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三十三話

 制限された状態と言うのは思った以上に精神的にくるらしい。あのハg……どこぞの支部のおっさんが来てから、協会やダンジョン入り口を見張ってる奴等がいる……てかあれで隠れてるつもりなのか? 丸見えだぞ。


「やっぱり今日も監視してる人がいるねぇ」

「結弥君、誰かにみられてるの?」

「いや、僕じゃなくて協会とダンジョンの入り口。目でみて確認しないでね? あそこの影とこっちのベンチに座ってる男。探索者の格好してるけど、ここ等の人じゃないね」

「最近登録した人じゃないの?」

「その割には強すぎるかな? でも直ぐばれるような感じからして三層レベルかな?」


 即戦力ではないがそれなりに使える人間をスパイとして送ってきたんだろうなぁ。まぁ監視だけだろうし、暴力に任せては無いだろうな。もしそうなら、五層レベルや人数そろえるだろうしね。


「そういう訳でソロで潜るのは当分の間、様子見になるんだよね、全くもって邪魔だよ」

「何時も特訓見てもらってるし、恩返しの一環にもなるから私としては幾らでも付き合うよ!」

「ありがとう美咲さん」


 とはいえ彼女を八層とかに連れて行く訳にもいかないだろう。と言うか……クリアしてない階層って連れて行けるのか? ふむ少し試すのもありか。


「ダンジョン入ったら少し実験していい?」

「良いけど何をするの?」

「クリアしてない階層に足を運べるかどうか」


 という訳で、美咲さんを連れて四層以降を目指してみたんだけど、どうも三層から四層に向かう階段が見えないという訳で。


「なるほどね、クリアしてないと次への階段自体が見えないのか」

「結弥君と一緒にいても駄目だったね」

「接触してても、階段の前で弾かれたし……ずるは禁止って事かな」

「あー……うん、ソウダネ」


 なんかモゴモゴしてるけど如何したんだろう? 触れての実験は不味かったかな? まぁ四層以降にいけないのなら三層で狩りをするよ。

 とはいっても、僕は基本的に美咲さんの動きを見てるだけで、別段やる事がある訳じゃない。まぁ随分と目も動きもよくなってるからね。


「……っと! どうかな?」

「うん、てか本当に僕が見てる理由が解らない位に良くなってるよ」

「えへへ、ありがとう! でもほら、師匠には偶に見てもらって色々指摘してもらわないと、いざという時困るから。お父さん達の動きは私には理解できないし……」


 まぁあの突撃が得意技です! みたいな動きはなぁ……体の大きさや作りから言って美咲さんには無理だよね。

 あれは身長が高くて体重もそれなりにあった上で、筋力が無いと無理な戦法だ。僕にも無理だろう、ポールウェポンでリーチと重量は補ってダンジョンブーストで筋力は何とかなっても……うん、身長と体重が全く足らないよ!


 そんな感じで美咲さんの訓練を見た後は何時も通りに帰宅。チラリとスパイ達を確認するけど……まさかこいつ等囮じゃないよな? 本命は別にいるとか? うん、お粗末過ぎてその線が気になるな……よし、お姉さんに話をしておこう。


「なるほどね……うん、その可能性は有るかも知れないわね」

「余りにも発見しやすいですからねぇ、あれ」

「とりあえず支部長に話を通してみるわ、一度周囲の捜査を広げてやりましょうって」


 なんとも心強いお言葉だ、他のダンジョンに潜っている人のレベルが解らないからな、隠し玉なんぞ用意されてたら其れこそ面倒な話だ。

 その後は美咲さんと他愛も無い話をしつつ、お土産を……贅沢が出来ないお土産を入手してから帰宅。うん、デザートじゃないんだよ? コンビニで昔ながらのお菓子を買って帰る。丸くて四粒入ってるガムとか、四角く小さいやつが一杯はいってる青りんごだのサイダーだのと書かれてるやつとか、其れ関連の物だ。


「前なら百円あれば幾つか買えたんだけどなぁ」

「今だと二個でも買えたら良い方だね」


 ちゃっかりと自分の分を買っている美咲さん……うん、麩菓子かな? 美味しいよねそれ。




 帰宅してから、爺様と草刈について話をするがまったく良い案がでずに、ゆいと戯れる事に。


「ゆいはこの青りんごさんが美味しいと思う!」

「ふむ僕はサイダーかなぁ?」

「こっちの、ヨーグルトさん? はちょっと食べにくいよ」

「あー其れは、人差し指を洗って綺麗にしてから、容器に突っ込んでぐるっと一周させるんだよ」

「……おー! ヨーグルトさんが指にくっ付いてきたよ!」


 しかし昔ながらの駄菓子は割りとべたっと手や周囲を汚すよね、きな粉がぼろっと落ちてきたりとかするし。あぁゆいの口周りが大変な事に! ハンカチハンカチっと。

 とりあえずは、草刈の話は石川の婆様にも聞いておこうかな、良い道具が出来るかも知れないしね。




 寝る前に何と無くダンジョン板関連を調べてみる。


「ふむふむ……情報が制限されてる場所と、そうじゃない場所があって阿鼻叫喚だな」


 読んで行くと、石頭が悪いだの禿が悪いだのと書かれてるな、アレか? 禿ってあの時に話掛けてきた、何処ぞの支部長さんか? しかし陰謀論があったりと割と面白いな。


「ふむ、石頭と禿は某蝙蝠議員とデキてるから、利権を貪ろうとして失敗したんじゃないか? っとな」


 しかしデキてるって! まぁ揶揄だろうけどさ。命を預かってる上に防衛上の最前線とも言える協会で、そんな風に動く人もいるのかね? あーまぁあのおっさんの行動を考えたら、どうしようも無い人もいるのか。

