回想三
責任者から譲られたのはマイクロバスで、限界ぎりぎりの人数で乗り村を目指す。
結局、藤野さんと桜井さんは戻ってこなかった、美咲さんがマイクロバスの中で手紙を見ながら俯いてる。まぁ今は仕方ないね、暴れる様子もないからそっとしておくのが一番かな。
道程はカーナビ使用で問題が無い。周囲の警戒は車内からだと精度が落ちるけど、やらないよりましという事でそちらを重点的に行動。
僕以外のメンバーが美咲さんにお姉さんとお兄さん。後は協会で何度か顔を合わせたりした探索者の人達にその家族や恋人。まぁ、マイクロバス一台分の人数で後は受け入れて貰える人数になったのは良かったかな?
「道にモンスターが居ないのは楽で良いけどね」
「そうね、この速度でついて来れるモンスターは早々居ないでしょうしね」
人の徒歩による速度でも追いつけないから、自動車だと無理だよね。まぁ階層奥のモンスターだとしたら解らないけど。
そんなわけで、無事に問題もなく村まで到着。爺様と黒木のおじさんが待ってくれていたみたいだね。
「ただいま、皆は地下に避難した?」
「うむ、もう避難しておるぞ。それにしてもバスで帰宅するとはのう」
「避難所からこっちに来る人なんて居ないからね、道がすっきりしててスムーズだったよ。それよりも、人数いるけど大丈夫?」
「それは大丈夫だな。万が一の為に村の人間以外にも入れるように準備してきたからな」
「それは良かった。連れてきた人だけど、協会の人や探索者をしてた人達が多いから」
「ほぅ! それはありがたいのう」
少し話をしてから皆にバスから降りてもらう。リーダーはお姉さんだからお話はお姉さんと爺様にバトンタッチ。どうやら受け入れの御礼をしてから、今後についての会話の為に地下シェルターの会議室へ行くみたいだね。
僕は疲弊してる美咲さんを支えながら地下シェルターへと移動。とはいえ、何か会話できる事も無いからな……どうしたものかな。
シェルターはかなり大きく作られてるけど、これ違法だよね? ってレベル。ガスやら水道やらは避けながら造ったみたいだけど……まぁ、各家に割り当てられる部屋とか別々に作ってるんだよねぇ。
自分達に割り当てられた部屋に向かう途中に、ゆりとゆいが駆け寄ってきたな。二人とも微妙に疲れてるみたいだけど大丈夫かな?
「あ、お兄ちゃんお帰り」
「兄さんお帰りって、そっちの人大丈夫?」
「ただいま、ちょっとあってね。母さんか真白さんって居る?」
うん? 二人の顔が少し曇った? 何かあったのかな。
「うん……居るけど、母さんは今は少し寝てる。真白さんは身重だから休んでるよ」
「そっか婆様は会議だろうしね」
「それでね、お兄ちゃん。そっちのお姉ちゃんはだれ? お疲れさんみたいだよ? 休んでもらわなくて良いの?」
あーそういえば話はしてても実際会うのは初めてだったか。とりあえず部屋へと向かいながら、美咲さんの紹介をしておく、まぁ疲弊してる理由を今は話さないけど。
部屋に入ってからゆりとゆいが美咲さんをベッドへと案内して休んでもらっている。そこで一つ疑問が生じてしまった。
「あれ……父さんは?」
「あ……えっと」
ゆりが少し話ずらそうだな。もしかして怪我でもして医務室にでも居るのか?
「あのね……お父さん、急ぎの仕事が入って……こっちに来てないんだ」
「……そっか、だから母さん寝込んでるんだ」
「……うん」
そうか……父さん居ないのか。避難所に行ってくれて居れば良いけど……さ。
「少し会議室の方へ行って来るよ。美咲さんの事任せるね」
「あ……うん、任せて」
深呼吸をする。ここで冷静に為らなければ美咲さんに合わせる顔が無いし、殿をかって戻ってきていない二人にも……。
大丈夫……大丈夫だ。よし、爺様達に会いに行こう。
会議室に入ると、会議は飲み物やら軽食やらで小休止中かな?
