三話
時間が経つのは早いもので、夏休みまであと二週間ぐらい。その間に起きた事と言えば対して変化もなかった。
ダンジョンについては、一ヶ月や二ヶ月ではマップは変わらない。次の月がどうなるかだが……まぁ、成る様にしかならないから放置。それと、三階層まではマップ埋めが終わった。三階層のボスは倒してないけれど。
二階層と三階層のモンスターも一階層と変わりが無く、出てくる数が違うぐらいで、二階層なら二匹同時が基本で稀に三匹、三階層は三匹編成が基本で特殊なのが一階層のボス編成で出るパターン。
二階層のボスも大きな犬モドキが二匹になった程度で基本やる事が変わらないから省略。三階層のボスは順当に行けば……ボス二匹に取り巻き二匹だろうか? もしかしたらボス三匹かも。
ドロップ品に関しても、二階層のボスが謎の本を出した以外は他に無し。もちろん宝箱や隠し部屋も見つかってない。
一階層と二階層のボスから出た謎本については、どの言語にも対応してないようで読めない……解読がつらいよ。
ダンジョン全体の事を世間一般に聞いても、三階層のボスを倒した倒してないの話題がちらほら。動画や生放送などは無いから知りようが無い、ネットの板がソースだから信用度については……うん、言うまでも無いだろう、お察しである。
お小遣いは増えたよ! ただ一階層の魔石というよりも犬モドキの魔石はガクッと下がった。今や一個百円だ。始めの頃は三百円だったのに! ボスの魔石も一万七千だったのが今や一万六百円! まぁ主戦場が三階層になったからその分儲けは……あれ? モンスターの出が悪い時は変わらない?? ボスモンスターブースト分ぐらいしか? 戦闘になれた分速く倒してても、遭遇率は似たり寄ったりで……通常の犬モドキのお値段が三分の一だけど、一度に遭遇する量が三倍だから変わらない……あるぇーーー! ボスさんの出現お待ちしております!
予定としては今週中に三階層のボスの攻略と三階層までの攻略本を作る事だ。ふっふっふコレで、ゆりの危険が危ないなんて事は無くなるぞ! 危険が危ないってなんだ?
と言う事でダンジョンにゴー!
そんなこんなでダンジョンの入り口でお兄さんと挨拶を済ませてから、ショートカットで三階層に。
自家製マップを手にボス部屋まで一直線。今日も敵は元気に吠えてます、そして沈黙させます!
ちょっと試したいことは有るけれど、ソレはまた今度に、今は当初の予定通り三階層のボスまでの攻略本を作ることが先決だ!
そしてボス部屋の前、最終持ち物チェックを指差しで確認しつつスタンバイ。
扉をこそっと開けて中を覗いて見る……暗いな、ハイビームライトで確認。本当なら暗視ゴーグルでも欲しい所。
大きなボスモドキは……居ない? あれ? 正面に見えるのは三匹の違う色の犬モドキ。亜種ワンコ? 色が今までのは灰色だったのに、今回のは紫色だぞ? 何か毒もってそう……よし安全に行こう。余談だけど板にあった三階層ボス部屋については嘘だったようだな。誰だ大きなワンコがジェットでストリームなアタックをしてくるって書いた奴!
入り口からゆっくりと入り……秘密道具! 今回はスリングショットになります! 水着じゃないよ! まずはセオリー通りに、激辛音爆弾を全力で投げつける! 初手はコレに限る。
爆破音と共に、きゃんきゃんするのは……色違いでも変わらない様だ……此処で毒だと怖いからスリングショットの出番。こういう時のために練習してきたからね。
弾丸ケースから取り出すのは……太目の螺子で先が尖ってるタイプ。コレで急所、主に目ん玉つらぬけえええええええええええ!
「疾っ!」
何時もの様に息を吐いた後、息を止めて狙撃。ステータスとかスキルとか存在するのか分からないけど、間違いなく身体能力が向上してはいる。その身体能力についてこれる様にしたスリングショットの螺子撃ちを乱射! 一匹!
犬もどきも態勢を整えようとするも、激辛状態異常が未だ解けてないが……灰色ボスモドキより回復がはやい!? 今のうちに二匹目にも乱射!
