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三十八話

 ゴブリンの集落をみつけた。とりあえず確認しないとな、明らかに木で出来た壁とかあるからなぁ。

 中を確認したいけど……出来るかな? とりあえずある程度進んでから双眼鏡で見るか。


「壁が邪魔で全容確認が辛いけど……」


 軽く盛土をして台をつくって少しでも高い位置から覗き込む。

 確認して感じた事といえば、これ集落じゃなくて前線基地的な作り? 内部に子供も居なければ、女性は……そういえば、ゴブリンの性別の見分け方わからないな。まぁとりあえず、子供が居らずまた育てる環境でもない。

 有るのは、狩りをした獲物の為の施設や武器やら防具を作る場所か? 後は、飯炊き施設かな? 多分大きいのは寝床かな……多分ちらりと少しだけ見えるのは田畑かな? ……ゴブリンって農業するんだ。


「それにしても……なんでダンジョンのモンスターに生活臭があるんだ?」


 ダンジョンのモンスターはいきなり沸いて、消える時は光の粒になっていく……まるで幻の如くだ。

 これがこの階層のテーマだとするのであれば何の為だろうか? うむ解らんな……これは協会に丸投げか?

 とりあえず……今は確認出来る範囲で施設の位置や規模について、後でマップを作る為に正確にメモをしていくか。

 あー……裏側とかが解らないのが何ともといった処だけど、対策を考えるのには良いからね。

 しかしあれだな、此処より先に進めないのは辛い。恐らく周囲を警戒してる奴もいるだろうし、野良的なゴブリンやウルフ系のモンスターも徘徊してるだろうな。見つかれば……あの基地集落から部隊が出撃しかねない。


「さて、これを攻略とか……普通にやるなら三倍論だっけ? 攻める側は数が三倍居ないと攻城戦は辛いだったかな?」


 歴史に習うのであれば……川も無いから水攻めは無理、兵糧攻めなんて囲えないから無理、焼き討ち? 火魔法無いしなぁ、一人でやったとしても直ぐに火は消されるかな。

 野良モンスターを嗾ける? 防衛力が高そうだから直ぐ鎮圧されるだろうな、野戦なら可能性あったんだけど。


「ダメだね、良い案が今は浮ばないや。とりあえず疲労してるんだし一旦帰ろう」


 現状どれだけ考えても無駄だろうし、色々な人と話をしながら考えればきっと攻略法は出てくるはず。

さっさと撤退しておこうか、何時までも此処に居ても仕方ないし。




 ダンジョンを出てお兄さんと挨拶を交わした後は何時も通りの換金タイム。

 まぁお姉さんは魔石をころころと出すと、何時もの量ね的な目で見ながら対応してくれる。


「驚いても仕方ないのは解ってるのだけれど、本当多いわよね」

「そうですかね?」

「本当……この魔石とかどうなってるのよ?」


 ボスゴブリンの魔石だ。まぁ大きさも質も結構良い感じだよね? ボスウルフよりも大きいし綺麗だよ。


「この様な魔石を持ち込んだって事は……」

「そうですねー、まぁそれ以上は言いませんけど」


 まぁ階層クリアしたのは解っちゃうよね、今まで持ち込まれた事の無い魔石だし。お姉さんもニコニコしながら査定する人に魔石渡して言ってるし。それにしても、聞き耳立ててる人達……どれだけ聞こうとしても何も言わないよ?


「面白い話があったら教えてね、楽しみにしてるわよ」


 うん、お姉さんは解っててこういう言い方してるな。聞き耳たちも……悔しそうだ。きっと心情はもっと突っ込んで聞け! と言ったところかな? まぁ言わないよ? 換金も終わったし、余計な事は話さずさっさと帰るよ。




 帰宅した後は何時も通りの日常だ。ゆいにはお土産のバケツアイスをプレゼント! 実に大きいよ!


「あいすさん! 食べきれるかな?」

「バケツサイズだからね、一人で食べるなよ?」


 まぁこんなの一人で一気に食べたら確実に腹を壊す、三人で数日かけて食べるものだろう。


「えー! ゆい一人で挑戦できないの?」

「……病気になって病院行きだぞ?」

「お医者さんはいやだぁ!」


 病院の話を出したからか、そこで矛先を収めたか……まぁ病院はある意味魔法の言葉だね。

 ゆいに宿題をやらせながら、メモを見て図面をひく……記憶の限り間違いは無いはずだ。


「お兄ちゃんそれお家さん?」

「ん? あぁモンスターが溢れてる事があるみたいだからね、家を壁で囲ってから必要そうな物を考えたらこんな風になった」


 うん、我ながら上手く誤魔化せてない! けどゆいなら大丈夫かな?


