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回想二

 目的地まで残り二時間程だろうか? 現在最後の休憩中なんだけど……実は一時間前ぐらいからモンスターの襲撃回数が増えだしていて、戦闘班の疲労も結構溜まっている。


「今の所被害は無いが、大規模襲撃でもあれば厳しくなるな」

「藤野さんお疲れ様です、最後尾だと戦闘回数大変じゃないですか?」

「まぁな、襲撃があると予想して立候補したからな」


 こうなると覚悟してたからかな? 藤野さんに疲労は見えないね。桜井さんの方はリーダー達と会話中かな? しかし、美咲さんが居ない時に話しかけてくるって事は何かあるのかな。


「少し話をしておきたい事があるが、時間が限られてるからな」

「えっと……何か重要な事でも?」

「次の出発をしたら、私と賢一君は此処で少し待機する事になる。健一君が今リーダーに話をしているのもその件だ」

「……囮ですか?」

「正しく殿を務めるだけさ」


 そう言いながら藤野さんが数枚の手紙を取り出して渡してきた。遺書の積もりか?


「もし私達が戻らなかったら、これを美咲に渡してくれ」

「……死ぬつもりですか?」

「そんな訳無いだろう? まぁ万が一というやつだ」

「なら受け取りません、と言いたいですが念のためですしね、どうせ美咲さんが居ないタイミングで来たのもそういう事でしょう?」

「話が早くて助かる。まぁ頃合をみて逃げる心算では有るからな」


 ……そう言いつつも逃げるなんて考えてないよね? 目がそう言ってる。美咲さんを絶対に撤退させる為だ、時間ぎりぎりまで残る気しか無いよこの人。


「後はまぁ少しのお節介だ。少しだけ何も言わずに話を聞いてくれ」

「……はい」

「白河君の一人称や話してる最中に疑問系が多いのは、君に自信が無いからだろう? だがな、少しは自信を持って良いと思う。他の人がやってない事をやってみせた、私達の半ば強引とも言える願いすらも聞き届けてくれただろう? 協会の人達にしてもそうだ、白河君に対しては信頼すらしている」

「……それは」

「まぁ直ぐに変われという話じゃない、自信を持ちすぎて慢心したらそれこそ命を落としかねないからな。それでも君はもう少し自分を認めてやっても良いのではないかな? これから変わる世界は今まで以上に命を掛けた戦いになる……そうであれば、自己評価が低すぎるのもまた問題になるはずだ」


 ……自信なんてもてるわけが無い。昔から助けようとしても助け切れてないから、今でも周囲に一切追いついてすら居ない。黒木のおじさんやゆりの怪我も治ってない。出来ない事だらけなのに何を言われてるんだろう?


「色々と環境とかも有るだろう。それでも君はその歩みを止めてないだろう? 結果として夏の時には沢山の人を救い、ダンジョンの攻略にも一石を投じたじゃないか。君が君を思う以上に周りは君を評価している、頭や心の片隅で良いから覚えておいてくれ」

「……解らないけど覚えておきます」

「あぁ、今はそれで良い。まぁ白河君は常に前進してくれれば良いさ。それとだ、もし私達が戻らなければ……美咲の事を少しでいいから気に掛けてくれるとありがたいがな」

「それは……まぁ友達ですしね」


 この人は……死ぬ覚悟すらしてるのか。その上で僕にこんな話を? はぁ、美咲さんにどんな顔で話したら良いんだろうね?


「さて、そろそろ時間だ……後は頼んだぞ」

「……避難所まで確りと送り届けるので、早く戻ってきてくださいね」

「そうだな」


 なんだろうね、藤野さんの顔が嬉しそうなそれでいて悲しそうな……何とも言えない顔だ。たぶん僕も似たような顔してるんだろうな。


 最前列に美咲さんと並んで出発する。美咲さんが混乱しない様に藤野さん達も、囮の話はせず普段通りの会話で別れたみたいだ。はぁ……知ってる身からすれば少しキツイな。


「ん? 結弥君難しい顔してるよ? 気張りすぎてる?」

「あ、あぁ大丈夫だよ。此処から避難所まで休憩無しだからね、ペースとかについて少し考えてた」

「そっか、二時間ぐらいだもんね。モンスターの襲撃が少ないと良いな」


 そろそろあの二人は……足を止めてモンスターと対峙してるはずだ。出来るなら……無事であってくれますように。




 目的地に到着するまでの、二時間ほどはモンスターの襲撃は一度としてなかった。二人がどれだけ頑張ったのか……とりあえず今はリーダー達と避難所の責任者が会話をしている最中だ。


