四十一話
息を潜めてゆっくり下がる、目の前に繰り広げられている、ゴブリンとオークの戦場に巻き込まれる訳には行かない。こっちは九層クリアして来たばかりで物資が無いのだよ。
入り口まで無音移動をして、後は一気に階段を駆け上り……壁に背を預けてぐったり、あぁ心臓が煩い。
あんなの予想外だ、十層に入って少し進んだら行き成り戦場とか。しかし、あの戦場って延々と戦っているのかな? 本当ダンジョンは謎すぎる。
確認も確り出来たわけじゃないし、最初の対策はどうやって全体を調べるかだろうな……戦闘を如何するかはその後に考えるかな。
さて時計を確認……まだ日が昇ってない時間か、外に出ても何も無いだろうから、階段の所で少し休憩するかな? この階層であれば人は来ないしね。
ダンジョンから出ると何時ものお兄さんが吃驚した顔をしてるね。
「こんな時間まで潜ってたの?」
「少し夜中じゃないと出来ない事があったので」
「そ……そうなんだ、まぁ何かは詳しく聞かないけど体調に気をつけるんだよ?」
「ありがとうございます」
こういう時に内容を追求して来ないから信じる事が出来る人だ。大抵は面倒になるほど追求する人の方が多いからね。周りで今から潜ろうとしてる人も、お兄さんとの話が無かったらと思うと……今でも視線はうざいよ?
協会内部でも似たような空気だ。まぁこちらもお姉さんが上手い具合に牽制したので問題はなかった。
「……まったく、彼等もどうかと思うけど。白河君も無茶しちゃだめよ?」
「ははは、無茶はしてませんって、危険な時は脱兎の如くですから」
「本当かしら? まぁ良いわ無傷で私と話しているしね」
魔石の換金も滞りなく終わって、さあお土産だ! と思ったら、お店開いてないよね……コンビニデザートしかないか……エクレアやプリン辺りでも買って帰ろう。
帰宅してから直ぐに睡眠。
お昼に起きて爺様やゆいと昼食を取ってから行動開始。と言っても十層についての思考をしながら、ゆいの相手をする。
「お兄ちゃんみてみて!」
ぴょんぴょんと、庭に作った段差のある足場でゆいが飛び跳ねる。うん、それお兄ちゃんの訓練用なんだけどね? いつの間にかにゆいの遊びに使われていたようだ。スーパーボールと同じだな!
しかし、ゆいも中々面白い動きをするな。くるくると飛び跳ねてる、踊ってるのかな?
「まぁ楽しそうだから良いけど、確りと注意するんだぞ? それやる時は周りに誰か居る時にする事」
「はぁーい」
そういいながらも、くるくるぴょんぴょん……半回転ジャンプって! 今一回転したぞ一回転! 本当……大丈夫かな? まぁ何かありそうだったら確実に僕や爺様がすぐ行動するんだけどね。
さて爺様と対策会議で問題の十層だ……ぱっと見たところ平原の戦争。しかも明りが大量に有ったのを考えると、昼夜問わずか? 何時寝てるんだろうか? せめて陣地や陣営でもあれば、あの状態での確認は出来なかったな。
先ず調査に必要な物を上げていくか。
「とりあえず双眼鏡とカメラかな?」
「草原で隠れるんじゃろ? 迷彩服やギリースーツじゃないかの?」
「あー……今回も夜仕様で真っ黒で行ったしね」
しかしあのスーツかぁ……昔のゲームで良くネタにされてたよな。リンゾーだったっけ? ただ、うん調査するにはいい装備だよね。
「それにしても二つの種族が争っておるのか……どっちかを助けるのか、両方倒せば良いのか……まったく謎じゃのう」
「そうだね……まぁダンジョンって考えると両方殲滅なんだろうけど」
ダンジョンマジックだからね、意味不明なことが多数起こるのは最早理論なんて関係ない。
「そうじゃそうじゃ、ドロップ品はどうだったのじゃ?」
「あーそれね、八層で貰った謎の鍵を使う感じの箱みたい」
「開けたのかの?」
「まだ、何があるか解らないから先ずは婆様にスキャンして貰ってる」
家に帰宅する前に婆様に素材を渡した序に箱のスキャンも頼んでおいた。開けて罠がありました! とか止めて欲しいよね。だから婆様にも開けないように言って渡したよ。
「新しい魔法を入手とかじゃ無かったのじゃな」
「まぁ浅い階層で四つも覚えれただけでも凄いんじゃないかな?」
「他の人は覚えてないみたいじゃからのう……覚えてるとしても自衛隊や警察ぐらいかの?」
まぁその彼等もその手の情報を隠してるからな……僕も魔法に関しては爺様達以外言ってないけど。
……ソロで手に入ると解ったら、無謀な事をして死者が増えるかも知れないし。僕が魔法使えると解れば、何処で誰が如何動くか解らないからね。
