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回想一

 協会に用事が有ったから今は協会でお姉さんとお話。ゆりが遊びに来てるから早く終わらせて帰りたいよ。

 本の解読もあるし、当分は家で作業したいけど……まぁ十層攻略のデータのやり取りとかも有るからね。


「なるほどね、うん毎回ありがとうね」

「いえいえ、色々と此方もお世話になってますし」


 必要な話を全て終わらせて、お土産を買って帰ろうかと思ったんだけど、何やら協会が慌しくなってきてる。


「あれ? 結弥君こんにちは」

「美咲さんこんにちは、どうしたの?」

「なんかね、ダンジョン入り口で今は入らない方が良いって協会の方に行くように言われたの」


 ふむ……何かダンジョンであったのかな? どうも、おじさん達も協会の受付に問い合わせに言ってるみたいだね。


 多少美咲さんと話してると、おじさん達も此方に合流し挨拶をしながら情報交換なんだけど特に何が有るか解らないようだ。そんな中、協会の雰囲気が変わって……拡声器を持った人がでてきたな。


「あーあー、皆さん聞こえますか? はい、聞こえてますね。では慌てず話を聞いてください。現在、各地のダンジョンにてモンスターの暴走が確認されました。そしてこの暴走がダンジョンからモンスターが溢れる予兆とみられ、第一級対ダンジョン戒厳令がしかれました。探索者の皆さんは自衛隊の方々が来られるまで防衛に参加をお願いします。また自衛隊の方々が来られ次第、非戦闘員の方々を避難所への誘導等もまたお願いします。参加してもらえる方はこの場に残り係員より受付をお願いします」


 ……各地のダンジョンが暴走した? しかも第一級って……国家危機レベルの時に出されるって話だった様な? うん、つい最近整備された法だから余り覚えてないんだよ。

 さて……どうしようか? 顔は合わせてないけどゆり達は村に来てる時間のはずだから……こちらから探しに良く必要は無いか。知り合いは大体村にいるから問題はない。なら、どうやって村に戻るかだけど移動手段は徒歩になるな、現状交通手段はストップするはずだ。車で逃げたりする人もいて逆に動けなくなるのはお約束だから、バス等も使えない。電車も下手をすれば人が押し寄せて身動きが取れなくなり……結果徒歩が一番早い事になる。自転車やバイクもあるけど、バイクは免許持ってないし自転車はモンスターが溢れてる状況になれば、色々と足かせになってしまうな戦闘的な意味で。


「白河君はどうする?」

「桜井さん? 残る心算ですか?」

「そうだね、避難誘導等もあるからね、大人の出番というやつだ。それに……私の家族は現状此処にしか居ないからな」


 そうだった、櫻井さんの子供は一人で神隠しにより行方不明。それによって奥さんがどんどんと衰弱して行って、夏のあの事件が止めとなってしまったと言ってたっけ。

 藤野さんの奥さんも……美咲さんが小さい時に事故だったとか、その為に小さい頃は毎日一緒だったって話してたっけ。

 なるほど……たしかに遠方にいる親戚以外は此処にいるのか。


「そういう訳だ白河君。君には家族が待ってるのだろう? 早く帰ったほうが良い」

「藤野さん……まぁ家族はある意味一番安全な所に固まってますので、それに帰るまで徒歩で時間掛かりますからね。現状あわてて帰っても、交通機関でストップをくらいますね」

「確かに、今頃殆どの道は人や車で溢れかえってるだろうな」

「それよりも……美咲さんは如何するんです?」

「そうだな、先に避難させようと思っていたが……本人がやる気なのと、今動いても避難にならない事を考えれば、目の届く範囲にいてもらった方が良いだろうな」


 協会の人もすでに自衛隊が向かって来てるって言ってたし、戦闘になる前に避難誘導だろうな。

 とりあえず……ダンジョン入り口にバリケードが張られてるし、時間稼ぎは十分じゃないかな? お兄さんも協会の方に来てるし、後は自衛隊が来るまで交代しながら入り口の監視だろうね。




 待機していると自衛隊の方々が慌しく協会に入ってきた。ダンジョン入り口の方にも移動しているみたいだ。


「現状までのダンジョン監視のご協力ありがとうございました、これより協会施設は自衛隊で使わせてもらう事になりますので、探索者の方々は従来の予定通り、避難の方をお願いいたします」


 リーダー的な人かな? とりあえず僕は帰宅か、避難誘導はするけど目的地は村が有る方面の所でいこう。

 おっと、協会の人が話をするみたいだ。


「皆さんまずはお疲れ様でした。これより第二段階に移りますが、家族や知り合いが心配の方も居ると思われます。ですので避難経路は各自の自宅の方角に向かう形で編成させてもらいますね」


 なんともこちら側に有利な話だ。なんでだろうか?


