五話
準備をしつつ、捨てられたノートを回収しておく。一度も目を通しすらしなかったんだろうな。他にやり様があったんじゃないかとか、もっと話をするべきだったのではなんて脳内でそんな思考がグルグルする。気持ち悪い。
「お兄ちゃん、こっちは準備できたよー」
ゆいの声で現実に戻る。まだ最悪じゃない、ゆいは無事じゃないか。ゆりだって命が奪われたわけじゃない。後は今後の事を如何するかだな。
「あいよ、こっちも終わってるから荷物を玄関に運ぶぞー」
「はーい!」
うん……まだ大丈夫。きっとこれからも……。
両親が車を玄関前に移動させて荷物を取りに来る。少しは頭が冷えてきている様な気がする、だといいな?
「荷物は纏めてあるよ」
「あ、あぁ……ありがとう」
お礼を言える位には通常の思考に戻っているみたい。後はこっちも頭に血が上らない様に、話をしていかねば。とりあえずは荷物の移動とかを終わらせてからだけど。
荷物を車に入れた後は両親が再び病院へ。その間にじーさまに連絡をして、ゆいと今後について話をする。話は楽に進んだけど、理由が今の家族環境だから何とも言えないな。
両親が病院から帰ってくるまでに話を終わらせる予定だったのが、さくっと済んでしまったので時間が余ってる。何かしてないと気持ち悪い程思考がマイナスに走るから、ゆいと一緒に夕飯を作ったりゲームをしたりして時間潰し。
車が車庫に入っていく音が聞こえる。帰宅してきた様だ。さぁお話し合いと言う戦いの開始だ。
「お帰り、夕飯は食べた? 一応用意してあるけど。後、少し話が有るけど良いかな?」
「ただいま、夕飯はまだだから食べてから話をしようか」
何ヶ月ぶりかの顔を合わせての食事。ただ一人少ないし、昔みたいな会話もなく黙々と食べる。暗いなぁとは思うが仕方ない話だろうな。寧ろ明るかったら色々疑うけど、人としてどうなのよって。
食事と片付けを終わらせて、四人でひざを着き合わせて話し合いスタート。
「話というより決定事項の報告なんだけどね。僕とゆいはじーさまの所でお世話になることにしたから」
父さんがそっと目を瞑る。母さんは逆に目を見開いてる。
「ちょっと! 如何いうこと? これから大変何だから家族そろって力を……」
「これからの事を考えたからだよ。先ず経済的負担を少しでも減らす為に。ゆりが片腕なくして更に入院もしくは通院生活だよね? 今の世の中現状がドレだけ大変か分かってる? 次に、精神的負担の排除。ぶっちゃけお互い良い感情持ってないよね? 今はそれなりに冷静になったけど病院で言い合ったことが全てでしょ? 時間的にも経済的にも精神的にも負担が重なっていく状況じゃ良い方向にも進まないよ。今は距離を開けるべきだと思ってる。ゆいの為にも」
「それでも……家族なら!」
「うん、家族だったのならもっと僕の言葉を聞いてくれても良かったよね? とりあえずこの件で反論されても聞かないよ? 爺様にも許可は取ってあるから」
うん、母さんは黙ったようだ。父さんは……何か納得したかのように口を開きだした。
「そうか、まぁお前の言う事は間違いがないな。だが良いのか? 思うところがあるはずなのに、其の方針は私達に利がありすぎる気がするが?」
「まぁダンジョンが出来てから今日までの状況を振り返るとね、確かに言いたい事が山のようにはあるよ? でも言った所でゆりの腕は戻ってこないでしょ? 時間が戻るわけでもない。なら少しでも健全に進める道を選ぶほうが良い」
「わかった、私の方からもお義父さんに連絡しておこう」
「あなた!」
「落ち着きなさい。何も家族の縁を切ると言ってる訳じゃないんだ。二人の提案は全員の為にもなる。ギスギスした空気ではゆいの成長にも悪いだろう? ソレに母さんもゆりに全力で向き合えるんだ。悪い話じゃない」
