三十二話
刈るただひたすらに刈る、八層では前に進むたびに刈らなければいけない……だってこの草達邪魔すぎる!!
此処では攻撃のほぼ全てが奇襲だ、ウルフもゴブリンも行き成り攻撃してくる。ゴブリンさんどうしてアナタは匍匐状態から投石してくるんですかねぇ……まぁ、そんな訳で膝辺りまである草が邪魔すぎる訳だ。
「除草剤は効かないし、火は延焼しない油を撒くとしても必要量が多すぎる、斧の部分で草刈ってるけど……腕がやばい事になるんじゃ? 楽な方法ないかなぁ」
草刈の作業をしつつモンスターを警戒、モンスターが出てくれば狩る。愚痴を言っても仕方ないんだけどね、すっごくめんどくさい! 草刈ってたら警戒が薄くなるし! かといって警戒してたら草刈が遅くなるし!
魔法を使えば良いかもしれないけど、風魔法とかでスパーン! と一気に切る風の刃的なあれ? 出来る気はするんだけど……魔法は何があるか解らないから温存しておきたい。ただ温存策を選んだとは言えだ……疲労がどんどん溜まってしまっている。
「どうしたらいいんだろうね、一先ず撤退かな?」
こういう時は一旦引いてから対策を考える! という事で速やかに後ろに向かって全力前進!
入り口のお兄さんの機嫌が良さそうだ、どうやら五層をクリアしたパーティー連合が出たお陰で、ギスギスした空気が薄くなりダンジョンに潜っていく人たちとの挨拶も増えてきたそうで。
「いやぁ、空気が悪いとそれだけ怪我人が出やすいからね」
このお兄さんは良い人すぎるんじゃないか? と前々から思ってるんだけど間違いないよね。とりあえず、皆の攻略が捗っている様で良かった。
受付のお姉さんに魔石を換金してもらいながら現状の話。どうやら七層の情報は有料での取引にしているらしい。
「それにしても何故行き成り有料に? 表向きの理由は筋は通っているとは思うけど」
「そうねぇ支部長が言い出したことだから、上で何かあったのかも?」
上ねぇ……前にダンジョン協会の定例会議があったみたいだから、其処で何かあったんだろうな。まぁ触らぬ神に祟りなしだな、この話は此処で終了しておこう。
「そういえば五層と六層の攻略は調子が良いみたいで、入り口のお兄さん機嫌が良さそうでしたよ」
「あぁ入谷君ね、うん彼はそういう人よね。まぁ攻略の調子が良いのは間違ってないけどね」
お姉さんと査定待ちの間に話をしてたら、奥から頭がつるっとした男がこっちに向かって歩いてくるんだけど……職員にあんな人居なかったし、潜ってる人でも見た事無いとなると何かの交渉に来た人かな?
「其処の子供と受付に質問だ、ここのダンジョンを単独で潜っていて情報を提供してる奴を知っていたら教えろ」
何とも高圧的だなぁ……受付のお姉さんと一瞬目があったので先にジャブを打つ事にする。先ずはポケットに入ってるスマホを操作してREC。
「いや? 知りませんよ、それにそういった個人情報は洩らせないの知らないんですか?」
「……生意気なガキだな。知ってる事をとっとと話せばいいんだよ」
ちらりとお姉さんを見る。こっちの行動の意味が解ったみたいで、後ろの職員に紙を渡したか……その職員は奥に向かったと。ふむふむなるほど。
「生意気と言うけど、礼儀がなってない人に言われてもねぇ? 人から教わらなかったんですか? 先ずは自分から挨拶しましょうって」
「まぁまぁ白河君、この方もこんな感じですけど一応は他の支部を纏めてる支部長ですから」
お姉さんさりげなく毒を含ませてるなぁ、もしかして僕が来る前にも色々やらかしてたのか? そうじゃないと受付嬢なんてのは基本人当たりが良くないといけないから、こんな言い方しないはずだよね。
「ふん、まぁいい。お前等の中で誰か知ってる奴が居たら話せば良いんだ」
「知って如何するんだか……そもそも知らないって言ってるのに」
「馬鹿か? そんな行動してるような奴だ、ただのお人よしだろう? なら全てのダンジョンでやらせるべきだ」
……馬鹿だ、馬鹿がいる。もしかして頭に栄養が回らなくて、思考も毛も何処か飛んでいったんじゃないか? いやいや、それだと他の人達に失礼か。ストレスだったりスポーツで剃ったりしてる人も居るんだから。
しかしこのおっさん、声が割りと大きいからか人が集まってきたな……証人が一杯になりそうだ。
「結構な問題発言だと思いますが? 私としては、個人情報の保護と協会の規約を守って頂きたいと言わせて頂きます」
「受付嬢風情が……いいからさっさと言え。それが協会全体の為だ、理解しろ」
よし、ここでストレートをぶち込もう。
「おっさんその辺でやめたら? お姉さんが言った通り問題発言でしょ? これが色々な所に知れ渡ったら……どうなると思う?」
「聞いているのは此処に居る奴等だけだろうが、多少誰かが洩らしても問題はないな、肩書きが違うからな……まぁお子様にはわからんか」
「はぁ……解ってないのはおっさんだろう? 今の世の中、録音や録画は簡単に出来るし、それをネット上にアップする事や、おっさんより上や司法やらに渡す事も昔より楽だよ? 周りを見てみろよこれだけ人が居るんだ、もう既にネットにアップしてる人も居るかも知れないよ?」
「なっ!?」
綺麗にストレートが決まったな! 此処できっと美味しい所を持っていく人が登場するはずだ、後は任せてしまえばいい。さぁ出でよ兵部支部長! ……うん、というかおっさんの後ろでスタンバイしてるんだけどね。
「照山支部長? 何を騒いでいるんですか?」
「うっ……兵部か。いやちょっとした情報収集だ」
「その割には大声で叫んでいたようですが……よもや法や規約に触れるような事は為されて無いでしょうな?」
「……そのようなことは! ふん、まぁいい俺は帰るぞ!」
良く吠えるなぁ……あれか? コネとか金で地位を手に入れた口か? 彼のダンジョンは大丈夫なのだろうか……まぁがんばるのは其処の人たちだね。
「っという訳で、兵部支部長面白いデータがあるのでどうぞ」
コピーした録音データを渡しておく、自分でも持っておかないとね。
「これはこれは中々に良いものを頂いた様で、必ず有効利用する事をお約束しましょう」
うん、支部長の笑顔が真っ黒だ! もうあれやこれやと思考してるんだろうな。周りの人たちも楽しそうに「これは良い酒が飲めるぞ!」なんて言ってる。うん、見せ物じゃなかったんだけど?