「おそらく疑問に思われた方も居ると思いますが、この件について皆さんは国家の組織に所属してませんので強制力がありません。あくまで善意の協力者という事なのです」


 なるほど、ここでもう帰ると言っても良いし、避難誘導中に役割を投げ捨てても、文句は言われても何も問題が無いという事か。


「善意の協力には善意でという事で、皆さんの家の方向にある避難所であれば帰宅ついでという事ですしね。そういう訳でまたご協力して頂きたく思います」


 さて……方角で部隊分けか、僕は第二班になるかな?


「あれ? お姉さんやお兄さんも二班?」

「そうですよ。其々の班に協会員が参加するのも必要ですから、私達は二班担当です」

「美咲さん達も二班ですよね。うんよく顔を合わせるメンバーが揃ったな」

「結弥君よろしくね」


 班のリーダーとサブリーダーがお兄さんとお姉さんという事で、色々と避難経路やモンスターへの対策を決めてから出発。

 話を聞くと、ダンジョン付近は自衛隊が防衛網を敷き、さらに警察が避難部隊の最後方に配置され、僕ら探索者は非戦闘員を挟むように移動するみたい。


「探索者の数だけど、合計で七人ですか……」

「前と後ろに二人ずつで、左右に一人に残り一人は左右に動けるよう位置づけかな」


 お兄さん達が頭悩ませてるな……まぁ時間的に探索者少なかったし、先に帰った人もいれば他の部隊に編成された人も居るわけで、田舎に向かうこの部隊は少なくて当たり前なんだよな。


「ふむ……ならば私達は後ろだろうな。危険な位置といえば下手をすれば前よりも後ろだ」

「それなら僕が前行きますよ」

「あ、結弥君が前に行くなら私も」


 藤野さん達は後ろを選んだね、まぁ今回の場合モンスターが襲ってくる確率が一番高いのは後ろだ。前はどうだろう? 向かう方向はダンジョンが無いはずだから……問題が有るとしたら〝人〟かもしれないな。


 決めるべき事を決めた後は避難開始。自衛隊の方々が敬礼する中を協会から出発する。

 ……村は防衛対策やら避難場所等の用意もしてたし、近場にダンジョンが無いからね、あそこは大丈夫だ。

 そういえば、此処にまた来る時はどんな時だろうね? 中々思い入れ深い場所になったからなぁ。まぁ今は無事帰らないとね。


 休憩を挟みながら避難していく。といっても休憩なんて非戦闘員の為だ。僕等はそもそも体力はあるし、それに休憩時間中も警戒してるから厳密に休憩とは言えない。

 現状モンスターが襲ってこないという事は、自衛隊の人達の戦闘が上手くいってるんだろうね。

 

 十層までの敵であれば……此処まで来れるモンスターはウルフ系のみだ。

 そもそもピラニアは水から出れないし、ワニは陸上ではどうしようもなった。ゴブリンとオークは……人よりも身体能力が有るとは言え、足の速さは一般的な探索者と同じか下。

 結果、速度が出るウルフ系のみが追いつける距離になるけど……問題は十一層以降のモンスター達。そいつ等は溢れてくるのだろうか? そしてどんな奴なのかという問題がある。空飛んだり馬に騎乗するようなオークやゴブリンでも出たら、色々やばいからね。




 数回目の休憩の時に藤野さんが話しかけてきた。話を聞くと、モンスターの襲撃が一度あったらしい。


「賢一君が今リーダー達に話に行っている。それに最前の白河君にも言っておいた方が良いからな」

「そうですか……それにしても早かったのか遅かったのか良く解らないですね」

「まぁ私達からしたらもう少し時間が欲しかった気もする」

「……たしかに、避難所まではまだまだ距離ありますからね。時間換算であと四時間から五時間ほどでしょうか?」

「まぁ……そうだろうな、こういった時の移動速度はどうしても遅くなるからな」


 非戦闘員の方や途中で合流した人達も合わせると相当な人数となり、どうしても速度は低下していく。

 中には探索者の人も居たみたいで、左右の警戒員を増やしている。まぁ長くなるからね、細かく配備出来れば良いけど人が少なすぎる。


「まだ休憩も挟まなければいけないだろう、それに私達の所までモンスターが来たという事はだ、自衛隊に何かあったのか抜かれたのか……それに警察の警備網もだ」

「抜かれただけなら良いんですけどね……最悪も想定しないと不味いですよね」

「まぁ今回は一度だけだ、偶然という事もある。ただ……注意はしておいてくれ」


 注意か……さて、その注意が何を指すのやら。

 兎に角、今は前進しかないんだけどな……出来るなら全員を無傷で送り届けたいよね?

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