「それでも……」
「元々は私達に悪い部分があったんだ。向き合うしかないだろう? お義父さんが見てくれるなら安心だし。結弥は時間をくれると言ってるんだ。先ずはゆりの事を確りしよう」
「……はい」
母さんが少しヒートアップしたけど、父さんの取り成しでクールダウン。以降すんなりと話は進んだ。この程度で済んで良かったとも言える。よそ様はもっと大変だろうな。
ゆいとお引越しの荷造り。県内ではあるが田舎だからな、色々準備しなきゃいけないだろう。靴とか虫除けとかは念入りに。手続きに関してはじーさまや父さんがやってくれるそうだ。引越し予定日は来週。
数日たってから協会に顔をだす、お通夜モードな空気だ。当然と言えばその通りなんだけど。
「えっと……今大丈夫です?」
「あー君かー……大丈夫よ? ダンジョンに関しては今封鎖だから入れないけど」
「やっぱそうなりましたか」
「当然よね……国内のダンジョンほぼ全てで此処と同じような事になってたみたいだし」
「浮かれまくってましたからね……注意はしてたはずなんですけど」
「協会の手落ちだって責める人も居るそうよ? 結果がアレだから仕方ないけど……それでも、どれだけ手を尽くしたと思ってるのか分かってるのかしら」
「元々、TVや現与党が煽りまくった結果なんですけどね。支持率が下がりまくって選挙とかじゃ?」
「どうでしょうねー、与党が選挙せずに席を離さないかも」
「悪夢ですね。っと、あの日に出来なかった買取お願いします」
「はーい、約束してましたからね。許可はでてますよ」
査定をしてもらいお金を貰う。ダンジョンが一時的に封鎖と言う事は、放置しておいた本や魔石の研究に時間が使えるだろうな。ゆいの相手をする時間も増えるか。
入り口で封鎖作業をしている何時ものお兄さんにも挨拶をしてから帰宅する。見慣れたこの道も今日最後という訳じゃないけど、どれだけの間見ることが無いか予想出来ない、そう思うと少し寂しい気もする。
ゆりの病院に顔を出す。来訪者が僕だと分かると、曇った顔をして伏せる。まぁ、色々と思う所があるのだろう。一言何かあれば良いのにね。とりあえず、今後について如何するかの報告だけをして病室をでる。ノートを見なかった事を責めるのは無しだ。大怪我をした本人が一番解ってる、だってそういう顔で伏せてる。
「……き……て、……なさ……」
扉を閉める前、微かに聞こえた言葉。うんやっぱ反省はしてるようだ。何も聞こえなかった振りをしてそっと出る。替わりに看護師さんに、渡し忘れたケーキとメッセージカードを渡して届けてもらう。今すぐ部屋に戻るとか恥ずかしい!
まぁこういうものなのだろう。何が正しかったかなんて結果が出て初めて解る事だ。いや、それすらも正しいと言える訳じゃ無いだろうけどね。今は反省して先に進むべきだから、常に途中結果なだけだ。
とはいえ方針は決まってる。何とかして上級ポーションを手に入れる事。でも……ダンジョンは封鎖されていて何もやれる事が無い……行き詰まりだな。封鎖が解けるまではやっぱり爺様の所で研究しかないだろう。うん……がんばろう。
ちなみに、この大事件で高校生全体の三分の一が被害にあったそうだ。重傷者か行方不明者がそれだけ居ると言う事になる。軽傷の人数を合わせると三分の二を超えたという。
この歴史的大事件がまた国を変化させるのは、少し先の話。
此処までが大事件編とでもいうべき内容かな? 此処からやっとじーさまと妹ゆいとのひっそり生活スタート……になるといいなぁと思ってます。
割とキャラが勝手に動く……うわぁーってなったりしてます。




