四十三話
武器の調整が終わったと石川の婆様から連絡があったので早速受け取りに。
「婆様来たよ、調整終わったって?」
「うむ、ほれ此処にあるぞぃ。後、箱の調査も終わっておる。罠など無かったのじゃ」
ふむ……箱の調査が終わったか、さてと何が入ってるかな? 鍵は持ってきてるけど……念のため距離をとって開けた方が良いか。
「今すぐ開けるのかの?」
「そうだね、安全そうな場所で道具でも使って遠くからぱかっと?」
鍵を挿してから、箱を地面に置く。距離を取ってから、長いヤットコで鍵を挿んでからぐるっと鍵を回す。箱が開かないな? とりあえず鍵を抜いてから、棒で蓋の部分をこんこんっと突いてみる。
「うん、開いたね!」
「……此処まで安全策を取るとはのう」
別に婆様の調査は信用してないわけじゃないよ? ただ中身が得体の知れない物だったり、変なにおいが飛び出してきたら嫌だもの。
「とは言っても、変な物なんて出てこなかったね。中身はっと石?」
「ふむ……なにやら鉱石のようじゃの?」
「とりあえず、また調査かな?」
「これまた弟子達を働かせるしかないのう」
しかし鉱石? 一体なんだろうね? 一応モノクルでみてみるか。
「わぉ……婆様この石が含んでる魔力すごいよ?」
「ほう、であれば新しい何かを作る時によさそうじゃの」
「当分は鉱石の強度とか成分の調査だよね?」
「そうじゃの、それによって作る物が随分と変わってくるじゃろうな」
まぁ、鉱石については後を任せて、武器の使用を確認していく。
先ずはポールウェポン。形状は大まかな変更は無いけど、使った魔石が変わっている。当然バランスがいい上位互換と言えるボスゴブリンの魔石を使用。重量等も変化はないけれど、魔力の伝達率が上がり、斬撃・打撃・刺突の全てが三割ほど威力上昇をしている。
スコップや剣鉈の二本も同じ素材を使用しているので能力上昇率は同じだ。
次に鉄串とマキビシ。ゴブリン系素材は人型でバランスタイプだ、当然刺突特化のこの二つとは相性が悪い。そういうわけで使ったのはワニ素材。結果は貫通力が二割上昇した。但しコレは通常仕様で毒仕様だと少し話が変わる。どうもワニ素材と毒素材は相性が悪い、まぁワニ自体が毒無効化してたから当然かもしれないけど……そういう訳で毒仕様は基本性能は変わっていない。けどどうも血などのを濃縮した毒が素材として使えてしまった。効果は毒性が四割程上がってる……脅威だ。と言っても即死性などの猛威はない。
防具については、変更点は特に無い。ワニの鱗さんは現役です! とは言ってもメンテはしてもらったけどね。
「そうじゃそうじゃ、こんな物を作ってみたのじゃよ」
なにやら、婆様が弟子からバックパックを受け取り渡してきた。
「ん? 強度とか上がったりしてる?」
「強度はもちろんあがっておる、ただコレは前に聞いた話から作った試作品なのじゃ!」
前に……あぁ、あれか! 魔石を大量に突っ込んでたら容量が上がったって言うやつ。
「え? 出来たのそれ?」
「まだまだなんじゃがな? とりあえず試作品じゃよ。糸や革に魔粉を練り込んでの、要所に魔石を使っておる……結果容量が見た目より七割増し位まで上がっておるぞ」
七割増しって……ほぼ倍近くは入るって事!? なんてもの作り出したんだ婆様は!
「持ちやすさも考えておるからの、かなり使い勝手が良いはずじゃが。まぁテストはしとるが、まだまだ不明点も改良点も多いはずじゃ、故に試作品ということじゃ。ってことで、使った感触を教えてほしいのじゃよ」
「ふむ……まぁ便利になりそうだし、婆様の頼みだからね。うん、色々と使ってみるよ」
調査する事は一杯ありそうだね、重さやら魔石の魔力は切れるのかどうかとか、ダンジョン内だと如何いう反応するのかとか。
「うむ、まかせたぞい。さて、今日は休んで明日から鉱石じゃな。まぁ弟子には調べさせるがの」
「……少しは休息あげたげてよ」
「交代順番でやっとるわい! まったく、ブラックじゃないぞぃ」
こき使ってるように見えるんだけどなぁ……まぁ口にはするまい。
とりあえずコレで、何時でもダンジョンアタックできるな! そういえばアレもって帰ってこれるかな? ボスゴブリンが持ってた剣。あれ普通には持って来れなかったけど、このバックパックがあればいけるかも?
ダンジョンの八層で武器チェック。九層でも行けるかもしれないけど、安全にを考えれば除草剤撒いての八層でボスゴブリンの方がいい。昼間に九層を攻めるとか嫌です、直ぐ見つかりそうだしね。
といっても八層は歩く距離が増えるだけ、敵が転がってる数の多い方向を探すのが手間ってぐらいだしね。
っとまぁ前にもやった事だし、結構さっくりと進んで、ボスゴブリンを発見。
「さてと、武器の性能を試させてもらうよ? よかったらその剣も貰うけどね!」
開幕に貫通力の上がった鉄串を撃ち込む……通常型と魔法併用型と打ち込んでみた結果は、通常型が突き刺さり、魔法併用型にいたっては貫通した……貫通したよ!
