四十九話
正面の草むらが激しく揺れたあと一頭の巨大な猪が突進してくる。それをサイドステップで回避してから、ハンマーで下から猪の横腹を殴り打ち上げる。
「ホームラン! っと美咲!」
「任せて!」
声を掛けると彼女が弓から矢を放ち、猪の頭部を射抜いた。よし、完璧。
後は、落下に合わせて抵抗が無くなった猪の首を斧で刈るだけ。
「美咲さんおつかれー、ナイスアシスト」
「結弥君も、これで当分のお肉には困らないね」
「皆良く食べるからなぁ……直ぐ無くなるんじゃないか?」
「……あはは、そうかも」
本日の狩りはモンスター化をした猪で、サイズが普通の猪よりも二周り以上大きい。まぁそれでも、量的にみれば数日もてば良い方だ。
水魔法で一気に血抜きをしてから、マジックバックパックへバラバラにした猪肉を入れていく。
「さて……帰宅は何時も通り」
「そうだね……注意して帰らないと」
比較的に村周囲は弱いモンスターしか居ないとはいえ、地上はモンスターの楽園だ。居場所がバレてしまえば、非戦闘員も居るから狩られるのは此方になる。
足音を呼吸音を服等が擦れる音を徹底的に注意しつつ、足跡を消しながら移動。
村の中にあるゲートを抜け、階段を下りるとほっと一息。
「ふぅ……何とか帰って来れたね」
「まったく、帰宅する時が一番精神的にキツイな」
そんな事を言いながら、本日の成果を皆に見せに行く。
「お兄ちゃんお帰り! 無事帰って着てよかった!」
「兄さんお帰り、美咲さんも怪我が無いみたいだね」
ゆりとゆいが突撃してくる、確りと受け止めて二人の頭を撫で回す。
「ただいま、今日は猪を狩って来たぞ」
「やった! お肉さんの備蓄が増えるね!」
ちらりとゆりを見る、ゆりの利き腕は義手がついていてリハビリだ! とお肉を義手で持ってから備蓄庫へと歩いていく。まぁ一緒に行くけど……因みにあの義手は婆様達の特製で黒木おじさんも使っている。此処の地下施設といい、婆様は一体何者なのだろう? まぁ……最終目標である上級ポーション確保は変わらない。義手と生身の腕じゃ出来ることが違いすぎる。
「結弥かえってきたのかの? そろそろ魔石のストックが少なくなりそうじゃよ」
「婆様ただいま。ストックか……他の人達は?」
「彼等も頑張っておるが、如何せん人数不足じゃな」
「一応今日はモンスター化した猪だったから、結構な質の魔石だと思うよ」
「ふむ、でかした! これでエネルギー問題は当分大丈夫そうじゃな」
婆様は弟子達とエネルギー・壁・武器防具や様々な道具を次々と開発していっている。お陰で地下生活でも問題ないレベルになっているけど。何故地下に田畑が在り、水や空気が素晴しい程に澄んでいるのか……技術者って本当チートを作って行ってるよ。
「結弥おかえり、少し話があるぞ? 藤野さんも一緒にじゃな、他の者も集まっておる」
「了解。って事はそろそろかな」
爺様に呼ばれて地下の集会所へ。皆もう集まってるな、俺達が最後か。
「結弥君美咲ちゃんお帰り。今日もお疲れ様だが、少し会議だ」
「はい、議題はあれですか?」
「うむ……周囲の状況の調査や準備も完了した、地上の村奪還作戦だ」
「ははは! やっとか! いやぁ……今か今かと楽しみにしてたからな」
「全員の武器防具も揃えましたからね、結構装備がばらばらなので少し苦労しました」
皆騒いでるな。まぁ仕方ない、俺達が地下生活をするようになってから二年だ。
あのモンスターが溢れ出て文明を、街を、沢山の人を消していったあの日を最後に、人は息を潜めて恐怖しながら生活してきたからね。
今でも時々思い返すよ……あの二年前の事を。
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という事で少し時が進んでます。とはいえ次から少し回想かな?




