三十四話
すみません、少しばかり遅くなりました。
八層に潜れど素材回収は殆ど出来ないので、入り口付近で実験と軽い戦闘をこなす。
試すのは草に対して何が良いのか? という事に限る。うん、魔法乱発も今回は試してみたんだよ?
「はぁ魔法はだめだな、連発しても草に勝てないよ……圧倒的に攻撃範囲が足らない」
風を刃状にして飛ばした所で、正面に両手を広げた程度の幅の範囲で、射程が十メートル程……これでは、道を作る前に魔力切れでダウンしてしまう。水は……柔らかい草は切れなかったよ。
まぁ偶に出てくるモンスター達を巻き込むのは良かったんだけどね。ただ、相手次第で魔法が貫通したり止ったりとでランダム性が高い。
「なんだかなぁ……魔本の解読を進める? いやいや無いなそれこそランダム性が高いよ」
それに……良い魔法をゲット出来たとしても、魔力が直ぐ足らなくなるからなぁ。
さてはて切り札を使いまくるのもな、魔石ブーストや魔石爆弾もどれぐらい数が必要になるのやら。
「とりあえずあれかな? 自力じゃ無理そうだから道具作製待ちかな」
色々試すんだから制限なんぞする必要は無い、此処まで来る人いないしね。よく魔力を使えば使える量が増えるなんて創作があるけど、それも試さないとな! まぁ今日はもう魔力切れになりそうだし帰るけどね。
ダンジョンから出るとやはりと言うべきか……スパイが監視をしてるなぁ。
「白河君おつかれ、怪我はしてないみたいだね」
「お兄さんありがとうございます、そりゃ〝一層〟の確認でしたら怪我はしませんよ」
実際、入った時と出てくる前に一層を廻っているからね。お兄さんも理解していたのか、良い感じに話を合わせてくれた為か、スパイの視線が切れたか。
お兄さんに目礼をしてからその場を離れる。協会入り口の方を見張ってる奴もスルーしてるな、連絡でも取り合ってるんだろうね。
一層で手に入れたダンジョンウルフの魔石の交換というカモフラージュをしつつ、お姉さんにあれは早く居なくならないのかな? と話をすると。
「今、支部長が動いてるから待っててね」
うん、支部長さんも動いてくれてるし愚痴を言ってても仕方ないか。
忍耐でござるよ忍耐! と忍者コスをしている探索者が此方を向かって小声で言ってる……なんとも濃い人だ! ただどうやらあの人達が六層探索してるらしいんだよなぁ、忍者コスプレイヤーじゃなくてNINJAだった可能性! きっと首狩りが得意技に違いない!
「と言うか、僕の事を知ってる人が割と多いみたいだけど、スパイにはバレてないんだね」
「皆が協力的なのよね、寧ろ積極的に色々やってるみたいよ」
なんともありがたい話だなぁ。今もスパイに向かって侍な人が睨んでたりするし……てかなんでアレでスパイさんはバレてないと思ってるんだろうね?
帰宅前に石川の婆様の所で草対策についての話し合い。
「ダメじゃのう、草刈機では大きすぎる、除草剤は使えるようにしても数がたらんじゃろうな」
「やっぱり難しいかぁ」
機材の大きさや鞄の容量の問題でこちらも足止め状態だ、まったくもって厄介なマップだな。
「とりあえずじゃ、ダンジョンの草が地上の其れと違うようじゃし、刈取ってきてもらった物で実験した結果、Pウルフの魔石と血液が使えそうなんじゃがな」
「……毒が効くの?」
「理由は解らん、草もモンスター扱いなのやもしれんな? 兎に角じゃ、効果範囲もどれぐらいの濃度にすれば良いかも解らん。幾つかサンプルを用意しておくから、次に潜る時に試して欲しい」
ふむ……広範囲をやってくれれば良いんだけど、それなら……!
「婆様、一応思いっきり濃縮したのも準備してもらっておいて良い?」
「構わんぞぃ」
ふふふ……これが成功すれば……八層探索はやっと前に進めるぞ! 問題解決の道が見えると少し気分がいいよね。
帰宅して爺様にダンジョンや婆様と話した事を伝えておいてから、ゆいが遊んでるスーパーボールルームに。
「やぁ! とぅ! みえるぅ!」
……実にのりのりだなぁ、一人でやってるけどスーパーボールの数は三個か。おじさんとやってる時の量から見れば少ないかも知れないが、あくまであれは二人で協力プレイだったからな。
単独で三個は……凄いんじゃないか? よし、ちょっと悪戯しよう! スーパーボールを一個追加だ!
