三十九話
テレビで北海道の自衛隊ダンジョン前基地が壊滅したとニュースが流れてるな。出演者の発言は賛否両論だね、どうやらあの夏の事件以来、色々と叩かれたり今でもデモ運動があったりするからか、偏りすぎた報道は影を潜めてる。さり気無く毒を混ぜるのは相変わらずみたいだけど、中立という意味で言うのであれば両極端な意見を同数用意すると言うのも手だ、とは爺様がテレビを見ながら呟いてた事だ。
「大変じゃのう、鎮圧されたとは言え、自衛隊を一時でも追い込むとはのう」
「自衛隊がアタックしてる階層考えるとね、一体どんなダンジョンだったんだろう」
「モンスターさんそんなに強かったの?」
強かったなんて話じゃないだろうな、最前線は二十五層前後それ以外も二十層前後で攻略していたはずだし。民間じゃ無理な話だ、今回溢れたモンスターが街とかに来なくてよかったよ。
「溢れたのは少し前に新しく出来たダンジョンじゃないかって話とかあるみたい」
「それにしても一体どうなるんじゃろうな」
万が一を考えて防衛から避難訓練計画を進めるべきなんだろうね。きっと今頃は村の人達も頭抱えてるだろうな……父さん達は大丈夫かな?
学校ではダンジョンの話は無いと言っても過言じゃない。ただ、今日の皆は何時もと違い少し暗い。口を開けば自衛隊の件が出てしまいそうになるのだろう、会話が途切れる事が多々ある。
「おはよう、やっぱり今日はこうなっちゃったんだね」
「美咲さんおはよう、そうだね休んでる人も居るみたいだよ」
美咲さんと小声で話しをする、周りには聞こえないよう配慮だ。
それに来ない人はニュースを聞いてしまって、トラウマがぶり返したのかも知れないね。休んでるのはあの事件で何かしらあった人達だ。
後は少しダンジョンについて会話、美咲さん達はどうやら四層クリアの目処が立ち始めたそうだ。しかし五層はなぁ……連合を組んで攻略してる所が多数だ、彼女達はどうするんだろうか? 手貸すべきかな? とりあえず今はまだいいか。
人が来てないとはいえ、授業は平常どおりに進む。因みに体育の授業はもっぱら持久走・坂道ダッシュ・シャトルランばっかりだ。モンスターが街に溢れた時に、逃げる為の走力をつけさせようと言う試みなんだろうけどね? 中には戦闘訓練をするべきだ! なんて言ってる人もいるみたい。逃げるのが最優先だよね? 戦うのは自衛隊や警官に任せた方が良いと思うよ。まぁ生徒側も結構不満に思ってるみたいだけど。
「だぁぁぁぁぁ、きついぜ! はぁ……はぁ……、何で、白河は、そんなに、涼しい顔を、していられるんだ」
「あー……僕は昔から山中を駆け回ってたからね」
「悪路だろうが関係ないわけだ……はぁ」
確りと水分補給をしながら休憩をしている、うんいつかの時代みたいに水を飲むな! なんて話は無いんだよ。まぁダンジョンブーストがある事は話さない、けど……こう見ると解るよね、ダンジョンに行ってる人かどうかって。このクラスにも僕と美咲さん以外に三人位は居るのかな? まぁただ陸上やってるだけって線もあるけどね。僕を合わせて五人ほど涼しい顔してるからね。
お昼休みの後は屋上で美咲さんの訓練、此処最近始めたやつなんだけど、何処から話を聞いたのかダンジョンに潜っているであろう生徒が混ざってわいわいとやっている。
内容は大きめのボールに乗って武器を振り回したり、足を乗せる幅が少ない物を幾つか用意して段差を作りそこの上を移動する、まぁどこかで見たことがあるような戦闘しながらバランス感覚を鍛えるトレーニングだね。
どんな体勢からでも攻撃力を落とさずに攻撃できたり、避けたり耐えたり出来ればかなりの武器になるから。
「はい残念、美咲さん失格だよ」
「あぁ! 途中まで上手く行ってたのに」
ぴょんぴょんと足場を移動する美咲さんに、安全を配慮した棒で突いたり薙ぎ払ったりして邪魔をするんだけど。見事に足場以外の所に着地してしまった。まぁ周りを見れば同じように真似をしてる人達が居る訳で、彼等はきっと伸びていくよね? これの重要性気がついてるみたいだし。
ただこれ、ダンジョンに行ってない人から見たら、ただ遊んでるようにしか見えないようだ。お陰である意味平和である。ダンジョン対策だなんて気がついたら色々騒がしいのが出て来るだろうしね。
「少し足場に意識が行き過ぎてたみたいだね、Uターンしてくる棒に気がつかなかったでしょ」
「そうだねー……一度避けてから少し足場の確認に意識がいっちゃった」
こっそりと聞き耳を立ててる他の人達も色々考えてるな、うん良い空気だよね? しかし何であそこに居る人は大玉に乗ってナイフジャグリングしてるのかな?