「まったく……白河君も無茶するわねぇ」
「あはは、まぁおっさんの発言にイラッとしたのは事実だし?」
「はぁ……あの人ももう少し自分の立場を理解してもらえないかしらね」
「ふむ……それは無理というものだろうな、同じ支部長と言う立場には居るが彼はその何だ……利権に固執しているからな」
なんとも言えない話だなぁ、汚職とかもしてるんじゃないかなぁ、魔石だか素材の横流しとか? まぁそれは本部が調べる事だからもう忘れてしまおう。
「白河君の事は私の権限において何とかするが、暫くは目立った行為をしないほうが良いだろうな」
「まぁソロで潜ってるの僕以外殆どいないですしね」
「……そうねぇ余り無理はしないほうが良いと思うわよ、あの人の事だから人を送ってきて監視とかしそうだし」
「ふむ……解りました、当分は素材やら魔石の入手は気をつけますね。まぁ今は……少し壁に当たったので対策の為の思考が先かな? まぁ丁度よかったかも」
「ふむ……また面倒な感じかい? 気をつけるんだよ」
まぁ支部長やお姉さんの言う通りに行動だな、ピンポイントで僕だとは解らないだろうけど、協会やダンジョンの出入り口付近に人を配置して監視ってのはありえそうだしね。
当分は爺様達と対策・研究をメインにしつつお願いされてる美咲さんとのダンジョン探索かな? こっちならソロじゃなくてペアだから監視もスルーできるだろうし。
「とはいえだ……攻略速度が落ちるかもしれないし何より金策が……お土産も買えないじゃないか!」
ゆいやゆりの笑顔が一つでも少なくなるなど、由々しき問題だ! あのハゲ頭め! マジでネットやお国にこの録音データ流してやろうかって考えてしまうな。まぁ支部長が有効活用するって言ったんだ、僕はまってるだけで良い。
――ウルフダンジョン協会支部の一室――
「まったく……照山支部長は何を考えてるのやら」
支部にある一室でこのダンジョンの支部長をしている兵部が頭を抱えていた。先ほどの違う支部から来た照山という男の行動が、余りにもふざけていた為だ。
「大方七層の情報を有料にしたからだろうが……あれか? 石鷹支部長あたりと繋がっているんじゃないだろうな?」
七層のデータは限定して公開した、あの会議の際に協会全体で情報料を出すというのは却下された。それでも情報は大切だからと、幾つかの支部長達が自らのポケットマネーより兵部に支援をして出た結果があの五百万と言う金額だった。
その代わりと言うのもあれな話だが、兵部は本部と掛け合い情報料の支援をしてくれた支部に配慮と七層以降のデータを有料にする件を纏めた結果が、この歪な状態を生み出したとも言える。
「まぁ情報などの配慮をする代わりに、色々と契約を盛ってはいるのだがな。それから外された上での行動だろうが」
彼等は情報料を全体で払う事を拒否した上に、その後支部が勝手に払えば良いと声高らかに主張した者達だ。自業自得という話だろう。
「先ずは本部に録音データを送るか、いやデータよりも先ずは報告と抗議文だな、録音データは最後に出すのが効果的だろう」
そのように判断すると早速といった感じで文章を作成する兵部。
何時かは協会全体で情報のやり取りが出来るよう下準備をする為にも、あの場で反対した利権主義者達を何とかするべきだ、というのは恐らく間違っていないだろう。
何はともあれ、これでまたダンジョン協会が変化する切っ掛けになるかもしれない。
それの先駆けは、このウルフダンジョンの協会だという事もまた……結局は白河という男子高校生がこのダンジョンに通ってるからだろうと、良くも悪くも彼のお陰だと苦笑する兵部だった。
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