「……受け入れ人数をオーバーしていると、そういう事ですか?」

「申し訳ありませんが……全員は無理です」

「しかし、この先には避難所は無いですよね?」

「それでも、此方側としてはオーバーする人数の受け入れは出来ません」


 ふむ……どれだけか解らないけど、人数が多すぎるのか。まぁ僕は村に帰るという風に考えれば……よし。


「少し良いですか? ガソリンが入った車って用意できます?」

「車ですか? まぁ燃料は重要なので……車一台分でしたら可能ですが」

「では、それでお願いします」

「ちょっとまって! 車なんて如何するつもりよ?」


 まぁお姉さんとしては此処で全員受け入れてもらわないといけないか、とりあえず受け入れ先がある事も知らないしね。


「あー、数人だったら僕の村でも受け入れれるはずなので、この先だったら車を使っての移動も問題ないですしね」

「……その村はモンスターの襲撃に耐えれるの?」

「ダンジョンからモンスターが溢れたってニュースが出て以来ですが、準備してきてますからシェルターなり食料なり準備してありますよ」

「……そう解ったわ、但し! その村へは私と入谷君も同行するからね」


 ふむ、協会員のプライドかな? 本当に避難できるかどうか解らない場所に、非戦闘員を連れて行けなんて言えないんだろうね。


「まぁそういう事なら俺達もそちらに行った方が良さそうだな」


 探索者をしてた数名も名乗りを上げたか……信じれるかどうか解らない話だろうに。


「ま、そうだな。そいつが大丈夫な場所だって言うなら問題ないだろ」

「そうそう、彼なら信用できるしね」


 あれ? なんでこんなにも信用されてる? ……藤野さんが言ってたのって。いや、今は横に置いておこう。


「えっと……間違いなく避難は出来ますから。車の方お願いします」

「あ、あぁ解った直ぐに用意させる」


 皆の後押しもあって、責任者の人が動いてくれた。さてどんな車を用意してくれるのやら。っと美咲さんが此方に向かってきてるな……覚悟しないとな。


「ねぇ……結弥君、お父さん達知らない? まだ会ってないんだけど……」

「……少し向こうに行こうか」


 皆がいる場所から離れてから二人で会話をする。まぁ人が多い場所じゃ話がしにくい内容だしね。


「少し覚悟して聞いてね? 藤野さんと桜井さんは……殿であの場に留まったよ」

「……え? それって……」

「戻ってこれる可能性が殆ど無い。それでもあの二人は自分達から残ったんだ」

「……あ……だって……そんな」

「もしかしたら二人とも逃げてるかも知れない、でも二人の性格から考えたらまだ戦ってるか……もしくは」


 死んでるかも知れない。その言葉は出ない。うん、僕もそれを言いたくないよ……言ったらその通りになりそうだし。


「藤野さんには僕は村に向かう事を言ってる。そして美咲さんを出来れば連れて行ってくれとも言われてる。……どうする? この避難所に残っても良いし、ついて来ても良い」

「まって……お父さんがまだ戻ってないよ?」

「僕達が今戻っても、逃げてる場合ならすれ違いになる。どうやって逃げるか解らないからね」

「でも、迎えに行かないと……」


 まぁ現実を受け止めるのは難しいよね……さてどうしようか? 手紙渡すか?


「美咲さん……これ藤野さんからの手紙。後でゆっくり読んでみて。今は二人の覚悟を尊重して、帰ってくるのを待とう」

「……何処で待つの?」

「うん、だから選んで? 此処で待つか、僕の村までついて来てから待つか」

「……ついてく」


 まだ混乱が抜けてないけど、車で移動だからいいかな? こういうの苦手なんだけどな、頼まれちゃったし、それが無くてもまぁ気にはかけるよね。まぁ……さっさと戻って来いと言いたいけど。


 さてと……足は手に入れたから、後は村までの道のりでモンスターに合わない事を祈るかな。

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