「ま、調査待ちじゃったら今は言っても仕方ないのう。他の物は使えそうな物はあったかの?」
「素材になりそうな物は全部婆様に渡したよ。序に鉄串の貫通力が通じない敵が出て来たから強化も頼んだ」
「貫けなくなってきたんじゃな。となればオークじゃったか? 武器全体の威力に不安が残るんじゃないかの?」
ボスゴブリンで鉄串が駄目になったからね、その心配は僕もしている。なんせ全身筋肉質と言えるオークが相手だ。ボスゴブリンとオーク……その筋肉の鎧は見た目からしてオークが圧倒的に勝つはず、であれば鉄串は先ず通らない、ポールウェポンは如何なのだろうか……打ち合えば負けるだろうな、ボスゴブリン相手でも直接の打ち合いは勝ったと言えないからね。
「あぁぁぁぁやることが一杯だー」
「仕方ないじゃろ、ゆー坊がダンジョンに潜る理由は解っておるからのう」
「爺様そんな顔しないでよ、爺様にはゆいを任せてるし村の事についてもあるでしょ?……動けるの僕ぐらいじゃん」
爺様達はモンスター対策で村の防衛について色々と行動している。特にモンスターが溢れてから忙しさが凄まじいらしい。
「ダンジョンで身体能力を上げるとしても、色々準備が終わってからで、それも数人ずつ交代なんでしょ?」
「まぁ……そうなるのう、それでも行かねば、いざという時戦力不足になりかねん」
「なら、動ける人間が動くべきだよ、僕が渡してる素材や情報も有効活用できそうなんでしょ?」
「そうじゃな」
この村はゆいを守る為に利用するんだから……僕も僕で最大限の協力をしないとね、まぁ村の人達はそれを理解してるし、それが無くてもゆいがお姫様扱いだからなぁ……。
まぁ今の状況は互いにいい関係だよね。皆普通に声掛けてくれるし、ダンジョンに行ってる事を知ってる人は心配してくれているしね。
「まぁ直ぐに用意出来る物ばかりじゃな」
「武器関連の強化が終わったら調査だね」
「ふむ……まぁ確りと仕上げてくれるじゃろ」
武器の調整が終わるまではゆっくりだな。それにしても一つ気になる……オークのお肉って美味しいのかな? 是非入手して試さねば! ワニ肉に関しては……調査終了して動物実験してるそうだよ? 早く食べてみたいよ!
メモから九層について纏めながらノートに写していきながらネットで情報板を覗く。
「ふむふむ、ネット上でも自衛隊基地については詳しく乗ってないか、まぁ局地だったみたいだし、態々調べに行っても追い払われるだけだろうしね」
まぁそれでも調べに行く人は居るんだろうね、本当か嘘か解らない話は幾つか上がっている。
前回の街の壊滅については、逆に情報が入り乱れているな。
「ふむふむ……国が黒幕とか協会の派閥争い……一体どこ情報からそうなったのやら」
何時の時代でも陰謀論が好きな人は好きなんだろうな、まぁ考えるのは面白いかもしれないけど、極端すぎるよね?
それにしても、ダンジョンについて有力な情報は無いか……何処かに所属してる人、情報を流してくれませんかねぇ。
――某所――
天を穿つかの様に巨大な閃光が地上から空へと放たれた。
「あれはなんだ!」
「解りません……解りませんが、光が発した場所にはダンジョンが在ったはずです!」
「モンスターの仕業か!? あんな事が出来る奴がモンスターなら簡単に人類が滅びるぞ!」
急いで調査に向かうが、その場所は大きなクレーターが出来ているだけで何も残っていない。
救いなのは此処もまた人の生息地から離れたダンジョンだった事だろうか? 但しここも高難易度ダンジョンだった場所であった訳だが。
「……ダンジョンは消えたのか? 原因は何だ?」
「ダンジョン自体は消えてないようです……煙の奥に何か見えます」
煙が晴れた後、其処にあったのはダンジョンではなく、中世を思い浮かべそうな城が存在していた。
「あれは何処から出てきた、何故城なんだ?」
「……まずは調査でしょうか? 望遠鏡を使って調べましょう」
突如現れた謎の城。ここにダンジョンやモンスターについてのヒントがあればと、調査を開始する者達。
しかしこの城が……人が住んでいた場所とは限らない。厳戒態勢で挑むべきだろう。
また一つ問題が積み上げられてしまい……国も協会も右往左往する。最早生息圏を守る為に手段を選べない状況に成りつつあるが……未だに理解していない人間もまた多い。
今日もまた……会議は踊り、情報は都合の良い物から陰謀論まで飛び交う、救いは何処にあるのだろうか?
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