四十五話
十層攻略の為に必要なアイテムの回収をするのに少々時間が掛かってしまった。まぁ予備や研究用にも必要だから、という理由で魔石集めをやりすぎたとも言えるけど。
そして今日は必要な物の欠けが無いかチェックしながらの休息日。偶然にもゆりが遊びに来てるから丁度良いとも言えるね。
とは言え……やってることがなぁ、如何してこうなった?
「お姉ちゃん、足元さんがお留守だよ!」
「ゆい甘いよ! それぐらい避けれる!」
うん……なんで裏庭のバランス訓練を二人がやってるんだろうね? こう、ゆりがぴょんぴょんと飛び跳ねながら、ゆいがゆりに向かってゴムボール投げてるけど。
何だか爺様は微笑ましそうに見てるし、黒木のおじさんは混ざりたい空気を醸し出してる。
父さんは今日は来れなかったんだけど、母さんは真白さんとご飯の準備中。
「よくやるなぁ……凄い勢いでリハビリをしているってのは前回の時に理解したんだけどさ」
「良い光景じゃないか、さて……何時混ざるべきか」
「お主が混ざったら二人がボールを投げる側になるじゃろうなぁ」
それはそれで微笑ましいのか? うん、おじさんが華麗に避ける? 妹達が必死になげるボールを? 許せんな! 僕も混ざっておじさんを撃墜しなくては!
「おぉぅ!? 何だか今背筋が寒くなったぞ?」
……実に勘が良いようで、なんだか当てれない気がしてきたよ。
「して、ゆー坊や。準備は出来てるのかの?」
「道具の補充も終わったし、魔石の備蓄も大丈夫だよ」
「攻略は順調のようだな。それにしても子供が頑張ってるのに一部の頭の固い連中は……」
どうも村での会議は上手く進んでいないみたい。なにやら防衛を強めるのは賛成だけど、ダンジョンで戦闘する事に反対の人が割と居るとか。……まぁ夏から細かくダンジョンについては事件が起きたから、保守的になるのも仕方ないけれどね。
「気持ちは解らんでもないが、早急に対策しないと事が起きた時に村が全滅するというのにな」
「ワシ等も其れなりに戦えるが……それでも野生の熊ぐらいしか倒せんからのう」
……一般人は野生の熊も倒すの厳しいと思うんだけどなぁ。この村の謎クオリティーだよね。
「モンスターがこの村を襲ったら、現状では戦えるのゆー坊ぐらいじゃな」
「まぁ色々道具は準備してるけどね、石川の婆様が」
まぁ……ダンジョンを潜ってない人用にダウングレードした武器を用意してはいる。僕が使ってる武器とか、普通に使えないって検証結果がでてるんだよね。そういう訳で武器を作る時の配合率や使う魔石を調整して、ゲーム風にいうならレベル一でも、ある程度強い武器を装備できるように仕立て上げている。
「魔石爆弾もダンジョン潜ってない人間でも使えるのが見つかったのは良かったんだがな」
「あー……Dウルフでも爆破しなかったのにね」
うん、小さいピラニアの魔石なら使えたんだよね。その分爆発も小さいけどさ。まぁその小さい爆破でも石を投げて当てるより威力は出る。激辛パウダー爆弾の起爆部分をそっちに変更すれば、かなり良い感じになるしね。
「とぅ! ハイタッチ! 私の勝ちだね」
「あぁ負けちゃったー、むむむ……次は負けないんだよ」
二人の勝負が決まったようだ、というかそれ勝負だったの!? 足場を飛び跳ねてボールを避けつつタッチできれば勝ちって何時決まったんだ。っておじさんが突っ込んでいった!?
「二人とも! 俺に当てれたら美味しいデザートをプレゼントしてやろう!」
「「でざーとさん!? よし当てるよ!」」
二人の言葉が被ってるよ……うん、三人ともノリノリだなぁ。
「なんというか、結構重要な話してたと思うんだけど」
「まぁいいじゃろ、ゆりとゆいが楽しそうにしておるしのぅ」
平和な光景だよね、ただ現状のダンジョン状況をみてるとさ……。
「この光景は何時まで続くんだろうね?」
「そうじゃのう……何とも読めぬ現象が起きておるからの」
「村の近くにはダンジョン出来てないって話だったっけ」
「定期的に山の中も調べておるからのぅ……今の所は大丈夫じゃな」
とはいえ、何時ダンジョンが新しく出来るか解らないからね……警戒は怠らない方針だ。
その内村を囲むように壁も作るかもしれないね? 一体何時の時代なのやら。まぁ其れだけ危険な世界になりつつあるって事だよね。
「何にせよ、やることは変わるまいて……モンスターが来ても村を守れるだけの状況を作るだけじゃな」
「そうだね、僕は上級ポーションを目指しつつモンスターの情報を収集する」
目標が少し増えた気もするけどね! 最初はポーションだけの筈だったのにな。まぁそのポーションも数が欲しいよね? ストック分や黒木のおじさんの分も……色々お世話になってるし、怪我だってゆいや母さんを助けてくれた時の負傷だしね。
まぁその為の十層攻略は準備が済んでる。脳内で何度も思考はしたし……明日はいざ決戦! だね。
「むむむ! おじさん当たらないんだよ!」
「ちょ! 何その動き!! 兄さん手伝って!」
うん、可愛い妹達に呼ばれたし、少し調子にのってるおじさんと勝負しますかね。爺様も誘ってっと、あれ? おじさん少し顔が青いよ? 大丈夫大丈夫……僕は優しいよ? ただ思いっきりストレートで投げるだけだから。魔法併用なんてしないからね!
──???――
深くフードを被った人達、周囲は暗くロウソクの灯りだけが彼等を照らしている。
「さて……諸君、国は我等の聖地を包囲している。如何するべきだと思うかね?」
「強行突破するべきでは?」
「いやいや、自衛隊を殲滅するべきだろう?」
「出来る数を揃えれるのか?」
なんとも物騒な会話をしているが、彼等は至って本気である。
「今は少し様子を見るべきでは?」
「そんな悠長な事を言っていたら、国や協会の連中に神の恩恵が奪われるだろ!」
「俺はあの生意気な奴等に仕返しが出来れば良い」
彼等こそがダンジョンを神の恩恵と言い、突如現れた城を神の城で自分達の聖地だと公言している……実に頭の可笑しい宗教モドキの上層部だ。
「貴様……神をどうでも良いとでも言う気か!」
「ふん。元より俺はダンジョンに多少詳しいから呼ばれただけだ。神だの聖地だのどうでもいい」
「貴様!」
この中でこの男のみがフードを被っておらず、その輝く頭を晒してる。
「某議員が色々教えてくれと引っ張り込んだだけだからな、報酬は貰ってるし最低限はすると言ってるだろ」
「まぁそうですね、アナタとはそういう契約です。ですので皆さん一々目くじらを立てないでください」
この集団のトップと言える人間が発言をすると、周囲の音が消える。誰も発言をしなくなってしまった。
「良いですか? 私達に必要なのはダンジョンの知識と聖地です。彼はダンジョンの知識が豊富に在る場所にいたので、我等の同志が必要な人物として紹介してくれたのです」
ゆっくりと話すそれは、まるで子供に言い聞かせるような印象を受ける。
こうして、モンスターが暴れた街で死んだと思われた協会の支部長は……この宗教を利用して何かをするつもりのようだ。その事についてはこのトップの人間も理解した上で利用している。
そして彼等の最初の目的地が、例の城だという事しか公には話されていないが、何時行動するか等はまだ彼等にも決める事が出来ていないようだ。
国と同じで彼等の会議も踊っている。
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