「ほっ! えぃ! って、あれあれ? スーパーボールさんの襲撃さんが増えた!? って、あぅ!」
うん、四個は避け切れなかったか、腕に一つぶつかったな。
「うー……なんで分裂したの? スーパーボールさんは実は忍者さんだった?」
「そんな訳あるか。ゆい、ただいま」
「あ……お兄ちゃんおかえり! って、お兄ちゃんスーパーボールさん増やしたね!」
まぁ、声を掛けられれば解るよね、脹れたお顔がかわいいよ? 手で挟んでっと。
「ブー! もう! お兄ちゃん頬を挟まないでよ!」
「河豚みたいに脹れてたからな、まぁ呼びに来たんだしラストスパート的な感じで良かっただろ?」
「むぅぅぅ、楽しかったけど四個は大変だったんだよ」
ゆいを撫でながら会話をして少しずつ内容を逸らしていく、かわいいしちょろい! これは将来心配だな……何とかした方が良い気もするんだがなぁ。
「とりあえず爺様の所に行くよ、ご飯の準備とかしなくちゃ」
「はぁーい」
夕飯を三人で準備して食卓を囲んだ後は、何時も通りにゆいと勉強をしながら魔本の解読とメモの確認。
ゆいがうんうん唸ってるけど……なんで未だに英語の勉強をがっつりやってるんだろう? 他国との交流一切無くなったのに。必要だなって思う個人でやった方が効率よくない?
「ふむふむ……ここの解読はっと」
「むむ! お兄ちゃんの方が難しそうなんだよ?」
まぁ言語自体この世界の物じゃないしね。
「ゆいはゆいの勉強をやりな、ほらそこ……顔文字になってるぞ?」
「……こっちの方がかわいいもん」
うん、解るし表現としては間違ってないと思うけど、テストで正解もらえないぞ?
しかしこの魔本は……どう考えても回復系だな。むむむ……攻撃二種類に補助と回復か、バランスは良いんだけど、今は火力の手数が欲しかったかな?
「お兄ちゃん、眉間にお皺さんがよってるよ? 辛いの?」
「ん? あぁ大丈夫だよ、少し考え事をしただけだから」
「そっか、無理しないでね?」
ゆいにはダンジョンに潜ってる事を言ってないけど、恐らく何かを察している。抜けてるように見えて勘の良い子だからな、それゆえに心配してくれてるんだろう。うん、頭撫でておこう。
「むむむ! 何だか誤魔化されてる気がするよ!」
「してないしてない、ほら手を動かして、今度はひよこの絵になってる」
「可愛いから良いの!」
うん……美術を徹底的に教え込んだ方が良いだろうか? そのひよこ……足が六本に鶏冠があるのは何でだろうな? ひよこって解った理由が……胸の部分にぴよこって書いてあるんだよなぁ。
寝たはずなのに何故か僕の前でゆいとゆりがスーパーボール部屋で暴れている。ゆり……何時の間に手が戻ったんだ? あぁこれは夢か、僕の願望かな?
二人が楽しそうに遊んでいるのを眺めていると、外が騒がしくなった。
如何したんだろうと三人で外に行くと、モンスター達が大量に押し寄せてきていたようだ。
ゆりが震えながらも確りとゆいを抱きしめている。うん、僕は二人の前に立とう。何のためにダンジョンに潜ってたんだ、たとえ夢だとしてもここは下がらないよ?
……それにしても、この村の住人はとんでもないな、ダンジョンウルフやゴブリンに押されていない、それどころか逆に攻めている。
戦えない住人は家に集まってもらって、爺様と黒木の小父さんが防衛。しかしなんでこんな夢を見てるんだろうか?
そんなシーンではたっと目が覚める。何とも嫌な夢だった、取り合えず外に出て確認したけどモンスターなんて一欠けらも居なかったよ。よかった。
「なんじゃ? ゆー坊も起きておったのか」
「あぁ爺様、少し夢見が悪くてさ。少し夜風に当たりに来たんだよ」
「大丈夫じゃよ、この空を見てよ。雲ひとつ無い気持ちの良い星空じゃ」
「うん、落ち着くね」
とは言え、爺様も起きているのは同じように何かを見たんじゃないだろうか? きっと大丈夫も自分に言ってる?
「とは言え、用心する事に越したことは無いからの」
「そうだね、うんもっと色々考えなきゃ」
結論は同じ所に行き着く。爺様も飄々としながらも、今の世界の状況について色々と考えてるんだよな……自分じゃなく、僕やゆいとゆりが生き残るために。
どうかあの夢が正夢じゃありませんように。
朝起きてテレビを見ている爺様が何とも言えない顔をしている。
「おはよう爺様、どうしたの?」
「ゆー坊か……テレビをみるんじゃ」
其処には……あるダンジョンでモンスターが溢れ出て、街が戦場のようだと報道されている映像が流れていた。
違う場所で違う土地ではあったが……夢で見たモノが更に酷くなった現実として、其処に存在してしまった。
「あぁ……遠いから此処や父さん達の所は大丈夫だと思うけど」
「村の住人全員でもっと話し合う必要がありそうじゃな、後は……」
「父さん達もこっちに来れたら良いんだけど」
建物が崩壊・炎上し、自衛隊や警察がモンスターと戦いながらも住民を救助している。最早ダンジョン外は大丈夫などと云う思い込みを流し去っていく映像だ。
前回のダンジョンからモンスターが出て来た時はテロップだけ流れた。街は襲われたが、街自体が小さかったのも在るが、被害が其処まで出なかった上に自衛隊の対処が早かったからか、報道される前に鎮圧した。
襲撃されたシーンが無かったためか、殆どの人が違う世界の事と判断するかのように、ダンジョン内部や直ぐ側じゃなければ大丈夫等と考える人が多く居たようで……結果的に二度目の大惨事が起きてしまったって事か。
良くも悪くもまた色々と変化が起こりそうだな、置いて行かれない様にしないとな。
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