さてと、僕も小さいボールを足場にちょっと訓練しておくかな。美咲さんに棒渡して邪魔してもらおう。
授業が終われば帰宅の時間だ、ただ今日はダンジョンには行かない。協会には向かうけどね。
「ふむふむ、これが八層の情報なのね……それにしても、目印の無い空間で膝辺りまである草むらに奇襲攻撃……ね」
「五層のコンセプトの上位互換って感じでしたね」
「確かにコレを見た感じでもそんな風に見えるわね」
八層のデータが纏ってるから情報を売りには協会に来ないとね。しかしお姉さんもまた頭抱えてる。
「通常の除草剤じゃ無理、燃焼も燃料がどれだけいるか解らない……かぁ、連合組んでの力押しかしら? モンスターの出方も五層と同じなのでしょう?」
「そうですね、サイクルはその様な感じで、同時に出てくる量が多少増える感じでしょうか?」
「しかもゴールは自分で探さないといけないかぁ……まぁ協会側で対策を後は考えるわよ、白河君ありがとうね」
「いえいえ、何時もやってる事ですから」
「情報料に関しては前回と同じ通り、支部長達と話し合ってからになるけど」
「問題ないですよ、八層の確認も時間かかるでしょうし」
偽の情報を渡してるつもりはないが、確認せずなんてありえないからね……もしそんな事があれば、詐欺が横行するはずだよ。
ダンジョンの状況を多少話をしてから帰宅する。まぁ自衛隊については何も教えてもらえなかったけど、仕方ないよね国家機密が含まれるだろうし。そもそも協会側の受付嬢が知ってたらそれは問題か。
連合チームは六層の攻略の目処が立ち始めたらしいし、良い感じなのかな。
さてはて、後は九層の攻略準備をしながら……日にちを待つだけだ、基地集落は夜襲だしね、ダンジョンの中の時間経過を調べた事なんてなかったし、色々やる事は一杯だ。
――上層部の方々――
自衛隊の基地が壊滅した、その情報は彼等を奈落の底に叩き落した。
「自衛隊だぞ! 彼等は日本で一番ダンジョンを攻略している者達だったのではないのか!」
「落ち着け、だから言っただろう。高レベルダンジョン相手は一線級を使うべきだと」
これまでに何度と繰り返してきた会話をまた行なっている。されど会議は踊ると言った処だろうか?
「それよりも物資を大量に保有するべきだ!」
「それでは、ダンジョンを攻める戦力が減るだろう! また何処かでモンスターがダンジョンから出てくるぞ!」
「ダンジョンからモンスターが溢れた後も問題だろう!」
「予備物資は保有するとしても、それ以外は確りと自衛隊に配布して使わせるべきだ」
話は常に一進一退。前回街がモンスターに襲われた時と何も変わらない。
仕方のない話ではある。誰しも自分の安全は確保したいのだから……それで破滅した歴史上の人物は大量に居る訳だが。
「民間からの物資買い上げはどうなっている?」
「魔石であれば、随分と増えたと思われます」
「そうだ! その魔石の買い取り価格をもっと下げる事は出来んのか!」
「……現状の魔石産出量から考えて、これ以上下げますと暴動が起きますよ?」
手に入れる数が増えれば値が下がるのは当たり前だ、そうではあるが理由もなく一気に下げれば大問題になる。
「国の存続がかかってるんだ、それ位納得させれば良いだろう!」
「魔石を取って来る人達もまた命をかけてる訳ですが、その点はどのように考えてるのですか?」
「……それでも国がなければ報酬が払えんだろうが」
「そのために、魔石を売る人が少なくなれば意味がありませんね」
案は挙がれど次々と問題しか起こりえないものばかりだ。正にダンジョンについての話があちらこちらに飛び回り踊り狂っている。
「少し頭を冷やすか……今の状態で議論した所で良い案は出るわけがない」
結局この日も何も決定する事が出来ずに終わるようだ。
いったい何が最善なのか最適なのはソレは現状誰にも解らない事なのだろう。それでも何かを決めなければ……ダンジョンの猛威が牙を剥いた時に何も出来ず滅ぼされるだけになってしまう。
まだまだ彼等の苦悩は続くだろう。その先にあるのは、安定なのか滅びなのかは未だ誰にもわからない。
ブクマ・評価・感想・誤字報告いつもありがとうございます!!