 現状実害を受けてるわけだし、自分で動けないからもどかしいよね。さてはて、どれ位の時間がかかるんだろうね。




 学校の昼休みの時間、今日は人のいない屋上でまったりとしてたんだけど、なにやら真剣な顔をした男子生徒が向かってくるな。


「少し良いか? 白河だったよな、お前の事をダンジョンで見かけたんだが」


 わぉ、ダンジョンの話は学校内だとタブー扱いなのにストレートでぶち込んでくるとは……美咲さん以来か? とりあえず話を聞いてみるか。


「見かけた? 人違いじゃなくて?」

「あぁ、間違いなくな。聞きたい事は何で潜ってるんだって事だな」

「なんでと言われてもなぁ……必要だから?」


 なんでこんな事を聞いて来るんだ? まぁ、僕だって確信してるみたいだし話は続けるけど、まったく意味がわからん。


「……っ。お前だろ? たった一人でダンジョンは危険だって言ってたの、なのになんで潜ってるんだと思ってな」

「まぁそれも、やらなきゃ行けない事が出来たからとしか言い様がないかなぁ」

「……怖くないのかよ?」

「怖いから逃げ回ってるよ? 自分の出来る事と出来ない事を判断して行動してるし」


 何が言いたいんだこいつ? 僕とフレンドリーになりたいとか、美咲さんみたいに真剣なお願いがある感じでもないよ?


「……そうか」

「というより、何が知りたいのさ?」

「…………」

「黙ってても解らないよ? てか、何が知りたいか全く理解できないし、もう行って良い?」


 うん、微妙にいらいらするなぁ。なんというか、うん解らないけどイラっとする。


「すまん、あれなんだ。あの事件の時に俺も潜ってたんだ」


 おっと、行き成り語りだした? てかあの事件の時に潜ってたって事は復帰組みか?


「比較的軽い怪我で済んだんだけどな、横で仲間が……大怪我をしたのを見てな」

「あぁトラウマになったんだ、でもそれがどうしたの?」

「っ! ……いやまぁ、全員無事だったから良いんだが。一人が生活の為にまた潜ると言い出して、それで全員でまたダンジョンに行ったんだが」

「トラウマで足がとまった?」

「あぁ、その時に白河が入っていくのを見たんだ、どうしてあんなに軽い足取りでダンジョンに潜れるか不思議でな」

「それで話かけたと」


 なんと言うか……僕には全く関係ないよね? トラウマ解消したいならカウンセラーに話をするのが一番だよね。なんで僕に話かけてきたんだか。


「カウンセリングは受けたんだがな、どうも上手く足が動かなくて」

「まぁ潜らずに堅実に何かのバイトでもすれば良いんじゃないの?」

「今の時代バイト先がどんどん減ってるからな、手っ取り早いのはダンジョンだろ?」

「それで怪我したり行方不明扱いになったら意味ないよね?」


 うん、苦虫でも噛んだ様な顔してるね。でも当たり前だよね? トラウマな上に判断が自分で出来ないなら潜るべきじゃない。自信が無いと言いつつも、向上心がある美咲さんみたいな意思は欲しいものだ。


「兎に角、無理なモノは無理と割り切れば? ダンジョンなんてそもそも一般人が潜るものじゃないし」

「それでも白河は潜ってるんだよな?」

「言ったよね? 潜る理由があるって」

「理由?」

「言う必要あるかな? プライベートな事だし。まぁ断言しても良いよ、今の君がダンジョンに行ったら、直ぐ怪我をするか行方不明になる」


 別に僕が居ない所であれば、怪我をしようが行方不明になろうが知った事じゃないけど……入り口のお兄さんが悲しむからな、あの良い人が悲しむのはなるべく避けたい。


「……そこまで言うか?」

「言うね、はっきり言って君らがどうなっても僕にはどうでも良いけどね。僕の知り合いにそれを嫌がる人が居るし、君等の周囲にも居るんじゃないの? 怪我した時にそういった人に心配かけなかったの?」

「…………」

「まぁいいや、とりあえず僕はもう行くよ。……っと最後に一言だけ、もし君にまともな判断が出来るなら、生活費の人は何としてでも止めた方が良いよ」


 切羽詰まってるのかも知れないし働き口を探すのが大変なのかも知れない、それでもあの事件に遭遇して、トラウマまで持った人達を再度集めてまたダンジョンに行こうとするなんて……間違いなく周囲に不幸を呼ぶようなタイプじゃないか? 少しでもその人が違う所に目を向けられたら、まぁ僕に言えることは言ったし後は勝手にしろだ。




「結弥君、話してたみたいだけど大丈夫だったの?」

「美咲さんか、見てたの?」

「たまたま聞こえちゃったから」

「まぁ言えることは言ったし? 後は知らないよ」


 ダンジョンなんて出来て、死が隣り合わせになった環境だ。自分の意思で行動しなければ到底やっていけない。それでもまだダンジョンに向かわず、ダンジョンから遠くの場所で生活すればまだマシだ。

 結局の所、人は無理矢理その考えや意思を変えさせられる状況なってしまった、だというのに簡単に人は変われない……その落差がこのめちゃくちゃな状況を生み出してるんだろうな、多分あの禿のおっさんも変化の流れに乗れなかったタイプだろうね。


「平和から死地への落差に追いつけないか」

「ん? ダンジョンの事?」

「そうだね、モンスターが溢れる可能性もあるってのに、まだ平和だって思ってる人が一杯いるんだなって、大量に犠牲を出したのにね」


 今は忍耐の時期なんだろうな、変化と拒絶の狭間によるストレスか。まぁ上の人達が何とかする事だね、僕には僕のできる事をやっていくだけだ。

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