やばい! 三匹目が復活しやがった。スリングショットを投げ捨てスコップを手にする……っが間に合わない!?
「ぐっ……ガブッじゃねぇ!」
右腕を噛まれた! 利き腕じゃなくて良かったけど、毒じゃないともっと良いな。とりあえず犬系に噛まれた時は引くんじゃなくて……押す!
「よいしょおおおおおお!」
腕を押しながら、蹴り上げる! よし外れた! ただ、片手じゃスコップは辛い、スコップも投げ捨て、腰に用意してある狩猟剣鉈九寸サイズ! 高かったんだぞこのやろう!
「突き刺されぇぇぇぇぇぇぇ!」
浮き上がってる亜種犬モドキに、全身で飛び込みつつ剣鉈で突きを放つ! 狙うは心臓! 少しずれてもよし! 刺さればokだ!
剣鉈が突き刺さった犬が倒れこむ、距離をとって残心。動きは無いようだ?
「ふぅ……とうとう攻撃くらっちゃったよ。毒じゃないといいんだけどなぁ」
万が一のためにとりあえず傷口を洗い流した後に、奴の体液、涎や血液を採取して空にしたペットボトルに保存。体が微妙にダルイ……少し発熱してる? 牙は抜けないかな? あっ抜けた取って置こう。ビニールに入れて丁寧に保存。作業は全部ゴム手袋をつけてやったよ、毒だったら危ないしね……噛まれてるけど。
バックパックから消毒液と化膿止めを出して処置、包帯を巻いておこう。
それにしても、自分の欠点が見えたな。武器チェンジのやり方が不味い、もっとスムーズに出来ないと。
ドロップ品と投げ捨てた武器を回収して、ショートカットの開放。そういえば、鍵は束になるのかと思ったらくっ付いて一つになったよ。嵩張らなくて便利だ。
「お? 戻ったのかい? ってその腕どうした?」
「いやー隙を作って噛まれちゃいまして」
「此処に来たと言う事は対処できたんだろうが……早く協会の医務室に行ってみてもらってきなさい」
「はい、買取してもらう前に行ってきます」
入り口のお兄さんに医務室の位置を聞き移動、毒かどうかも調べてもらわないと。
「失礼しまーす、保健室のおねーさんは此処ですか?」
「ははは、面白い子だね。まぁお姉さんじゃなくておじさんだけどな」
「いえいえ、怪我をしたので贅沢は、コレ見てもらって良いです?」
「ソレが私の仕事だからな、包帯を取って……」
「実は、コノ傷をつけてきたモンスターなんですけど、色が違ってて。毒とかないかなーとか心配してるんですよね。とりあえずコレ、サンプルとってきたので調べて貰って良いです?」
「いやいやいやいや、毒って……何処の敵と戦ったの? サンプルは調べてみるけど、時間かかるよ? 大丈夫?」
「いやー……噛まれてる時点で何とも。今は微妙に熱っぽいのとダルイの以外はなんとか」
「ふむ……自衛隊の方にも問い合わせてみておくか。とりあえずコレは預かっておくよ? 後は、様子を見たいから数日間此処に通うように」
「はい、ご迷惑おかけします」
医務室のおじさんにサンプルを渡して退室。確り調べてもらえるようだ、よかった。其のまま受付のお姉さんの所に。
「買取おねがいしますー」
「今日も来たね。今日はどっち? ノーマル? ボス?」
「今日は……ちょっと違うこれです!」
「これは……チョット待ってね調べてもらうから!」
椅子に座って待つ、少しふわふわする。うーむ、微毒? 戦闘中だと本当にヤバイね、微妙にじわじわと症状が出てる感じ。これ以上酷くならなければ良いけど。
「査定でたよ。なんてもの持ち込んでるのよ。三階層ボスの魔石なんて初めてよ?」
「おおっふ……まだクリアしてる人居なかったんですか」
「そうね、色々とねボスも倒せる人も少なくて、どうしても慎重になってるみたいね。三階層にいける人なんて殆ど居ないわよ?」
「あらー……二階層のボス二匹はやっぱり壁ですか?」