「へぇ……二割上昇だから其処まではと思ったんだけど、貫通しちゃうんだ? 前は突き刺さるだけでだったのにね」
まぁ今回の通常が前回の魔法併用と同じぐらいと考えれば、如何に併用すると強化されているのか良くわかるね。
「さて、濃縮毒の鉄串はどうかな?」
これは、通常威力は大差ない。魔法併用させないと刺さる事すらしないだろうね。ただ……毒性が上がってるのは如何いう効果があるかな?
「グガ……ァ?」
ふむ……一本しか刺してないけど、前回何本も毒を喰らった状態よりも効果がある? 毒の蓄積値計算が謎だな? 一定のライン以上の毒性が無いと効果が薄いって事でいいのかな? 毒耐性が解らないから何ともって感じだね。
「まぁでも今回の毒鉄串はボスゴブリンには効くみたいだね。これは良い情報だね」
ゴブリンとオークの戦争で片方だけでも毒が確りと効くとなれば、随分と対策が楽になるかな? マキビシばら撒いたりとか。
「それじゃメインの調査いくよ? 先ずは斧の部分から調べてみようか!」
身体能力上昇とスタミナ回復の魔法を使ってから突撃。剣を盾の様にしているボスゴブリンに向かって一気に振り下ろす!
「え……まじで?」
バキン! と音と共に、ボスゴブリンの剣が折れた、まだ一合しか打ち合ってないのに! 目が点になる僕とボスゴブリン……時間と空間が凍ってるよ?
「っと、だめだ呆けるのは後回し! 今は目の前のボスゴブリン!」
即座に意識を浮上させて、目の前のボスゴブリンに突きを放つ。
……意識がまだ戻ってきていなかったのか、ボスゴブリンの心臓に穂先の円錐の部分が突き刺さってしまう。
「……これはあんまりにもあんまりじゃないかな? まさか避ける事すらせず即死とか」
うん、ボスゴブリンは驚愕したまま倒れてお亡くなりになってしまった……なにこの武器性能アップは! 魔力伝導率が上がるだけでコレだけの威力上昇になるの!?
「えっと……まぁ折れた剣回収して帰ろうか」
何とも言えない気分のまま階段を上ってダンジョンを出て行く。適当に魔石を換金してから帰宅の前に婆様に報告。
「なんじゃ、もう試したのじゃな?」
「うん、凄い性能だったよ婆様ありがとう。後これの調査もお願いできる?」
そう言って婆様にボスゴブリンの剣を渡す。うんうん婆様も驚いたね!
「これは……モンスターが持っておったのかの?」
「そうそう、今回の武器のバージョンアップのお陰でさくっといけたけど。前の武器の時は打ち負けたし」
「……ほう、それは確りと調べる必要が有りそうじゃな!」
わぉ、婆様の目が研究者のそれに変わったよ……弟子の皆さんごめんね? 婆様に火がついちゃったよ。
とは言え……十層攻略にはその調査報告は要らないだろうな、上手く立ち回りを考えれば現状の武器でいけるはずだ。さてと……調査の為の対策準備も出来てきてるし、次は十層だね。
――上層部の方々――
「まったく……次から次へと問題か」
「光の柱に城まで増えましたからね」
ダンジョンからモンスターが溢れ街を壊滅させた事、高難易度ダンジョンと自衛隊基地の壊滅、続いて光の柱と城の出現だ。これで頭を抱えるなという方が無理な話である。
「城の調査はどうなってる?」
「今は自衛隊が包囲をしており、外から内部を調査しようとしてますが上手くいっておらず……」
「突入はしないのか?」
「高難易度ダンジョンがあった場所ですので……慎重になっているようです」
下手に刺激をすれば、壊滅した自衛隊基地と同じ轍を踏む事になりかねない。であれば、二の足を踏むのは仕方ない話だ。
「それでも何時かは調べなければならないだろう?」
「そうなのですが……邪魔をする者も居るようで」
「なんだと?」
話を聞くとどうも、あの光の柱は神の御業であり、その後に現れた城は神の城などと、変な宗教が騒いでいるらしい。
「ダンジョン教とか本人達はいってまして、ダンジョンは神の恩恵だ等と騒いでまして」
「そのダンジョンを攻撃したように見える、光の柱も神のやった事と言ってるんだろう? 言ってる事がめちゃくちゃじゃないか?」
「神っぽい何かにみえれば何でも良いようで、ただ野党の一部や特定の住民がですね……」
「あー……野党がそれで騒ぎだそうとしているのか」
もはや何でも良いのだろう、現在の野党には後が無い。神の意思だ! と高らかに叫んでは国に全てのダンジョンの開放を訴えている。政教分離は何処へ行ったのか。
「全てのダンジョンの開放など無理な事など簡単にわかるだろうに……」
「それを理解してないのが彼等です」
「頭の痛い話だな、最近まったく顔を見せないと思ったら……今や狂信者か」
彼等は様々な場所でデモや座り込みに参加している。殆どの人は相手にしていないのだが、それでも賛同する人間は出てきてしまう。ではあるがダンジョン対策の話を進めるには居ない方が良い。
どちらにせよ上層部の人間にとって、居ても居なくても頭が痛くなる人達なのは間違いない。
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