事は伝えてたし覚悟もしてただろう。
すぐ動き出して所定の位置で建設を開始していく。ただ、問題は音だね、地面に杭打ちをしたりして、何かとでかい音がでる……風の魔法で音を上手く操作しても長く出来るわけじゃない。
「やっぱり音が凄いな。ウルフ系のモンスターなら気がついて様子を見に来るんじゃないか?」
「そうだよね。まぁその為に戦闘班が居るんだし」
美咲さんと話してる間にも壁は少しずつ出来ていくけど、やはり気がついてたみたいで遠くにウルフ系モンスターの群れが此方の様子を探ってる。
「建築班は一旦停止! 戦闘班は九時の方向の警戒! ウルフ系が来るよ」
指示が早い、さすが協会で受付やってただけはある。
戦闘班も即座に、建築班のガードと戦闘をする側へと編成。俺と美咲さんはウルフベースの襲撃だからガード側に回る。
音が止んだからなのか、ウルフ達が一斉に移動しだしたな。ただ、戦闘班も落ち着いた感じで対処してる。安心して見ていられるね。
「群れの数は十六頭、これなら問題無く対処できそうね。ガード班は他からの奇襲が無いか警戒だけはしておいてね」
安全に対処し警戒も怠らない。うん、良い感じに連携が回っている。お姉さんの指示が上手いからだろう。
その後もウルフの襲撃は数回あったけど問題なく対処して、ガード班には一匹も襲ってくるモンスターはいなかった。
「そろそろ日が落ちそうね……一度シェルターに退却かしら」
「そうだね、それじゃ建築班から先ずは撤退してもらおうか」
夜はモンスターの時間とも言える。多少壁が壊されても、作業を続けて被害を出すより撤退した方がいいし、それに今回の壁はテストも兼ねてる。まぁ壁が壊されたりしてない方が良いけれどね。
グオォォォォォォォォォォォォ!
そんな撤退開始をするタイミングで山の方から、何かの雄叫びが。
「……ウルフじゃないわね」
「猪でもないな。たぶんだけど熊じゃないかな?」
……さてと、このタイミングでとは言え出番が出来たのか。走ってくる地響きが聞こえるし、全員撤退までは間に合わない。
「美咲さん準備は?」
「もちろん大丈夫だよ」
「それなら、サポートは任せたよ。確りと役目は果たさないとね」
さて、大物狩りの時間だ……確りと狩って熊鍋と魔石の補充だな。
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