「そうねー、一PTじゃ厳しいみたい。寧ろどうやってソロでクリアしたのよ?」
「其処は企業秘密と言う事で、まぁその内にでも?」
「期待せず待ってるわ。っと買取なんだけど、ノーマル魔石が十六個ボス魔石が二個この三層ボス魔石が三個ね。金額がそれぞれ一個ノーマル百円ボス九千円三層ボスが五万円ね。合わせて十六万九千六百円よ」
「おー……オメメビックリな金額」
「まぁ、初見の魔石があるからね。一個単位ならもう少し高かったんだろうけど複数だから」
「あーソレは仕方ないですね。ボスルームだから同時に出てきましたし」
「どんな敵だったか教えてもらえる? 一応報酬はでるわよ? 今の階層だと初見は基本二万円ぐらいかしら」
「自衛隊とかから情報もらえないんです? っとまぁかくかくしかじかなモンスターでしたよ」
「まぁ色々とあるのよ色々と。情報はそんな感じかー……医務室にサンプルね。検査結果が出たらこっちにも情報もらわなきゃ」
情報のやり取りをしてから何時もの様に帰宅。本当ならあの毒犬? の魔石を一個持っておきたかったけど、ボスルームの奴だから確保したのがばれる可能性もある。初見だったし全部出した理由はソレだ。次からショートカットがあるからボスを倒してもこっそり確保出来るだろう。ただ値段的には売りたい!
ゆいに何時もの様にお土産を買って帰宅。今日のお土産はちょっと高めのカステラシリーズで、何か駅で長崎フェスタやってたから購入。ノーマル・チョコ・抹茶の三点セットだ。
今日のボスソロボーナス(と自分は思ってる)は何かモノクルメガネみたいな物。掛けてみたケド、何も替わらない何だコレ? もしかしたらコレ着けてアノ本を読むのかな? 試さねば!
「ただいまーっと何時もながらお返事が無いな」
何時もの流れで部屋に入りゆいを呼ぶ。
「お兄ちゃんおかえりー。今日のお土産さんは?」
「ふっふっふ……今日はカステラだ! ソレも三点セット!」
「カステラさん! 生クリーム用意してこなきゃ!!」
そんなこんなで何時もの聖域タイム。攻略ノートもホボ完成と言えよう。後は数回ダンジョン内でチェックするだけだ。医務室おじさんの情報も記入できたらよし!
怪我はばれない様に長袖で隠す。ゆいに心配はさせたくないからね。
「おいひいおー」
「食べてから話しなさい、まったく口の横にクリームついてるぞ?」
「あわわわ、もったいない!」
精神的エネルギー充填、今週のラストダッシュだガンバルゾッと。
そうして迎えた月曜日の朝。昨日の内にノートの最終チェックもして、準備万全。医務室おじさんに通った結果は、微毒だが直ぐ治るタイプだったらしい。らしいと言うのも、未だ十全に調べつくしてないから。そういう意味では万全ではないのだが。とりあえず清書したコレを渡しておこう。
「ゆり少しいいか?」
「あぁアンタか。何か用?」
冷たい反応だな。前まではゆいみたいにお兄ちゃんって反応してくれたのに。少し悲しい。
「夏休み入ったらダンジョン行くんだろ? コレ読んどけよ」
「ふーん。まぁ何か知らないけど?」
「絶対読んでおけよ」
ノートを渡して其のまま離れる。冷たい反応は精神的にくるなぁ……ヒーリングしてもらわないと。今日はゆいと遊べるゲームでも用意しておこう。さいころの女神様でも用意しておけばいいかな?
学校では来週からダンジョンだーと騒がしい、一切危険視してる人が居ないのが少し怖い話だ。
「おーい、俺と組んでくれる女子募集!」
「えー嫌よ! アンタと組んだらモンスターじゃなくてアンタに襲われるじゃない!」
「ちょ! そんな事しねーよ! ちょっとつり橋効果のラブロマンス狙ってるだけだ!」
「キャーー、襲われるぅぅぅ」
実に暢気な会話だな。浮かれすぎだ……本当大丈夫なのかなこれ?
そんな空気の一週間が過ぎ、夏休みが始まる。