「爺様……話し合いは進んでる?」
「ゆー坊か……その顔は、匠君について聞いたんじゃな」
「うん、今はまぁ何処かの避難所に入り込めた事を祈るしかないよね」
「そうじゃな。気を強く持つんじゃよ? ここでゆー坊が潰れたら、ゆりやゆいが悲しむからの」
「解ってる、うん、色々と頼まれた事も有るからね……まだまだやることが沢山あるしさ。とりあえず今は話し合いがどうなったかだよ」
うん、まだ後ろは見れないよ? 問題は一杯あるからね、そのためにも経緯がどうなってるか聞かないと。
それで爺様に話を聞いたら、話し合いはある程度強引に進めてるみたい。
防衛に関してはシェルターにとりあえず引きこもる方針。壁の建築が間に合わなかったから仕方ないよね。
婆様達は研究内容を少し強引に進める方針みたい。特にエネルギー問題に関しては急いでる様だ。電気が止ったら燃料的に年単位で持つ事はなさそうだからね。
後、ワニやらウルフやらオークの肉が食べれる事が解ったから、今までの肉を冷凍してる分食料に関しては少し余裕がある。生産してた物も冷凍保存してシェルターの保管庫に入ってるみたいだしね。
「話し合いはそこ等辺まで進んだかのう? まぁ研究内容についてはゆー坊がつれて来た人達は、びっくりしておったのう」
まぁそうだろうね、完全に村の秘術的な感じで秘匿してたしな。うん、お兄さんやお姉さんの驚く顔が想像できるよ。
「まぁそれ何か言われなかった?」
「まぁ秘密にしておった理由は聞かれたのう。まだ検証段階だから出せなんだと言うたら、難しい顔をしながらも理解したようじゃがな」
納得は出来ずとも理解はできるって所かな? 協会員としては早く知りたかっただろうしね。
「さて……会議はまだ続くからの、ゆー坊も参加せい」
うん、強制参加かな? 他の人も参加しろって目でこっちをみてる。
とにかく……この先の方針を決める会議だから参加しておいて損はないよね。
――自衛隊――
「また……私に仲間を見捨てろと言うのですか!」
「君の力量だからこそ任せられるという話だ」
「しかし! ここで私の部隊が外れればサイクルが崩れるじゃないですか!」
言い合いをしている自衛隊の二人。片方は高難易度ダンジョンで班長に任命された男だ。そしてもう片方は自衛隊で最高レベルの力量を持つ隊の部隊長である。
「私達の部隊は、此処で、最後まで奴等の足止めをしなくてはならない」
「ですから、私もそれに追従すると言っています!」
「ソレは駄目だ。自衛隊の本分は国民を守る事にある、であればシェルターに避難し、何時か地上を取り戻す時に必要になるのも……また自衛隊の本分だ」
彼は避難が成功した後の事も見据えている。だからこそこの話なのだろう。
「言い方は悪いかも知れないが、この役割を任せられるのは自衛隊の中でも、最上位に至れない上位レベルの者達だ……最上位の者が足止めに専念しなくては、恐らく避難できる人数も目に見えて減るだろうな」
「しかし……私は」
「なに、君には一番難しい任務を最後に任せるんだ。生き残る権利ぐらいはあるだろうな。何せ、一般人から槍玉に挙げられるだろう、非難され悪意ある目で見られるかもしれない。それでも君等には耐えてもらい、地上を奪還する為の主力になって貰うと言っているのだ」
ここまで言われてしまえば、もはや何も言えなくなる。最強の部隊を率いる男に未来を託されているのだ。此処で否と言えるわけがない。
「これが私達のタグだ。此処に残る隊員の全てのタグを集めておいた。これを家族に渡したり組織の記録に残しておいてやってくれ……人間の未来を任せたぞ」
文明滅亡の日と言われた日の出来事であるが、この高難易度ダンジョンからモンスターが溢れ出したのは、この日から一週間も先だったと記録には残っている。
このダンジョンが決壊してからは、地上の崩壊が一気に早まったという事実からして、最強の部隊と言われた者達は見事に避難する為の時間を作り出した。
彼等の抵抗が、人の希望の種となった事は間違いないだろう。
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