「そうなんだ! ゆいねここの位置に公園が欲しいなぁ」


 その後は何故かゆいと考えた、防衛村の生活環境改善図になってしまった。後で描き直しだな……まぁゆいが楽しそうだったから良いか。

 ゆいが休んだ後は爺様と少しお話タイム、少しヒントが欲しいしね。


「なるほどのう……攻め入る手段が思いつかんのじゃな」

「そうなんだよねぇ……水も火も食料も考えたけど全然ダメ、そもそも基地集落の裏側も確認できてないし」

「魔石を使った爆弾や魔法はどうなのじゃ?」


 魔石を使えば……うーん、確かに大打撃は与えれるかもしれないけど、後が続かないか? 幾ら魔法をブーストしたといってもその範囲は家を一軒潰す事すら無理だ。爆破であれば……数や質がいるか、まぁそれは魔法でも同じだけど。


「ふむ、持ち込めるだけの魔石に左右されるか、であればいかに不意打ちできるかじゃろうな」

「不意打ちかぁ……」

「ダンジョンの太陽は動いておると言ってなかったか?」


 うん、ダンジョンの太陽は常に動いている。とはいっても夜があったとしてその時間まで潜った事が無いから解らないけど……って!


「気がついたようじゃな、夜襲と言う手もあるじゃろ」

「まぁそうなると、夜動けるだけの明りとどうやって動くかだね」


 となるとだ、暗視ゴーグルかな? ただモンスターに通じるかどうか解らないけど。きっと高いよなぁ……まぁ必需品になりそうだし、今後も使える可能性があるから買っておくのもいいか。

 次に夜であれば……火計も魔石爆弾も手の内としては有効打になってくるかな? オマケに除草剤・Pウルフ素材使用や激辛パウダー爆弾も使い方次第では、うんうんやっぱ爺様と話してよかったよ。


「良い顔をしておるのう、余程考えが進んだと見える」

「うん、爺様ありがとう! お陰で攻略の糸口がみえたよ」


 さてと……こうなれば早速準備だ! と言いたいけど、まだ八層のメモ纏めてなかった! うん、一旦落ち着いて情報整理しようか。




――高難易度ダンジョン――


 此処では前に班長になった男が班の指揮を執りながらダンジョンの調査をしている。


「一層の調査は粗方済んだな? 二層は行けそうか?」


 班長の判断により、攻略速度を落としてでも徹底的な安全策と情報収集により、現状このダンジョンアタックをしているメンバーに負傷者が出ていない。


「まぁ班長殿のお陰でこちとら怪我人は出てませんがね? 物資がいつも大変だな」


 補給担当の男はそう言うが、問題は一部の上層部による補給物資の出し渋りである。


「魔石の問題については……まぁ現地調達で何とかしているが、武器の修繕や食料が問題か」

「本当に頭の痛い話だがな」

「副長は何か有るか?」

「そうですね……隊員達の士気が上がりにくくなってますね。階層攻略をしたと言う達成感が有りませんから仕方ないとは思いますが」


 二層で急に難易度が上がるダンジョンだ、全員を一線級にしなければ攻略に乗り出す事など無理だろう。現に以前に壊滅の危機に陥ったのだから。


「班長が安全策を取る理由を理解してる奴は少ないだろうな」

「……まぁ、他のダンジョンではスムーズとは言わないが、攻略を進めてきていた奴等だからな」


 壊滅の恐怖を知らない補充隊員達では、一層と二層の違いを理解できない。だが、理解させる為に二層奥地へと足を運べば……再び死者がでるかもしれない。


「まったく……何もかもが足らないな」


 溜息を吐く班長を追い討ちをかけるかのように伝令が飛び込んできた。


「大変な事になりました! 北海道にある高難易度ダンジョンからモンスターが溢れ出て、ダンジョン前の自衛隊基地が壊滅しました! すぐさま近くの自衛隊基地より一線級の隊員が鎮圧に出たとの事ですが……」

「……原因やダンジョン周辺の状況は現状不明という事か」

「……はい、ただ恐らくですがその場にいた隊員達は」


 続きの言葉を言わない、いや言えないのだろう。そして続く言葉は此の場にいる全員が理解してしまっている。


「全員、今より一分間の黙祷だ」


 何をしたのか、どうなったのか、一切解らないが同じ自衛隊に所属する仲間達だ。その彼等がモンスターと戦い命を失ったのであれば、せめて死後ぐらい安らかに居られる様に祈りを捧げる、特に班長と副長にはその思いが強い……目の前で仲間を失った過去がある故だ。そして、班長と副長はダンジョンに対する思いを更に強くしていく。


 今回の件で助かったのは恐らく人里が近くに無かったという事だろうか? 一般人への被害は皆無だ。

 しかし此の件はまた人とダンジョンの関係が変わる切っ掛けになるかもしれない。

 

 

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